風越先鋒、宮永咲   作:のぶほし

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ステルスモモの検証と考察はあくまで独自設定っす。


第35局 実証

――読川尊月(監督)

 

「桃子は完全に消えてますか?」

 

「ステルスモモはモニターだと客観的に判断できないのが辛いな」

 

 次鋒戦を見つめながら後輩を心配する深堀の質問に回答する。

 

 東横桃子は存在感が希薄という特性を持っている。この特性を麻雀に活かしたのが彼女の代名詞でもあるステルスモモだ。風越女子の麻雀部ではBクラス入りした東横と卓を囲んだ2年の深堀がその特異性に気付き、久保コーチに対局中に東横が「消える」と報告した。

 

 原作知識があったせいかステルスモモは宮永咲の嶺上開花のように最初から身につけているスタイルだと思いこんでいた。しかしネットとゲームのみでリアル麻雀の経験が無かった東横は自らの特性が持つ可能性に入部した当初は気付いていなかった。

 たぶん原作でも鶴賀の麻雀部に入ってから彼女を見つけた加治木ゆみが、それに気付いてインハイに向けて特化して鍛えた能力だと考えられる。

 

「少なくとも河は完全に消せてるとは思う。なにせ前半戦の半荘を丸まる消えるために使ってたみたいだからな」

 

「半荘を全て使って河だけですか。今の桃子はBクラス相手なら東風で完全に消えますよね?」

 

「明らかに初心者な鶴賀を除けば、龍門渕も清澄も全国クラスとも競える打ち手だよ。

 それに校内ランキングとは違う。インターハイの県予選決勝だ。

 試合が始まれば相手が東横の特性は知らずとも警戒は当然する」

 

 検証に協力してもらった大阪の大学院で麻雀心理学を専攻してる元姫松男子麻雀部の友人によると東横の特性は麻雀心理学でいうところの相手を「思考のワナ」に嵌める「認識阻害系」のオカルトに分類されるらしい。ステルスも「相手が勝手にそこに()()()()()()()()()()()()()()()」の状態で、東横の発する「マイナスの気配」が認知の歪みを引き起こすトリガーになっているそうだ(ガバガバな理解)

 

 実際に撮影したモニターには東横の姿もリーチ時の音声も記録されており。当然ながら物理的に東横自身や牌やリーチ棒が薄くなったり消えたりしている訳ではない。音声も解析してもらったがモスキート音のように周波数の違いで聞こえていないとかではなく、なぜか周囲が聞き逃してしまっているだけだ。日常でも宮永や文堂なんかは東横の存在に気付きさえすれば普通に会話ができてる。

 

 東横も子供の頃は眼の前で歌ったり踊ったり騒いだりしたら気付いてもらえたと言っていた。まあ原作でも似たようなことを言ってたけどファーストコミュニケーションを取るためのコスト(対価)が大きすぎる。その面倒さによって完全にコミュニケーションを切り捨てた東横は中学では誰にも見つけてもらえない生活を過ごしていたらしい。小学時代には授業中に彼女を見つけてくれる先生がいたそうだが、中学の教師はよほど注意しなければ彼女を見つけれなかったそうだ。

 

 そんな東横の影の薄さは原作の折り紙付きで、それこそ注意も警戒も何もしてないCクラスの卓での校内ランキング戦では、桃子は普通に打ってるだけでステルスモモ状態だった。東横と一緒に打った他の三人の牌譜を分析するとあたかもサンマ(三人麻雀)を打っているかのように、東横は存在しないものとして打っていることが分かる。

 

 ただBクラス入りしてから周囲の実力者に特性が認識されると簡単にはステルス化できなくなる。そのために消えるための時間が必要となる。さらに点棒や牌で音を立てない。できるだけ声を出さない。対局の流れを崩さない。河(牌を捨てる場所)が見られている状態で大物手を狙わないなど周囲に景色の一部のように自然と溶け込む工夫が必要になる。黒子のバスケで使われていた心理誘導(ミスディレクション)の技術も活用できれば効果があることも分かっている。

 

「それなりのデメリットもある打ち方になってしまうな」

 

「ステルスになったときのメリットが大きいだけにデメリットが悩ましいですね」

 

「8月の全国大会には間に合うように改善案の検証はしてますけど……」

 

 久保コーチの言う通り上記のような制限があるため、ステルスモモの場合は前半からリーチを多用する攻撃的なスタイルの麻雀は打てない。またチーやポンといった鳴きも最低限となる。和了れないわけではないが、もしも高い手で和了って目立ってしまうと警戒されて消えにくくなる。相手に見えている状態で河を染めたり、国士を狙っているような捨て牌をすると警戒されるため必然的に手は低めとなる。

 

「初日の2回戦で他校から不正の申し入れがあったのは驚いたし」

 

「アレは予想もしてたから、事前に十分な検証をしたわけだからな」

 

 しかし完全に消えることができたら相手はリーチにさえ気付かなくなる。実際の麻雀では他家が聞き取れないリーチ発声は無効とされる。ただしインハイでは各試合はカメラで監視されており、不正に対する審査にはビデオ判定が行われる。つまり他の3人が立直だと認識できなかったと不服を申し立てても、映像にはリーチ時の音声や挙動が証拠として残っている。牌は横向けになっているし、立直棒も卓の中央に置かれ供託されている。だから「見逃したり聞き逃しただけ」だと判断される。オカルト麻雀に不正はなかった。

 

 ステルスモモのリーチが認められさえすれば彼女のリーチは黙聴(ダマテン)と同じだ。また捨て牌や河が意識されなければ、彼女が他家に振り込むこともない。危険牌だって平気で捨てられるし、リーチに当たり牌を打っても、相手が気付かなければフリテンになるだけだ。積極的な攻め麻雀にスタイルが切り替わればステルスモモが本領を発揮した証明となる。

 

『ツモ 満貫の4000ALL こっちも染めてたっすよ』

 

{三筒 四筒 四筒 五筒 五筒 六筒 六筒 六筒 南 南 白 白 白} {南}(門前ツモ、白、混一色 満貫4000ALL)

 

「リーチせずに黙聴で待ったってことは龍門渕の国広一にはステルスが効いてないのか?」

 

「ただ清澄の河を見て染め手に警戒してましたけど、こっちの染め手には気付いてませんでしたよ」

 

「だったら場に出されたリーチ棒の存在には気付いちゃうタイプか」

 

「河の方も見てるんでしょうが、上手く目を逸してるんだと思います」

 

「視線を利用した心理誘導(ミスディレクション)が効果を発揮してる様子ですね」

 

 清澄の染谷が手を索子に染めて黙聴していた。それに気付いた龍門渕が振り込みは避けながらも積極的に鳴き、場を流すか先に安和了りしようと仕掛けていた。二人の戦いを余所に東横は誰にも気付かれずに手を筒子に染めた。本来であればステルスリーチをするところを黙聴からのツモ和了りだ。

 

 鶴賀の妹尾が三暗刻の状態でリーチした際にベタオリしたのは、事前にビギナーズラックを注意したことによって相手を意識しすぎたミスかと思ったが……東横は自分が完全に消えているのか自信が持てない状態なのかもしれない。

 

 原作の東横はステルスモモは破られるはずがないと絶対の自信を持っていた。実際には原村和に「そんなオカルトありえません(SOA)」と一蹴されてしまうが、それまでは無敵だったのだろう。風越女子ではSOA研究と称して専門家を入れてステルスを検証した結果、無敵の力ではないことが分かっている。

 

「まさか昨日の試合でステルスに勘付いて対策をしたとは思えませんが……」

 

「福路ほどじゃないけど、観察力に優れたタイプなんだろうな」(そういえば国広一は親が手品師だったな)

 

 まず僕のツクヨミの「読み」の力はステルスモモを無効化する。これは単純に上位の異能(オカルト)が彼女の特性を上回った結果だ。福路はSOAのようにオカルトを全否定して無力化するような力はないが、まず完全に消えるまでが極めて難しい。工夫を凝らして、一荘(半荘2回)ほどの時間をかけて完全に消えたとしても、ステルス状態に入ったことに気付かれてしまえば終わりだ。右目を開いて対処することにより無効化されてしまう。こうなるとステルス化のコストがベネフィット(利益)を上回る。

 

 たぶん原村和のSOAはリアル麻雀卓の情報処理をデジタルゲームのように行うことでステルスの認識阻害を無効化したと考えられる。

 

 ちなみに宮永も相手がステルスモモでも放出される槓材(かんざい)(カンできる材料)の捨て牌だけは敏感に反応する。本人曰く槓材は光って見えるらしい。牌が光るとか哭きの竜かよ!

 

 対木は「見えていない」と言っているが嗅覚のようなものでステルスモモからの直撃を回避していた。これには流石に東横も「理不尽っす!」と嘆いてたな……。

 

 そして池田たち2年生のAクラスが考え出したステルス対策は原始的な方法だ。それは「手番の毎に指差し確認をする」だけだ。供託された立直棒も河に並べられた捨て牌も物理的には消えていないから、指差し確認までして注意すればステルスモモでもリーチしているのはバレるし、捨て牌だって見られてしまう。単純だけど極めて強力なステルス対策だ。

 

 透明だけど飲んだら分かる桃の天○水。ステルスモモは物理に弱い。基本の戦法はレベルを上げて物理で殴ればいい。2年生の池田と吉留は東横に派手な化粧させたり、目立つコスプレを着せたりと半ば遊んでたけど、それだけでもステルス化が困難になるからな。

 

 しかし公式戦ではマナー的な問題で相手が常に指差し確認をするのは難しいだろう。ただし相手がステルスの存在に気付いて、対策として要所で指差し確認をするだけで、ステルス時の動きが制限されてしまう。ステルスの特性は牌譜やモニターの映像からは分かり難いが、直に対局すればまず分かる。全国大会になると2回戦からは2位までの勝ち上がりとなるので、1回は通じても次に対策を取られている可能性は高い。

 

『リーチっす!』

 

「今度はリーチしましたね」

 

「龍門渕が一向聴(イーシャンテン)まで進めてないと判断したのだろう」

 

「清澄と鶴賀はリーチに気付いてないですからね」

 

「龍門渕がリーチに警戒しても、二校が対応できないって判断だな」

 

 東横はステルスが万能ではないと知っているから原作ほどの絶対的な自信は持てていない。地力を高め他の手段も増やしているけど、選択肢が多いってことは判断力が問われるってことだ。原作よりも迷ったり試行錯誤しながら麻雀を打つことになる。今が発展途上だからこそ「楽しんで来い」と言って送り出した。原作の清澄を襲った役満の親かぶりだって覚悟してた。

 

「どうして三色同順も狙えた配牌で巡子を崩して、場風や自風でもない風牌を捨てずに集めようとするんだ」

 

『ひとつ、ふたつ、みっつ……』

 

{一索 二索 三索 三筒 四筒 北 北 南 南 西 東 東 白} {北}(in)

 

「ひぇっ……」

 

「筒子は危ないから。捨てるなら安全な{西}か{白}でしょ」

 

「ほら鶴賀は桃子のリーチや河に気付いてないから」

 

「まったくオリる気配がないからこそ狙いが恐ろしいし」

 

「まだ一向聴(イーシャンテン)にもなってないだけ救いがあるな」

 

 さっきから妹尾佳織に流れ(ツキ)があるわけではない。セオリーなんて知らない捨て牌だからこそガチャのように新たな牌が山から拾われ、誰もが予想もしていなかった組み合わせで役を作ろうとする。ツクヨミで見てるとツキが膨らんだり萎んだりして心臓に悪い。まさしく役満ガチャといったところだ。何気に良いタイミングでドラや三元牌を拾ってくることも多いから豪運(ツキ)を持っていることは間違いない。微課金勢の自分は10連ガチャの10回くらいじゃあ本気で狙ってるカードは来ないだろうと思ってるのだが……こいつは無課金のガチャ1回でSSRとか星5つとか期待値なんて無視して引き当てそうなところがある。

 

「このままだと、また役満(小四喜(ショウスーシー))に化けますか?」

 

「おまけに西(シャア)が来たし!」

 

 池田ァ!!たかが聴牌をやられただけだ!東横が風牌を山から引き当てたとしても……鶴賀は捨て牌に気付かない「はず」だ。

 あと西(シャー)西(シャア)って聞こえるから嫌なBGMが頭をよぎったじゃないかっ!

 




いつの間にか10万文字を突破してました。思ってたより第二部のカンが遠い……。

役満ガチャは継続中?

咲-Saki-の世界ではドイツのハノーヴァーには牌譜の統計を分析してくれる研究所があったりするから日本の大学に麻雀心理学や麻雀コーチングの講義があったり、オカルトを含む麻雀の学際的研究が行われてても不思議ではない……と思う。
理学・工学的なアプローチをする「麻雀科学」がデジタル派の本山で、医学・生理学の分野からオカルトを理知的に解明しようと試みてるのが健康麻雀科学。麻雀心理学はオカルト派の本山的な扱いです。心理的な要因でドラが集まったりとか、そんなオカルトありえません!

ちなみに読川は人文学部で社会科目(地歴・公民)の高校教員免許を取ってます。なので麻雀心理学とかは趣味の範囲で選択科目として学んだ程度なので専門ではないです。
姫松男子OBの友人は同世代に佐之海と読川の双璧が君臨してたので、オカルト麻雀に関心を持ち麻雀心理学というオカルト沼に進みました。現在は博士課程。
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