遊び心は大事   作:粗茶Returnees

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6話 想う心は強さの証

 

 犬吠埼風が退院し、勇者部は少し遅れた初詣をすることにした。やるなら全員揃って。そう考えていたために誰も三ヶ日の間には行かなかった。1月7日。ほぼ一週間遅れだが、神社はまだ正月と同じように信念を祝っていた。

 琴弾(ことひき)八幡宮。ここ讃州市では最大の神社だ。階段を上がっていけば宮がある。甘酒は下で配られている。

 

「風先輩の退院祝いも兼ねてお参りしますか」

「退院祝いって兼ねるものでしたっけ?」

「さすがに兼ねないんじゃないかなー」

「考えない考えない。お参りして、みんなでおみくじ引こ?」

 

 ツッコミを流し、勝希は階段を指差した。反対意見が出ることはなく、勇者部一向は階段を登っていく。それなりの段数があるのだが、体力に自信のある勇者部は気楽に登り切る。

 

「ガラガラだね」

「三ヶ日は過ぎてるものね。勝希くん、人がいないからって走り回らないようにね?」

「うん? 東郷は僕のことをなんだと思ってるのかな?」

「犬」

「わんこ!?」

 

 勝希を揶揄ってころころ笑う美森。当然抗議の声が上がるのだが、美森は撤回することなく、他の面々も否定できない要素を思い浮かべては目を逸らした。勝希は自分では猫だと思っていのだが、傍から見ていたら犬らしい。忠犬とまではいかないが。

 

「順番にお賽銭入れるわよー」

「ここは受験生の風先輩から行きましょ」

「いっつんも一緒にしたらいいんじゃないかな?」

「何人同時でもいいものね。それならお言葉に甘えて姉妹でやらせてもらうわ」

 

 風が樹を連れて歩き出す。その背中を見つめる夏凜の頬を、勝希が横から突いてはヘッドロックをかまされる。

 

「なんなのかしら?」

「か、夏凜が、寂しそうにしてたから……それなら風先輩たちと一緒にしたら、いいんじゃないかなって」

「は、はぁ!? 何言ってんのよあんた! 巫山戯たこと言わないで! 私はそんなの微塵も思ってないんだから!」

 

 後ろで騒がれたら気が散るというもの。いったいなんの騒ぎなんだと風と樹が振り返り、夏凜は慌てて何でもないと手を横に振る。そのすぐ近くで、ヘッドロックを決められたままの勝希が、ハンドシグナルで風に状況を説明しているが。夏凜はそれに気づいておらず、風が仕方ないなと言わんばかりに苦笑した。

 

「夏凜も来なさい」

「は!? いや、なんで」

「よくうちに来るし、樹もお姉ちゃんみたいーとか言ってたんだから。身内みたいなもんでしょ」

「ちょっ、お姉ちゃん!」

「……そ、そういうことなら仕方ないわね!」

 

 顔がにやけそうになるのを必死に耐える。勝希を解放して、夏凜は顔を横に背けながら風たちの下へと歩いていった。

 順に参拝し、全員が終わればおみくじを引く。それぞれ悪くない結果が出ている中、友奈は大吉を引き当てた。

 

「やった! 大吉だー!」

「おおー。凄いね友奈! 日頃の行いかな?」

「えへへー。まーくんは?」

「大凶」

「えっ……」

「逆によく引き当てたわね!」

 

 勝希の手に握られているおみくじの結果は、何回見てもやはり大凶だった。凶を引き当てるだけでも珍しいというのに、まさかの大凶である。それを引く者はそうそうおらず、昨今では『大凶』そのものが、都市伝説なのではないかと言われているほどだ。

 

「勝希の日頃の行いかしらね」

「はっはっは。夏凜ってば冗談も上手くなったね〜。あ、でも大凶って希少だし、これを引き当てた僕はスーパーラッキーボーイじゃないかな?」

「凄いポジティブですね……」

 

 発想の転換は大切だと思われるが、大凶を引いたことすら楽しみ、前向きに捉える姿にはもはや呆れるしかない。

 

「まー坊、あっちに結んできなよ〜。ついでにお祓いもしてもらったら?」

「結ぶには結ぶけど、お祓いはいいかなー。スーパーラッキーボーイじゃなくなりそう」

「いや、スーパーアンラッキーボーイでしょ」

「夏凜の意地悪! そんなに僕を苛めて楽しいか!」

 

 結局勝希はお祓いを受けなかった。皆はお祓いを受けることを勧めたのだが、そこまで強く受け止める必要もないだろうとの判断だ。

 階段を下り、広場で立ち止まって話をする。風の退院を改めて祝い、受験の話へ。年を越してしまった今、受験は目前と言える。また勉強し直し、万全な状態に戻さないといけない。

 

「来年もいてくださっていいんですよ?」

「いやさずかにそれはちょっと……」

「なんなら再来年も」

「樹と同学年になるじゃない! ……それはそれでありか?」

「なしだよお姉ちゃん」

 

 本来、受験生相手にその手の揶揄いはタブーなのだが、それをできる上に許してもらえるのは、勇者部だからこそだろう。仲の良さ、そして風本人の器の大きさか。

 

「あっま酒っ! 飲みたいなっ!」

「いいわね! 1杯引っかけていきますか!」

 

 ノリノリな園子のこの提案により、甘酒をいただくことに。風の発言が明らかに酒飲みのそれなのだが、もはや誰も言及することはなかった。

 甘酒はノンアルコールであり、中学生でも貰うことができる。貰った甘酒は冷たくなく、猫舌の人なら少し冷ます必要もあるだろう。それをさっそく飲んでいくのだが……

 

「なんか……場酔いしてない?」

「あっはっはっは! 酔ってない〜!」

「樹ちゃんは酔ったらこうなるのか。風先輩は泣きだすと。ギャップ凄いね〜」

「何感心してるのよ!」

 

 犬吠埼姉妹はアルコールが入っていなくても酔う、ということが分かり、友奈の甘酒が空になったところで記念写真を撮ることになった。美森が三脚まで用意しており、カメラをタイマーにセットして撮影。無事に撮影できたかは別の話。

 

 それから数日。部内では美森がカメラを回している光景が、よく見られるようになった。風を含めたメンバーの記録が貴重だと考え、今からでも多くの記録を残していこうとのこと。

 

「そうは言っても、高校に入ったところでアタシはここに入り浸ると思うわよ?」

「そうなる予想はついてたけどね」

「とか言って〜。夏凜も実は嬉しいんじゃないのー?」

「うっ…………」

「え、……何その反応……」

 

 図星を突かれた夏凜は頬を赤く染め、何も言い返さずに視線を逸らす。風もまた、そういう反応が返ってくるとは思っておらず、気まずくなって頬をかきながら目を逸らした。

 

「二人を見てると創作意欲が湧いてくるよね! ね、サンチョ」

「シィー、ムーチョ」

「え! その子喋るの!?」

「機能満載だねぇ! しかもいい声! 羨ましい!」

 

 どういう仕掛けになっているのか、園子以外は皆目検討もつかないのだが、尻尾を引っ張ったら喋るということはわかる。しかしサンチョはクッションでありその体はとても柔らかい。とても機械が入っているようには思えないほどだ。園子との付き合いが一番長い美森であっても、未だに不思議なことを御見舞される。

 

「ふーみん先輩とにぼっしーを見てたら創作意欲湧いてきたし、帰って二人の小説を書くね〜」

「ちょっ!」

「完成したら読ませてね!」

「もちろんだよまー坊。それじゃあみんな、また明日〜」

「また明日〜」

「「待ちなさいよ!」」

 

 風と夏凜の声も虚しく、園子は一足先に帰っていった。園子の書く小説が好きな勝希は、楽しみができたとご機嫌に。ネタにされると公言された風と夏凜はその場に固まった。しかし風の再生は早く、話題を逸らすのも兼ねて卒業旅行の企画を口に出した。

 

「思い切って温泉もありね! 大赦の金を使ってみんなで行きましょう!」

「さらっとヒモ発言してますよ」

「ぁ……温泉は前回行きましたし、今回は他のとこもいいんじゃないですか」

「ふむ、一理あるわね。山も候補に入れますか」

「……え、温泉が省かれたら僕は何を楽しみにしろと!?」

 

 男一人明らかに邪推な考えをもとに抗議している。その瞬間に美森が素早く動き、勝希も反応して逃げるも一瞬で壁に追い詰められる。

 

「勝希くん。何か(よこしま)な考えをしていないかしら?」

「東郷先輩や、サスマタは首じゃなくて腰を狙って相手を追い込むものじゃないですかね」

「あら。低俗な輩相手に加減する必要がどこに?」

 

 壁に背をつけ、首周りにはサスマタがある。逃げようとしても首がつっかえることになる。しゃがんで逃げるという選択肢も、すでに塞がれている。美森の精霊である青坊主が、小刀を構えて下で待機しているからだ。

 さすがにこれはやり過ぎじゃないかと、勝希は友奈に助けの視線を送るも、苦笑いで返されて撃沈。ちょっとした八つ当たりを兼ねて意趣返し。

 

「まぁ友奈の肌はこの前見たけどね」

「ふぇっ!? ちょっ、まーくん何言って!」

「ゴフッ!! ゆ、友奈ちゃんの……肌を見たですって……?」

「東郷に多大な被害が!?」

 

 その場に崩れ落ちる美森に夏凜が駆けつけ、あの日の騒動を暴露された友奈は顔を真っ赤に染める。一瞬でカオスな環境が出来上がった。

 

「あ、あれは……まーくんが勝手に入ってくるから!」

「勝希あんたそれ確信犯じゃない!」

「勝希さん最低です! 今まで以上に最低です! ドブレベルです!」

「樹ちゃん口悪くない!? 僕の心はガラスだから砕け散るよ!? それに! あれは友奈が悪いんじゃないか! 脱衣所のドアのプレートはOpenだったから僕は入ったのに!」

「……あら、これは友奈にも責任があるわね」

「勝希さんは豚箱行きですー!」

「樹落ち着きなさい」

 

 樹がここぞとばかりに勝希を言葉で叩いているため、審判はもはや風一人である。

 友奈の肌を勝希が見た、というショックが大きく、未だに立ち直れない美森。それを看病する夏凜。痴話喧嘩を繰り広げる友奈と勝希。なぜかひたすら勝希を罵っている樹。

 努めて冷静になった風は、腕を組んで考える。

 

「……今日も勇者部は元気ね」 

 

 現実逃避することにした。

 

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 

 友奈の体を蝕む天の祟りは、日を過ぎていくほど友奈を苦しめていった。常に熱があるような状態となり、それも日数を重ねるごとに強くなる。それでも友奈は、勇者部の誰にも話すことなく日常を送り続けた。

 

「おはよう、まーくん」

「おはよう友奈。今日は調子良さそうだね?」

「うん! 体もなんだか元気なんだ〜。今日はたしか、放課後に猫ちゃん探しの依頼をするって話だけど、まーくんはどうするの?」

「うーん、僕はいいかな。友奈の調子も良さそうだしね」

 

 友奈の部屋に行ってみたら、元気そうに笑顔を振る舞う姿が見れた。それは演技ではなく、自然なものであり、本当に調子が良いのだと分かった。

 友奈と一緒にリビングに行って、用意してもらった朝ご飯を食べる。友奈の両親は大赦から友奈のことを教えてもらったらしい。何も特別な力がない大人ではどうすることもできず、友奈に全てを委ねたらしい。僕はその時家にいなかったから、大赦の人間とは会ってない。

 

『勝希……友奈を側で支えてやってくれ』

 

 お義父さんからはそう言われた。僕のことを知ってるわけでもないのに。一番一緒に行動しやすくて、事情を知っているって理由からそう言ったんだろうね。でも、それを反故にできるほど僕も腐ってなくて、だから友奈に賭けを持ちかけた。

 その時(・・・)が来るまで、もうしばらくかかる。それまで友奈に苦しい思いをさせてしまうのは、心が苦しい。友奈(・・)ではないけど、大切に思える相手ではあるから。

 

「何かあったら連絡するように。駆けつけるから」

「はーい。……ありがとう、まーくん」

「お礼はいいよ。何もできてないから」

 

 東郷がいつも通り家にやって来て、三人で登校する。談笑して学校に向かい、自分の席に着く。そこで僕は気づいた。友奈が今日調子がいい理由を。

 

「……1月……11日、か」

「おっす勝希博士! 見てくれ聞いてくれ!」

「どうしたよ丸山」

「ついに完成したんだよ! 丸山式シャーペン型吹き矢が! これで嫌いなあの人にも一刺しの反撃ってね!」

「マジかよ! これは僕も現代版忍者セットの完成を急がなくては!」

 

 声をかけてきたクラスメイトと盛り上がり、シリアスな思考は一旦頭の隅に追いやった。

 

 友奈が調子よかったのは、やっぱり11日のあの一日だけだった。また熱が上がってきたし、それどころかより強くなった気もする。今日は勇者部でカラオケに行くらしく、僕はそこに同行することにした。

 今は園子と東郷がデュエットしてる。

 

「ひゅー! やるわね二人とも!」

「いっそCD販売でもしちゃえば? あ、樹ちゃんとのトリオもありだね!」

「ナイス提案よ勝希!」

「いやー、いっつんには是非ともソロデビューだよ〜。私はスポンサーになるね」

「乃木家が付くとか最強じゃね?」

 

 たしか、大赦でもツートップって夏凜が言ってたね。それがスポンサーに付くとか樹ちゃん怖いもの無しじゃん。大反対してるけど。一からちゃんと下積みしたいのだとか。真面目過ぎて感動だ。風先輩なんて泣いてる。

 

「それじゃあ友奈! 私達も熱唱するわよ!」

「しーっ。近くで大声は駄目だよ夏凜。疲れてるみたいだから寝させてあげて?」

「あ、うん」

「にぼっしー、私と歌お!」

 

 肩によりかかる重さ。友奈の体に全く力が入ってないことが分かる。友奈が寝ているというのは嘘なんだけど、少しでも楽にさせたいからね。目を閉じて、寝てる体で行こうと先に提案していた。  

 さすがにもう、隠せなくなってきてるみたいだけど。気づいてない人はいないだろうね。ただ、みんな聞かないでいるだけ。事情があるって察してるのかな。愛されてるね、友奈。

 

 僕は極力友奈の側にいるようにしてる。外出している時も、家の中でも。友奈の体に現れる紋様は、胸やお腹全体にまで広がっていってるらしい。そこまで広がってるとなると、限界が近づいてるのも分かる。

 動く頃合いだと思った。友奈を死なせたくないから。でも、大赦が友奈に持ちかけたという話。アレがあるなら──

 

「げほっ……、けほっ」

「友奈……」

 

 最近は友奈の部屋で寝過ごしている。祟りを少しでも緩和できるから。察知されないギリギリの力。微弱な力だけで対応してきたけど、それも限界だ。少し出力を上げるしかない。

 気づくのは神樹ぐらいだ。大赦には絶対に(・・・)気づかれない。そうなるように仕掛けてる。天の神は気づけない。天の神自身が強過ぎるから、僕が低出力にしている限り、気付きようもない。

 

「はぁ…………、まーくん、ごめんね……」

「謝るくらいなら、しっかり寝てほしいかな。大丈夫だよ。側にいるから。僕がちゃんと手を握ってるから。友奈はちゃんと、ここ(現実)にいるよ」

「うん……」

 

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 

 友奈の異変には、勇者部の皆が気づいていた。園子、美森、夏凜はそれぞれに動き、風と樹は友奈を信じることにした。

 友奈から話を聞き出そうと夏凜は話をしに行ったが、事情が事情なために友奈は話すことができなかった。そして、美森は友奈の事情を探るために、今宵、友奈の部屋へと侵入した。

 

(友奈ちゃん。電気点けっぱなしで寝てる……。勝希くんもベッドにもたれかかったまま。体が休まらないんじゃ……)

 

 勝希の体を横にしようかと悩んだが、その手が友奈の手と重なり合っているのを見て、美森は毛布をかけるだけにした。

 友奈の部屋を静かに見渡し、棚に小さな異変を発見した。友奈が中学校入学の際に、両親から買ってもらったものの使わずじまいの事典たち。そのうちの一冊の位置がズレているのだ。

 

「これは……! なぜこんなもの(勇者御記)が……」

 

 それを回収した美森は、友奈以外の部員を集めて犬吠埼家に集まった。テーブルの真ん中に勇者御記を置き、簡素な報告を終える。

 

「最近の友奈ちゃんは様子が変でした。その原因が、これに書かれていると思うんです」

「私からもいいかな」

 

 今から勇者御記の中身を閲覧していく。そうなるのは明らかであり、その前に園子も自分が得た情報を共有していく。

 

「ゆーゆは天の神の祟りを受けてる。大赦の調べで、それはゆーゆ自身が言ったり、何かに書いたりして他の人に伝えようとしたら感染するってことが分かったの。つまり、この本は私達にとってもすっごく危険なんだ。みんな、それでも見る?」

 

 誰も躊躇わなかった。友奈の事情を理解し、友奈の力になれるのならと。強く頷くことでそれを示す。そして、園子はもう一つだけ、読む前に共有しておきたい話を始めた。

 

「まだ全ての情報が集まってるわけじゃないんだけどね……。これを読むなら、たぶん先に共有した方がいいかと思って」

「どういうことなの? そのっち」

「もしかしたらね」

 

 

 

──まー坊は……佐天勝希という人物は存在しないのかもしれない

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