今日は待ちに待った遠足の日です。しかも四国の外に出るというなんとも危険の伴う遠足で、向かう場所は諏訪。道中で生き残っている人がいるかを確認しつつ、諏訪の状態を確認しに行くんだとか。
今回の作戦で驚くべきことは、僕が同行するということ。たぶん勇者全員と巫女が行くから、僕も同行した方がいいってことなんだろうね。理由はよくわかんないけど。大社の人たちは謎だし。友奈は知ってるかもしれないけど、話してくれないし。
勇者全員が四国を離れられるのは、前回の襲撃を乗り越えたから、なんだとか。大規模なものだったから、少しの間勇者がいなくても襲撃自体がないから問題ないだろうって。パッと行ってパッと帰って来いって話でもあるんだろうね、さすがに。
「これは……いるかな。こっちのは無くていいか」
「まーくん、そろそろ出発の時間になるけど、何してるの?」
「あ、おはよう友奈。今回は遠出になるし、あったら便利かなって道具を選別してるとこだよ」
「タマちゃんが用意してくれるって話じゃなかったっけ? キャンプとか得意だからって」
「うん。だから、タマが持っていないであろう物を僕が持っていこうかなって」
おはようと言う時だけ友奈に顔を向けて、その後は視線を外す。時間が近づいてるとなるとこれ以上は選別できない。2個しか選べなかったけど、それを手元にある鞄に入れる。鞄を持って倉庫部屋から出て、友奈と一緒に集合場所へと向かう。僕が何を持ち出したのか気になってるみたいだけど、それはお楽しみということで我慢してもらう。
「まーくんは……できれば残ってほしかったな」
「だろうね。でも大社が言ってきちゃったし、出ていいと言われたら僕は友奈相手でも引かないよ。諏訪に行くとなると尚更ね」
「……うん」
隣で俯いてしまった友奈に、どう声を掛ければいいか悩む。友奈が心配してくれていて、その原因は僕自身だ。でも僕は今回友奈の反対を押し切る。大社も言ってしまっている以上、友奈は僕を止められない。
けど、友奈が笑ってくれていないのは嫌だ。
「約束するよ友奈」
「え?」
「僕は無茶なことしないって。バーテックスに会ったら逃げるし、そもそも必ず勇者の誰かと一緒に行動する」
「まーくん……そこは私とって指定してくれてもいいじゃん」
「あはは、それもそうだね!」
顔を上げた友奈が、頬を膨らませる。ごもっともなことを言われたから素直にそれに頷くと、友奈もくすくすと笑いを溢してくれる。さっきの雰囲気は無くなった。みんながよく知る、いつもの明るい友奈だ。
でも、そうだな。この際だからもう一つ約束を結んじゃった方がいいかな。
「友奈」
「なーに?」
「友奈も約束してほしい。一人で無茶なことしないって」
「っ! それは……」
「戦いが激しくなってるのは聞いてるからわかる。一人一人の負担が大きくなるのも予想がつく。だからさ、友奈一人が頑張り過ぎるのだけはやめて。みんなで分担して」
僕のお願いに友奈が言葉を詰まらせる。分かってた。友奈がそういう反応をするってことは。だって友奈にとって、これは束縛でしかないのだから。他者を優先し、自分を後回しにする。それを当然のようにできてしまうのが友奈だ。
だけどそれは、友奈を想う人を傷つけるという行為。友奈が守りたい相手を、その心を傷つけてしまう。それを友奈は分かっていない。
「……ごめんね、まーくん」
「……そっか……。友奈らしいよ」
言外に約束できないと言われた。これも予想通り。当たってほしくなかった予想だったけどね。
申し訳なさそうに言う友奈に笑いかける。ちゃんと笑えてるかは分からない。もしかしたら、ぎこちない笑顔になってるかもしれない。でも、この調子で出発するわけにもいかないね。
「まーくん?」
「切り替えていこ! 僕はこうして友奈が隣りに居てくれて、友奈と話せてる。それだけでいいんだからさ!」
「……えへへ、私もこうしてまーくんといるの好きだよ」
友奈の手を引いて走る。声を張りながら正直に僕の気持ちを伝える。これは本心なんだ。声に迷いなんてない。これならちゃんと笑って言える。一方的になると思ったんだけどね。嬉しくなる言葉を友奈が返してくれる。
集合場所に行くと、どうやら僕らが最後だったみたい。友奈が迎えに来てくれてたわけだし、当たり前っちゃ当たり前か。
「ふふっ、お二人はいつも仲良しですね」
「若葉とひなには負けるよ」
「タマはどっちもどっちだと思うんだけどな……」
合流したらひなに当然のことを言われた。僕と友奈が仲いいのは自明の理。夫婦みたいなやり取りをする若葉とひなには、到底及ばない気がするけどね。
「壁の外に行くんだよね? 移動手段は?」
「勇者になれば身体能力が上がる。基本的に外では変身したままだ」
「なるほど。じゃあ僕とひなは? 勇者じゃないよ?」
「
「わーおリア充〜」
勇者に変身した若葉が、表情を全く変えることなくひなを抱きかかえる。杏が大興奮するような抱き方、お姫様抱っこである。僕と友奈は苦笑い。ちーちゃんとタマは呆れてる。若葉は僕らの反応を不思議がってるけども。
「さぁさぁ
「……何を言ってるのか僕には分からないな〜」
「勝希も誰かに担いでもらわないと移動に支障が出るだろ?」
「意味を理解せずにサラッと援護射撃しないでほしいなぁ!!」
「ぷぷっ、勝希……諦めろ……くっ、ははははは!!」
「覚えてろよタマぁぁ!!」
笑いを隠すことを諦めたタマが、最高に腹が立っちゃう笑顔を向けながら背中をバシバシ叩いてくる。何かで見返したいけども、勇者じゃない僕にはどうすることもできない。なんて思っていたら、どうやら僕にもツキが回ってきたみたい。タマの力がだんだん弱ってくる。
「……勝希お前……少し背が伸びたな」
「あ、やっぱり? そうなんじゃないかな〜って思ってたんだよね! やっぱり成長期だからかな〜! タマには分からないだろうけど!!」
「ムキー!! 少し伸びたからって調子に乗ってー! まだ若葉よりチッコイくせに!」
「なっ! おのれタマぁ! 言っちゃいけないことを言ったな!!」
「まーくん。そろそろ終わろっか?」
「はい」
友奈さんがにっこりしながら言ってくる。まだ怒ってない状態だけど、これ以上は脱線させるなよ、という意味が込められていることがヒシヒシと伝わってくる。大人しくなった僕を今度はタマが弄ってくるけど、杏に怒られてしょぼんってしてた。妹に怒られる姉の図ワロタ。
「ところで友奈さん」
「なんだいお前さん」
「なんで僕はひなと同じ感じに担がれてるの? お姫様だっことかメンタルごりごり削られるんですけど」
「罰ゲームだよ」
「いいですよ勝希さん! その状態はシャッターチャンスに値します! 若葉ちゃん動いてください! いろんな角度で勝希さんを撮りますよ!」
「ひなぁぁ!!」
「茶番してないで出発するわよ」
なんでお姫様だっこされてる状態なのに写真を撮ってくるのさ! 若葉もひなの支持に従って動くし! ちーちゃんがすぐにズバッと切ってくれたけども。20枚は撮られた気がする。
「僕もうお嫁にいけない」
「それなら私が貰ってあげるね!」
「え、友奈は僕が貰うから駄目。逆はないよ」
「あ、うん。えへへ、ありがとうー」
丸亀から坂出に移動して、瀬戸大橋を渡っていく。まさかこの橋を車とか電車じゃなくて徒歩で渡る日が来るなんて、世も末だよね。世紀末だけども。バーテックスのせいで。天の神がいけないんだっけな。
「海は綺麗だね」
「自然は壊されてないって話だもんね」
「神社とかは……そうじゃないよね。たぶん天の神を祀ってるとこは大丈夫なんだろうけど」
「……そうかもね」
どうやら天の神さんはとことん人間が嫌みたいだね。人と、人が培ってきた文明を、建造物を容赦なく破壊していく。神樹は人を守ってくれるけど、勇者という存在がいるのだから、限度があるってこと。代理戦争。神様事情に詳しくなったら原因とかが分かるのかな。資料は残ってるのかな。……大社はどこまで把握してるんだろ。謎の組織。協力的だし、仲良くなれば資料が手に入るかな。
「まーくん? 怖い顔してるよ?」
「あ、ごめんね友奈。気になることがあってさ」
「気になること?」
「うん。大雑把に言うと、神様事情かな」
「それは私に聞かれてもわからないや」
「だよね〜。帰ったら大社の人と連絡取ってみるよ」
何が本当なんだろうか。この世界で起きていることは、いったい何なのだろうか。人類が生き残ることに必死で、結果だけに目を向けているけども、きっと原因を知らないといけない。戦いを終わらせるなら、全てを知らないと無理だ。
敵のことも分からないけれど、味方のことも分からない。大社は謎だし、勇者を助けてくれる精霊だって謎が多い。力を貸してくれるってことしか分かってない。精霊に関しては杏の方が気にかけてるし、僕より頭いいから何かしら仮説とか立てるだろうね。
「勇者の力ってすごいね。あっという間に岡山に到着だよ」
「しかも移動するだけだから全然疲れないんだよ?」
「本当に凄いね。ところで下ろしてくれない?」
「やだ。まーくんって、放っといたら変なとこ行ってバーテックスに襲われそうだもん」
「信頼されてるな〜」
どうやら友奈さんは下ろしてくれないらしいです。困ったな。ひなは下ろしてもらってるのに。巫女だからバーテックスに襲われないように動けるんだっけ? 比較的安全な場所が分かるとかなんとか。てことは、僕はひなと一緒にいるか、勇者と一緒にいるかすれば動き回れる?
「不満そうだねー」
「不満ってほどでもないよ。ただ、ちゃんと自分の足で立って、現実を認識したいんだ」
「……分かった。それなら下ろしてあげる。でも手は繋いだままね」
「ありがとう。それで十分だよ」
岡山の地に降り立って、改めて街を見渡す。荒廃した街だ。勇者がいなかったから抵抗なんて一つもできなかっただろうね。建物も壊れまくってる。さて、まずはどこまで行こうか。
「友奈、勝希。岡山駅の方に移動するぞ。残念だが、どうやらここに生きている人はいなさそうだ」
「分かったー! 行くよまーくん」
「またお姫様だっこですか?」
「次はおんぶにしてあげるね」
やったー! お姫様だっこから解放された! そう思っておんぶされたわけだけど、これはこれで困ったよね。だっておんぶって手足でしっかりと掴まるわけじゃん? 友奈さんの柔らかくも引き締まったお体にしがみつくことになるわけでして、好きな人相手にこうできちゃうと心臓バックバクで落ち着かないよね!
「あんずー、勝希の頭から湯気出てるぞ」
「自業自得じゃないかな」
「佐天くんも馬鹿ね」
「勝希は散々の言われ様だな……」
(あらあら、皆さん勝希さんにばかり目が言ってますが、友奈さんも友奈さんですよ? ……ふふっ、これは無音カメラで撮っちゃいましょうか)
岡山駅に着いたときには、僕はノックアウトでした。お風呂で逆上せちゃった時と同じ感じ。友奈が膝枕してくれたけど、今の僕にとっては追い打ちだったね。ひなも近くにいてくれて、捜索は他の四人に任せちゃう形になった。残念だけど、次の捜索場所では動けるようにしよう。
ちなみに、ひなが移動中に気力でパシャリと撮っちゃった写真は、後日受け取りました。家宝です。
「勝希ー! 桃太郎像が壊されてた!」
「それは一大事だ! タマ! やはりバーテックスを許しちゃいけないよ! っと、フラフラする」
「まーくんは出発までちゃんと休んでね」
「はい」
あ、移動では結局お姫様だっこが安定だという結論に至りました。
まさか■■の人が、まーくんの外出許可を出すなんて思ってなかった。勇者も巫女もいなくなるから、仕方ないことだとは思うんだけど、それでも不安。四国の外は神樹様の結界もなくて余計に危ない。基本的に私が側にいないとだね。
勇者御記 二〇一九年二月
高嶋友奈 大赦史書部・巫女様検閲済