遊び心は大事   作:粗茶Returnees

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 まさか評価バーに色がつく日が来るとは、わりとガチ目に思ってませんでした。評価をつけてくださった方々、更新が遅いのに読み続けてくださっている読者の皆様。本当にありがとうございます。
 今後も更新は不定期のままで、たいてい月一更新になりそうですが、それ以上はかけないように頑張ります。意欲が高まる日が来れば、ジャンジャン書きたいです。


16話 遠足じゃなかったや!

  

 香川から移動して倉敷へ。歴史的建造物が多くて、整った景観が綺麗だと言われていた場所なんだけど、そこも無残に壊されてる。こういう場所が好きな杏もショックだったみたいだけど、僕らはすぐに倉敷からも移動して東を目指す。もちろん生存者がいるか確認してからだけどね。

 岡山駅のシンボルにして岡山の代表的存在の桃太郎さん。その銅像までもがバーテックスに壊されてた。あれかな、人型だから人間と間違えられたのかな。バーテックスはそこまで細かな区別できなさそうだし。バーテックスなのに。頂点なのに。会話が成立するなら皮肉ってあげたい。

 さらに東へ行くと備前。兵庫に入ったら赤穂浪士で有名な赤穂とか、牡蠣が取れる相生。さらに進めば姫路なんだけど、僕らはそこまでは行かずに、川の近くにテントを張ることにした。場所はひなのお墨付きで、バーテックスもそうそう来ないだろうね。

 

「この辺がいいか〜」

「お! タマさんやるんすか! あれをやるんすか!」

「オウとも!」

 

 僕とタマが無駄にテンションを上げる。若葉とちーちゃんの冷たい視線が突き刺さり、他の三人からの生温かい目が追い打ちとなる。でも僕らはそんなことには怯まない。ボケは怯んじゃいけないのだから。

 

「ここを! キャンプ地とする!」

「よっ! 待ってました! タマの趣味が役立つ数少ないこの瞬間を!」

「余計なことまで言うな!?」

「まさか土居さんの趣味が役立つとは……人生分からないものね……」

「人生を語るほどじゃないだろー!」

 

 ちーちゃんに全力でツッコむタマを放置して、僕はテントを張る作業を進める。タマほどキャンプの知識はないけど、テントを張るぐらいはできるからね。よく爺ちゃんに連れられて、父さんと母さんも一緒にキャンプしたものだよ。あの頃は小さかったから、作業を眺めてることが多かったけど。

 

「よし! これでテントは完成だー! 次は焚き火を設置するぞー!」

「はい炭木」

「なんで持ってるんだ!?」

「持ってきたから。木を集めるのは手間でしょ」

「まぁそうだが……、あるならそれでいいか! 火を起こして、ご飯作るぞ!」

 

 さてさて、ご飯を作るとなると僕の腕の見せ所。ひなとか杏もできるだろうけど、キャンプ地での調理は未経験。これは僕がやるしかない。と言っても、僕も一回ぐらいしかやったことないけどね。

 若葉は真面目過ぎるし、大社の人たちも「携帯食料でいいだろ」みたいな考えらしいけど、この時期の若者への食料でそれは駄目でしょ。体によろしくない。かと言って、バーテックスが蔓延る四国外でまともな栄養を取れるわけでもない。動物とか全然見ないし、野菜類を求めて探索することもできない。

 

「そんな時には缶詰です!」

「それも持ってきてたのか」

「携帯食料とか味気ないしね。最終手段だよ。若葉はそれ食べたいならそれでもいいけど?」

「いや、私は勝希が作ってくれる料理を食べたい」

「ふぅー! 若葉の女にされるー!」

「お前は何を言って……ひなた? どうし──」

 

 調理を始めた僕の横にいた若葉が、いつの間にかいなくなってた。ひなの姿も見えないし……、なんか怖いから考えるのやめとこ。それに包丁を使ってる時に考え事とか危ないし。手を切りたくはないよね。

 

「缶詰に入ってるものも調理に使えるんですね」

「そのままでもいけるけど、これが案外他と混ぜると美味しかったりするんだよ。あと缶詰は栄養価も高いし、非常食として超有能。偏見なんて捨てて堂々と使うことをオススメするよ」

「ふふっ、勝希先輩まるで缶詰のセールスマンみたいですね」

「お嬢さんお一ついかがですか?」

「料理ならいただきますね」

 

 返しが上手くなったというか、強かになったよねこの子。あと話しやすくなったっていうのもあるかな。仲良くなれるのはいいこと。こうして絆が深まるのを実感できるのって、小さな幸せなんじゃないかなって思ってみたり。

 

「米が炊けるのはまだっぽいね〜」

飯盒(はんごう)……でしたっけ?」

「うん。携帯型炊飯器ってとこだね。これを考えた人は頭がいいよ〜」

「目安とかはあるんですか?」

「目安は蓋だよ。タイミングはタマに任せるんだけどね。目利きが良いのはタマだし」

 

 僕はおかず担当なのだよ。そしてそれも手間がかからないやつだから、米が炊けるまでには終わってしまった。暇になった僕は、そのまま杏と言葉を交して時間が経つのを待つ。タマが目を光らせて「ここだぁぁ!!」って全力で叫んだのを合図に、それまで見張りをしていたちーちゃんと友奈が戻ってくる。テントからひなとヨレヨレ若葉も出てきて、みんなでご飯を食べる。

 

「まーくんはいろんな料理できるよね〜」

「扱える食材は多いけど、より美味くってのは全然だよ」

「そう? これも美味しいよ?」

「婆ちゃんに教わったし、祖母の味ってやつかな。米の味が良い仕事してくれてるし」

 

 婆ちゃんは凄かったな〜。料理教室とか開いたらよかったのに、そんなことは一切しなかったな〜。爺ちゃんが急に取ってきた食材を見ては、すぐさまおかずとして取り入れてたし、素材の味を活かした料理だった。それを知ってると、僕の料理なんてペーペーだよ。

 ご飯を食べ終わったら手分けして片付け。そして近くにある川で、お風呂代わりとして水浴び。全員が一気に入るわけにもいかず、ちーちゃんと僕が見張り番を兼ねて後から水浴びをすることになった。

 

「みんな楽しそうにはしゃいでるね〜。冬の川とかすんごい冷たいと思うんだけど」

「そうね。覗いちゃ駄目よ?」

「覗かないし覗けないよ!」

「あら……律儀に目隠しをそのままにしてるのね」

 

 僕は覗き未遂という前科もあり、今回は絶対にしないよという意思表示のもと自分から目隠しをしている。見張り番が僕一人だったらこれも信用が薄いんだけど、ちーちゃんも一緒にいるから効果が出る。もし僕が目隠しを外そうとしても、側にいるちーちゃんが止めてくれるだろうって寸法なのだ。

 そんなこんなで僕は目隠しを続けいるんだけど、それは思いもよらないパターンで終了することになった。ちーちゃんが僕の目隠しを外したから。

 

「? なんで?」

「そんなことをしなくても、あなたはもうやろうとしないでしょ」

「わぉ、信じてもらえてるとは驚きだよ。ところで、ちーちゃんが自分から見張り番をやるって言ったのは……」

そういうことよ(・・・・・・・)

「……そっか」

 

 目をそらして吐き捨てるように呟いたちーちゃんに、僕もポツンと呟き返すことしかできない。僕は本人から聞いてるからね。故郷の高知でどういう生活をしていたのかを。そこで何をされたのかを。聞いていて腹が立つことだったけど、話してくれてるちーちゃんに何を言うわけでもない。僕はずっとそれを聞くしかできなかった。

 僕はそっと腕を伸ばして、その綺麗な髪に触れる。きめ細かくてサラサラした髪。大切に手入れされてるのがよく分かる。僕がいきなりこんなことをしたから、ちーちゃんはびっくりしてるけども、僕は黙ってそのまま手を動かす。そっと横髪をよけて、いつもは隠れ気味な耳をはっきりと露出させる。傷を見られたくないちーちゃんは、すぐにハッとして顔を顰める。

 

「佐天くん!」

「……やっぱりちーちゃんは綺麗だよ」

「なっ……何を言ってるのよ……!」

「本音だよ。僕は率直にそう思うんだ。ちーちゃんは綺麗な人だって。傷があっても関係ない。僕にとってそれはちーちゃんを下げるような要素にはならない」

「……恥ずかしいことを……言うのね」

「自分でもそう思うよ。恥ずかしくて死んじゃいそう」

 

 言ってみたはいいものの、思ってた以上にすんごい恥ずかしくて顔が熱い。体が固まっちゃって、目を逸らすことしかできない。だから僕の手はちーちゃんの顔の横に伸びたままで、そのまま僕は停止しちゃってる。熱くなってしまった頭では思考も鈍っちゃって、今触れているちーちゃんの肌のことしか考えられなくなる。早く手を離せば終わるのに、体が全然動いてくれない。ちーちゃんも停止しちゃってるから二人ともこのまま。

 

「ねぇ? 二人は何してるのかなぁ〜? 私に分かりやすく教えてくれないかな?」

 

 だから、友奈に肩に手を置かれてそう言われるまで、僕らは人が近づいてることにも気づけなかった。

 

「ゆ、友奈!? あの、これはあの、やらしいことも邪なことも何一つなくてですね!」

「そう? それならなんでそんなに慌ててるのかな? ぐんちゃんは黙ったままだしさ」

「それは……えと、友奈が怒ってるのにビックリしちゃってですね!」

「私はまーったく、これっぽっちも、怒ってないよ?」

「全然そうは見えないよ!?」

 

 全然笑ってない笑顔とかいう矛盾した怖い顔をする友奈に必死に弁明して、途中からちーちゃんも援護してくれた。そのおかげもあって、友奈が落ち着いてくれて、ホッとしたところでちーちゃんが水浴びに。僕は一番最後でいいからね。

 

「さ、お話聞かせてね?」

「あれぇ〜?」

 

 友奈に両手を掴まれた僕に逃げ道なんてなかった。

 

 

 

❀❀❀

 

 

 

 二人、または三人のローテーションで見張り番をする。今は私とひなちゃんの番で、焚き火に当たりながらあくびをもらす。空を見上げたら綺麗な星々。数年前とは違って、あの星々が動いて降ってくるなんてことはない。人類が激減したから肉眼で見える星々が増えたなんて、皮肉な話だよね。正確には増えたんじゃなくて、見える数が戻ったってわけだけど。

 

「ひなちゃんって凄いよね。私たち勇者とは違って戦えるわけじゃないのに、全然怖がってないもん」

「怖くないわけではないですよ? 皆さんがいてくださるから頑張れるんです」

「その勇気がもう勇者級だよ!」

「ふふっ、ありがとうございます。それなら勝希さんも勇者級、ですか?」

「まーくんは……どうだろうね。たぶんひなちゃんと同じだとは思うけど」

 

 私が歯切れ悪く言うのが珍しいみたいで、ひなちゃんがちょっと驚いてる。でも、これって別に不思議なことじゃないんだよね。もちろんまーくんのことを知ってるかどうかって問題があるけど、知ってる人なら私と同じように言うかな。

 

「まーくんは別に怖いもんなしってわけじゃないんだ。むしろ臆病って言い方がよく合うの」

「勝希さんが……ですか?」

「うん。でも、まーくんはやっぱり男の子で、お爺ちゃんに教えこまれたことを大切にしてるから、あんまり弱音言わないんだよね。女の子を守るのは男の役目だーって」

「ふふっ、そう言われてみると普段の行動にも納得できますね」

 

 まーくんはお爺ちゃんを敬ってたし慕ってた。だから、教わったことは大切にしてる。それのせいでヒヤヒヤさせられることもあるけど、最後には必ず笑ってるからズルいなって思っちゃう。

 

「それで、友奈さんは勝希さんにお気持ちを伝えたのですか?」

「ふぇ!? あ、いや……それは……その……」

「まさかまだなのですか!? 水浴びの時にみんなで背中を押したというのに!」

「ご、ごめんなさい」

 

 水浴びしてる時に、タマちゃんが思い出したように話をしたのがきっかけ。私が小学生の時にまーくんをフッたって話を。あんちゃんもそれを知ってたみたいで、目をキラキラさせながら食いついてきた。ひなちゃんも食いついて、若葉ちゃんは黙ってたけども興味があったみたいで止めてくれなかった。それで、ぐんちゃん以外のみんなに、当時のことを話すことになったんだけど、それが終わったら──

 

『友奈さん! この後にでも告白してください! 誰も盗み見るような無粋なことはしませんので!』

『そうですよ! タマっち先輩は私が止めますから!』

『タマだって空気くらい読むぞ!?』

 

 って感じで送り出されちゃった。若葉ちゃんも『後悔しない選択を』って背中を押してくれた。だから、私はバクバク煩く鳴る心音をなんとか落ち着かせて、意を決してまーくんの所に行った。でも、まーくんとぐんちゃんの所に行ったらさ、二人ともなんか良い雰囲気になっちゃってて。

 

「それで間に割って入って、その後二人きりになれたけどそんなことできそうになくて」

「あらあら、勝希さんもいけない方ですね。これはお説教が必要です」

「ダメダメ! ひなちゃんはこれを知らないことにして!」

「……そうですね。そうしましょう」

 

 ひなちゃんが抑えてくれたことにホッと息を吐く。まーくんはバカなことばっかりするけど、馬鹿じゃないからね。そこそこ察せる人でもある。だから、変に動いちゃいけない。

 まーくんが抱えてること……本人は何も知らないけど、背負っているものがある。それもとても重たいことで、できることならまーくんは知らないままでいてほしい。だから大社にお願いして(・・・・・・・・)基本的にまーくんを城の敷地から出さないようにしてる。目の届く所にいてくれないと、私が不安になるってこともあるんだけどね。

 

「……友奈さん、勝希さんのことを教えてくれませんか?」

「え、まーくんのこと? だいたい見た通りだけど、まーくんは遊ぶことが大好きで、それもみんなの笑顔が好きだからで──」

「違います。佐天勝希という人物が抱えていることを話してほしいのです。巫女のトップである私ですら、大社の方は教えてくれませんでした」

「……探ろうとしてたんだ? まーくんをどうする気?」

 

 声が低くなる。凍てつくような冷たい声。さっきまでの雰囲気なんてどうでもいい。目を鋭くしてひなちゃんを見つめる。一挙一投足を見逃さないために。

 

「あ、あの……私は彼をどうこうしようだなんて……そんなことは考えていないんです……。ただ、彼の問題を知って……何か支えられるならと……」

「…………そっか。ごめんねひなちゃん。勘違いしちゃった」

「いえ、私も不用心でした。ごめんなさい」

「まーくんのことはね、話しちゃいけないの。特に今は神樹様の結界の外だし、そもそも中でも危ないんだ」

「それはどういう……」

「うーん、今なら大丈夫かな。軽くしか話せないし、勝手に広めないって約束して。もし────の時以外は」

「友奈さん……。はい、お約束します」

 

 これが正しいのか分からない。人に話してしまってもいいのかなんて。しかも壁の外で。でも、誰かには知っていてもらわないといけないのもたしか。戦うことがなくて、神樹様に選ばれてるひなちゃんが適任なのもそう。神樹様に一番に選ばれてるひなちゃんなら、軽くだけなら問題ないはずだから。

 

 叶うのなら──でいてほしい。

 




 
 友奈さんから教わったことは、私の想像を遥かに超える内容だった。あくまで触りの部分であったというのに、それだけでも重たいことだった。全てを知っているのは友奈さんだけ。人々を背負っている中、それとは別で重たいものを背負っている。彼女が背負うものを少しでも分担しなくては。

  二〇一九年 二月
 上里ひなた 
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