ちーちゃんと話をして、ゲームもして。毒抜きをしてもらったおかげで僕は次の日にはいつも通りの僕でいられた。バカをやるのが僕の仕事。ムードメーカーであるべきだって思ってる。暗くなるのが嫌いだから、僕自身が暗くなっちゃいけない。それは友奈も似たとこがあって、友奈はみんなが笑っていられる状態が好きだ。そんなわけで、僕は今日もバカをやろうと教室に入ったんだけど……。
「若葉が……死んでる……!?」
「いや勝希! 若葉は死んでないぞ!?」
「え、でも魂抜けてるじゃん」
「あれはだな──」
先に来て事情を把握してるらしいタマから説明を受ける。どうやら若葉は、ひながいなくなるショックであの状態になってるらしい。ひながいなくなるだけでこうなるとは……。何はともあれ若葉の弱点をゲットだね。弱点と言えるのか大変怪しいところだけど。とりあえず──パシャリ
「写真ゲットー! ひなへの交渉材料だぜ!」
「あぁ……勝希か……。……好きにするがいい」
「こいつは重症だな!」
「タマが今説明しただろ!?」
写真を撮られる度に消せと言ってくる若葉がこれとはな。そんなにひながいないと駄目なのか。まるで親離れできない子供のよう。……そういえばひなも保護者感出してるし、二人は実は親子ではないのだろうか。
幼馴染兼親友兼夫婦兼親子。うん、属性積み過ぎだね。それでもキャラが成り立つあたりこの二人ハイスペックですわ。他に属性をガン積みしてもキャラ崩壊しない人いる? 僕はいないと思うね!
「僕はムードメーカーたらんとバカしてるわけだけど」
「勝希はいつもただのバカだろ」
「違うやい! 僕はみんなと笑っていられる時間が好きなだけだい!」
「土居さん……話が進まないわ」
「す、すまん。つい、な」
ちーちゃんがタマを静止する。言い方がちょっとキツイ気もするけど、ちーちゃんらしいから別にいいや。それに止めてくれたことには感謝しかないし。僕だけだったら今のだけで脱線していくね。
それより「つい」ってなんなのさ、ついって。タマのことだから普段からそう思ってたってことなんだろうけどさ。案外杏と若葉もそう思ってそうだね。付き合いが長い友奈とこの中で一番遊んでるちーちゃん、そしてよく周りを見てるひなくらいは、そうじゃないって分かってくれてるけど。
「そこは後で追及するとして、僕は0からプラスに増やしていくのは得意なんだけど、今の若葉みたいなマイナス状態からプラスに持っていくのは全然経験ないんだ〜」
「つまり?」
「お手上げです!」
「おいムードメーカー!!」
「僕こういうの役割じゃないもん! いつも友奈がやってくれてたもん!」
そうです。いつもこういう子に友奈が声をかけて、僕はその時のサポートなんです。だから、僕からマイナス状態の子に声をかけるのは全然駄目。そして若葉のことをまだ分かってるわけじゃないから難しい。いつもその場のノリでやってきたツケが出たね。
僕がお手上げ状態なことにタマがツッコんできて、二人でワイワイ言い争う。近くにいたちーちゃんは、それに呆れてため息をつく。ため息をつくと幸せが逃げるんだよって言いたいとこだったけど、原因が僕ってのが明白だから何も言えない。
「あの、若葉さん」
「ん?」
「あんず?」
僕とタマが口論をやめてプロレスごっこをしていると、それまで黙ってた杏が若葉に声をかけてた。いつも内気で受動的な杏にしては珍しい。これには僕とタマだけじゃなくて、ちーちゃんも驚いてた。ちょっと目を見開いてる程度だけどね。さすがポーカーフェイス千景。あまり変わらない。
「スキあり!」
「なぁっ!? セコいぞ勝希!」
「敵を目の前にしながら目を逸らすタマが悪いのだー!」
「おのれー!」
「あなた達よくそれで遊んでいられるわね……」
怪我しないように気をつけながらだから問題ないんだよ。ぶっちゃけタマの方が強いはずなんだけどね。タマの武器が近接用じゃなくてよかった。もし近接用だったら、訓練も近距離戦を中心にしたやつになるからね。それだと僕はコテンパンにやられてたと思うよ。若葉にもコテンパンにされるし。ちなみに友奈相手では勝負になりません。訓練でもお互いに戦う気が出ないからね!
「乃木さんたちが外に行ったわよ」
「それは追いかけないとな」
「ハッハッハ! 拘束を緩めたことが敗因だぞー!」
「土居さん。二人を追いかけるからそこまでよ」
「あ、はい」
もしかしてちーちゃんってタマキラーかな? ちーちゃんが言うとタマが大人しくなる。それか真面目に言えば僕でも大人しくさせられるとか? でも、もう既に舐められてる気がするから手遅れか。
ちーちゃんを先頭に教室を出たけど、教室を出てからはタマが先頭に行った。僕とちーちゃんはタマより身長が高いし、これでも全然いいんだけどね。それに、ちーちゃんも若葉の様子は気になるけど、一番後ろでこっそりとって感じがいいらしいし。それよりも今は──
「……ん? なんか周りの人の視線がいつもと違わないか?」
「……そうね。この感じはあの頃と同じね」
「あはは〜。
「は? なんで勝希がいるとこうなるんだよ」
「僕にも分からないけどね〜」
僕は大社の人から強く言われている。勝手に丸亀城の敷地外に出るなと。原因は分からないけど、その理由は知ってる。友奈と一緒に奈良から四国まで来る時もこんな感じだったから。
勇者といるからみんな複雑そうにする。勇者はバーテックスを倒せるもんね。でも僕は何もできない。そんな僕が嫌われる理由はさっぱりだ。四国に来るまでが何も無ければ、「一般人が勇者様とご一緒など」ってね。でもそうじゃないからさっぱりだ。
「僕は気にしてないからタマたちも気にしないで〜」
「けどよ……!」
「わかったわ」
「千景!」
「本人が言ってるのよ? 周りが言うことじゃないわ」
ちーちゃんの言い分もタマには分かるんだろうね。頭では理解できる。でも心は納得してない。そんな感じだろうね。タマは優しい。友奈とはまた少し違った友達想い。友奈が
私生活だけじゃないんだね。タマは周りの人間が冷たくあしらわれるのも嫌う。狭い世界にいるタマしか知らないけど、タマは周りを気遣う。人の為に怒れる人。凄い勇気だよ。
「勝希。本当に嫌になったらタマ
「あはは、ありがとう。その時はお願いするね」
「……乃木さんたちは一般の人と話してるようね」
「赤ちゃんを抱っこしてる。微笑ましいね〜。あの無骨若葉がだよ?」
「笑かすなよ勝希……!」
無骨ってとこがツボに入ったみたいだね。タマは両手で口を塞ぎながら声を抑えてる。目尻に涙をうかべてるあたり、だいぶ面白かったらしい。ちーちゃんはそうでもないみたいだし、タマのツボが浅いのかな。それとも単純にズレてるだけかな。
杏は若葉を連れてどこか特別な場所へ、なんてことはしなかった。ただ身近の町を案内しただけだった。いくら若葉が無気力状態とはいえ、気配察知の範囲が怖い。そんなわけで僕ら二人からそれなりの距離を取ってる。だから二人の会話は聞こえない。
「杏ってわりと外出てるの?」
「んー? 本を買いに行く時が多いしな〜。あれを見る限りだとタマにってわけでもなさそうだな。いろんな人と話ししてたってぽいし」
「だよね。……今度漫画買ってきてもらお」
「あんずをパシリに使うなよ!」
パシリに使うなって言われてもな。僕は基本的に外に出られないんだから仕方ないじゃん。今だってタマとちーちゃんと一緒にいるからセーフってだけで、僕一人だけだとアウトだろうね。杏と二人で買いに行くのもたぶんアウト。だって本を買う時必ず一般人と話すことになるから。距離も必然的に近くなる。僕はいいけど、相手が嫌だろうさ。あと杏も気まずくなるの嫌だろうし。
「っと、あの感じだと若葉も復活かな?」
「そのようね。……まったく、人騒がせね」
「とか言ってちーちゃんも心配してたくせに〜」
「っ! し、してないわよ」
「なんでもいいからタマたちも合流するぞ〜」
僕とちーちゃんのやり取りを切ったタマが、若葉と杏に声をかけに行く。それでようやく僕らに気づいた二人はびっくりしてたし、若葉はちょっと恥ずかしそうにしてたね。ちゃんとさっきから写真撮ってるから安心してほしい。ひなにはまだ渡さないし。僕の防衛手段なわけだからね。
ちーちゃんもやっぱり素直になれないだけで、若葉とちゃんと仲直りできたし、これで一安心だね。あとはひなが帰ってきて、友奈が退院すれば元通り。……いや、元以上だね。絶対に絆が強くなったから。
「さてと──」
せっかく外に出たんだ。これから行く場所は
❀❀❀
「それでまた忍び込んじゃったんだ?」
「せっかくだしね。そろそろ友奈も起きてるだろうな〜って思ってたし」
「まーくんにはお見通しだね」
「何となく分かるだけだよ。それは友奈もでしょ?」
「あはは、そうだね〜」
みんなと別れて私の病室にまで来たまーくんを軽く咎めてから今日の出来事を聞いた。若葉ちゃんのためにあんちゃんが動いてくれたことを。ぐんちゃんも若葉ちゃんを気にかけてたってことを。それを一通り話してからまーくんは本題に入ってきた。
まーくんが言いたいことは、たぶんこんな浅い内容のことじゃない。だって今回のこれは、距離が遠すぎるのに分かっちゃったって話なんだから。一緒にいて相手が思ってることを何となく分かる。それは仲がいい相手ならきっと誰でもあること。
でも、今回まーくんは丸亀城の外に出たとはいえ、私の側にいたわけじゃない。病院から離れていたし、ぐんちゃんたちと一緒に若葉ちゃんを見守ってた。それなのに分かった。その感覚のことを気にしてるんだ。
「……話してくれないんだ?」
「私にもよく分からないからね」
「そっか。……なら僕が嫌われてる理由は? それは
「……うん」
いつか聞かれるかなって思ってたけど、それが今日なんだね。今までまーくんは気にせずに生活してたけど、今回外に出たことで何かあったのかな。さっき話してくれた内容には含まれてないことが。
いつもの笑顔をやめて真剣な顔をしてる。まーくんがこの表情するのは本当に久しぶり。それこそ奈良以来見てない。まーくんはずっとニコニコ笑ってくれてたし、みんなを励まそうとしてくれてたから。それを受けて私はどうしようか迷った。
だってこれは、
「ねぇ友奈。話せないなら僕も無理には聞き出さないよ?」
「ぇ……」
「友奈の
「まーくん……」
「詮索はやめるけど、もし僕が答えに至っちゃったら……ごめんね」
さっきまでの真面目な雰囲気を消したまーくんが、いつもの雰囲気に戻ってへらっと笑う。まーくんも直感で分かってるんだ。いずれ答えに至ってしまうって。
みんなの絆が強くなった。それは嬉しいことなんだけど、それでまーくんが外に出る機会が増えてしまったら……。きっとその度にまーくんは少しずつヒントを得て、やがて答えを得る。
私は……どうしたらいいのかな。まーくんが答えを得たらって考えると、私の心に不安が広がる。そんな中そっと私の手が包まれた。まーくんの手でそっと包まれて、視線をまーくんに向けるとにっこりしてた。
「大丈夫だよ友奈。僕は友奈の側にいるから」
「っ……! まーくんって……ズルいよね」
「えぇ……」
「でも、ありがとう」
「どういたしまして」
日がほとんど沈んで外が暗くなっていく。でも、私の心はどんどん明るくなっていった。
今日は驚きだったな〜。まさかムードメーカーの勝希が、落ち込んでる人を励ますのが苦手だなんて。たいていそういう人って励ますのも上手いと思うんだが……。でもあんずがやってくれたからな! さすがあんずだ!
それにしても、なんで勝希は■■■■■■■。
勇者御記 二〇一九年一月
土居球子 大赦史書部・巫女様検閲済み