何やらしくじってのわゆ編の30話を潰してしまいました。データのバックアップは取ってないので、一から書き直しです。辛み
その場にいる全員が耳を疑った。園子の言葉を飲み込めなかった。何を言ったのかは分かる。言葉自体は聞き取れている。しかし、その意味を理解することができなかった。
「そ、存在しないかもしれないって……どういうことよ……」
風がなんとか言葉を絞り出す。頭が追いつかないが、話を聞かない限りそれも分からないままだ。
共に過ごした記憶はたしかに存在している。佐天勝希という少年を、勇者部の皆が知っている。諸事情により結城家に居候し、友奈と美森ともに入学した。友奈に勇者部の勧誘を受けても、男一人は嫌だと言って技術部を選んだ。結局勇者部に頻繁に顔を出していたが、活動にはそこまで参加していない。共に語らい、共に笑い、共に過ごした。その事をたしかに風も美森も覚えている。
樹の入学を祝い、手品をする美森に対抗し、トランプでの手品をやってのけた。別の部活という立場から、夏凜が勇者部に馴染むように影でサポートしていた。
それなのに、存在しないとはどういうことなのか。
「私もまだ全部のことは分かってないんだ。だから、肝心のそこを説明できないんだけど、まー坊の事で疑問を抱いたらどんどん気になったんよ。まず、まー坊だけ天の神の影響を受けなかった」
「え……?」
「みんな覚えてるよね。私は火傷して、わっしーは電灯が切れた。にぼっしーはエアコンが切れて、ふーみん先輩といっつんは鍵を失くした」
「そうね。でもたしか勝希は机に小指をぶつけたって」
「それが祟りって解釈もできるけど、たしか牛鬼に齧られたせいでって話だったよね? そしてまー坊は牛鬼によく齧られる。天の神はそこには関係ない」
言われてみればそうだ。友奈が祟りにかかっているなら、友奈自身に何かが起きなくてもおかしくはない。しかし、あの場には勝希もいた。それなのに勝希は何も影響を受けていない。
「ここで出てくる可能性は、まー坊は何か特別な力を持っているのか、それとも勇者以外には効かないのか。あるいは、そもそも人じゃないのか」
「待って! さすがにその可能性はおかしいじゃない! それなら勝希はなんなの? 亡霊とでも言うの!?」
「……ある意味そうかもしれないんだよ、にぼっしー。まだみんなも結論は出さないでね。私も結論を持てていなくて、大赦の調査待ちだから。でも、まー坊が何者なのか分からないってことは頭に入れといて。……もしかしたら、ゆーゆのそれにヒントがあるかもしれないし」
話を聞いてもまだ混乱が消えない。いや、より一層混乱したと言ってもいいかもしれない。それは園子も感じ取れているが、十分な説明ができないのも事実。本来はまだ話すべきではないと理解していたが、友奈の勇者御記で触れられている可能性もまた拭いきれなかった。そこで、可能性の段階ではあるが、共有することにしたのだ。
否定したいものの、嫌な心当たりがあるのも事実。園子は知らないが、他の部員たちは勝希の口から『友奈の肌を見た』という証言を得ている。それがもし、友奈が祟りを受けた後の出来事なら……。
「……まだ整理ができないし、勝希のことは疑いたくないけれど、可能性として頭に留めておきましょう。みんなもそれでいい?」
「……そう、ですね……。今は友奈ちゃんの方が急務ですから」
美森が風に言葉を返し、夏凜と樹も頷いた。一度深呼吸し、頭を切り替えたところで、風は勇者御記に手をかける。全員の顔を見渡し、ページを捲った。
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はじめに。年末に大赦の人達が私の変化に気づいて家にやって来た。事情は神託や研究で知ったので、神聖な記録として残したいから、この本に日記をつけて欲しいと……。続くかな。
どうしてこうなったのか。自分は大きな戦いで相当無茶をしたようで、体中ほとんどを散華してしまった。さらに敵の御霊に触れたことで、魂が御霊に吸い込まれてしまった。気がつくとそこは、東郷さんを助けに行ったあの場所だった。どこまでも空が広がる世界……。がんばってぬけだそうともがいてみたけど、どこまでもどこまでもそこは広がっていた……。
どうやったら帰れるのか、もしかしたら帰れないのか。膝を抱えていた時に、私はそこでまーくんと出会った。
「友奈って無茶しないと生きていけないのかな?」
「ぇ……」
「初めまして。自己紹介は後にするとして、ここから出る気はあるかな?」
突然目の前に現れた彼は、おどけて笑いかけてくる。けれど、膝を抱えて俯いてる私に差し伸べられたその手は、不思議と握りたくなるような力があった。
何者なのか分からない。なんでここにいるのかも知らない。
怪しいとこだらけだけど、この場から出たかった私は縋りたくなる。
「ここから出られるの?」
「出られるよ。出口はたしかに存在するし、案内もできる。……そこの青い烏が働きたがってるし、案内役はあっちに任せるけども」
「烏?」
彼が指差した方向には、たしかに青い烏がいて、私たちのことをジッと見つめてる。彼の方を見るたびに鳴いてるんだけど、知り合いなのかな。あ、突かれてる。
彼は片手で烏と何やら戯れ始めて、それを見てなんだか胸が楽になった私は、彼が差し伸べたままにしてくれてる手を握った。烏と彼はそのタイミングで遊ぶのをやめて、私を引っ張り上げてくれる。
「こんな場所にいたら気が滅入るのもわかるけど、希望は捨てちゃいかんよ」
「なんだかお爺さんみたい」
「僕は見た目通りの年齢だよ!?」
私と入れ替わるようにしゃがみ込んでいじけだす。その姿を見ると、言われた通り見た目にあった年齢なんだなって納得する。たぶん私と年が変わらないよね。
そうしていると、どこからか東郷さんの声が聞こえてきた。何が起きてるのか分からない。だけど、東郷さんが泣いていることだけはわかる。
「勇者は……泣いている友達を見捨てたりなんてしない。絶対に帰るんだ!」
「ふむ、気合が入ったところで、行動に移しますか。案内よろしく〜」
青い烏が一際大きく鳴いて、一直線にどこかへと飛んでいく。ついて来いって言ってるのかな。
「先々行ったら案内の意味がないんだけどな……」
ぼやく彼に手を引かれて、私は青い烏を追いかけていった。進んでいく先にだんだん光が見え始めて、その光に飛び込んだら元の世界に戻ることができた。
こっちに戻る直前。光に包まれている中で、私は彼と自己紹介をした。彼の名前は佐天勝希。謎だらけだけど、話してくれなさそうだし、元気をもらったのもあってその辺は聞かないことにしてる。
でも体はそうもいかない。散華して失っていた体は、回復したんじゃなくて神樹様がつくってくれたパーツみたい。だからそれが馴染むのに時間がかかるし、強引な満開をした私は全身が神樹様のパーツになったわけで、大赦では私のことを
御姿は神聖なものらしくて、神様に好かれるみたい。だから私は望んだことが、友達を助け出すことができて、代わりになることもできた。それで世界のバランスが守られた。
大赦は私のことを調べてくれた。分かったのは、この炎の世界がある限り、この体は治らないということ。そして、私は春を迎えられないであろうということ。
でも、不思議とまーくんが側にいてくれたら体は楽になる。凄い熱だってマシになるし、体を蝕むあの痛みだって和らぐ。最近はずっと一緒にいるようにしてくれてるけど、部活に顔を出せてないし、友達の誘いを断ってるのも知ってるから後ろめたい。
まーくんが持ち掛けてくれた賭け。まだ返事はしてない。
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その後は日付がつけられ、その日の出来事を書いている。主に症状の変化であるが、勇者部のことを心から好きなのだという旨が、節々から見えてくる。
勇者御記を最後まで見終えた勇者たちは、重たい空気に包まれていた。
「なによ……今年の春を迎えられないって……」
風が勇者御記を何度も読み直し、受け入れたくはないがそれが現実なんだと認識する。静まり返っている中で、美森が部屋を出ようとしたところを園子が止めた。
「離して! 天の神の怒りは収まってなかった! 私が受けるべき罰だったのよ!」
「日記にも書いてあったでしょ! 今から代わってもゆーゆの祟りは消えないんだよ!」
「──っ!!」
「また重要なことを……大赦は黙って……!」
部員の命が、友人の命が危ぶまれている。その事を知らされていなかったことに風は憤慨したが、園子の言葉で堪えることができた。曰く、それが判明したことは最近であり、調査段階では話してしまった場合に危害が出るか分からなかったということ。もしもの場合を回避するための判断だ。
友奈の日記を知り、事情を知って一番苦痛な思いをしたのは、夏凜だろう。話せないという事情を知らず、傷つけたくないという友奈の思いを知らず、友奈に事情を話すように迫ってしまった。その事に強い罪悪感を抱き、その場に泣き崩れてしまう。
樹が夏凜の側に行き、涙を拭いてあげながら園子に問いかけた。勝希の件を。
「園子さんは、勝希さんのことをどう考えてますか? 友奈さんや東郷先輩が行ったという世界にいたってことが、この日記には書かれてましたけど」
「……人なのかが怪しいかなって。大赦の調べで分かってることは、まー坊の戸籍はあるけど、両親の戸籍がないってことなんよ」
「戸籍が……ない……?」
「うん。だから出生記録も無いんだ。普通ならそこに疑問を抱いて調べてあるはずなのに、大赦はこれまで調べなかった。……憶測はできるけど、あとはまー坊に直接聞くのが一番だと思うな」
園子も勝希のことを嫌っているわけではない。その存在について疑問を抱き、友奈の件と関わっているからこそ、大赦に調べるように依頼したのだ。調べれば調べるほどその存在は怪しくなり、当たってほしくない予想が立てられていく。
果たして勝希は敵なのか味方なのか。それを判断する材料はどこにもなく、友奈の御記から考察しても、味方だとは断言できない。少なくとも、友奈の敵にはならないと判断できるだけだ。
「さてさて、東郷が友奈の勇者御記を持って行ったわけで? これは僕のこと疑われるかな。ははっ、どう動く? 神世紀の勇者は」