天然ボケをかます友奈と、このタイプのゲームはやったことがない若葉。不安要素がデカすぎる二人だけど、若葉がすぐ慣れるし、慣れたら半端なく上手い。だから、それまでの間に試合が決まらないようにしたら希望はある。友奈はどうしようもない。レースゲームで体も動かすタイプだから。
それに対して敵チームといえば、どんなゲームでも尋常じゃない結果を出すちーちゃん。インドア派で、実はゲームもそこそこやる策略家こと杏。実力が未知数なひな。唯一の救いは、アウトドアじゃないと実力が出ないタマが向こうにいること。でも野球ゲームだからそこまでマイナスじゃないんだよね。
「自分が操作するキャラクターのポジション決めよっか。守りの時は自分のキャラしか動かせなくて、それ以外はコンピューターがやってくれる。打撃の時は言わずもがな、だね」
「なるほど。……この画面はなんだ?」
「えーっと、まーくん。このゲームもキャラメイクってあるんだ?」
「……爺ちゃんここまで弄ったのか」
ポジションを選んだらまさかのキャラメイク画面。性別の設定から身長、髪、瞳等々の設定。その後には初期能力値が表示されていて、大量のポイントも表示されてる。そのポイントを使ってどの能力を伸ばすかってことらしい。バランス型を作るもよし、守備型を作るもよし、パワー型でもスピード型でもいい。ちなみにコンピューターが操作する他のポジションは、バランス型になるらしい。爺ちゃんの音声で解説があった。懐かしい声で思わずウルっとしたよ。
この勝負を盛り上げるために、キャラメイク中は敵チームが退室。終われば交代して、向こうの設定が終わったら
「先行はそっちチームか」
「ピッチャーはやっぱり佐天くんなのね」
「やったことがあるのが僕だし。友奈と若葉は真っ向勝負ばっかりしちゃうからね」
「ゲームの読み合いで私に勝てるとでも?」
「やってみてからのお楽しみ!」
こういう時のセオリーは、プレイヤーたちの打順を前半に持ってくること。慣れてる人たちでやる時は、あえてバラけさせるって手もあるけど。今回は初心者が多い。ある程度固めてくるはず。一番慣れてるちーちゃんはクリーンナップのはず。
「ってあれ!? 一番なの!?」
「だから言ったじゃない。読み合いで勝てる気でいるの? って」
「……抑えたら問題ない!」
たいていのゲームだったら、どの球種をこれから投げるか見えるんだけど、それは今回非表示にしてる。自分でステータスを決められるこのゲームなら、自分で球種とかも伸ばせるからね。覚えてるのが当たり前。
様子見を兼ねて変化球から入るべきなのか、それともストレートで際どいコースを狙うか。ちーちゃんは僕の考えを読んでくる。裏の裏を読もうとして結局へっぽこ、とかにはなりたくないし。ちくせう、思考の沼に嵌っちゃうよ。
「まーくん! 直球勝負!」
「アイ・マム!」
「その手には引っ掛からないわ……よ?」
友奈に言われた通りストレートを選択してアウトコースに投げ込む。ちーちゃんはそれが演技だと読んだらしいけど、残念でした。僕は友奈に言われちゃったらその通りにしちゃう人間なのだ。最高速度も154km/hという馬鹿な振り方をしてる。変化球も勿論用意してるけどね。
ひとまずこれでワンストライク。この後どうしようか、普通なら悩む。いつもの僕なら悩んでるけど、今は悩まない。だって友奈が直球勝負って言ったから。この打席のちーちゃんには全部直球だ!!
「さすがに甘すぎよ」
「ですよねー! でもそこなら若葉が……!」
「……勝希。守備の時はどう動かすんだ?」
「あれ!?」
おっかしいな。若葉って全くゲームしないってわけじゃないはずなのに。それなのに、まさか分からないだなんて。若葉って一人で新しいの始める時どうして……チュートリアルをちゃんと見るタイプか。
言われてみれば、たしかに若葉に説明を怠ってしまっていた。これは完全に僕の落ち度だ。ちーちゃんは二塁まで進んだところでストップ。一番打者として十分な仕事をしてる。
「二番はCPなんだ」
「ええ。貴重な戦力を前半で使い切るわけにもいかないもの」
「なるほど」
さて、CPならアウト稼ぎに貢献してくれるはず。下手なピッチングをせずに、確実にアウトを一つ稼がせてもらおう。まだ持ち玉を見せるわけにもいかない。ここはストレートでコースを使い分ける。CP相手にそれがどこまで通用するかも確認できるし。
そんなわけでストレートを投げたんだけど、あのCPはバットを振らなかった。バットを振ることなく、横に構えてる。つまり……
「バントとかCPのくせに小賢しい!」
「勝希さんのお爺さんの設定かと……」
「くっ、ひなに諭されるのもなんかね……!」
自分のキャラを動かして転がってるボールを取りに行く。ちーちゃんは三塁に進んで、僕はボールを一塁に投げてアウトを一つ取る。さっそくピンチだけど、まだありがたいことに3番打者もCPだった。一点は取られるかもしれないけど、大量失点はないかな。
「CPのくせに強振!?」
「このゲームのAIって他の野球ゲームよりレベルが高いですね」
「あんずー。AIってなんだ?」
「タマっち先輩には分からないものだよ」
「なっ! その言い方はショックだぞ! タマげたぞ!」
ツーストライクまで追い込めたはいいけど、追い込めたのも2回ファールになったから。このCPなかなかに恐ろしい。ストレートだけってやっぱり厳しいけど、でもまだ変化球を見せる段階でもない。
「あ、やっぱ駄目か」
「これ私の方に来てるね。オーライオーラーイ!」
「友奈さん友奈さん、ゲームだから叫ばなくていいです」
「タッチアップで一点貰うわ」
友奈がいるのはセンター。打球に合わせて少し前に出てきてるとはいえ、タッチアップが成立するには十分な距離だ。ちーちゃんが動くのも当然のこと。まぁでも、ツーアウトにはなるし、失点を1で抑えられそうなのは良い方かな。
「レーザー……ビィィィーーーーム!!」
「ふぁっ!?」
「えっ……」
え、友奈さんそんなスキル付けてたんですか。外野手なら付けていて損することはないスキルだけども。現に役立っているけども。でもそれはそれとして返球の速度おかしくない!? 何その速度!
「大丈夫だよまーくん! 私が守るからね!」
「あ、うん。ありがとう友奈」
「えへへ〜、ぐんちゃん。今回ばっかりは敵対しちゃうけど、お互い全力でやろうね!」
「え、えぇ、そうね。高嶋さん」
「あ、それと。まーくんのことを一番分かってるのは私だから」
なんだろ。言われて嬉しいことだし、恥ずかしくなることのはずなのに、それよりも今の友奈の雰囲気が怖い。珍しく怒ってるような気がする。でも、なんでそうなるんだろ。今までそんなことなかったのに。
「高嶋さんが先頭打者なのね」
「そうだよ〜。ぐんちゃんみたいにはできないけど」
そんなこと言いながらサラッと出塁してる友奈。初球打ちでセンター返しとか華麗すぎるんだけど、友奈ってゲームこんなに上手かったっけな。シンプルな野球ゲームだからなのかな。あと盗塁も成功してるんだけど、友奈ってステータスどう振り分けたんだろ。
「ワンアウトでランナー三塁。さっきと同じ展開だな」
「若葉様頑張って〜。ここで店取れば先制できる」
「分かっている。ところで勝希。お前に様付けされると鳥肌が立つ」
「ひっで!」
真っ向勝負な性格してる若葉と、ことゲームにおいてはあらゆる手を駆使するちーちゃん。果たしてこの野球ゲームで軍配が上がるのはどっちか!
「ま、三振するとは思ってたよ」
「なぜだ……なぜストレートが来ない……」
「乃木さんの性格を踏まえて投球するに決まってるじゃない」
「くっ……! 次こそは打つ!」
「ヒュウ! 若葉様カッコイイ!」
「勝希は斬る!」
「なして!?」
僕と若葉がギャーギャー騒いでいる間に4番バッターことCPがスクイズ。友奈が無事にホームインして先制点ゲット。バッターランナーはアウトになったからチェンジだけど。
一応解説しますと、野球はバッターが打つ、もしくはバンドでボールをフェアゾーンに入れた場合、スリーアウトになる前にホームインしたら点が入るのです。
打つ→ホームイン→スリーアウトの流れなら点が入る。打つ→スリーアウト→ホームインは駄目。あとフライ上げてスリーアウトになっても駄目。これは点が入らない。
「まさか4番バッターがスクイズしてくるなんて……」
「このゲームのAIは侮れませんね」
「大丈夫だぞ千景! タマが今からホームランを打つからそれで同点だ!」
「CPだけで点を取れたらいいんですけど」
「無視か!? 三人揃ってタマを無視か!?」
向こうの4番バッターは、やっぱりタマらしい。ここは予想通りだね。タマ以外の三人なら、とことんセオリーを崩してきそうだったけど、タマがいるから完全には崩れない。あとは杏とひなと打順がいつか、だね。後半に纏めて二人を置いて、1番のちーちゃんに繋げるってパターンかな。
タマ相手に直球勝負は無理。若葉がやられたように、変化球主体で投球するとしよう。まずは変化球の定番であるカーブ!
「もらったぁ!!」
「あれ?」
「あ、まーくん。これは入れられちゃったね」
「ハハハ! 見たかタマの実力を! 宣言通りホームランを打ってやったぞ!」
「こんなこともあるんですね〜」
「タマっち先輩にも見せ場があってよかったね」
うそん。え、なんで初見のカーブに完全に反応できちゃってるの。タマはインドアの遊びにそこまで強くないのに。
「変化球のなんて川を泳ぐ魚より捉えやすいからなー!」
「ゲームに野性を持ち込むの!? 適応能力高いね!」
「勝希切り替えろ。まだ同点だ。この後のCPを確実にアウトにして、反撃に繋げるぞ」
「そうだね」
冷静な若葉の言葉で僕も切り替えて、5,6,7番をアウトにする。全部CPだったから、杏とひなは8,9番なんだろうね。この二人は本当に未知数だ。ある意味次の回が山場になるのかもしれない。
「佐天くんは6番なのね」
「うん。特に理由はないけど」
こっちの5番がアウトにされて、僕の打順が回ってくる。ここでホームランを打てばまた勝ち越せるんだけど、残念ながらそれは狙えない。パワーが足りないから。でも、ツーベースくらいなら狙える。
「的を絞らせないわよ」
「本当に厄介だなー!」
「とか言って粘るじゃない」
「負けたくないしね」
ストレート、スライダー、フォーク、シンカー。既に四つの球種が分かったけど、それはそれで悩みの種だ。どれが来るか予想しながら打たないといけない。次ちーちゃんが投げてくるのは……!
「あり?」
「球種がそれだけとは言ってないわよ?」
「ツーシーム……」
ツーシームっていうのは、言うなればストレート亜種。速度は変わらないけど、若干の軌道に変化があるから芯では捉えにくいっていう球種。それを今打たされたわけで、ショートゴロに終わってしまった。出塁したかったけど、やっぱりゲームでちーちゃんを超えるのは難しい。
続くバッターもフライを上げてスリーアウト。攻守が入れ替わって本日一番の山場が来た。未知数の二人を相手にして、その後にちーちゃんという恐ろしい流れが。
「……CP? え、二人はプレイしてないの?」
「してますよ。私達もちゃんとこのゲームに参加してます」
「え、でもそれだったら、打順的に今どっちかプレイしてないとおかしくない?」
「ふふっ、大丈夫ですよ勝希さん。そこも私達の作戦のうちですから」
「そう? ならいいけど」
その作戦とやらが超怖いんだけど、今はCPをちゃんと打ち取るとしよう。変化球を織り交ぜながらピッチングして、一人目をアウトに。続く9番バッターもCPだったから、そいつもアウトに。
そうして再び回ってきたちーちゃんの出番。打ち取れる気がしないバッター。しかもここで敵チームの作戦とやらが実行に移される。
「監督スキルを発動します!」
「監督スキル!? ひなたは監督をやっていたのか!?」
「いやまず監督とか選べたのこのゲーム!? 僕知らないよそんなの!」
「ふふふ、よく見たらちゃーんとありましたよ。そして、この手の役職は私だけではありません」
「まさか……」
「マネージャースキルを発動します」
「あんちゃんはマネージャーさんだったんだね」
いやいやいやいや、なんですかそのポジション。所有者である僕ですら知らなかった機能なんですけど! 爺ちゃんからは何も聞いてないんですけど!
二人のコマンドを見て理解できたのは、どっちもサポートスキルを使えるというもの。これを二人同時にやったら、一時的にだけどステータスが跳ね上がることになり、魔改造もいいとこなキャラが誕生する。そしてそれを操作するのがちーちゃんだ。
「ミートゾーンがでか過ぎるよ!」
「その代わり強振にはできないのよ」
「それでもホームラン狙える性能なのがおかしいよね!」
「ふふっ、諦めてかかってきなさい」
「ヤケクソだよ畜生め!」
ヤケクソとは言ってるけど、ちゃんと変化球を選んでコースも厳しいとこを狙ってる。まだ見せていない縦のスライダーだ。ストレートに近い速度で落ちる強力な変化球。
でもやっぱりあのバカ性能してるちーちゃんには打たれた。
そしてここで全員が予想外のアクシデント発生。
「僕のキャラが!」
「なぁあんず、今勝希のキャラの顔に打球が当たってたよな」
「そうだね。倒れちゃってるし……さよなら、天さん」
「勝手に殺さないで! しかもそれ言う方がやられるやつ!」
全く失礼しちゃうよね。野球ゲームでプレイ中にキャラクターが死ぬなんてことありえないじゃん。怪我設定有りにしちゃってるけど。
「選手に囲まれてますね」
「タンカも運ばれてきたな。他のキャラに囲まれてるせいで勝希のキャラが見えなくなったが」
「あ、円が崩れた。……まーくんの側にいるみんな、俯いてるね」
「僕がタンカに乗せられてて……なんか友奈のキャラが変なの持ってない?」
「高嶋さんのキャラが持ってるの……遺影じゃないかしら?」
「おかしいでしょ!? このゲームなんでそんな設定があるの!?」
『投手:佐天勝希、打球により死亡』
「そんなテロップいらないよ!」
爺ちゃんはいったい何を考えてこんな設定入れたんだよ! 改造する時に頭のネジ全部飛ばしたんじゃないかな! そりゃ婆ちゃんにも怒られるわ!
「勝希さん」
「なに! ……って、あー、
「若葉ちゃん達の下へ急ぎましょう」
「そうだね。案内よろしく」
ひなが大社に行ってる間にあったという神託。予言されていた過去最大規模の総攻撃。それがたった今あったんだ。僕らはずっと、あったということしか知ることができない。でも、不安になったとしても、信じてる。みんななら大丈夫だって。
だから、今回も、ほらみんな疲れてるみたいだけど、無事に乗り越えて笑ってる。
ゲームは水を刺されたということで中断。僕が張り切ってみたらし団子を作り、みんなに振る舞ったよ。大好評で嬉しかったね。
今度、四国を出るらしい。諏訪を目指しながら、生き残りがいないかの捜索もするんだとか。そしてそこに僕も同行する。大社の方から僕の外出許可を出すなんて珍しいよね。
ゲーム大会が中断されたのは残念だったけど、みんな無事でいてくれて本当に良かった。またみんなで遊べたらいいよね。
それはそうと僕に許可が降りたのは驚いた。勇者全員と巫女が出掛けるから、僕もそこにいたほうが都合がいいのかな。……なんでもいいや。諏訪……あの二人の場所。
勇者御記 二〇一九年二月
佐天勝希 大赦史書部・巫女様検閲済