面会謝絶だった友奈が正式に面会できるようになった。会いに行けるのは、勇者か巫女ぐらい。僕は勇者たちと一緒であってもあまり許されない。強引に押し通せるけど、後々面倒なことになりそう。町の人の目も嬉しくないものがほとんどだからね。
「それでも来ちゃうんだ?」
「まぁね! 友奈と話すのが一番好きだし」
「あはは、ありがとう。私もまーくんと話せるの好きだよ」
病院のベッドの上に座る友奈がふわりと微笑んでくれる。屈託のない柔らかな表情。好きな表情の一つだ。
怪我も治ったようで、今日にでも退院できるのだとか。普通の人よりも早く退院できるのは、きっと勇者だから。
いつ次の襲撃があるか分からない以上、できるだけブランクは無くしたほうがいい。無理のない範囲でのトレーニングから再開させて、回復を図りつつ鍛え直してほしいってことだろうね。
「本当はもっと早く来たかったんだけどね。面会ができるようになった初日とかにでも」
「でもこうして来てくれた。私はそれでも十分嬉しいよ? 本当はまーくんとはお城の外では会えないはずなわけだし」
「そう言ってもらえると僕も嬉しいけどさ〜」
「うーん、あ、若葉ちゃんに先を越されたの気にしてるのかな?」
「うっ!」
僕が笑みを引きつらせると、友奈は「やっぱり」とくすくす笑う。手で口元を隠しながら笑うその仕草に、相変わらず可愛いなぁなんて思いつつ、若葉に先を越された事実に項垂れる。
そもそも僕が友奈の面会謝絶状態が解かれたと知ったのも、若葉が教えてくれたからだ。若葉たちだってなんで僕が外に出ちゃいけないのかを知らない。それでも駄目なものは駄目だと理解する人たちだから、友奈の情報は完全に遮断されていた。
それでも僕が情報を知られたのは、若葉がポンコツをかましてくれたからだ。
若葉が杏に立ち直させてもらった後、若葉は勇者たちとの交流を増やした。タマとは骨付鳥を食べに行って、杏とは作戦会議だったかな。そしてちーちゃんとは狩猟ゲーム。その時は僕が先にちーちゃんの部屋で一緒にプレイしてたから、三人での協力プレイになった。若葉とちーちゃんが前衛。僕は後衛だね。
『佐天くんは地雷だから気をつけなさいよ』
『じ、地雷……? お前、爆発するのか……?』
『しないよ! それとちーちゃん! 僕はそんなぽんぽん死なないでしょ!』
なんてスタートだったことを思い出しては頬が緩む。ちーちゃんが軽口を言うようになった嬉しさと、ちーちゃんが若葉との仲が良くなった嬉しさを噛み締めた瞬間だからね。僕はまだ苦手意識あるけど。主に身長のせいで!
そうやって三人で協力プレイしてる時のことだった。僕が友奈の退院っていつなんだろうねって話をふと振ってみたら、
『退院は明日と聞いているぞ? ここに来る前に会った時にそう言ってたからな』
『ちょっ、乃木さん!』
『ふぁっ!? 会ったの!? 今日!? いつ面会謝絶が解除されたのさ!』
『あ、しまった……』
なんて流れになったからね! いやー、まさか僕一人だけ何も知らされない状態にされるとは思ってなかったね! これが情報規制ってやつですか!
ま、知ったからには忍び込まないと僕じゃないよねって。友奈が絡む案件だと何でもできる気がしてくるよ。無理無茶をゴリ押しになるわけだけども。
僕が友奈のベッドへと顔を埋めていると、柔らかな手が僕の頭に乗せられて、そのままそっと撫でられる。顔を動かして友奈を見たら、変わらずニコニコしてる。でもいつもより楽しそうな気がする。
「まーくんといるといつも楽しいんだよ。反応も面白いし」
「若葉に先を越されたのはわりとショックなんだけどね〜」
「あはは、私はサプライズで戻るのもありかなって思ってたんだけど」
「それされたら泣きながら抱きしめてたかな」
「そうなの? んー、それは残念だね」
首をこてんと少し横に倒して言ってくる。こういう時の友奈って本気なのかどうか分かりづらいんだよね。僕ってわりとヘタレなとこあるから、こういう反応されたらどうしたらいいのか分からなくなる。
解釈違いで恥ずかしい思いするのって嫌だし。ほら、僕って過去に友奈にフラレてるわけだしさ。あの時は恥ずかしさ以上にショックが勝ってたわけだけど。普通に寝込んだよ。爺ちゃんに布団ごとジャイアントスイングされたのは良い思い出。
さて、それはそうと、ヘタレな僕でもちょっとくらいは成長したい。果たしてこれが成長なのかは分からないけども、変化ではあると思うんだ。
「友奈はどうしてほしい?」
「へ?」
「サプライズ退院はできなくなったわけだけど、友奈は僕にどうしてほしい? サプライズ退院された時と似た感じで抱きしめたらいい?」
「え……えーと、それは……その…………ね? ……ううん、何もしなくていいよ。まーくんがいてくれるだけで嬉しいもん」
「そっか」
そっかそっか。友奈はそう言っちゃうんだ。友奈らしいっちゃ友奈らしいよね。
僕は倒していた上体を起こしてもっと友奈の近くに移動する。戸惑う友奈を珍しく思いながら、腕を伸ばしてその細い体に回す。狼狽する友奈に思わず笑いが溢れるけど、ヘタレな僕も心臓バックバクです。
すんごい緊張するけど、ここで引くわけにもいかない。友奈の背に回した腕の力を強めつつ自分の方へと引き寄せる。本当は数秒だったのかもしれないけど、僕には凄い長い時間がかかったと感じた。でも、今はっきりと友奈の体温を感じられる。爺ちゃん、僕にしてはこれ頑張ったと思うんだ。
友奈は
「ま……、まーくん?」
「
「っ、……うん。ありがとう」
嘘をつけなくて、弱音を吐かなくて、誰かが傷つくことが嫌な女の子。表裏のない性格でムードメーカーってみんなに言われてる。それは別に間違ってないと思う。そこが彼女の魅力であるとも思ってる。
でもそれが全てじゃない。自分の胸に溜め込んじゃうってとこを裏と言ってしまえば、友奈だって表裏があるってことになるし。そこに全部気付けるわけじゃないけど、気づけたら
腕の中にいる彼女の存在を胸に刻み込む。友奈は生きてる。今こうして僕の目の前にいてくれている。大切な存在。
この先戦いがどれだけ続くのか分からない。だけど、僕は彼女を失いたくない。だから、もっと自分を大切にしてほしい──
❀❀❀
「さぁさぁ始まりました! 第一回丸亀城ゲーム大会! 景品は僕特製みたらし団子! 張り切っていこう!」
「わー、パチパチー!」
「待て勝希! 私達は何も聞かされていないぞ!? それと友奈も勝希を乗せるな!」
「何言ってんの若葉〜。今言ったじゃん。ゲーム大会だよゲーム大会。みんなの絆を深めましょう! ってことで」
「むぅ……、それならいいか」
「うぉい若葉! 言いくるめられるの早くないか!?」
なんかタマが言ってるけど、リーダーである若葉を説得させられたのだから僕の勝ちだよ。若葉がやるなら芋づる式でひなも参加。ゲーム大会だから当然ちーちゃんも参加。友奈も当然参加だし、この流れなら残りの二人も参加だよね。
「タマはゲームよりかは体を動かしたいぞ……」
「まぁまぁ偶にはいいじゃん。杏とちーちゃんはインドア派だし? 前は水鉄砲で遊んだし」
「むぅ、そこを言われると……。仕方ない! タマにはタマもゲームをしよう!」
狙い通りだ! 他のことを引き合いに出すとタマは途端に押しが弱くなるからね。そこを突かせてもらったよ。杏とちーちゃんを出汁に使ったことは卑怯だったけども。
さてさて、そんなわけでゲーム大会を始めるわけだけど、こういうのはゲームの種類によって経験者と初心者の差が激しくなるからね。その差が少なくて済むゲームであり、チーム戦ができるゲームが相応しい。
「そんなわけでこちらのゲームを用意しました!」
「わっ、懐かしい〜。まーくんのお祖父ちゃんが作ったやつだよね?」
「作った!? 勝希の爺ちゃん何者だ!?」
「正確には改造した、だけどね」
「それでも十分凄いと思いますけど……」
タマと杏が目を丸くして分かりやすく驚いてくれる。ひなも驚いてるみたいだけど、それよりも遊びに疎い若葉の戸惑いの方が気になるらしい。パシャパシャ写真撮ってるし。
僕の手からゲームのパッケージを取ったちーちゃんが、まじまじと眺める。ゲーマーのちーちゃんらしく、『改造した』と言われたらどうなってるのか予想してるみたい。明らかに雰囲気が明るくなってる。
「どれだけ凄いのか私にはピンとこないが……、とりあえずそのゲームはどういうゲームなんだ?」
「いたってシンプルな野球ゲームだよ。改造したっていうのは、プレイ人数を増やしたってこと。野球ゲームはたいてい二人までなんだけど、これは8人までできるようになってるんだ」
「好きなポジションを選んで操作できるってことかしら?」
さすがちーちゃん。飲み込みが早いね。この改造ゲームの最大の魅力とも言えるポイントを言い当ててきたよ。
「そうだね。まぁでも、僕が知らない間にも改造を繰り返してたみたいだし、追加で遊び要素が増えてるかも。そこはやりながら確認って感じかな」
「分かったわ。そうなると、持ち主である佐天くんといろんなゲームをやり込んでる私は分かれたほうがよさそうね」
「たしかに。他の人のはくじ引きでいいかなー。これは上手さとかそこまで関係ないし」
操作は簡単だし、差が出るとしたらバッティングの時ぐらい。でもまぁ、その辺のことも爺ちゃんは考えてたから特に問題はないでしょう。改造してるけどもチートはない。でも初心者にも優しくするためにある程度補正がかかる。それがこの改造版野球ゲーム。
コントローラー拡張パーツもセッティングして、8人同時プレイの準備をする。僕らは7人だけどね。そしてくじ引きの結果チームも決まった。僕の方には、友奈と若葉。ちーちゃんの方には、タマと杏とひな。これがアウトドア勝負なら勝ってたけど、ゲームだとそうは言えない。
だって友奈は
完全に地雷です。ちーちゃんは知らないかもしれないけど、友奈はどのゲームにおいても地雷と化すのです。そしてゲームに触れてこなかった若葉もこっち。
これは厳しい戦いになりそうだ。でも、その方がやりがいがあるってものだ。相手に天才ゲーマーのちーちゃんと、策略家杏と裏ボスひながいたところで──
「まーくん。蹴ってゴールに入れたらいいんだよね! 頑張ろ!」
「友奈さん!? それはサッカーです! 今からやるのは野球ゲーム!!」
「勝希、このボタンはなんだ? この十字のもよく分からないが、押せば球を斬れるのか?」
「お前は野球をなんだと思ってる!! バットのどこに刃があるんだよぉぉ!!」
「あらあら、若葉ちゃんったらやんちゃですね」
「やんちゃで済まないレベル!!」
え、うそん。チームメイトが不安要素にも程があるんですけど。友奈だって昔このゲームしたのにな……。野球とサッカーの違いは大きいはずなのに……。
「……コールド負けは避けよう」
僕の中の勝利条件のハードルが下がった瞬間だった。
爺ちゃんってなんであんなに無駄にできることが多かったんだろ。おかげ様でいろんな遊びをみんなとできてるけどさ。大学には行ってなかったって聞いてるし、高校を出てすぐに神主になるべく、そっちの勉強やら何やらをしてたはずなのに。まぁいいか。とりあえずこれだけは言わせてほしいな。
あのゲームの設定おかしくない!?
勇者御記 二〇一九年一月
佐天勝希 大赦史書部・巫女様検閲済み