遊び心は大事   作:粗茶Returnees

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 大変遅くなりました。申し訳ありません。これからもダラっと書いていきます。


11話 この世界は理不尽だ

 

 冬は寒いよね。雪が降らない寒さのほうが寒いって聞いたことあるけど、どっちもどっちじゃないかな。寒いもんは寒い。そして一人でいる時間が多いと心だって寒くなる。みんなと一緒にいるのって、そういう意味も兼ねて温かいよね。身も心もってやつ。だからこそ僕はみんなでいるのが好きだし、側にいてくれる友奈のことが好きなんだ。

 だからさ。

 

 今のこと感じはとっても嫌な感じだよ。

 

『──ッ!』

『……』

 

 ガラス越しにちーちゃんと若葉が言い合いしてるのが見える。いや、あれはたぶんちーちゃんが若葉に言葉をぶつけてるだけかな。ひなたが仲裁に入るけど、あれは嫌な流れだ。

 

「ほんと君は好かれてるよね。友奈……」

 

 側で眠っている友奈の髪を撫でながらそんなことを愚痴るように溢す。友奈の体は所々包帯を巻かれていて、腕には点滴の針が刺さってる。この様子からわかる通り、友奈は負傷した。負傷というか重傷だね。

 タマから聞いた話だと、今回はバーテックスの数がいつもの10倍くらいいたんだとか。そして若葉が先陣切って行ったんだけど、やりすぎたみたい。一人孤立しちゃって、それを助けに友奈が無茶したんだとか。それでちーちゃんが怒ってるってわけだね。僕も向こうに行くかな。

 

【──】

「……またか。うるさいなぁ。興味ないって」

【──】

黙ってなよ(・・・・・)

 

 この前は聞き取れなかった声なのに、今じゃ聞き取れるようになっちゃった。中性的な声なんだけど、声なのかも怪しいね。脳に直接響いてくるからさ。テレパシーってやつかな。初めて聞き取れちゃった時は、「こいつ! 直接脳内に!」ってリアクション取っちゃったよ。ちなみにこの謎の声は無駄にノリがいい。僕のテンションに合わせてくれた。その時は友達になれるかと思ったけど、たぶん友達になれないね。

 友奈が寝てる部屋から出てすぐにみんながいる場所に移動する。見たらちーちゃんが若葉の服を掴んでた。

 

「こんなことをして、一番喜ばないのは誰なんでしょうね」

 

 ひながそんなことを言ってちーちゃんを止めた。効果的ではあるけど、これは一触即発ですな。こんなタイミングできちゃうのはあれだけど、空気を変えないとね。それが僕の役目だって自分で決めてるから。

 

「喧嘩はほどほどにね〜。関係が壊れるのが一番駄目だからさ」

「佐天……」

「……なんであなたがそれだけ平然としていられるのよ! 集団意識が薄かった乃木さんのせいで高嶋さんは!」

「でも友奈が頑張らなかったら若葉は死んでたかもしれない」

「っ!」

「……ちーちゃんは優しいよね」

 

 友奈のことを大切だって思ってくれてるから、だからこんなに若葉に怒ってるんだ。そのちーちゃんの思いが分からないわけでもない。そりゃ僕だって思うところがあるわけで、このヘラヘラした表情を引っペがされたら怒りを顕にしちゃう。だけど、それこそが僕が一番嫌なことだからね。それに、友奈だって望まない。

 

「一番いけないことは、誰かが死ぬことだと僕は思うよ? 友奈もムードが悪くなるのを嫌うってのは、みんなだって分かってるでしょ?」

「それはそうだけど……」

「若葉。責任を感じているのなら、これからどうしたらいいのか考えて? 扉越しでも聞こえてたけど、ちーちゃんの言ったとおりだよ。君は復讐のために戦ってる。それが今回の結果を生んだ。敵はどんどん進化するだろうから、そのままだと次は死人が出るよ」

「っ! ……そう……だな……」

「さて、こんな空気はやめやめ! うどん食べて空気を一新しよう! 行くよちーちゃん!」

 

 ちょっと格好つけて言ってしまえば、今の僕は道化。ヘラヘラ笑ってるだけの道化。道化の端くれにもなれないようなペーペーだけどね。だからこうして走ってる。ボロが出る前にいなくなればいいんだよ。ちーちゃんを連れ出したのは、一旦若葉と離しておくべきだと思ったから。お互い不器用だからね。タマと杏は今回中立だから、申し訳ないけど放置。

 ちーちゃんの細くて華奢な手を取って僕は廊下を走る。廊下を走ってはいけませんってよく小学校で怒られたっけ。学校の人数もそんなに多くなかったから、学校が広く感じられてついつい走り回ってたな。

 

「──くん、佐天くん!」

「あ、ごめんちーちゃん。ちょっと考え事してたや」

「ふぅ……。構わないわ。……お昼を食べたら部屋に来る?」

「え?」

「ゲームしましょう」

 

 僕が衝撃を受けたのも無理はないと思う。きっと友奈だって驚く。だって、ちーちゃんが自分から部屋に招待してくれるなんて、今回が初めてだったんだから。

 

 

❀❀❀

 

 

「お、お邪魔します……」

「今さら緊張するのね。よく部屋に来るのに」

「いやー、今回はちーちゃんにお呼ばれされたからさ。こんなの初めてだなって思ったらなんか緊張しちゃって」

「そう。いつものとこに座ってて。お茶を用意するから」

「う、うん」

 

 なんだか新鮮というか、こっちまで不思議な感覚になるわね。いつもおちゃらけてる彼が緊張して、動きがぎこちない。表情も若干硬いかしら。今まで平然としていたし、高嶋さんと一緒じゃなくても遊びに来たことがあるのにね。

 コップを取り出してお茶を注いでいく。自分用として一人分だけあればいいと思っていたのだけど、佐天くんや高嶋さんがよく部屋に来るから、三人分に増えてる。ご飯はいつも食堂で食べてるから、茶碗とかはないのだけどね。炊飯器とかの調理器具もない。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとう。さっそくゲームする?」

「そうしようかしら。何か手伝ってほしいのある?」

「僕がクリアできてないのがあるって前提で話すんだね……」

「クリアできてないのあるんでしょ?」

「……はい」

 

 お昼を食べた後に、佐天くんは一回ゲーム機を取りに自分の部屋に戻った。それから私の部屋に来たのだけど、佐天くんと私のゲームの腕にはそれなりに差がある。それと佐天くんが後から始めたゲームもあって、今からやるゲームもその一つ。だから私が協力して、次のステップに進んでもらう。修行というか、課題も定期的に与えているから、そこそこ実力もついてきてる。装備さえ整えれば佐天くん一人でもできると思う。 

 だけど佐天くんは一人でやると動きが悪くなる。みんなでやれば怖くないって考えが佐天くんはゲームで反映されてる。私とやる時に発揮する実力を、一人でやる時にも発揮できればいいのに。まぁでも、こうして一緒にできる口実にもなるかしら。

 

「佐天くん」

「なんですかな千景さん」

「装備を変えなさいって前に言ったでしょ!」

「この装備がカッコよくて好きなんだって言ったじゃん!」

「ならせめて最大まで強化しなさいよ!」

「素材がないんだよ!!」

 

 動きの問題だけじゃなかったわね。全攻撃を回避するっていう腕まで要求してるわけじゃない。だからそれなりに装備を強くしてくれたら良かったのだけど、その辺は全然駄目だったみたいね。佐天くんが求めてる素材も、今行き詰ってるクエストをクリアしないと手に入らないようになっているのだし。

 仕方ないわね。こうなると私が前衛をちゃんとしないといけない。ギリギリまで佐天くんを前衛で頑張らせて、腕を磨いてもらおうと思ったのだけど、そんな余裕もなさそうだから。

 

「サポートぐらいはちゃんとしてちょうだいね」

「もっちろん!」

 

 このテンションで言われるとどこか不安になってくるのよね。調子に乗りすぎてやられるパターン。ゲームでもモブキャラがよくそれでやられる。アニメでもあるあるだわ。けど佐天くんの場合、そんなモブキャラの中でもギャグ担当のキャラね。すぐ負けるくせに死なないキャラ。そういうキャラって幸運なのか、生存力が高すぎるのか。ある意味強キャラよね。

 

「やったー! ちーちゃんありがとう!!」

「きゃっ!? 抱きつかないでちょうだい」

「あ、ごめん。これクリアできたのが嬉しすぎて……。ちーちゃんを驚かそうとかれこれ47敗してたし」

「そ、そう……」

 

 私から離れた佐天くんが、申し訳なさそうに頭を下げながら挑戦回数を言ってきた。勝てない相手にめげずに挑み続けて47敗。ゲーマーなら心折れずに続けられるけど、軽くゲームを楽しむくらいのユーザーならとっくに諦めて別ゲームをしてる数字。頑張ってたのね。

 クリアできて喜んでいる彼に水をさすようで嫌なのだけど、高嶋さんが入院してしまっているから、きっとこれは私が代わりにするべきね。代わりを務められると驕る気もない。だけど、彼もまた友人なのだから。

 

「佐天くん」

「どったのちーちゃん?」

本音(・・)を教えてくれる?」

「えっ……」

「乃木さんを糾弾しろってことじゃないのよ? ただ、今回の件で思ってることがあるなら話してほしい。……私だってもっと強ければ、高嶋さんが重傷を負わずにすんだのだし」

 

 ゲーム機を置いて、彼に正面から向き合って目を見る。こういうのは全然やったことなくて、慣れなくて、私の方から目を逸らしたいくらいだけど、だけど今は頑張る。先輩として、年上として、何よりも友人として、これは頑張る。

 佐天くんは、困ったように笑顔を浮かべる。きっと彼はこういうのを踏み込まれたくないんでしょうね。もしかしたら、高嶋さんが相手でも話すのを躊躇うのかもしれない。いえ、高嶋さんならもっと上手く聞き出すのでしょうね。彼が話しやすい空気を作って。

 

「話さないと駄目?」

「話したくないことがあるのは分かるわ。……私だってそうなのだから。だから話せるとこだけ話せばいいんじゃないかしら?」

「んー。僕の場合愚痴になるけど……、まぁいっか」

 

 彼もゲーム機を置いて私と向き合う。視線を逸らしてしばらく頭を掻いていたけど、話すことが決まったようで視線を上げた。ひょうきん的な彼とは思えないぐらい真剣な顔をして。

 

「今の世界は理不尽だと思うんだよね」

「理不尽? ……たしかにそうかもしれないわね」

「バーテックスの存在はもちろんだし、人だってもちろん理不尽だよ。バーテックスのは言わずもがな。人はもちろんちーちゃん達が守ってる生き残りの人類。人は守られて当たり前だと思ってる節があるし、僕の場合よく分からないけど嫌われてる。……一部の人からのアレは迫害って言うのかもしれないけどさ。理由は知らないけどね。大社が勇者でも巫女でもない僕をここに置くのもそれだけが理由じゃない気がする」

「何か……ある?」

「知ってるのは友奈だろうね。そして友奈は話してくれない。僕はそのことはどうとも思わないよ。友奈が話さないってことは、僕に話すべきではないことなんだろうからさ。でもね、ちーちゃん。僕が理不尽だと思うのは、これだけじゃないんだよ」 

 

 哀しそうに笑う彼の目は、決して哀愁あるものじゃなかった。むしろその逆。純粋な怒りが、ぶつけようがなく、行き場を失った怒りが籠められていた。おそらくずっと放出しないようにと仕舞い込んでいるものなのね。

 

神樹も理不尽だ(・・・・・・・)。なんで一部の女の子しか戦えないの? なんでそんなとこ拘っちゃうの? なんでもっと人間を信じて力を貸しくれないの? なんで僕は戦えないの?」

「……」

「巫女であるひなもだけど、僕らは何もできない。喋っていたのに次の瞬間には目の前からいなくなっている。みんながいる場所に行ったら怪我してるのも珍しくない。今回なんて駆けつけたら友奈は重症で、気を失ってた。なんでさ……せめて……無事を祈る時間くらいさ……あったっていいじゃん? それすらできないんだよ。……ほんとに……今さらだけど、理不尽な世界だよ」

 

 初めて聞いた佐天くんの本音(弱音)。これは彼だけが思っていることなんかじゃない。誰もが思っていること。だけど、彼は自分をムードメーカーとして役割づけてる。実際それには助けられてる。だからこそ彼はこの感情を出せる場がなかったんだ。

 

「そうね。……佐天くん。私になら、そういうの話していいから。誰にも伝えない。二人だけの秘密にするわ。だから、溜め込まないで」

「っ……あはは、ちーちゃんは……本当に優しいよね。……うん、それなら……僕らはそういう関係になろう? ちーちゃんも僕に話してね?」

「っ! そう……ね。なら今度は私が聞いてもらおうかしら」

 

 お互いに弱音を言い合う相手。言い方を酷くすれば、傷の舐め合いってところかしら。私達は私達で大丈夫だと思っていたけど、高嶋さんがいないと私達ってこうなってしまうのね。




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勇者御記 二〇一九年一月
  ■■■  大赦史書部・巫女様検閲済み
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