暑さが増してきた8月。私は若葉ちゃんと鍛錬をしながら襲撃の日に備えている。不幸中の幸いというべきか、私のスタミナが戻る前に襲撃、という事態にはならなかった。入院前とほぼ変わらないぐらいに体が動くようになって、体力もバッチリ。あとはここからさらにどこまで伸ばせるか。
「ほら友奈。ひなた特製のスポーツドリンクだ」
「ありがとう若葉ちゃん」
ペットボトルに入れられてるそれをゴクゴク飲む。ついさっきまで厳しく体を鍛えていたから喉はカラカラで、やっと摂取できた水分がより美味しく感じる。体が喜んでいるのも分かって、なんだか不思議な感じ。
「結界を強化するんだよね?」
「ああ。具体的な内容は知らないが、そのための準備を何ヶ月もかけて行っているらしい。それが終われば、バーテックスの脅威も激減するという話だ」
「その前に次の襲撃……。乗り越えないとね!」
大社の人から聞かされているのは、二つの手段があるという話。今私たちが知っているのはそのうちの一つ。それが結界の強化なわけだけど、それを行うためには次の襲撃を乗り越えないといけない。外でゆっくりと作られている大型のバーテックスたち。それらを私と若葉ちゃんで迎え撃つんだ。
まーくんが知ったら何と言うんだろう。きっと怒るよね。だって、私たちが勝つためには、奥の手を使わないといけないんだから。私はこれまで通り酒顛童子を。若葉ちゃんは別の三大妖怪の一体を。そのためにできる限りのことを、若葉ちゃんはヒナちゃんと進めてる。私はその間に、まーくんを見つける手がかりがないか捜索。
「どこに行っちゃったんだろ……。連絡どころか書き置きもないし……」
まーくんの部屋で一人呟く。手がかりを探すために来てるんだけど、この部屋にいるだけで苦しくて、会いたいという気持ちが強くなる。
その気持ちを誤魔化すために、初めは部屋の片付けをしてた。その次は隠してるものないかなって物色。男の子ってエッチなのを隠し持つとか聞いたことあるし。全然そんなのは出てこなくて、私の写真がいっぱい出てきた。写真の上手さから、ヒナちゃんが撮った写真だって分かった。怒る気にもなれなくて、やれやれって感じ。何だか恥ずかしくて、嬉しい気持ちもあったりしたし。
物色も終わって最近では、ただこの部屋に来てまーくんのことを考えるだけになった。ベッドに勝手に上がって、枕を抱きしめてる。アルバムをペラペラとめくっては懐かしい日々を思い出す。私とまーくんの思い出。奈良にいた時の思い出。
「よしっ! 明日にしよう!」
明日は鍛錬が休みの日だ。二人を誘って出かけよう。退院してからほとんどを丸亀城内で過ごした。鍛錬中心の日々だったから。だから街に出かけることができてない。私は久しぶりに出かけて遊びたい。二人と一緒に。
そんなわけで二人を誘ってみたら、二人とも快諾してくれた。出かけるための服装を選んで、騒ぎにならないようにするための変装をして──
「二人ともそれは却下です。私がコーディネートします」
変装して集合場所に行ったらヒナちゃんに怒られて、私と若葉ちゃんは着替え直した。若葉ちゃんは、サングラスとかマスクとかしてて、有事の際のためにって刀を持ってたんだけど、今じゃ普通の格好。それでも刀だけは持ってる。私はまーくんが作ってくれたお面を付けてたんだけど、それは駄目って言われた。
「二人とも悪い事なんてしてないんですから、堂々としていたらいいんです」
「それもそうだったな」
「あはは、変に身構えちゃってたや」
三人で丸亀城を出て、近くにある商店街を歩いてみる。飲食店や本屋、服屋もあれば職人さんがやってるお店もある。いろんなお店が集まってて、だんだん活気づいてきてる場所。手作りの団扇を三人で買って、そこからまたぶらりと歩いていく。
「夏と団扇ときたら後は浴衣ですね! 浴衣を買って着替えませんか!?」
「いや、それはさすがに……」
「今じゃなくても……」
「今月下旬には祭りがあるんだ。その時でいいだろう」
「むむっ……、仕方ありませんね。はぁ、待ち遠しいです」
今月下旬のお祭りは、まるがめ婆娑羅祭り。ここ丸亀市にとっては大きなイベントで、市外からもお客さんがやってくる。私も楽しみだし、浴衣もせっかくだから着てみたいと思う。できれば……
「まーくんと一緒に……」
「……大丈夫だ。あいつが祭りというイベントに来ないわけがない」
「そうですよ。友奈さんラブな方ですし、浴衣姿を目に焼き付けたいって思ってるはずです」
声に出ちゃってたんだ。無意識だったから、二人が反応したことにびっくりしちゃった。でも、二人ともまーくんのこと分かってる。いつも楽しい事を求めてるまーくんが、祭りに来ないわけがない。その時にいっぱい怒って、困らせてあげるんだ。もう二度といなくならせたりなんかしない。
「まーくんって和服似合うんだよね〜。ヒナちゃん、私たちのツーショット撮ってね?」
「勿論です! 何枚でも撮りますよ!」
「やった! ありがとう!」
約束をして、商店街にあるうどん屋さんでお昼を済ませる。商店街を抜けたら駅を通り過ぎて海側へ。丸亀街道と呼ばれる道を歩いていく。金刀比羅宮に続いていく道の一部らしい。
「金刀比羅さんかー。行ったことないけど、私奈良にいる頃はよく神社に行ってたな〜」
「そうなのですか?」
「うん。金刀比羅宮ほどでっかくないんだけどね。そこの神主さんがまーくんのお爺ちゃんで、まーくんともそこで知り合ったんだ」
街道を歩きながら話し、海までたどり着いたら手摺りに触れながら夕日を眺める。
「そういえば友奈さんのことはあまり知りませんね」
「友奈は聞き上手だからな。ついつい話を聞いてもらうことが多かった」
「あはは、優しさって言えるのかは分からないけどね。……ぐんちゃんたちがいなくなっちゃって、三人には私のことを全然話せてなくて、それって寂しいなって思ったから。だから、若葉ちゃんたちには知ってほしいんだ」
「友奈……。あぁ、分かった」
二人にお礼を言って、私は振り返って若葉ちゃんたちを見る。二人とも話しやすい雰囲気を作ってくれて、私が話すのを待ってくれる。
私は一回深呼吸をしてから話した。まるで初めて出会ったように、名前から。血液型、出身地、誕生日。趣味や好きな食べ物、好きな人。小さい頃に何をしていたのか。
「入っちゃいけないとこにも行っちゃって、それでお爺さんに怒られたこともあったんだ。見つけてくれたのはまーくんで、まーくんは自分のせいにしてたんだけどね。それでまーくんの方が怒られてて、今思えば、お爺さんは分かってた上でまーくんを怒ってたみたいだけど」
「友奈さんは小さい頃にやんちゃな事してたんですね」
「やんちゃ……あはは、そうかも。まーくんと一緒にいろいろしてたからね」
懐かしい。まーくんの両親が亡くなってから、まーくんはお爺さんたちと住むようになったけど、その前から夏休みの時とか遊びに来てた。仲良くなったのは住むようになってからだけど、知り合ったのはその前だもんね。
「私はタマちゃんみたいにアウトドアが得意ってわけじゃないし、アンちゃんみたいに頭がいいわけでもない。特徴もない普通の人なんだけど、だからこそ勇者に選ばれ時に『なんで私なんだろ』って思ったんだ。だけど、家族も友達もまーくんも喪いたくなくて、戦うことにしたんだ。……私は、怖いから戦う臆病者なんだ。──だからかな、勇者って言葉に憧れるのは。まーくんを守れるって思ったら嬉しかったし」
私はこの後もいろいろ話した。小学生の時の学校生活。家族がどうだったとか。友達とどういう遊びをしていたのか、学校の先生がどうとか、まーくんの家族がユニークで地元じゃ名物になってたとか。まーくんのとこの話をしていたら、何回も『それはおかしいだろ』ってツッコミが入った。
「ふー、なんだか久しぶりだなー。こんなにいっぱい自分のことを話したのは」
「以前は勝希さんに?」
「うん。まーくんに聞き出されちゃうんだよね。まーくんもまーくんで、結構上手なんだよ?」
「言われてみれば、たしかに……」
思い当たる節があったみたいで、二人ともコクコクと頷いた。私の知らないところでちゃっかりしてて、やっぱりまーくんは凄いなって思う。もし、まーくんが戦えたら、違った現実になってたのだろうか。
「……実はね、二人にはまだ聞いてほしいことがあるんだ」
「構わない。最後まで聞くぞ」
「はい。それが
「うん──私が知ってる限りの、まーくんの秘密を知ってほしい。バーテックスが現れたあの日、まーくんの身に何があったのか。そもそも、まーくんがいったい何者なのかを」
❀❀❀❀❀
2015年7月30日。私とまーくんはお昼の間は一緒に遊んでいたのだけど、夕方にはそれぞれ家に帰った。日が沈んでからというもの、不気味な地震は何度も続いてた。お父さんとお母さんに不安を拭ってもらいながら食事を済ませて、しばらく地震が止んだ間に、お母さんとお風呂を済ませた。お風呂はどうしようか悩んでたんだけど、まーくんと遊んで汗をかいてたからサッパリしたかった。
ニュース番組を見てたお父さんは、難しい話を私に分かりやすく教えてくれた。すごく難しいことをいっぱい言ってたのに、簡略化させたら『震源地が特定できない異常な地震』『専門家も投げ出したいレベルの異常』ということだった。
それを見ていると、家に電話がかかってきた。それに出たのはお母さんで、電話の相手はまーくんのお婆ちゃんだった。電話は珍しく短い時間で終わって、お母さんは戸惑った感じだった。
「お母さんどうしたの? まーくんのお婆ちゃんだったんでしょ?」
「え、えぇ。そうなのだけど……」
「お婆さんはなんて言っていたんだい?」
お母さんを落ち着かせるように、ゆったりした口調でお父さんが聞く。少し落ち着いたお母さんは、お婆さんに言われたことをそのまま教えてくれた。
『神社に避難しにおいで』
それが言われたことらしい。お父さんも私も首を傾げた。だって、地震に耐えられそうなのは、神社よりも今いる家だって思うから。でも、お婆さんはしっかりもので、冗談を言うことはあってもこういう時に変なことは言わない人だ。だから、そうした方がいい何かしらの理由があるってことになる。
私はどうしたらいいか分からなくて、お父さんとお母さんの顔を行ったり来たりした。二人はどうするか話し合って、お婆さんのことを信じることにした。避難するために必要な物をカバンに入れて、戸締まりを確認して三人で家を出る。お父さんが玄関の鍵を閉めてる間、私は夜空を見上げてた。山の中で灯りは少ない。都会よりも圧倒的に夜空に輝く星が見える。まーくんと二人でよく星座を探したり、勝手に新しい星座も作る。だけど、今日の夜空はおかしかった。
「友奈。空は後で見たらいいから今は急ぐよ」
「お父さん……でも、空が……星が変だよ?」
「え? 変って……」
「星が……動いてる……?」
お父さんとお母さんも空を見上げて動揺してた。流星ならまだしも、普通の空は星が動かない。正確には動いて見えるけど、秒単位でそれを実感できるわけがない。不気味な星空を見上げてる私を、お父さんが抱きかかえて走る。お父さんはお母さんの手も引いて走っていて、1秒でも早く神社に着こうとしてた。
車で行くという手段もあるけど、私の家から神社までなら走った方が早い。車だと一方通行の道とかあって、大回りになっちゃうから。私が歩いても10分くらいで着く距離。お父さんの走る速さなら5分とかそんなくらい。
神社まで向かう途中で、星が降ってきた。
「なっ!?」
「なにあれ!?」
幸いというべきか、それは私たちの側には降ってこなかった。大人より大きい白い化物。周りの家が壊されていって、いろんなとこから悲鳴が聞こえてくる。私は何も見たくなくて、ギュッて目を瞑った。何も聞きたくなくて、お父さんの腕の中で耳を塞いだ。
お父さんが止まったのも数秒だけで、すぐに走るのを再開した。お母さんもお父さんに引っ張られることで走り始めて、なんとか化物に襲われる前に神社の境内に入れた。
「お婆さんは具体的な避難場所を言っていたか!?」
「ほ、本殿に上がるようにって……!」
「ならもう少しだな……!」
ひと息つく間もなく、境内の中を走る。
私が目を開いた時には本殿の中にいて、ここは本来誰も入っちゃいけない場所だと思い出す。そんな場所を開放するくらい、異常なことが起きてるわけだけど、お婆さんたちの姿は見当たらない。周りにいるのは、同じように避難してきた人たちばっかり。
「お父さん……まーくんがいないよ……?」
「え!? ……お爺さんたちもいないな……」
「何か事情があるのかしら……」
私たちの会話が聞こえた周りの人も、『たしかに神主がいない』とざわめき出して、でもみんなそこまで心配してなかった。だって、神主さんが人としてどれだけ強いかを知っているから。大人の人でも、神主さんに何度もいろんな相談をするほどだ。
『もしかしたら笑いながら食事を持ってきてくれるかもしれない』、なんて憶測が当然のように飛び交う。不思議だ。あれだけ怖い化物から逃げてきたのに、神主さんの話だけでみんなに笑顔が戻る。お父さんとお母さんも顔色が良くなる。
「勝希くんもお手伝いしてるのかもしれないわね」
「そうかも──」
明るい憶測が飛び交っている中、大きな爆発音が聞こえてきた。空気が震え、本殿も振動で震える。みんながシンと静まり返って、その爆発があった方を見る。そっちは参拝者の誰も近づくことすら禁じられてる奥社がある。木片とかが飛び散ってるみたいで、爆発がそこであっただろうって分かる。
「まーくん!」
「ちょっ! 友奈、待ちなさい! 友奈!」
私の中で不安が爆発して、私はそっちに駆け出した。他の人はほとんど知らない。そっちには、まーくんたちの家があるってことを。爆発が奥社であったのか、それとも家であったのか。それは見ないと確かめられない。お母さんの静止を無視して、私は最短ルートで駆け抜ける。何度も遊んでる場所だ。どう走り抜けたら一番早く着くのか分かってる。
「まーくん! まーくんどこ!?」
「ん? 友奈ちゃん!? 今すぐ本殿に戻りなさい!」
「お婆ちゃん! でも、まーくんが心配で──」
爆発があったのは奥社の方だった。煙がモクモクと上がっていて、その手前にいるお婆さんにまーくんのことを聞く。お婆さんはすごい焦った様子で、こんな様子は初めて見た。いつもしっかりしてて落ち着いてるのに。
お婆さんに両肩を掴まれて、早く戻るように言われる。でも私はそれを聞き入れられなかった。まーくんのことが心配だったし、目の前の煙の中からお爺さんが厳しい顔をしながら飛び出してきたから。
「婆さん! あやつ完全に
「お爺ちゃん! まーくんは!? まーくんはどこ!?」
「すぐに勝希を本殿に連れて行くわい。じゃから友奈ちゃんは先に戻りなさい。いいね?」
「う、うん……あれ……?」
お爺さんの鬼気迫る表情に、私は頷くしなかった。足を本殿の方に向けようとしたその時、煙が晴れていってその中に人がいるのが分かった。私とそんなに変わらない身長で、私がよく知ってる人。私が探してた人。
「まー、くん……?」
まーくんがいたのに、その人が本当にまーくんなのか分からなかった。紛れもなくまーくんの姿なのに、雰囲気が全く違った。目があっても、知らない人を見ているような、そんな風に見えるし見られてる。
まーくんがゆっくり歩いてきてると、その後ろからあの化物が飛び出してきた。
「危な……! ……ぇ?」
白い化物は、後ろからまーくんに噛み付こうとした寸前で止まった。後ろに少し下がって、開いていた大きな口を閉じる。まーくんはその化物を見て、指で横線を描く。そしたら化物はそれに合わせて回れ右して、神社から消え去って行った。
「なん、で……」
「説明が難しいのー。……ん? もしかして友奈ちゃん」
「合ってますよ、お爺さん」
「ふむ。それなら婆さんや」
「今取ってきました」
「仕事が早いのー!!」
「仕舞ってあった場所は奥社でしたし?」
二人が何を言ってるのかさっぱり分からない。まーくんも動きを止めて、お爺さんたちの様子を見てる。
お婆さんの手にはいつの間にか手甲があって、それを私に差し出される。私は頭がパニックで、お婆さんの顔をぼーっと見ることしかできない。
「友奈ちゃんは選ばれたのよ。これは友奈ちゃんが持っていないといけないもの。今後あなたと、あなたの大切なものを守り続けるために必要なもの」
「選ばれたって……どういうこと?」
「友奈ちゃんは勇者に選ばれた。その力を振るうために、この手甲を使いなさい。これは『天ノ逆手』。あの化物たちを倒せるわ。理解できるのは後でもいい。とりあえず受け取りなさい」
「はい」
全然理解が追いつかないけど、必要なものって言うのだから必要なものなんだ。お婆さんを信じて、私はそれを受け取る。その瞬間体に不思議な力が湧いてくるのを感じた。体が軽くなったような感覚で、手甲もサビとかが取れて綺麗なる。
「さて友奈ちゃん。悪いが今後勝希のことを頼むぞ」
「え?」
「儂らの血の中には、極小量だが天皇家の血が混ざっておる。それは天の神の血と同義。そして、勝希はその血が目覚めてしまった。こやつが昔、奥社の神饌を食してしまったせいでの」
「……?」
「この奥社には、天の神の荒御魂が封じられておった。神饌はその手段の一つだったが、勝希は幼い頃にそれを食してしもうた。天の神に近づいてしまい、低確率を引き当てて血を覚醒させた。それを儂らは封じてきたが、天の神が今日表に出てきたことで、勝希も共鳴して目覚めたというわけじゃ」
説明してくれてるのに、私は頭がパンパンになっちゃってた。思考が止まってて、脳が理解できてない。それなのに、なぜか言葉が一言一句全て記憶されていく。まるで後で理解したらいいと言わんばかりの現象。
「その手甲は天の神を討ち滅ぼす力を持つ。天の神への呪いそのものが込められておるわけだが、それが勝希にとっては抑制剤になる。勝希は目覚めたところで、その血の割合が圧倒的にただの人間じゃからな」
「どうしたらいいの?」
「ただ側にいてやればいい。友奈ちゃんならそれだけで抑えられる。そのための護符も仕込んでおる。じゃが、できることはあくまで抑えること。その手甲の力では戻してやることができん」
「そんな!? それならまーくんは……!」
目の前にいるまーくんに目を向ける。私の知ってるまーくんのはずなのに、まーくんとは思えない何者か。待つことをやめて、お爺さんに襲いかかり始めた。目覚めたばかりだからか、人間の動きの範囲で収まる。だからお爺さんが優勢。関節技を決めて抑え込んでる。
「ったく突然暴れよって。……そろそろ時間がないか」
「そうなりますね。では友奈ちゃん。あなたに先に言っておくことがあります」
「言っておくこと?」
「四国に行きなさい。大阪市を避けるようにして兵庫県に入り、明石海峡大橋を渡って淡路島へ、そこから鳴門大橋を進んで四国に入りなさい。生き残ってる人を連れて、可能ならバスとか使っちゃいなさい」
「お婆ちゃんたちは!?」
「私とお爺さんは、最後の仕事をここで済ませるわ」
頭が殴られたような感覚に陥った。二人が今ここで命を落とすって断言したのだから。お婆さんは覚悟を決めた目で、お爺さんは関節技を決めながら笑顔でサムズアップして。
「いや、だよ……。二人も一緒がいいよ!」
「友奈ちゃん……。ありがとう。でも、私たちにしかできないことだから」
「それに! 友奈ちゃんが覚えてくれておったら、儂らは友奈ちゃんの中で行き続けるしのう! あ、そうじゃ。勝希を元に戻すとき、こやつは今日の記憶が消し飛ぶぞ。それと、今日から10日間、突発的に目覚めても勝手に鎮まり、記憶も飛ぶようにする」
「どうしても……だめなの……? 二人といっしょに、もう一緒にいられないの?」
「儂らみたいな老人より、友奈ちゃんや勝希のような子供が生きるべきじゃ」
「いっぱい友達作って、いっぱい思い出作って、恋して、いっぱい幸せになりなさい」
泣きじゃくる私を、お婆さんがギュッて抱きしめる。お爺さんとお婆さんは、私にとっては本当のお爺ちゃんお婆ちゃんみたいで、大切な家族で、だから別れたくない。だけど、二人はまーくんのことを戻さないといけないから。
「勝希のこと、お願いね? 一人で抱えないで、信頼できる友達ができたら、協力してもらいなさい」
お婆さんが私から離れる。私は涙で視界がグチャグチャになって、その場に座り込んで俯いてしまう。二人が何をしたのか見えなかった。真っ白な光が発生して、それが収まった時には二人がいなくなってた。まーくんが仰向けになって意識を失ってるだけ。私が泣きやんだ時には意識を戻してた。
「友奈、大丈夫? あと爺ちゃんと婆ちゃん知らない?」
「っ! ……まー、くん……」
「……そっか。えーっと、これからどうしたらいいんだろ」
察したまーくんは、私の手を握ってくれた。話題を変えられて、私は二人に言われたことを思い出す。なぜか全て頭に残っている言葉。まるで引き出しから出すように、その言葉を思い出せる。
「四国……」
「うん、じゃあみんなで行こうか」
本殿に戻った私たちは、何があったのかを聞かれたけど、それに答えることはできなかった。思い出すだけで涙が出そうになって、それにすぐ気づくまーくんに慰めてもらう。それで周りの人も理解してくれて、私たちは四国を目指した。みんな、『神主さんならこう言う』とかで元気を保って、希望を信じて。
その途中で何度か白い化物に遭遇したけど、私が迎撃することができた。途中でまーくんが襲われそうになったけど、またまーくんは傷をつけられることなく、敵の方が勝手にいなくなった。その事の記憶をまーくんは残せなくて、だけど私も他の人も覚えてる。四国に着くまでは、お爺さんたちの孫だし、二人の加護だって前向きな理由で終わっていた。だけど、それを知った他の人たちが不気味がって、まーくんは一部の人から忌避されるようになった。
❀❀❀❀❀
「だいたいこんな感じかな」
「そう……だったんですね……」
「勝希が……。そうなると、今誰にも知られずに姿を消しているのも」
「うん。力が目覚めちゃったんだと思う。もしかしたら今の状態は自分でコントロールできてるのかも」
「目覚めた原因が誘発ではなく、意図的な可能性か」
「荒御魂からの力だし、たぶんぐんちゃんのことで……」
ある程度話をして、その後は丸亀城に戻りながら若葉ちゃんたちの話を聞いた。意外なこととか、らしいこととか、面白い話をいっぱい。
こうして過ごした数日後
決戦の時がやってきた
若葉ちゃんたちと話していて、見落としていた謎があることに気づいた。それは、まーくんがなぜ■■■に赦されるのかということ。■■であるなら、■■■も赦されるはず。でも現実には違うくて、■に近づいてるならなおさら赦されないはず。
私の知らないまーくんの秘密が、まだあるみたい。
勇者御記 二〇一九年 八月
高嶋友奈 大赦史書部・巫女様検閲済