さぁさぁやってきました。我らがリーダーこと乃木若葉考案の訓練、もといバトルロワイヤル、もといレクリエーション! ルールは簡単。丸亀城敷地内を範囲としたバトルロワイヤルなのだ! 勇者たちは変身しないし、安全第一という事で、訓練用の武器を使用。非参加のひなの審査をクリアした状態の武器を使うのだ。友奈だったら手甲にタオルを巻く、とかだね。
「まーくん、私聞いてないよ?」
「だって言ってないし。決めたのも夜だったし」
「……まーくんが参加する必要あるの?」
「友奈は勘違いしてるね」
朝からご立腹の友奈を宥めつつ、僕の意見を通させてもらおう。話を終わらせないと、レクリエーションを始められないしさ。他のみんなを待たせるわけにもいかないし。
「これは訓練を兼ねてるけど、あくまで主目的はレクリエーション。つまり僕が参加しないわけがない!」
「はぁ。分かったよ」
「やった!」
「最初にまーくんを脱落させたらいいんだよね?」
「私怨が混ざってるよね!? 作戦じゃないやつだよね!?」
それじゃあ後でねって獰猛な笑みを浮かべて言った友奈は、若葉たちに声をかけてからどこかへと移動していった。開始の合図でスタートするし、それまでに移動するのも自由。伏兵になるもよし、相手を探して移動し続けるのもよし。そこもこのレクリエーションの醍醐味だとか。
若葉たちも散り散りに消えていって、僕は残ったひなに声をかけた。今回は僕も参加だし、ひながどうするのかを聞いときたいし。
「私は天守閣の最上階で皆さんの様子を見守りますよ」
「ってことは、審判ってわけでもないわけだ?」
「ふふっ、そうなりますね」
「なるほどね」
ただの観覧者ってことか。まぁ、戦いに巻き込まれることもないわけだし、天守閣の最上階っていうのも、全体を見渡せるからだろうね。
「そろそろ開始しますけど、勝希さんは移動しなくていいんですか?」
「みんなが散り散りになってるからね。かえって動く必要がないというか」
「本当は?」
「時間のこと忘れてた!」
笑顔とともにサムズアップ。ため息で返されたのは解せない。ごくごく自然に浮かんだ笑顔だというのに。
天守閣に入っていくひなを見送り、これからどうしたものかと考える。高い位置から相手を探すのは定番だけど、むしろこっちの方が目立ってしまうという欠点がある。それに、丸亀城は上から見渡しやすいとはいえ、木々は普通に生えてる。林だってある。そういう所に隠れられてたら見つけようがない。
「そうなると、やっぱり狙う相手を考えた方がいいよね」
まず、堂々と動き回る人物と隠れて行動する人物に振り分ける。前者に該当するのは若葉と友奈。タマは状況に合わせて動くだろうけど、前者って考えていいね。後者は杏とちーちゃん。数々のゲームをこなしたちーちゃんなら、今回もそれに当て嵌めて考えるはず。若葉を脱落させる手段としては、全員で狙うか作戦でハメるか。ハメるのは杏が考えてそう。
ある程度行動を考えて、隠れることなく一直線に二の丸に移動する。天守閣は目立ち過ぎるから序盤で人が集まるはずがない。そうして絞っていくと、戦いやすい場所で敵と遭遇しやすい場所は二の丸だ。
「整理すると分かりやすい構図だね」
「本当に?」
「っ!? あっぶな!」
二の丸を目前としたところで後ろから声をかけられた。振り向くことなく横飛びしたおかげで避けられたけど、振り向いてたらその時点で脱落だったね。
「まーくんがみんなの行動を予想して動くことくらい、私にだって予想できるよ」
「うわ〜。宣言通り真っ先に僕を脱落させる気か〜」
「うん。だって白熱してくると怪我するかもだし。訓練してないまーくんは危ないかなって」
「優しいね」
立ち上がりつつ衣類に付いた汚れを叩いて落とす。友奈は本気のようで、既に拳を構えて僕の様子を伺ってる。容赦なく攻め続けたらいいのに、こういうとこが甘くて友奈っぽい。
用意した二本の木刀を構える。未だに勘違いしたままの友奈にちょっと呆れて、でも普段の僕の振る舞いのせいだと分かっているから言葉はしまう。その代わりに久々に真剣になる。
「行くよ」
友奈の行動を探る意図も込めて、距離を詰めた僕は左腕だけ振るう。それを友奈が右手の甲で外側へと弾き、半歩踏み込んで左拳を叩き込んでくる。右手の木刀でそれを防いで、弾かれた左の刀を下からすくい上げる形で友奈を狙う。後ろに跳んで躱されたけど、追撃はせずに木刀を構え直す。
「……すぐに距離を詰めてくると思ったんだけど」
「そうしたらカウンターでしょ? バーテックスと戦う友奈がこれくらいで押されるってのがおかしいし」
「あはは、バレバレみたいだね。でも、思ってたよりまーくんが動けてることに驚いてるのは本当だよ?」
「まぁ、訓練を兼ねてるって言われてるし、全力を尽くそうとは思ってるからね」
僕の本気が伝わったようで、拳を構え直した友奈の表情も引き締まる。友奈とは口喧嘩をしたことがあっても、殴り合いの喧嘩は絶対にしなかった。遊びの範囲で言うなら雪合戦くらいかな。だから、新鮮な気持ちがある。でも、それ以上に……。
「すまないが割り込ませてもらうぞ」
「若葉ちゃん」
「優勝候補のお出ましか〜」
横から入ってきたのは若葉だった。僕と友奈は、お互いに警戒しながら若葉の方に目を向ける。お手製の鞘に収まった木刀を片手に持つ若葉。凛とした佇まいと好戦的な笑みは、ひなが見たら大興奮してパシャパシャ写真を撮りそう。どこかで隠れてる杏あたりが撮ってくれないかな。
「友奈とは一度手合わせをしてみたかったし、勝希の本気も味わってみたかった」
「味わうとかバーサーカーかな?」
「バーサー……? よく分からないが否定させてもらうぞ」
若葉め。何か分からないくせに、僕が揶揄ってるからという理由だけで否定してきたぞ。否定されて当然な内容だけど、分かってから否定してほしいものだよね。それはひとまず置いとくとして。
「僕の本気とか言われてもさ。前に手合わせして僕がコテンパンに負けたじゃん」
「あれは気を抜いていただろう? しかし今回は訓練を兼ねているから勝希も本気を出すしかない。絶好の機会じゃないか」
「うへぇ。友奈にも若葉にもマークされるとか……、何これ地獄かな?」
雑談も程々に、僕と若葉は同時に動いた。若葉の居合を木刀二本で防ぐ。鋭く重たい一撃で手が痺れそうだ。若葉はそんなことなくて、時間を開けることなく素早く木刀と4回振った。前半の2撃は捻って躱し、後半の2撃は両手の木刀で防ぐ。
「どうした! そんなものではないだろう!」
「勝手にハードル上げないでくれます!?」
左から迫る木刀。右から迫る鞘。挟み込まれる形になったけど、二本木刀をそれぞれ下から振り上げて弾く。振り上げてすぐにそのまま振り下ろすも、若葉の速度は勇者一。簡単に迎撃された。
けど、僕はここで防御に回らなかった。攻めに回る。若葉の攻撃速度は尋常じゃなくて、木刀が一本だけだったらとっくに負けてた。二本なら二本で振り回しにくかったりするんだけど、爺ちゃんにいろいろと叩き込まれてるおかげで二刀流ができる。
「やはり強いな!」
「そりゃどうも!」
一歩も引かず、お互いに攻勢に回る。木刀同士が激しくぶつかるけど、状況は芳しくない。体力は若葉の方が多いからね。なんとか踏ん張れてるのは、単純に意地ってだけ。狙ってたら若葉も策士だよね。
僕の意地。それはきっとみんな共感するようなこと。
──
本当にそれだけのこと、なんだけども体力が尽きそうだ。友奈と戦ったってだけでも神経をすり減らしていたのに、その直後に若葉とかぶっちゃけキツい。当の本人は無邪気にいい笑顔を浮かべてるけど、こっちはそんな余裕ないんだよね!
それを分かっていたのか偶然なのか。僕と若葉の間に友奈が割って入ってきた。僕と若葉の両方を狙った裏拳は、しかしどちらにも当たらず、友奈は僕らに挟まれる位置に立った。
「友奈も参戦か。これは三つ巴戦になるのか?」
「ううん。私はまーくんを最初に落とすってことを変えないよ」
「なるほど」
「鬼かな!?」
要するに若葉との共同戦線でしょ!? オーバーキルですお客様! 当方はそこまでの対応力を持ち合わせておりません!
友奈の隣に若葉が立つ。二人の視線は真っ直ぐ僕を捉えている。2頭の獅子が鼠1匹追い詰めてる用な構図なんだけど、これなら取る手段は一つだけ。
「三十六計逃げるに如かずってね!」
「なに!?」
「させないよ!」
「遅い!」
『忍者セット・改』を使って、鉤爪付きロープを後方に噴出させる。見事に太い枝に絡めることができ、友奈に距離を詰められる前にロープを巻き戻させる。パワーを最大にしたおかげで、体が浮き上がりながらも後方への緊急離脱を成功させた。勢いが良すぎたのは割愛。枝で頭を強打したのも見なかったことにしてほしい。
「ツッ……いってぇ〜」
「大丈夫ですか?」
「なんとか……大丈……夫じゃないね。この状況」
枝で頭を打った直後に体に付けてる装備を外したはいいんだけど、どうやら離脱したこのポイントは杏の潜伏場所だったみたい。後頭部にクロスボウを押し付けられてるし、案外杏が一番冷酷なのかもしれない。
下手な動きを見せず、とりあえず顔を上げて若葉たちの様子を見てみる。こっちに追撃はしてこないようで、友奈とちーちゃんが共闘して若葉に挑もうとしている。タマの姿も確認できたし、これは三人で若葉を落とすって作戦に移行するのかな。
「分かっているとは思いますが、下手な行動はしないでくださいね」
「それは分かってるけど、分からないな。すぐに撃ち抜けばいいのに、なんかさせようとしてる?」
「意外と頭が回りますよね」
「失礼だな!」
「ですが、今回は外れです。タイミングを待ってるだけなので」
なるほど。このタイミングで僕を落としたら、向こうにいる若葉に気付かれる可能性があるってことか。たしかに若葉って身体能力が高いだけじゃなくて、五感も鋭いからね。最近じゃ視野も広がってるし、こっちの動きに反応するかもしれない。
そうなると、ここで僕が動けば杏の作戦を壊せるってわけだ。
「
「それはどういう意味かな?」
「消耗していることは分かっています。私の作戦を崩すために動いても、若葉さんに勝つことはできない。既に両腕が重たいと感じているはずです」
まいったね。全部お見通しってわけだ。流石は参謀役ってところかな。みんなの小さな変化にも、いち早く気付けるのは杏だ。これは大人しく負けを認めよう。可能なら勝ちたかったけれど、勇者相手に勝ち抜けるとも思ってなかったし、第一目標は達成できてるから。
手に握っていた木刀をどちらも手放す。僕がこうすることが意外だったみたいで、何か裏があるんじゃないかと杏が息を呑んだのを感じる。
「素直に負けを認めただけだよ」
「……そうですか」
「それより、何か聞きたいことがあったんじゃないの? 戦況は変化してるし、聞くなら手短に済ませたほうがいいよ?」
「気づいていたんですか。……勝希さんと友奈さんのことで少し──」
え、馴れ初めですか? ごめんなさい。僕ら付き合ってるわけじゃ……あ、違うんですね。はい、そんな冷めた目で見ないでください。眉間にクロスボウを押し付けないでください。
❀❀❀❀
杏って分析とか得意だよね。熟考するタイプというか、とことん掘り下げて考えるというか。まぁ、質問されたことに僕は答えられなかったんだけどね。だって、
それと僕の眉間を撃ち抜く時に『さよなら、天さん』とか言わなくていいから! それ言ったほうが死んじゃうやつだし! 勝つ方が言うことじゃないし! それに僕は禿げてない!
そんなことを思い返しつつ、握力を鍛える用のボールを握りしめる。思い返してることに憤慨してるってのもあるんだけど、目の前で繰り広げられてる光景を堪えて見届けるためでもある。
「だー! もうやめだ! なんでタマがこんな事しないといけないんだ!」
「あー! 今良いところだったのに!」
我慢の限界が来た主演ことタマが役を辞める。その事に杏が文句を垂れるが、一度途絶えてしまったら流れが止まらない。男装している若葉と友奈も男装は慣れないとか言いながら苦笑を浮かべてる。
バトルロイヤルで結局優勝したのは杏だった。優勝者は、敗者全員に命令をすることができるんだけど、杏が求めたのは恋愛小説の再現だった。ヒロインに対して男性が迫り、壁ドンをしているところでライバルの男性が止めに入る。そんなシーンで途切れたんだけど、止めに入る役が友奈だった。
「友奈が……男装して……! んぎぎ……!」
「佐天くん…………抑えなさない。もう終わりのようだし」
「続いたら発狂だったよ!」
叫んでから机に項垂れる。それを横で見てるちーちゃんがため息ついてるけど、あなたまだ罰ゲーム残ってるからね? 余裕ぶってる場合じゃないからね?
「わ、私はそんなのしないわよ……!」
近寄る杏を拒んでる。ちーちゃんの性格からして、ああいう劇はしたがらないだろうしね。それは当然みんな分かっているし、杏も強制しない。だって本命は別なんだから。
「千景さんはこれを受け取ってください。それが命令です」
「え……? これは……」
杏から渡された物。それは1枚の証書だった。僕らの中で一人だけ最高学年だったちーちゃんに送られる卒業証書。
「よく考えたら、普通なら郡ちゃんってこの時期には卒業してるなって気づいたんだ〜」
「みんなで作ったんですよ?」
「卒業って言っても、ここで授業受けるわけだし、変わらずタマたちと一緒だけどなー」
「そう……。め、命令なら……仕方ないわね。…………ありがとう」
照れて受け取るちーちゃん。仕方ない、なんて言ってるけど、表情を見たら分かる。何なら声だけでも分かる。喜んでもらえてるって。だから、僕らは改めて口を揃えて言うんだ。
──卒業おめでとう
「次は勝希さんの罰ゲームですね!」
「あるの!?」
「まーくんだけ無いとか、それこそなしだよー」
「友奈さんも、ですけどね?」
「へ!? 私だけ2回目!?」
僕らに課せられた罰ゲーム。それは罰ゲームと言えるのか分からない内容だった。けど、みんなの前でって考えたら罰ゲームだ。
「お二人には、今この場でお互いの気持ちを正直に伝え合ってもらいます」
ね? 罰ゲームでしょ?
ちょっと強引だったけど、あの二人はこういう場を設けないといけないと思った。それはそれとして、■■■■の■は深まるばかりだ。■■■にいること。それも含めて考えると、少しずつ点と点が繋がりつつある。答え合わせはやっぱり■■■■が相手だよね。
勇者御記 二〇一九年 三月
伊予島杏 大赦史書部・巫女様検閲済