遊び心は大事   作:粗茶Returnees

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 再放送が終わりましたね。勇者の章を見るのは3回目だったのですが、胸熱でした。目頭が熱くなりました。改めてゆゆゆが好きだと思えましたね。




25話 優しくない日々

 

 度重なる戦闘。度重なる被害。バーテックスの襲撃の頻度が増し、一回の戦闘あたりの数も増えているらしい。精霊の力を使わなくても戦闘自体は勝てる。だけど、戦闘時間が長ければ長いほど結界が傷つき、現実世界に被害が及ぶ。だから若葉もちーちゃんも精霊を使うことになる。

 

「自分を責めないでね?」

「ぇ……」

「ひなって、僕以上に戦えないことを悔やんでそうだからさ」

「それは……」

「僕らはできることを精一杯するしかないから。それが勇者のためになると信じて、ね」

「はい……」

 

 病院の待合室で、僕は暗くなっているひなに声をかけた。こんな事を言ってるのは、言えてしまっているのは、こうでもしないと僕も気が狂いそうになるから。ひなに言って、そして自分自身に言いつけてる。できることをするだけで、出しゃばり過ぎてもいけないと。

 待合室に用意されてる新聞にザッと目を通す。分かりやすく書かれているのは、やはり勇者関連の出来事。被害状況も書かれていて、不安が膨らんでいく人々の中には、自殺する人も出てきてるとか。治安が悪化していて、ネットでも勇者を批判する声が増大してきている。ちーちゃんはその事も知ってしまっているから、ここ最近はさらに精神が不安定だ。精霊の影響も出ていて、役満もいいところ。

 

「勝希さんは、不安にならないんですか?」

「え? いやいやいやいや、無茶苦茶不安だけど?」

 

 ひなの疑問を全力で答える。目を丸くして、手を高速で振ってそんなことないってね。

 

「絶対に死なないなんてあり得ない。勇者は身体能力が上がってるけど、体は僕らと変わらないんだしね」

「すみません、落ち着いているように見えていたので」

「痩せ我慢だよ。僕は怖がりで、一人でいると全くダメダメなんだ。でも、近くに誰かがいると、平気そうに振る舞う。そんなちっぽけな男だよ」

「ふふっ……なんだか安心しました。最近の勝希さんはどこか雰囲気が変わっていたので」

 

 大人になったってことかを聞いたら、それはないって言われてしまった。即答しなくたっていいじゃないか。僕も中学三年生。義務教育最後の年なんだし、少しぐらい成長してると思ったのに。

 どちらからともなくぷっと吹き出す。大したやりとりじゃないのに。こんな状況でも、変わらずにバカできることが嬉しい。まだ、僕らの心が追い詰められてない証なんだから。

 

「すまないひなた、待たせた……って、二人ともどうしたんだ?」

「あ、若葉ちゃん。気にしないでください。私たちが自分からこうして待っているだけなので」

「まだ絶望するほどじゃないな〜って」

「勝希は何を言っているんだ?」

 

 首を傾げる若葉にひなが簡素な説明をする。事態は劣勢なのに、それでも普段通りにできるなら、それはまだ絶望する時じゃないということじゃないか、と。少し驚いた若葉がこっちに視線を向けてくる。言葉にされなくても分かるぞ。あれは『まさかお前が……』的なそういうやつだ。勝希くんは詳しいんだぞ。

 

「まさか勝希がそんな事を」

「言わなくていいよ!」

 

 脳内完結したのに言ってくるとか。これがコントなら受けも良かっただろうね。でも残念。今ここにいる観客はひなくらいだ。

 気持ちが少しは安らいだのか、表情が軽くなった若葉が新聞に気づいた。被害状況やら何やらが書かれている新聞を。

 

「……また被害が出てしまったか」

「おかげさまで最小限に抑えられてる。高望みしてると体が保たなくなるよ?」

「分かってはいるが……」

「精霊は使わないといけませんか?」

「ああ。そうでなくてはここまで抑えられていないからな」

「ですが精霊の使用のし過ぎは……」

「なら……使わなかったらいいのよ。……彼らは私たちの苦悩を知らないんだから。……知らしめてあげることも兼ねて」

「ちーちゃん検査どうだった〜?」

 

 嫌な空気になるのを強引に引き裂く。後から待合室に来たちーちゃんに、軽い足取りで近づく。何か言おうとしてた若葉も、僕が割って入ったから口を閉ざしてる。またまた鬱憤が溜まってそうだけど、それをこの場で吐き出させたら良くない気がする。

 

「別に……。いつもと同じよ」

「そっか。怪我も痛むよね……」

「そうね。私たちだけが、ね」

 

 おっと、これは良くない。ちーちゃんがさっきの空気に戻しかねない。それを避けようと思ったけど、僕が止めるよりも先にちーちゃんが口を開いた。

 

「あいつらと戦うことがどういう事なのか……。みんな知ればいいのよ……!」

「千景。人々を守るのが私たち勇者の使命だ」

「あなたはいつだって正論ばかり言うのね」

「なに?」

 

 諭そうとした若葉を、ちーちゃんが怒りの篭った瞳で睨みつける。ライバル視してたのもあるだろうけど、あれはそれの現れじゃない。それ以外の感情が渦巻いてる。

 

「そうやって正論を言い続けられるのは、あなたが強くて……無神経だからよ。私は……あなたほど強くないし……無神経でもない……。あなたには弱い人間のことなんて分からないのよ!」

「……弱音を吐くな!」

「うるさ──」

「はい、そこまで」

 

 防げない流れなら、タイミングを見て止めたらいい。それだけのことなんだ。

 若葉を突き飛ばそうとしたちーちゃんの手を掴んで、反対の手で若葉を遠ざける。二人の間に立った僕に、戸惑いの視線と怒りの視線が注がれる。僕はそれを気にしない。怯えたりなんてしない。だって、僕は二人の友達なんだから。

 

「放しなさい」

「クールタイムにでも入ろうか。ひな、若葉のことお願いね。それと若葉、君は今冷静じゃない。大社は未だに答えを出さないけど、確実に精霊の影響を受けてる。……頭冷やしてね」

「精霊の影響……? お前は何を知って……」

「杏のノート。答えはそこにあった。さてと、ちーちゃんも移動しよっか。落ち着ける場所に行こう」

 

 精霊のことを教えたら良かったんだろう。その機会はいつでもあった。今でも良かった。それなのに僕はその話をしなかった。忘れてた(・・・・)から。こんな大事なことを、なぜ今思い出したのか。なぜ今に至るまでは、そもそも知らなかったかのように思っていたのか。それは全部──あの声の主のせいだろう。

 僕は若葉たちに背を向けて、有無を言わさずにちーちゃんの手を引いていく。背中にグサグサと鋭い視線が刺さるけど、僕はそれを全て受け入れて、手を放さないように握りしめた。

 

「……痛いわ。逃げないから緩めて」

「あ、ごめん」

 

 病院から出てしばらくした時に、ちーちゃんに言われて気づいた。僕も気が荒れちゃってたみたいで、握ってる手に力が入り過ぎてたみたい。僕は手を放そうとして、ふと気づいた。手を放すのではなく、力を緩めるように言われたのだと。手を繋いだままにするべきか、放すべきか。判断しかねてちーちゃんの様子を伺う。そっぽを向かれてるけど、手に力入れてない。ならこのままでいいや。

 

「襲撃は似た内容の繰り返し?」

「そうね……。だいたい同じ数が頻繁に来てる程度だわ」

「なるほどね〜」

 

 いつ超大型が来てもおかしくないのに、そいつが来ることがない。その不気味さと隣合わせのまま、ちーちゃんたちはバーテックスと戦い続けてるんだ。精神的な疲労が大きくても仕方ない。神経を張り詰めたまま何度も戦っているのだから。それに、どれだけ頑張っても評価されない。ちーちゃんにとって一番苦しいこと。

 若葉たちよりも一足先に丸亀城に戻った僕らは、ちーちゃんの部屋に入った。食堂に行ってご飯を食べた方がいいんだろうけど、それはもう少し落ち着いてからがいいだろうね。

 

「って、ちーちゃん?」

「私は……必死に戦ってる……」

「うん。そうだね。直で見れてるわけじゃないけど、それを僕は知ってる。ありがとう。戦ってくれて」

「……なら……」

 

 ベッドに背から倒れ込むちーちゃんに引っ張られ、僕が押し倒したような形になる。さっきまでの荒れた瞳はどこへやら、まるで入れ替わったような涼やかな瞳で見つめられる。言葉にはしなくて、だけど彼女は僕に要求を出している。僕はそれを読み取って、求められたことをする。果たしてそれが正しいのかなんて、僕にでも判断できるはずなのに。

 

 

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 

 どれだけの時を眠っていたのだろう。少なくとも数日は眠っていた。目が覚めてからも、嫌なことをずっとずっと考えてしまっている。それは今でもなかなか収まってくれなくて、心も頭も何もかもがグチャグチャ。時間がどれだけ経っているのか理解できなくて、判断する方法は食事の回数と外の光だけ。

 そうして隔離された生活を過ごしていたある日、大社の人が話をしに来た。大社の人が説明していた内容は、まーくんに以前言われたことだった。それは、精霊の力の副作用のこと。身体的なことは、実感できることもあって、前々から分かってた。今回は呪術的なこと。まーくんの言い方なら、精神的なこと。心を不安定にさせたり、攻撃的な行動を起こしやすくなるってこと。

 私は結果的に、この話を先に知っていたってことになるんだけど、若葉ちゃん達はたぶん知らない。ぐんちゃんも……。

 

「そうだ、ぐんちゃんに電話しなきゃ!」

 

 ぐんちゃんが心配だ。面会謝絶っていうのもあって、しばらく会えていない。前にあった時も辛そうだったのに、今はもっと辛いんじゃないかな。まーくんが一緒にいるはずだけど、まーくんはまーくんで今の状態はよくない。お爺さんから聞いた話の中で、まーくんがどの段階まで来てしまっているのかは判断できない。

 だけど、何かの声が聞こえてしまっている時点で、危ないところまで来ている。

 

「今なら……うん、いけるね」

 

 看護師さんたちもいない。これなら抜け出してすぐにバレることもない。私は急いで電話スポットまで行って、ぐんちゃんに電話をかける。どうか出てほしい。声を聞かせてほしい。そう願ったんだけど、ぐんちゃんは電話に出なかった。もしかしたら、たまたま出られなかったのかも。そう思って何回かけても、ぐんちゃんは一向に出ない。焦る私は思考がまた纏まらなくなってきた。

 

「そうだ。まーくんなら!」

 

 たぶんまーくんはぐんちゃんと一緒にいる。ぐんちゃんを心配するだろうから、できるだけ近くにいようとするはず。だから、まーくんからぐんちゃんのことを聞けばいいんだ。

 

「なんで……!」

 

 ぐんちゃんだけじゃなくて、まーくんも電話に出ない。そもそもまーくんの近くにはヒナちゃんがいるはずなのに。それなのに、なんで……。

 みんなの最近の様子を知らない私は、パニックになるしかなかった。心配な相手がどっちも電話に出ないから。縋るような思いで、リーダーの若葉ちゃんに電話をかける。若葉ちゃんなら……!

 

「あ、もしもし若葉ちゃん!? 今大社の人から話聞いて、ぐんちゃんが心配で、でもぐんちゃんが電話出なくて。まーくんもどうなってるか」

『お、落ち着け友奈。千景なら実家に……』

「でもぐんちゃんが電話出なくて! 私心配なんだけど」

 

 不安を全てまくし立てる。マシンガンみたいにバババって言葉を投げ続ける。若葉ちゃんの言葉もロクに頭に入らない。そしたら電話の相手が若葉ちゃんからヒナちゃんに変わった。

 

『友奈さん、ゆっくり深呼吸してください』

「でも!」

『深呼吸です。吸って?』

 

 不思議だ。ヒナちゃんの言葉には何か力があるのだろうか。優しい言い方なのに、その言葉には力が篭っていて、ヒナちゃんに言われた通りに私は深呼吸していた。そしたら焦ってた気持ちもだんだん落ち着けてきて、頭の中も整理できてくる。

 

「ありがとう、ヒナちゃん」

『いえいえ』

 

 落ち着けた私は、不安に思っていることをヒナちゃんに話した。精霊の影響のこと。ぐんちゃんのこと。連絡が取れないこと。まーくんのことも。それを聞いたヒナちゃんが、若葉ちゃんに事情を説明してるのが電話越しに聞こえる。それが終わったら、電話相手が若葉ちゃんに戻った。

 

『話は分かった。私が千景の実家に向かう。おそらく勝希が一緒だろうが、一応丸亀城内をひなたに捜索してもらう』

「うん。ありがとう若葉ちゃん」

『なに、私はリーダーだからな』

「……もしもの時は、ぐんちゃんのことをお願い。それと、まーくんの事なんだけど──」

 

 私は手短にまーくんのことを説明した。もし、まーくんがあの時(・・・)みたいなことになっていたら……。その対処法を若葉ちゃんに説明して、そうならないことを祈る。

 

「ごめんね、若葉ちゃん。改めてその時が来たら、ちゃんと全部話すから」

『気にするな。事情があるのは察せられる。とりあえず、勝希のことも私達に任せてくれ』

「うん。……二人を、お願い」

 

 

 神樹様……どうか、二人のことをお守りください。

 




 友奈から勝希のことを託された時、限られた情報だったとはいえ、耳を疑ってしまった。まさか友奈の口から■■■■■が出るとは。そして、後に知ったことだが、まさか勝希が■■■■■■だったとは……。

勇者御記 二〇一九年 五月
 乃木若葉 
大赦史書部・巫女様検閲済
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