遊び心は大事   作:粗茶Returnees

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3話 友奈がグレてしまった

 

 走り去って行った園子を影からこっそり見送り、勝希はこれからの行動を考える。何パターンかを想定し、それをシュミレーション。自分の予定への影響を考え、案を絞り、修正を加えていく。

 

「よし! 決めた! ドーナツ買いに行こう!」

 

 家を出る前に友奈に伝えていた予定通りに動く。今からドーナツを買って保育園に向かっても、着いたときに勇者部の姿はないだろう。園子が思い出したのだ。他の勇者部員も思い出しているかも知れない。仮に思い出していなくても、園子が割って入ることで今日の部活動は終わるだろう。

 そこまで予想を立てることはできる。だが、勝希は何も知らないと装って保育園に行く。ここで下手に行動を取ってしまえば、なぜ園子の行動を知っていたのか、という質問が飛んできかねない。一般人が英霊之碑に足を運ぶことは不可能なのだから。

 

「……どうやって帰ろうか」

 

 英霊之碑があるこの場は、西暦の時代において『瀬戸大橋記念公園』と呼ばれた場である。海が目の前にあり、近くには工場。かつてはバスが通っていたのだが、近寄ることができなくなった今の時代ではそれもない。一番近いバス停まで徒歩という手もあるが、子供の足で30分以上かかる。そして1日での本数は少ない。さらに駅まで徒歩となれば、大人の足でも1時間はかかる。

 スマホでバス停の位置、時刻表を調べ、それから電車の時刻表を調べる。所要時間を計算してからスマホをポケットに閉まう。

 

「よし! ヒッチハイクだ!」

 

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 

 

『あ! まさきにいちゃんだー!』

『ほんとだー!』

『久しいな諸君! いい子な君たちに今日はドーナツの差し入れだー!』

『やったー!』

 

 ヒッチハイクを成功させるのに多少の時間を要したが、無事に讃州市に帰ってこられた勝希は、予定通りドーナツを保育園に届けた。ドーナツが入った大袋を掲げ、園児たちとはしゃぐ勝希。子どもたちの無邪気な笑顔に癒やされ、気分を良くして建物の中へ。その時には手元からドーナツが入った袋はない。

 

『あれ?』

『けいくんたちがもってったよー』

『いつの間に……』

『まさきくんのぶんはわけっこするんだって』

『ふぁっ!? それは聞き捨てならんぞ!』

『まさきくんだっこして〜』

『いいよ〜』

 

 ドーナツを奪われた勝希はすぐさま追いかけようとしたが、子どもの頼みを断れない。両手で裾を引っ張られてお願いされたら尚更だ。その子をだっこして笑い合う。そうしていると保育園の先生に呼ばれ、外にいる子どもたちにも声をかけてから教室へと向かっていく。

 紙皿に一人分ずつのドーナツが置かれ、園児たちに均等に分けられているようだ。

 

『僕のだけ3分の1なんだけど?』

『なんでだろうね?』

『僕たちにもわからないや』

 

 勝希からドーナツを強奪した二人が、勝希の前の席に座っている。あまりにも白々しいのだが、なんの証拠もなく問い詰めることもできない。子どもたちに悪い例を見せてしまうと、その後の影響が怖くなる。

 

『そうか。ところで口の横についてるその汚れは?』

 

 だから罠を仕掛けた。

 

『えっ!? まだついてた!?』

『ちゃんとふいたはずなのに!』

 

 それにまんまと引っかかった二人は、紙ナプキンで必死に口周りを拭っていく。もちろん汚れなどなく、紙ナプキンは形が崩れただけで真っ白なままだ。

 

『やはりお前たちが犯人か!』

『はっ! だましたなー!』

『せんせー! にいちゃんにうそつかれた!』

『勝希くん、嘘は駄目ですよ。それと二人とも、勝希くんに謝らないと駄目なんじゃないの? 勝手に食べちゃってたよね?』

 

 二人の犯行はすっかりバレており、勝手に食べたことをしっかりと勝希に謝罪する。勝希は嘘をついたことを謝り、二人に問いかけた。美味しかったかと。

 

『うん! おいしかった!』

『にいちゃんありがとう!』

『どういたしまして。あ、そういえば友奈たちは?』

 

 周りをキョロキョロ見渡すも、教室内には園児たちと先生しかいない。中学生は勝希だけだ。

 

『みんなかえっちゃったよ?』

『いつの間に!?』

『にいちゃんがくるまえに』

『連絡くれたらよかったのに!』

『にいちゃん。ゆーなちゃんないてたよ? なんで?』

『泣いてた? 友奈が? ……みんなごめんね。僕も帰る。ちょっと行ってこなきゃ』

 

 ドーナツを口に押し込み、素早く保育園から出てきたのが10分前のこと。部室にいるだろうと当たりをつけ、勝希は最短ルートで駆け抜けた。信号で止まることがないように走り続け、途中からは信号がない小道を駆け抜ける。

 

「友奈!」

「ぁ……まーくん」

「勝希あんたはどうなの!?」

「夏凜さんなんの話か分からないっす。グラグラしないで〜」

 

 部室に入った勝希に夏凜が問い詰め、園子が夏凜を落ち着かせる。冷静さを失っていた夏凜は力いっぱいに勝希を揺らしてしまい、解放された勝希は目を回していた。樹にサポートされ、なんとか勝希は椅子に腰掛けたが、しばらく壁にもたれかかって休む。

 

「いやー。UNOで初っ端をスキップさせられた気分だよ」

「わ、悪かったわね」

「で、みんなどうしたの? おやつを抜きにされた子供みたいになってるけど」

「どんな例えよ」

「さっき園児たちとドーナツ食べたからつい」

 

 ドーナツというワードに首を傾げられるも、友奈だけはそれに反応して顔を伏せてしまった。勝希が後からドーナツを持って合流すると知っていたのは友奈だけであり、勝希に連絡することを忘れていたからだ。

 

「まーくんごめ──」

「謝らなくていいよ。よっぽどのことなんだろうし。それで、教えてくれないかな? もしくは、僕は知らない方がいい何かかな?」

「それは……」

 

 答えにくい質問だ。友奈たちが思い出したのは、勇者部にいたもう一人の部員のこと。同じ勇者であり、園子と友奈の大親友。その人物と勝希は当然面識がある。何度も勇者部を出入りしてる勝希だ。本来なら面識がある。

 しかし友奈たちはその記憶が消されており、また勝希も消されている。これまでと同様にするなら、この事も勝希に隠しておくべきだった。体の機能を失ってまでバーテックスと戦ったことを隠していたように。それを今はしづらい。夏凜が勝希に問い詰めてしまったから。

 答えに困った友奈は他の部員たちに視線を送る。個人ではなく、部に関わることだから。そして部長の風が口を開いた。

 

「アタシたち勇者部には、もう一人部員がいるのよ」

「影武者的な?」

「違う! 東郷のことよ! 東郷美森! あんたたちと同じ二年の!」

「東郷……? んんー! モヤモヤする……!」

 

 もう一人の勇者部員の名前を聞き、頭を抱える勝希。勇者部員たちは絆の強さから名前で全てを思い出したが、どうやら部員外の人間だと同じようにはいかないらしい。

 もうひと押し必要だと分かり、彼女に関わるフレーズを風は一言だけ言ってみることにした。彼女と勝希の間でよく話題になっていたことといえば。

 

「ぼたもち」

「はっ! ぼたもち先輩!」

「それで思い出すんですね……」

「東郷といえばぼたもちじゃないの?」

「ノーコメントです」

「えぇ。それで、その東郷はどこへ? 交換留学ですか?」

「それだったら気が楽なんだけどね」

 

 平和な案件を言う勝希に風は肩を竦めた。戦いを知らない人間からすれば、あまり重たく考えないのかもしれない。しかし、勝希を巻き込んでしまっている。こうなれば勇者部員と同じ認識にさせる必要がある。

 

「いい? アタシたちは東郷の記憶を消されていた。勇者部だけじゃなくて、他の一般の人たちも。そしてその理由は不明。東郷が今どこで何をしているかも不明なのよ」

「SFですね。とりあえず、これから手がかり探しですか?」

「そうなるわね。もしかしたら一刻を争う状況かもしれない。候補を絞りつつ、手分けして探しましょう。あとでまた部室に戻ってくること。みんなそれでいいわね?」

 

 事態を茶化してしまうのは勝希の悪い癖だが、切り替えはできている。今後の方針にも納得し、風の指示に首を縦に振った。

 それぞれ分かれて行動に移していく中、勝希は友奈と行動していた。お互いに終わらせておきたい話があったからだ。

 

「ごめんね。まーくんにいっぱい隠し事してて」

「気にしてないよ。話せないこともあれば、話したくないこともある。隠し事って友奈が思ってるほど悪いことじゃないよ」

「……ありがとう。……まーくんも隠し事あるの?」

「あるよ? 僕も思春期だしね」

 

 友奈と勝希が向かっているのは東郷家だ。彼女の親たちはどうなのか、そして彼女の部屋はどうなっているのか。あわよくば手がかりがあれば、僅かな期待も抱いて。

 友奈の視線を受けて、勝希はケロっと隠し事を認めた。隠し事を肯定した直後の告白だ。踏み込むことができない。そもそも友奈はそうしようとも考えないタイプだが。

 

「東郷の家に何かあればいいけどね」

「まーくんは手がかりがないって思ってるの?」

「写真からも消えてたでしょ? ということは、部屋ももぬけの殻の可能性が高いじゃん」

 

 簡単な推測だ。もしこれが悪意の込められた事件なら、あからさまに東郷の家に手がかりがあるだろう。勇者部を誘い出すために。しかし今回の件は、全員の記憶が改ざんされ、記録からも抹消されている。まるで、初めからそんな人物は存在しなかったかのように。

 なぜそうなるのか。勝希にはそこまで読むことができなかった。隣で東郷のことを憂う友奈の手前、そう振る舞うしかない。

 

「……留守だね」

「そうだね。友奈、合鍵は?」

「持ってないよ!?」

「うそ!? 友奈なのに!?」

「私なのにってどういうこと!?」

「付き合ってるんじゃ……?」

「付き合ってないよ!」

 

 否定の言葉に、勝希はよろけて数歩下がる。さながら天動説が覆された時のような衝撃である。

 

「東郷さんは大切な友達なわけで、お付き合いしてるわけじゃないの」

 

 大事なことを認識させるように、友奈は丁寧な口調で同じ内容を繰り返した。

 若干気迫がこもってる気がしなくもなく、勝希は黙って頷いた。

 

「そういえばさ、こういうのって手当り次第に探すほうが無理じゃない?」

「今更だね」

 

 もう少し調べてみようと商店街へと足を運んでいると、勝希のとんでも発言が出てきた。何故もっと早くそういう話をしないのか、という思いもあるが、今なお冷静でいられている自信がない友奈は話の続きを促す。

 

「迷子の子を探す時もそうだけど、一つは探しに行く側が動き過ぎないこと。入れ違いとかあるからね。二人いるなら片方が探しに行くってやつ」

「けど今回は東郷さんが迷子ってわけじゃないよね?」

「そうだね。だから、探す人の注意点を今回のに当てはめるんだよ。東郷が何かに巻き込まれて、被害者って立場なら当てはまらないけどね」

「探す人の……。あ! その人の気持ちになって考えるってこと?」

 

 どこか確信めいた部分もあり、力強い瞳で友奈は勝希に確認を取った。勝希はそれが正解だと頷き、その足をまた別の方向へと進めていく。

 

「友奈……と園子なら考えられるんじゃないかな。東郷ならどう動くかって。大前提として、東郷自ら姿を消したって話になっちゃうんだけどね」

「もしそうなら……どうして……」

「これが答えじゃないってことは忘れないでね。あくまで仮説。パズルのピースは揃ってないよ」

 

 有力な仮説があれば、人はそれを強く指示する。なぜなら、それが有力だからだ。

 しかしそれが答えであるとして考えてはいけない。なぜなら、それが仮説だからだ。

 説は立証されて初めて正しいものとして主張できる。それが本当に正しいものなのかは即座に断言できない。科学的証拠があれば別だが、それを示せない分野においてはいつだって「有力な説」で終わるのだ。

 勝希の考えはそこにも至っていない。あくまで仮説である。それを友奈に念押しし、背中をぽんと叩く。きょとんとする友奈に勝希は手を振り、ここで解散だと言う。

 

「なんで? まーくんも部室に行こうよ」

「僕は勇者部員じゃない。時間的にそろそろみんなも戻ってくる頃だし、ここからは勇者部の活動でしょ? どのみち居残りになるわけだし、それならここで別れよう」

「……うん。ありがとうまーくん」

「どういたしまして。頑張ってね、友奈」

「うん!」

 

 走り去っていく友奈が見えなくなるまで手を振り、それからスマホをポケットから出す。スマホのメモ帳を開き、そこに書かれていることを頭に入れる。

 

「さてと、買い出しを済ませますか」

 

 友奈には格好つけ、身をわきまえている人間だと示した。だが、この場で友奈と別行動を取った理由は、今から買い出しに行かないと言われている時間内に買い出しが終わらないというものであった。

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 友奈は東郷を連れ戻すことに成功した。壁の外の様子から考えたら、東郷の行動も理解できる。西暦に行われた儀式と同じことをした。前回とは違って、今回は東郷一人。素直によく生き残れたなって思った。勇者としての素質も兼ね備えているからだろうか。なんにせよ凄まじい生命力。

 東郷はひとまず入院するらしいんだけど、外傷もないからすぐに退院できるって話。東郷が戻ってきたら、東郷の記録とかも全部元通り。神樹も忙しいね。

 

「天の神はとりあえず侵攻の手を止めてる。バーテックスのことは考えなくていいとして、問題は神樹だね」

 

 神樹は常に人類存続のためにエネルギー供給をしてる。そして神樹に与えられる供給はない。人間で例えるなら、ずっと走り続けてる状態。それを300年以上だ。

 限界が近づいてると考えたほうがいい。

 

「どうしようかね。……風呂に入ろう」

 

 考え過ぎもよくない。リフレッシュしたほうが頭もスッキリするというもの。行動予定も今日にはほぼ確定できるだろう。

 着替えを持って部屋を出る。階段を下りて廊下の突き当りを右へ。ドアにつけられてるプレートを確認。誰も入浴していない。

 ドアを開けて脱衣所の電気をつけようとしたけど、すでに電気がついてた。消し忘れだろうか。電気代はこまめなところで節約するものだぞ、っと目を閉じながら内心で呟く。

 

「ま……、まま、まーくん!?」

「あれ?」

 

 突如あだ名で呼ばれて目を開けると、そこにはお風呂あがりの友奈がいた。バスタオルで体を隠してるけど、隠れてない部分はほんのり赤い。温まってた証拠。顔は真っ赤になってて、のぼせたのか心配になる。

 それはそれとして、なんで友奈がここに?

 

「プレートはOpenってなってたんだけど」

「……忘れてた。……そ、それより早く出て行ってよ!」

「それもそうだ! ってあれ? 友奈それ(・・)どうしたの?」

「っ!!」

 

 友奈の左胸にある紋様。太陽を連想させるマーク。それを指摘したら、一瞬友奈の表情が曇った。友奈にも分からないらしい。

 

「これは……その……」

 

 言いにくくしてることから、それが勇者関係だということが示唆される。今回東郷を助けたことでできてしまったものか。

 なるほどね。

 

「中学生でタトゥとは……友奈がグレてしまったのか……」

「グレてないよ!?」

「ごめんね友奈。いつも僕が自由にしてるから、そのしわ寄せでストレス溜まってたんだね」

「違うってば!」

「今度お詫びにお願いを一つ聞くね」

「約束だからね?」

 

 耳聡いですね! さらっと流れるとか思ってたのに!

 僕は黙って脱衣所から出て、友奈が声をかけてくれてから風呂に入った。その時にお願いを聞くという件を念押しされた。気軽に言うものじゃないね。

 

 それにしても、天の神は容赦がない。

 でも

 

 ──おかげで最終調整も終わった

 

 

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