――東横桃子
「
「えっー、
「わしも気付いとらんかったの」
「はい、千点棒」
流局になったのは残念っすけど、三人の反応でハッキリしたっす。
鶴賀と清澄の眼鏡組は、わたしのリーチに気付いてなかったす。けど龍門渕の鎖女さんはリーチを察知してたっす。
読川監督や福路キャプテンのように、わたしを見つけてくれる人が稀にいるのは分かってたっす。
ちゃんと見て貰えるのは嬉しいっすけど、県予選の決勝という場所では出会いたくなかったっすね。
でも龍門渕の鎖女さんは麻雀卓に座ってから、わたしの存在に初めて気付いて驚いてた様子だったっす。
そのときに頬についてる星型のシールを見て、幼い頃に出会ったマジシャンさんを思い出したっす。
親に連れられてマジックショーを観ていたわたしはマジシャンに指名されて舞台に上がったことがあるっすよ。
昔っから影が薄くて他人に指名されるなんて今まで無かったから、わたしは心の底から驚いたっす。
そのときに「優れたマジックは優れた観察から生まれるんだ。だからマジシャンが手品の最中にお客さんの存在に気付かないなんてありえないよ」と教えてもらったっす。そのマジシャンさんにショーの後に話を聞きに行ったら気付いて貰えなかった悲しさも含めて今や懐かしい思い出っすね。
同じように小学校の担任も授業中はちゃんとわたしを見てくれたっす。あの先生がいなかったら授業中に当てられることはなかったし、居眠りしたり、サボったりしても誰にも気付かれなかったっすから勉強しない子になってた可能性が高いっす。そういう意味では厳しい先生だったけど恩師として心から感謝してるっす。
鎖女さんは麻雀卓に座ってから、あのマジシャンさんのように特定の舞台で観察力を発揮するタイプっすね。ステージの上のマジシャンは消えてるものを見つけ出すのも得意っすからね。こうなると福路キャプテンと同じだと思って対処する必要が出てくるっす。
キャプテンは普段から観察眼を鍛えてるし、ちゃんと部員全員の顔と名前や細かなことを覚えてて、わたしを見るのも当たり前って感じっすから、また違うんっすけどね。
読川監督も見える派だから「物理的に消えてる訳じゃないんだし、そんなオカルトありえん」とか言ってSOAを合言葉にステルスを検証してくれたっす。おかげで日常で咲っちが私の存在に気付いて無くても肩を叩くなり物理的に接触すれば、ちゃんと気付いて見て貰えることが分かったっす。今までは声をかけて気付いて貰えなければ諦めていたっす。知らない人にボディタッチとかは無理っすけど、寮生活が楽になったっすよ。
読川監督とキャプテンの二人は対局中に相手を観察して打ち筋や癖を見抜けるらしいっすけど、普通はそんなことできないっす。何度も対戦する訳じゃない相手の癖なんかを事前に調べる暇があったら地力を上げた方が確実っす。わざわざ牌譜を集めたりして分析するのもよほどの相手だけっす。だけど風越女子には分析班がいるから、事前に情報をレポートにまとめて教えてもらえるっす。その情報があればキャプテンほどじゃないっすけど相手の意図も多少は見抜けるっす。
例えば龍門渕の鎖女さんには
ただステルスモモで消したリーチ棒が見えてるってことは龍門渕の当たり牌を放せば、振り込む可能性が大っす。
わたしが見えてる相手がいるならシャドウモモを実戦で試すチャンスっすけど検証中の技には頼れないっす。
「みっつずつ、みっつずつ……」
ここは安定してるステルスモモで乗り切るっすよ。
そうなると狙うなら前半戦で龍門渕のリーチ一発目に中牌を振り込んでた鶴賀の素人眼鏡さんか――。
「さっきからあかんの」
なぜか対局中に外した眼鏡を頭に乗っけてる清澄の方っすかね。こっちのワカメガネさんが手牌を染めようと考えるタイプなのは知ってるっすよ。それに実家の雀荘は常連ばかりで素人は来ないらしいっすからね。立ち上がりから素人眼鏡さんの無茶苦茶な捨て牌にペースを惑わされてるのが丸わかりっす。
ネットで他校の牌譜を探してもインハイ出場校の団体戦や原村和のような有名人の個人戦じゃなければ牌譜なんて見つからないっす。けど風越女子の分析班は
それに風越女子にはブンドゥー(文堂星夏)みたいに高校から麻雀を始めた初心者もそれなりにいるっす。わたしはCクラスの卓で素人とも打ってたっすから惑わされたりはしないっすよ。
あんまり鶴賀学園だけを沈めると飛び終了の可能性も出てくるっすから今は狙うなら清澄っすね。
「でっ、でで……できましたっ」ハッ
おっとツモ和了っすか?親番は好調の龍門渕なんで親かぶりしてくれるなら嬉しいっす。
「リーチします!!」ドキドキ
って聴牌ができただけっすか。リーチ棒を出し忘れっすけど、ちゃんと清澄のワカメガネさんが指摘してくれたっすね。
わたしが指摘しても気付いて貰えないから、ステルスモモは静かに黙っとくっすよ。
監督からビギナーズラックもあるから注意しろって言われてるし、とりあえずは直撃は回避でオリるっす。
「ツっ、ツモですっ」
一発ではないとはいえ、二巡目でツモ引きっすか。半荘2回の短い勝負になると初心者の運も馬鹿にはできないっすね。
裏ドラが乗ってドラ2っすか。表示牌が{九萬}っすから、さっきは{一萬}を切らなくて良かったっすね。
それなりの役で親番の龍門渕を削ってくれれば嬉しいっすけど――。
「手配は……?」
「あっ、ドラ2にリーチツモ、トイトイ……でしょうか? えーと点数は……」オロオロ
{二筒 二筒 二筒 一萬 一萬 六萬 六萬 六萬 八萬 八萬 七索 七索 七索} {八萬}
「それは――四暗刻じゃ……ッ!!」「四暗刻っすか!?」
ステルスの最中なのに思わず声を出してしまったっす。
周囲の驚き声にかき消されて誰も気付かなかったみたいなのでセーフっす。
「な、なんですか……それ」アワワ
四暗刻は最も出やすいと言われてる役満っす。子の役満だから鶴賀は+32000点、龍門渕は親かぶりで-16000点っす。
龍門渕の前半戦のリードが一撃で吹き飛んだっす。予選決勝で役満を引き当てる初心者さん……恐ろしい子っす!
それにしてもオリずに勝負して{一萬}を手放してたら、ドラ3の三暗刻で倍満の直撃だったっす……わたしもやばかったっすね。
断トツで最下位の鶴賀が浮上しても、龍門渕と清澄のダメージの方がデカいっす。死なば諸共っすよ。
それに鶴賀が飛び難くなったなら、私が狙い撃っても問題ないっすよね。
――須賀京太郎(清澄高校1年生・雑用係)
今日は天気がいいなァ……新緑も輝いてるし――。
はぁー、清澄が全国優勝できないと和が親の都合で東京に引っ越しか……。
何かと小言が多かったペタンコの幼馴染から解放されて、晴れて自由の身となった高校生活。三年間は麻雀部でおっぱい大天使ちゃんとキャッキャウフフのアバンチュールを楽しむ予定だったのに……どうしてこうなった。
おっぱい大天使ちゃんが麻雀部を去れば、残る
(※各個人のおもちサイズはあくまで京ちゃんの推定だよ!)
あの人は男子部員の俺には当たりがキツいからなー。やはり合宿のときに雑用と称して女子の洗濯物を引き受けたのが不味かったのだろうか。それは入学当初に咲から風越女子の麻雀部ではキャプテンが自ら率先して掃除や洗濯なんかの雑用をしてるって聞いたから真似しただけなのに……。
もしかして部室の私物入れにコンドームを置いてたのがバレたのか。いや、だって部室に立派なベッドが用意されているんだから使う機会があるかもしれないだろ!(※ないです)
それにしても風越のキャプテンは咲からは尊敬できる憧れの先輩だって聞いてたけど、噂通りの美人さんだったな――。
そういえば優希が和のお母さんも美人さんでおもちのサイズも遺伝だって言ってたな。東京に引っ越すのは検事の母親が東京地検に異動が決まったからだそうだ。検事の仕事は2~3年くらいで全国規模の異動があって、和は小さい頃から何度も引っ越しを繰り返してるそうだ。長野に来る前は奈良に住んでたらしい。父親も弁護士だから、会社員に比べると職場を変えるのも難しくないんだろうな。
和も親の都合で何度も友達と離れ離れになってるんだ。小学生や中学生のときは嫌でも親に従うしかなかった。けど高校生にもなって黙って親に従うだけってのは感情的に難しいだろうな。東京への転校を勧める父親に対して納得できないのも当然だ。
まあ美人な奥さんと離れて暮らすのが嫌なのは男として理解できる。一人娘の和を身内のいない長野で一人暮らしさせるのも親として不安だろう。でも全国優勝って……ちょっと条件が厳しすぎるだろ。あの勝ち気な部長が何とか県予選を突破してベスト8までが私の限界って弱音を吐いてたもんな。それでも全国大会に出場さえできれば、父親を説得する材料にはなるはずだ。
親を説得して一人暮らしするにしたって住む場所とかもあるしな。……やはり俺の実家か。
って部屋も空いてないしな。親を説得するのも無理だ。いや正式に付き合ってさえいればワンチャンあるか。(※ないです)
ハッ、いかん。いかん。次鋒戦もそろそろ終わる頃だし、早く戻らないとアレに折檻を食らってしまう。
まあスペシャルタコス弁当も見つけてきたし、多少遅かったのは許して貰えるだろう。
「ありえませんわー!!」
龍門渕の控室の方から大きな叫び声が聞こる。
な、何が起こったんだ――!?
原作でもモモって前半戦の半荘は動きが殆ど無い。
なのでステルスモードになる条件として消えるための準備が必要で、目立つような高い手を作ることができないといった制約を入れてます。この辺は全て独自設定です。
原作だと鶴賀学園の加治木ゆみや蒲原智美に対するステルスはどうなっていたのか。とか色々と妄想が捗るステルス能力です。この作品では言うほど万能にはしてないです。
後で書かれますが校内ランキング戦でも池田なんかは独自のステルス対策をしてます。
見えてる相手がいるときのシャドウモモとか言ってますが、この辺は全国大会です。
次鋒の桃子は、他校が能力をどう推測し、どう破ろうとするのかなど監督同士の情報戦みたいなのが書けたらいいなと思ってます。
あと単行本の17巻くらいまで読んでる方は理解してると思うのですが、原村和の引っ越し話は母親はノータッチで父と娘のコミニケーション不足が原因です。なので清澄が負けたら即引っ越しという事態ではないです。