遊び心は大事   作:粗茶Returnees

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10話 外側にいるのは寂しいね

 

 驚いたね。もう12月だよ。クリスマスと年越しという一大イベントが一週間という短いスパンではやってくる月だよ。そして年越したら新年でお正月だ。めでたいね。世間はこの一大イベントで盛り上がれなさそうな雰囲気があるけど、こういうのをちゃんと楽しまないと気が滅入ったままになると思うんだ。

 なんていう僕の意見が世間に届くことはない。僕のことは完全に遮断されてるからね。大社の人も頑張るよね。人のためになることをもっと頑張って欲しいものなんだけども。

 

『くそー! 一番風呂取られたー!』

「んー。やっぱ向こう(女湯)は楽しそうだなー」

 

 僕らは温泉旅館に来ている。勇者たちの頑張りでみんなも少しは元気になってきてるからね。その評価や勇者たちの労いを兼ねての温泉旅行だ。しかも大社の力でここは貸し切りになっている。

 勇者たち全員がこうやって休みを満喫するから、僕も同行が許されたんだよね。許されてなくても来たけども。それで、今は温泉に浸かって温まってるんだけど、貸し切りで男は僕だけ。つまり話し相手がいないんだ。向こうの様子は時折聞こてくる会話でしかわからないし。

 

「ここは定番のアレ(・・)をするしかないのかな。でもそれやると命がない気がするんだよね〜」

【──】

「っ!? ……誰もいないよね? それにあんま聞き取れなかったけど……」

 

 声をかけられたって感じじゃなかったような。何だろう。よく分からないな。しかも、今のは何故か初めてじゃない気が……。

 

 

「……あれ? 僕は何について考えてたんだっけ?」

 

 なんで風呂場で立ち上がってるんだろ。足湯でもこんなことしないのに。しかも12月の寒空の下で。あ、僕は露天風呂にいるからね。湯から出たら極寒の外気に晒されるんだよ。それに、外だからこそ女湯からの声が聞こえるわけだし。

 寒いからひとまずは温まり治そう。何かについて考えてた気もするけど、忘れてるってことは大したことじゃないよね。

 

『──悪魔のブツをー!』

『きゃっ! 球子……さん!』

『おい球子! そんな狼藉私が許さんぞ!』

「……楽しそうだなー」

 

 

❀❀❀

 

 

 タマちゃんがあんちゃんやひなちゃんにちょっぴりエッチなことをして、今若葉ちゃんにすっごい怒られてる。タマちゃんは懲りないよねー。それよりも、さっき向こう(男湯)で何かあったような……。

 

「高嶋さん? どうかしたの?」

「え? ううん。まーくんのことだから一人で『面白くなーい』って言ってそうだなーって」

「たしかに。彼が一人でいるのは……想像できないものね」

「うん。いっつも誰かといるからね」

「高嶋さんといることが……一番多いけど」

 

 そうなのかな。自分自身じゃよく分からないや。だってまーくんが隣りに居てくれるのはいつものことで、当然って感じがするから。……あ、ほんとだ。こう思うってことは、一番まーくんといるのは私だね。

 まーくんとはもう10年弱の付き合いになるんだね。14歳だけど、そのうちの9年ぐらいは一緒なんだから。もうまーくんがいない生活なんて考えられないくらいだよ。

 

「高嶋さん……佐天くんは……」

「あ、ちょっと待ってねぐんちゃん」

「え、えぇ。?」

 

 湯船から立ち上がって、タオルで体を隠す。寒いから湯船の中をじゃぶじゃぶ歩いていく。みんな私の行動に疑問を思って視線を集めてくる。私はそれを気にせず、目的のものに近づいてそれを手に取る。そして壁の方に目を向けて少し考え込む。

 

「んー、あそこかな?」

 

 自分の直感を信じて手に持っていた桶を狙った場所に投げる。みんな驚きの声を上げるけど、桶が壁を越えようとしたタイミングでちょうど現れた影にぶつかる。

 

「ぎゃっ!」

 

 桶は女湯の方に落ちて、その影も向こう側に落ちたみたい。怪我してたら怖いけど、たぶん大丈夫だよね。そう信じて私はぐんちゃんの横に座って温まり直す。体が芯から温まるのっていいよね。すっごいポカポカするから。

 

「高嶋さん、今何したの?」

「まーくんが覗こうとしてたから桶投げたの。マナー悪かったよね。ごめんねみんな」

「いや、覗きなどという不埒な行為を防いだんだ。誰も責めないさ。ありがとう高嶋」

「佐天のやつは油断もスキもねぇなー」

「たまっち先輩は人のこと言えないからね?」 

 

 それにしても、まさかまーくんが覗きするなんてね〜。放っておいても勝手に自滅してそうだけど。だってまーくんは、なんだかんだでエッチなこと苦手だもん。すぐ鼻血出るから。でも、ひとまずは説教しないとね。

 

 

❀❀❀

 

 

 お風呂から上がった僕は、部屋に戻ってカフェ・オレをぐびっと飲んでくつろいでる。己の浅はかな欲に負けて女湯を覗こうとした瞬間に、桶に迎撃されたのは驚いたなー。しかもびっくりしたのもあって床へとダイブしちゃったし。受け身は取ったけど、素肌だから痛いものは痛い。でも大した怪我もないからオッケー。桶を投げたのは友奈だろうね。察知できるのあの子ぐらいだし。

 

「ありゃ? なんか連絡きてる」

 

 スマホがピカピカ光るから画面を見てみると、そこには友奈からのお呼び出し(お説教)が書かれてる。友奈たちはたしか、みんなで遊んでるんだっけな。つまりこれに応じたらみんなからも説教されそうだ。分かんないけど。友奈に説教されてるときは他に誰も説教しないし。

 でも、どう考えても針のむしろであることに変わりはない。やだなー。そんなの味わいたくないなー。断る理由ないかなーって考えてたら電話がかかってきた。もちろん相手は友奈。よし、ここはまだ文面を見てない体でいこう。

 

「もしもし。どうしたの? 友奈」

『まーくんメッセージ読んだ?』

「メッセージ? さっきまでカフェ・オレ飲んでたからまだなんだけど」

『そっかそっか。まーくんにこっちに来てほしいなって連絡なんだけど、言い訳考えてないで早く来てね♪』

「あ、はい」

 

 友奈相手に何も隠し事はできなかったです、はい。おかしいな。僕がメッセージを読んでるっていう情報は無かったはずなのに。友奈ってエスパーなのかなって画面を見つめながら思ってたら気づいたよ。僕、既読つけてたや。

 

 

 友奈に呼ばれた部屋の前に到着。妙な緊張がして、嫌な汗が流れる。ドアじゃなくて引き戸だからノックしても中に響くわけじゃない。そもそも聞こえてくる声からして、ノックしても気づかれない可能性の方が高い。そんなわけで戸を引いてみると、僕の顔面に白い何かが勢いよくぶつかる。あまりにも勢いがいいから顔がのけぞっちゃったよ。首の骨が折れなくてよかった。僕は貧弱だからね。

 

「佐天無事か!? おのれ球子……よくも佐天を!」

「いや今のは事故だろ!?」

「若ー、僕が死んだみたいにしないでよ。生きてるから」

「仇は取ってやるからな!」

「聞いてないね」

 

 僕の声を無視した若がタマに枕を投げつける。なるほどね、今は枕投げをしてるんだね。僕の顔に飛び込んできたこれも枕なのかー。ところで枕って意識を刈り取ろうとするほどあぶないものだったっけ。みんな鍛えてるから威力がおかしいよ。襖とかにあたらないように気をつけてほしいものだね。確実に破壊するだろうから。

 ノリについていけてないから、僕はその枕投げに参加せずにちーちゃんの横に座る。どうやらここは安全地帯らしいからね。友奈があれに楽しんで混ざってるのは分かるけど、ひなとヨッシーが混ざってるの意外だね。二人も参加しない側だと思ってたよ。そう思ってたけど、よく見たらひなはあれ参加してないね。デジカメもって若を至近距離から撮りまくってるだけだもんね。

 

「みんな元気だね~」

「……佐天くんが参加しないのが意外なのだけど」

「そう? 僕ってあんま途中参加しないタイプだよ。なんというか、テンションの差が悲しくなるというか、ね」

「本当にそれだけ?」

「え?」

「佐天くんはいつも企画する側。そうじゃないやつに参加するのが慣れてなくてどうしたらいいかわからない。そうじゃない?」

「……あはは、まさかちーちゃんに言い当てられるとはね~。うん、それもたしかに理由としてあるね」

 

 参加するだけでいい。そんなのは僕だってわかってる。難しく考えなければいいんだ。というか、ぶっちゃけたらなにも考える必要なんてない。だって言い出しっぺが全部用意して進行もやってくれるんだから。でもね、僕って企画すのも楽しみに思ってるから、それを取られるとちょっとノリが悪くなっちゃうんだ。めんどくさいガキだよねー。

 僕がちーちゃんと話していると、影が差しこんできた。顔を上げると僕を部屋に呼んだ張本人である友奈が立ってた。これは今から説教のパターンかなって思ったんだけど、どうやらそうじゃないらしい。遊んでる間にどうでもよくなったみたい。未然に防がれてるわけだしね。はて、それだと僕は今からどうしたらいいんだろうか。

 

「まーくんまーくん」

「なんですかな友奈さん」

「みんながもっとまーくんと仲良くなりたいって」

「具体的には?」

「呼び名を変えようって。ほら、まーくんだけみんなから呼ばれ方変わってないし、まーくんも変えてないじゃん?」

「そうだけでも、強制的に変える必要もないと思うんだけど……」

「任意で変えたらいいんじゃないかしら?」

 

 ちーちゃんは天才かもしれない! ゲームの天才であることは確定してるんだけどね。友奈ってわりと頑固なところがあるから、こうやって横から助けてもらわないと友奈の意見を変えられなかったりするんだー。これがちーちゃんの意見ってのも加われば、友奈もそれで納得してくれる。

 さてさて、僕は誰の呼び名を変えようか。友奈は変えないし、若とひなとタマもそのままでいい気がする。本人が変えてほしいって言ったら帰るけども。あとはちーちゃんとヨッシーだね。……ヨッシーは絶対に変えてって言われるね。

 

「ちーちゃんはどうする? ちーちゃんのままでいい? それとも千景って呼んだらいい?」

「どちらでも構わないわ。佐天くんの好きな方で」

「じゃあちーちゃんのままでいいかなー」

「私も佐天くんのままで呼ぶわね」

「りょーかい」

 

 僕とちーちゃんの間では変化なしっと。友奈は確認しても変えようがないよねってなって変化なしと確定。即決だったよ。さて、ヨッシーの次の呼び名が思いつかないから、次はタマかな。

 

「タマはタマのままでいよね?」

「そうだな。タマはそれでいいぞ。タマの方からは勝希って呼ばせてもらうけどな」

「いいよー。若とひなは?」

「私はその呼ばれ方で構いませんよ。私からは勝希さんと呼ばせてもらいますね」

「はーい」

 

 名字呼びをやめていくって流れだね。まぁ全然いいんだけども。距離が縮まったって感じがするからね。ひなに勝希さんって呼ばれるて変にむず痒いけど、そのうち慣れるよね。

 

「若は……若葉でいいや」

「私はどちらでも構わないが……。お前がそう言うならそれで構わないぞ」

「うん。それで若葉は僕のことなんて呼ぶの? どんなあだ名つけてくれるの?」

「変な期待するな。球子と同じで名前呼びだ」

「だろうね」

 

 若葉はそうだと思ったよ。若葉が誰かのことをあだ名で呼ぶなんて想像もつかないからね。ひなですらひなたって呼んでるわけだし。この二人はむしろその方がらしいって感じがするけどね。だって夫婦みたいなやり取りするし。

 

「さてと、じゃあ僕は部屋に戻るね」

「ちょっ、待ってください! 私だけまだですよ!」

「ヨッシーでよくない?」

「駄目です! わざとそう言ってますよね!」

「うん」

 

 今の流れは定番だよね。やらないわけにはいかないよ。関西人の血がボケを忘れるなって騒いでたし。もちろんこれは冗談で、ヨッシーの呼び名も変えるよ。向こうからはどう変えられるかは分かんないけど。……あ、嘘。予想ついたや。

 

「勝希先輩って呼ばせてもらいますね」

「予想が当たったー。やったー」

「それで、私の呼ばれ方なんですけど……」

「分かってるよ。よっちゃんだよね?」

「違います!」

「あはは、じゃあね〜」

 

 駆け足で部屋の出入り口へと移動する。後ろから枕を投げられるけど、僕は振り向いてそれをキャッチ。それを優しく投げ返して僕は杏に手を振る。

 

「それじゃあ杏またね〜。みんなもおやすみ〜」

「ぁ……」

「あはは、まーくんは相変わらずだなー」

 

 部屋に戻ったんだけど、友奈が部屋に来て僕が行くまでの間に遊んでいた内容を話してくれた。トランプやら何やらしてたんだってさー。そんなに遊んでたんだね。羨ましいよ。僕が長風呂してたから参加できなかったんだけどね。露天風呂が好きすぎて。

 話してくれた内容の中で、ちょっと気になるのがあった。トランプでちーちゃんと若葉の勝負してて、最後の瞬間にひなが若葉の妨害をしたことだ。なんで妨害したのか……。それはちーちゃんが若葉に負けないように。ちーちゃんって対抗意識あるからね。……若葉はまだまだ周りが見えてないんだね。




 不思議な夢を見た。というか楽しい夢だったな。なんせ僕が好きな空に浮いてる夢だったから。飛んでたんじゃなくて浮いてた。下を見下ろせばもちろん日本が見えた。雲の隙間から見えたから、僕は雲の上にいたんだね。実際に空にいられたら楽しいだろうなー。

勇者御記 二〇一八年十二月
 佐天 勝希
 大赦史書部・巫女様検閲済み
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