遊び心は大事   作:粗茶Returnees

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 更新が大変遅くなりました!
 水着高嶋さんが来ませんでした! 傷心状態の粗茶です! FGOの方はなんとかなりました!
 では、本編どうぞ。




19話 四国に帰ってきた

 

 諏訪の後はさらに東に行って東京、そこから東北へ。その予定だった。そうする流れだった。でもそれは中断することになった。ひなに神託が下って、四国にまた危機が迫ってると分かったから。

 四国に戻ってからというもの、まず初めに行われたのは遠征結果の報告だった。それも虚偽の報告。四国の外は滅んでいて、生き残りがいる可能性は限りなく低い。勇者がいると分かっていた諏訪もすでに壊された。それが今回の本当の内容なのに、大社はそれを捻じ曲げて四国の人々に広めた。四国の外にも生き残りがいると、諏訪にはまだ勇者がいると。それを若葉のスマホから流れるニュースで、僕らは聞いている。

 嘘に塗れたニュース。あの現実を目の当たりにした僕らは、それを聞いていていい顔はできない。タマとか分かりやすく機嫌が悪い。黙っているだけで、ちーちゃんも嫌そうだし。戻ってきてからちょっと不安な感じがするけど。

 

「みんなー、早く食べないとうどんが伸びちゃうよ? 食欲がないなら私が食べちゃうけど」

「それ僕のキツネだよね!? 返してよ!」

「なっ!? タマの肉を取るなー! こうなったら……!」

「あー! それ私のキツネー! それしか残ってないのに!」

 

 僕のを食べておきながら嘆くとか欲張りじゃないかな!? というかこれ、ただ単に僕とタマのおかずが交換されただけなんじゃ。

 

「タマっち先輩食事中に騒がないで」

「友奈さんもお行儀が悪いですよ」

「勝希は晩御飯抜きだな」

「僕だけおかしくない!? 考え直してよ若葉お父様!」

「誰がお父様だ!」

 

 杏とひなに怒られてシュンとしたタマと友奈も、僕と若葉のやり取りですぐに明るくなる。チラッと横目に見たけど、ちーちゃんも口元を隠して頬をピクピクさせてる。

 

 ──よかった。まだ(・・)そこまで(・・・・)じゃないみたい。

 

「嘘ばっかりのニュースだけど、私たちがこれを本当にしていったらいいんだよ!」

「友奈の言うとおりだな」

 

 前向きな友奈らしい言葉。それに若葉が頷いて、タマと杏も表情を和らげる。こういうとこが本当に凄いなって思う。友奈はどんな状況でも前を見ていて、希望を持ち続けてる。小さな光を決して見失わない。だからカッコよくて、惹かれるんだよね。

 

「ごちそうさま……」

 

 呟くような小さな声がした。それはちーちゃんの声で、一人黙々と食べていた彼女は、完食したらすぐに食堂からいなくなった。食堂のおばちゃんにもちゃんと「ごちそうさま」って言ってたみたいだし、出会った頃に逆戻りってわけじゃないはず。

 

「僕もごちそうさま〜」

 

 実は食べ終わっていた僕も、ちーちゃんに続いて席を立つ。食器が乗ってるお盆を返却して、おばちゃんに「ごちそうさま」を言うのも忘れない。

 

「ちょっと勝希」

「うん?」

 

 いつもなら軽く会話して終わるんだけど、ちーちゃんが気になってる僕は、すぐに後を追いかけたかった。だから半身になって顔だけおばちゃんの方に向ける。おばちゃんも察してくれたみたいで、真面目な顔で一言だけ伝えてくる。

 

「郡ちゃんのことを見ていてあげるのは勿論だけど、一番近くにいる子もしっかり見ときなさいよ」 

「……うん。気をつけるよ」

 

 こくりと頷いて食堂から出ていく。その時に、タマが午後の授業を休むってのが聞こえてきた。サボりじゃないってことは、思い当たるのは一つだけ。

 

 『保っているってだけ』

 『嫌な空気が流れてる』

 

 それはみんなが感じとれているんだろうね。おばちゃんも気づいてたし、たぶん午前中に授業してくれた先生たちも……。

 誰かが悪いんじゃない。諸悪の根源が近くにいるわけじゃない。当てどころのない負の感情をどうしたらいいか分からない。だからドンヨリとしてるんだろうね。

 

 ちーちゃんを探しつつ、廊下から窓の外を見上げる。今日も今日とて変わらない青空。結界の中だろうと空の色は変わらない。というか、不可視のバリア的なものが張られてるらしい。世界が滅んだというのに、自然は変わることがない。……あぁそうか、人間の(・・・)世界が滅んだだけだもんね。

 そんな考えにいたり、らしくないなと思って頭を振る。頬をパンパンと2回叩いて、意識を切り替えて捜索続行。候補は訓練場か教室なんだけどね。たぶん教室。

 

「やっぱりいた」

「……なに?」

 

 自分の机に座ってゲームをしてたちーちゃんに声をかける。ちょうど切りがいいところなのか、それとも余所見していても問題ないのか。どちらにせよちーちゃんはゲーム画面から顔を上げた。適当に椅子を拝借した僕は、向かい側に座ってニッと笑う。

 

「なによ」

「ちーちゃんが見てくれたな〜って」

「……それだけ?」

「そうだよ。だってちーちゃん。戻ってから一度も目を合わせてくれなかったし」

「そんなこと…………」

 

 否定しようとしたみたいだけど、戻ってきてからの数日を思い返したっぽい。罰が悪そうに視線を逸らすちーちゃんに、怒ってるわけじゃないと伝える。少し寂しかったのと、心配だったことも。

 

「それは……ごめんなさい。でも……私は……」

「うん。別にいいんだよ。ちーちゃんは勇者。僕は何もできない存在。ひなに神託が下ったわけだし、何かが起こるであろう次の戦いに備えるのも当然のことだからね」

 

 尤もらしいことを言う。たぶん合っているやり方じゃない。間違えてるとも言い難い。ただ僕は、どう言えばいいか分からなくて、どうすればちーちゃんの支えになれるか分からなくて、当たり障りのない言葉に逃げた。友奈だったらもっと上手く話せたんだろうな。自嘲気味に内心で思ってフッと自分を笑ってしまう。

 その時だった。僕の左頬に暖かく細く柔らかい手が添えられたのは。それはちーちゃんの手で、目の前にはどこかぎこちなくも優しく微笑む彼女がいた。

 

「えっと……」

「辛そう……だったから……。こ、こういうのは全然やったことないし……慣れないというか…………照れくさいものね」

「あ、ありがとう」

 

 情けないな。心配してる相手に心配されるなんて。何か思い詰めてるはずの相手に、こういうことしてもらって。僕の立つ瀬がないったらありゃしない。……でも、なんか落ち着ける。友達のはずなのに、この時はくすぐったい感じにギクシャクしてて、それが新鮮に思える。気づかないうちに下がり気味になっていたらしい僕の心も、こうされるだけで上向きに切り替わる。

 自然にふにゃりと笑えて、そしたらちーちゃんも自然な笑みに変わって。添えられたちーちゃんの右手に、自分の左手を重ねる。ちょっとだけ頬を押し付けて、お返しとばかりに僕も右手をちーちゃんの頬に添える。女の子特有の柔らかい肌。友奈の頬とも当然違っていて、ちょっとドキマギしていたり。そしたらちーちゃんも僕の真似をして手を重ねてきた。お互い見つめ合って微笑み合う。新鮮な気持ちが心に染み渡って行く。

 

 だから気づかなかった。

 

「二人とも何してるのかな〜?」

 

 教室に戻ってきてた友奈の存在に。

 

「ゆ、友奈……!?」

「高嶋さん……これは、その……」

 

 二人してビクッて反応して友奈の方を見る。そこには笑顔を浮かべつつも、バーテックスですら逃げていきそうな圧を放つ存在が。

 何故か冷や汗が止まらない。「実は今南極にいるんです。ドッキリのために移送しました」って告げられても信じるくらい体温が低くなってる。椅子と床に縫い付けられたのかってぐらいに体がビクとも動かない。

 

「二人して見つめ合ってさ〜。心配して私も追いかけてきたのに、あれってこのための演技だったのかな〜?」

「そ、そんなことないです。僕もちーちゃんを心配してたわけで──」

「ま〜くん?」

「はいっ!」

 

 ゆったりとした口調が超怖い。未だに笑顔のまま名前を呼ばれ、表彰式以上にいい返事をする。

 

「ちょっと、お話ししよっか?」

「はい!」

 

 こんなにいい返事ってできるもんなんだな。なんて思ってる余裕もないわけで、僕は友奈に腕を本気で握られながら教室から連行されていく。骨がミシミシいっちゃってるんだけど、力加減が絶妙に上手く、ただその痛みが同じレベルで続いていく。

 固まったまま教室に取り残されたちーちゃんは、たぶんギリギリ許されたんだろうね。これは僕の日頃の行いが、ある意味功を奏したのかもしれない。友奈が廊下に出ると同時に、ちーちゃんは体の力が抜けていった。

 

「ぐんちゃんは放課後ね」

「へっ!?」

 

 やっぱり見逃されなかった。

 

 

 

❀❀❀❀

 

 

 

 まーくんへのお話し(お説教)をしたわけなんだけど、私は放課後にぐんちゃんと一緒に自主訓練をした。ぐんちゃんは私が訓練場に行ったらビクビクしてたけど、私が別に何もしないよって伝えたらほっとしてた。そんなに怖かったのかな? 

 まーくんはぐんちゃんの事を気にかけてる。それは私もある意味同じなんだけど、私は少し違う。大切な友達だから、一緒に笑いたいし、一緒に遊びたいし、一緒にいたい。悩みがあるなら聞いてあげたいし、できることがあるなら協力したい。それが友達だと思う。まーくんの場合は……なんだろ……友達って理由もあるんだろうけど、どこかそれを責任だって思ってる気もする。ブーメランだって言われるかもしれないけど、背負い込まないでほしいな。

 

「はい、友奈さん。お茶が入りましたよ」

「ありがとうひなちゃん」

「ふふっ、友奈さんが私の部屋に来てくださるなんて珍しいですね。千景さんや勝希さんの所におられるのが多いと聞いてましたし」

「あはは、一人の時もそれなりにあるんだよ?」

 

 淹れてもらったお茶をいただいて、ほっと一息つく。温かいお茶ってなんだか落ち着けるよね。凄い不思議だけど。

 ひなちゃんも一口そっと飲んで、湯呑みをテーブルにコトンと置く。分かってたことだけど、改めて見るとひなちゃんって作法が凄い丁寧。若葉ちゃんも丁寧だけど、ひなちゃんが一番丁寧で、見ていて綺麗だと思う。

 

「今日は……勝希さんのことですか?」

「っ! 分かっちゃうんだ……」

「友奈さんから勝希さんのことを聞いているのは私だけですし、あの事(・・・)とは別だとしても、こうして友奈さんが訪れるとなると、やはり勝希さんのことかと」

「ひなちゃんは凄いね〜。軍師って感じ」

「それは杏さんの方ですよ。私はどちらかといえば宰相です」

 

 手を振って否定したひなちゃんは、ニコッと笑いながら人差し指を立てる。正直軍師と宰相の違いには全然ピンと来なくて、首を傾げながらあははって笑って誤魔化した。ひなちゃんもクスって笑って流してくれて、私に話を促してくる。

 

「えっと……今日ね──」

 

 ひなちゃんに昼間のことを話した。まーくんにお説教をしたことを。その時にやり過ぎちゃったんじゃないか、という不安があることを。もしかしたら、まーくんが離れていっちゃうんじゃないか、と思ってることを。

 私が全部話して、それを聞いたひなちゃんは微笑んでた。決して私を嘲笑ってるわけじゃない。それはわかる。でも、なんでひなちゃんが微笑んでるのかは分からない。

 

「勝希さんが友奈さんから離れることはありませんよ。嫌うなんてことも絶対にありません。私が持つ若葉ちゃん秘蔵コレクションを賭けてもいいです」

「なんで? なんでそこまで言い切れるの?」

「友奈さんが勝希さんを強く思っているからです。そして、勝希さんもまた友奈さんのことを大切に思っています。そんなお二人が喧嘩しただけで離れるなんてありえません。むしろ、喧嘩した方がさらに仲が深まると思いませんか?」

 

 思い当たる節はいっぱいある。喧嘩して、仲直りして、そしたらもっと仲良くなれてる。そういうことは、小学生の時にまーくんが何度も経験してたから。私は喧嘩自体が嫌いで、そうならないようにすることの方が多かったけど。

 

「勝希さんがどれほど友奈さんを大切に思っているのか、たぶんその事に関してだけは、私の方が友奈さんより知っていると思います」

「それは……」

「ふふっ、たとえば戦闘があった時、勝希さんはいつも思い詰めた顔で皆さんのところに走りますし、友奈さんの姿を見た時にとても安心して笑顔になるんですよ。すぐに普段のおちゃらけた調子にするんですけどね。入院された時もそうです。全然落ち着かない様子で、上の空ってことが多いんですよ?」

 

 全然知らなかった。私が離れてる時だから当然なんだけど、まーくんにそこまで心配をかけてるなんて、大切に思ってもらえてるなんて……。

 

「ふふふっ、どうやら大丈夫そうですね」

「う、ん……」

 

 そう思ってきたら心が温かくなって……だんだんそれがもっともっと熱くなる。胸がいっぱいで、満たされるってこういうことなのかなって。

 

「あ、そうだ友奈さん。先程若葉ちゃんが考えたことなのですが──」

 

 思い出したようにひなちゃんが教えてくれたのは、気分転換を兼ねてレクリエーションをするということ。訓練も兼ねてるあたり、若葉ちゃんらしいよね。

 

「それで……その〜、大変申し訳にくいのですが……」

「どうしたの?」

「その……勝希さんも参加されます」

 

 ……

 

 …………ん?

 

 




 勇者ではない私にできることは、勇者の皆さんをサポートすること。だから、友奈さんが背負うものを分担するのも私の役目。……本当はこうする事もよくないと思う。彼女との約束を破ってしまっている。だけど、私は記さなくてはならない。彼女から聞いた話を。

 二〇一九年三月
 上里ひなた

 
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