風越先鋒、宮永咲   作:のぶほし

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予約投稿時間ミスってた。


第36局 振聴

――竹井久(清澄高校3年生)

 

「ただいま戻りました」ガチャ

 

「おかえり」

 

「聞きづらいんですが、次鋒戦で何かあったんですか?」

 

 京太郎くんが買い出しから戻って来た。優希も落ち着いたとはいえ心配してくれてるのね。

 

「まこの親番で鶴賀が役満を和了ったの」

 

「えっ!? 役満の親かぶりですか、まさか直撃ってことは……」

 

 そう。もしも和了が成立してたら優希の努力が粉微塵に吹き飛ぶところだった。

 

「それがフリテンのロンあがりだったのよ」

 

「え、県予選の決勝でチョンボですか?」(※チョンボ=麻雀における反則行為のこと)

 

「相手は京太郎より初心者だったじぇ」

 

「それでも一度は役満を和了っていて、本日二度目の役満だったの」

 

「まじで!?」

 

「でも初心者とはいえ、不可解なフリテンだったのよ」

 

「何があったか教えてもらっても良いですか?」

 

「まず先に立直を仕掛けたのが風越女子の東横さんね」

 

「追っかけリーチですか?」

 

「いえ、鶴賀の妹尾さんはリーチも気にせずに数巡かけて手を作ったわ」

 

「危険牌も平然と捨ててたじぇ」

 

「初心者は河とか読めないし恐れを知らないですからね」

 

 初心者の妹尾さんはともかく、まこの対応が緩かったのが、まず不可解なのよね。

 風越女子のリーチに対しては龍門渕の国広さんはずっと警戒してたにも関わらず、まこは明らかに普段より脇が甘かった。

 

「それで鶴賀の妹尾さんが小四喜(ショウスーシー)の役満テンパイから黙聴(ダマテン)

 

{一索 二索 三索 北 北 北 南 南 西 西 東 東 東}

 

「でもリーチしようとして途中で止めたから聴牌(テンパイ)はバレバレだったじぇ」

 

「終盤も近いのに河には風牌が一枚も出ていないんだから危険な空気も流れてたわよ」

 

 ロンアガリだと役満にならないのであればリーチもありだけど、ツモリ四暗刻以外で役満テンパイからリーチは普通はしない。あえてリーチで警戒さえて周囲をベタオリさせてツモアガリに賭けることもあるけど、風越女子はリーチしているからオリられない。

 

 けど鶴賀の妹尾さんの様子は、そこまで色んなことは考えてなくて、役満だとリーチしても良いのか「わからないから」黙聴を選んだって感じだったわ。ロン和了を宣言したときに「東西南北を揃えてるから役満ですか?」って聞いてたしね。

 

 それよりも問題は鶴賀の役満テンパイからの展開よ。

 

「で、風越女子の東横さんが牌山から引き当てたのが、鶴賀の当たり牌である{西}よ」

 

「リーチしてるから放出するしかないじぇ」

 

「そう。誰もが役満の直撃って思ったわ」

 

「でも鶴賀の初心者は見逃したんだじぇ」

 

「初心者あるある?」

 

「それで河に出てなかった風牌を危険牌だと察知して抱えてたのが龍門渕の国広さんね」

 

「風越の{西}が通ったから、龍門渕も抱えてた{南}を放出したんだじぇ」

 

「その{南}にロンで和了ったってことですか?」

 

「そうね。見逃してフリテンになってたから、フリテンロンでチョンボよ」

 

「えっと、自分の捨て牌によるフリテンは分かるんですが……

 見逃しによるフリテンはイマイチ分かって無くて」

 

「京太郎も初心者を笑えないじぇ」

 

「いや、リーチ後のフリテンが局の最後までロンできないのは知ってるぞ。

 リーチしてないダマテンの場合は手を変えれますよね?

 なんだかフリテンってサッカーで言えばオフサイドのような少し複雑なルールだから自信がなくて」

 

「せっかくの機会だから簡単に説明するわよ」

 

 ********部長によるフリテンの解説(初心者じゃなければ飛ばしてOK)********

  

  まずフリテンというのは「他家の捨て牌でロンできない状態」のことよ!

  フリテンの種類は以下の三つに分けることができるわ。

 

  1.「自分が捨ててる牌」ではロンあがりできない。

  2.「同巡内に捨てられた牌」ではロンあがりできない。

  3.「リーチ後に見逃した牌」ではロンあがりできない。

 

  今回は2の事例に該当するわね。鶴賀の待ち牌は{西}と{南}よ。

  風越の捨て牌は{西}、これを鶴賀は見逃した。

  そして同巡で龍門渕が捨てた牌が{南}、これを鶴賀がロンあがりした。

 

  フリテンは待ち牌の1種類が捨てられたら、同巡内ではロンあがりできないの。

  これは()()()()()()()()()()()()()()()よ。

  同巡内は一巡のことだから、自分のツモ番がくれば、フリテンは解除されるわ。

  だから見逃しても一巡すれば別に手を変えなくても平気よ。

 

 ********************************************************************

 

「なるほどー」

 

「こんなの見逃さなければ良いだけだじぇ」

 

「それで公式戦のチョンボって、どうなってるんですか?」

 

「京太郎くんも男子個人戦には出るんだから渡した競技ルールは読みなさいよ」

 

 それにしても鶴賀の見逃しは「初心者だから」で片付けて良いのかしら?

 どうも次鋒戦は不可解に感じることが多いのよね。モニター越しでは分からない何かが卓で起こっているのかしら。

 

 

 

――読川尊月(監督)

 

「インターハイのルールだと、チョンボの罰則は三段階に分かれる。

 まず局の続行が難しいような重大なチョンボに対して適用されるのがレッドカードだ。

 サッカーのレッドみたいに一発退場にはならないが、満貫罰符(ばっぷ)の罰則となる。

 親の場合は子の3人に4000点ずつ、子の場合は、親に4000点、子に2000点ずつ支払う」

 

「満貫払いってやつですね」

 

「そして局の続行が可能なチョンボに対して適用されるのがイエローカード。

 イエローはアガり放棄で、その局でのアガリが禁止される。

 アガりだけでなく、リーチや副露(チー・ポン・カン)も禁止だな。

 当然ながら流局時にテンパイしていても、ノーテンと同じ扱いだ」

 

 ちなみにレッドとイエローカードの枚数は高校麻雀の全国ランキングの減点対象にもなってる。

 風越女子は長野県2位のシード校だが、全国での順位は低いし気にするほどではけどね。

 シード校の選出の目安となる全国ランキングは団体戦だけでなく個人戦の成績も適用される。

 春の選抜大会で関西王者となった姫松の順位が千里山より低いのは個人戦による差だ。

 風越女子の麻雀部もCクラスの個人戦参加が任意なのはチョンボによる減点があるからだ。

 

「そして軽微なチョンボに対して適用されるのが供託(きょうたく)による1000点の支払いですか」

 

「フリテン状態でロンはルールに書かれてる誤ロンにあたるからレッドカードの対象だな」

 

 誤ロン、誤ツモ、ノーテンリーチ、牌山を崩す、全自動卓での操作ミスなどがレッドの対象だ。

 また誤副露(フーロ)、喰い替え、多牌、少牌、先ヅモなどがイエローの対象となる。

 

 まあ副露の間違いでも打牌前に気付いた場合は供託(きょうたく)で許されるし、牌山を崩してもすぐ戻せる場合ならレッドにはならない。見せ牌や腰なんかのマナー違反に対する罰則規定もあるが親告されてから状況に応じて判断するとなっている。

 

(※腰=副露をする素振りを見せたにもかかわらず副露をせずに続けること)

 

「それにしても意図しなかった状況でシャドウモモを試した感じだな」

 

「はい。たぶんステルスを緩めて、わざと河を見せました」

 

「普段は無音で捨てるのに、あえて派手に音を立てて西牌を置いてましたね」

 

「あれで鶴賀が気づくんじゃないかとドキドキしましたよ」

 

「桃子は鶴賀に対してのステルスは完全に消えてる自信があったんでしょうね」

 

 龍門渕の国広一は東横の河が「見えていたから」こそ風牌を捨てた。東横はフリテンロンを意図的に誘発させて役満を潰した。これがステルスモモであれば東横の捨て牌だけが見逃されて単にフリテンとなるだけだ。東横が振り込まなくても、下手すれば一巡後に相手にツモられる可能性もあるから、役満を潰せたのは大きい。

 

 ステルスが通用しない相手が卓にいる場合、見えている相手を利用する打ち方がシャドウモモだ。東横のステルスを破る光があっても、より深い影が相手を罠に嵌める。

 

「清澄は親番で4000点か。ラッキーだな」

 

「話してる間に桃子ちゃんのラス親だよ?」

 

「いよいよステルスモモの独壇場だし!」

 

『ロン、3900点』

 

「はっ?」

 

「ステルスモードの桃子ちゃんが清澄に振り込み?」

 

「危険牌を切った東横が驚いてるってことは消えてたのは間違いない」

 

「シャドウを試したから、ステルスが緩んだ?」

 

「いや、それはない」

 

 光が強ければ影もまた濃い。シャドウの副次効果には見えてない相手に対するステルスの強化もある。さっきのシャドウモモだって光である龍門渕の方に鶴賀も清澄も注目していた。だから影となった東横は二人からは完全に消えていたはずだ。

 

「東横が帰って来てから確認するしかないな」

 

『次鋒戦、終了――!!

 後半は鶴賀の妹尾選手が四暗刻と役満ツモと、小四喜での役満チョンボと大暴れでした。

 最も被害を受けたのが前半トップだった龍門渕の国広選手。後半のマイナスで前半の稼ぎは吹き飛びました。

 収支は風越女子の東横選手はプラスで終えて2位、清澄の染谷選手はマイナスの3位です。

 団体戦の順位は清澄、風越女子、龍門渕、鶴賀と先鋒戦終了時と変わりません』

 

「無名校の清澄が昨年トップの2校を抑えて首位か」

 

「清澄は監督が警戒してたとはいえ、番狂わせが起きてますね」

 

「昼休みが終わったら、いよいよキャプテンとあたしの出番だし!」

 

「……」コクリ

 

 もう腹は括った。そもそも試合の当日に監督やコーチができることなんてタカがしれてるんだ。選手たちを信じて、全国大会でのベスト8(≒正規雇用)を確実にするために将来を見据えた指示を出すだけだ。負けたらクビになるから勝ってとか言えないからな!




鶴賀学園の麻雀部って学校ではパソコンで麻雀してる描写しかないけど、もしかして雀卓とかの設備がないのかもしれない。かおりんがリアル麻雀に慣れてないのは、それが原因か?
役とか点数計算とかネットの麻雀だと自動的にやってくれるから覚えないもんね(実体験)

作者はゲームやネットだけの麻雀初心者です。今までフリテンとかチョンボとかよく分かってなかったんですが、初心者ってリアル麻雀だと絶対にチョンボしちゃうよね?

むしろ「みっつずつ、みっつずつ……」とか言ってるド素人のかおりんがチョンボしないなんてありえない!って思って考えた展開です。これでフリテンの理解や描写に誤りがあったら泣きたい。あ、でも誤魔化せるように細かな描写は避けるようにしました。

チョンボが発生する割合とかリアル麻雀に詳しい人は……どうなんでしょうか?
初心者じゃなくても、それなりにチョンボって発生しそうな気がするけど……麻雀漫画でチョンボってあまり出番が無い気がする。

原作の咲-Saki-ではチョンボの罰則ルールは明かされてません。なので満貫払いとかは一般的なルールを元にした独自設定です。

インハイのルールって責任払いは大明槓のみで、大三元、大四喜、四槓子の責任払いをなしにした理由とかがよくわからん。

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