一人でバーテックスを撃退しながら農作業もする。その様はまさしく勇者。諏訪の希望の星だね。そんなうたのんとうちのリーダーこと若は定期的に連絡を取り合っている。音声だけなんだけどね。
「うどんの方が良いと何度も言っているでしょう!」
『いいえ蕎麦です! なぜ理解できないのですか!』
「いやラーメンでしょ」
「佐天は黙ってろ!」
「えぇ……」
若は香川県出身だからかうどんをこよなく愛してる。それは他の勇者達やひなも同じだし、友奈もうどん好きだ。それに対してうたのんは蕎麦が大好き。信州そばを布教しようとして、若とうどん蕎麦論争をしている。僕はうどんも蕎麦も好きだけど、ラーメンの方が好き。豚骨ラーメンとか最高だね。奈良は全然有名なラーメンが無かったから、大阪に出た時にラーメンを食べてた。
「なんでラーメンの魅力が分からないかなー」
「ラーメンを食べるくらいならうどんを食べる」
『私もラーメンよりは蕎麦を食べますね。あなた方にはぜひとも信州そばを食べていただきたい』
「たしか蕎麦のも栽培してるんだっけ?」
『そうですよ! 自分達で育てた蕎麦を食べる! これほど美味しいものはありません!』
「たしかに。自分達で育てたものとなると格別だろうね〜。いいなぁ、僕も信州そば食べてみたいなー」
「佐天お前! 裏切るのか!」
「だから僕はラーメン派だって……」
裏切るも何もないでしょうに。うどん派になった覚えはないんだから。別にうどんは嫌いってわけじゃないよ。香川のうどんってやっぱりコシが違うからね。香川以外のうどんに慣れてると少し違和感があるけど、香川のうどんに慣れてくるとクセになる。他のじゃ物足りないってね。でも僕はラーメン派だ! いずれ店を出してラーメンを広めてやる!
「とりあえずうどん蕎麦ラーメン論争はこれくらいにしようか」
『ラーメンは初めからなかったですよ?』
「うたのんまで!?」
「それに関しては白鳥さんと同意見だな」
「それより、みとりんは?」
『みーちゃん? みーちゃんなら他の人と一緒にいますよ。……はっ! まさかみーちゃんに何かする気ですか!』
「いや通信でどうしろと……。そうじゃなくて、久々に話してみたいなーって。今いないなら次の時でいいけど」
『あーなるほど。そういうことでしたら次はみーちゃんも一緒に。では今回はこのへんで』
「あぁ。白鳥さん、どうか気をつけてくれ」
『えぇ。乃木さんも』
『みとりん』と『みーちゃん』は同一人物。
本人は「たまたま選ばれただけ」って謙遜するけど、通信で話してる感じだと選ばれるのも分かるなってなる。びっくりするぐらい純粋で綺麗な心を持ってるし、それでいて実はしっかりしてる。性格が自分の力を殺しちゃってるって感じかな。
現状の話をすると、四国はまだ攻められていない。神々の集合体である《
だから若はうたのんのことを心配するし、うたのんは心配をかけないように軽い調子で話す。あの日からもうかれこれ三年経ってる。救援がない以上諏訪の情勢は芳しくないのは明白なのに。若はうたのんの思いにハマってるから気づいてないだろうけどね。僕も言わないでおくけど。
「それで? どうせ茶々を入れに来ただけじゃないんだろ?」
「え? それ以外に理由がいる?」
「……佐天はどっちも可能性があるから反応に困るんだよ」
「若はノリが悪いなー。ま、今回は正解だけどね」
「当たっていたのか」
座って通信していた若が立ち上がって、呆れた顔で僕を見てくる。というか若干見下ろしてくる。
そうです。そうなのです! 若の方が身長が高いんです!!
若の身長は160cmちょい。それに対して僕の身長は159cm。ほぼ変わらないだろって言われるけど、そんなことはないんだよ! 男という生き物は元来の本能ゆえか、異性に負けたくない生き物なんだよ!
──身長、体格、身体能力etc
主に肉体面のことにおいて男は異性に負けたくないと思ってしまうのだ。特に成長期に入っている僕にとっては尚の事!
だがまぁここで露骨に態度に表してしまってはそれこそ「器が小さい」というもの。僕はそんなみみっちいことはしたくないからね。ここはクールに気にしていない体で話を進めるとしようじゃないか。
「ん? 佐天って身長もう少しなかったか?」
「表に出やがれド畜生め!!」
若のこの失言は後でひなに言いつけてやる! ひなが相手なら若も大人しく怒られるからな! 器? 知ったことじゃない! 若が悪いんだから!
若は憤慨した僕と外に出て、木刀で決闘をした。もちろん僕はコテンパンに負けましたとさ。泣きっ面に蜂とは正にこのことよ。
「それで? 結局佐天の用事ってなんだったんだ?」
「コテンパンにした相手の応急手当だと? 若はどれだけイケメンムーブをすれば気が済むんだ」
「おーい。さーてーんー」
「はっ! 若は実は僕のことが好k「それは断じてない」あ、はい」
丸亀城内にあるベンチで応急手当をしてもらっていたんだけど、僕が巫山戯たら若がゴミを見るような目になった。周囲の温度が下がるっていうのかな。明らかに態度が冷たくなったよ。若に苦手意識はあるけど、仲良くなりたい僕にとっては悲しいことだね。
若ってわりと漢なところがあるから、きっと好きな子にはツンツンしちゃうと思うんだよね。ツンデレってやつ。仲良くなりたいけどどうしたらいいかわからないからついつい冷たくなっちゃう、的な。そんな若のためにもこちらから距離を詰めようじゃないか。
──"友達"になるためにも
「若。僕は体のいたる所が痛い」
「うっ、……やり過ぎたとは思ってる。なまじ佐天の動きがいいから」
「奈良にいた時に剣道と武道は神主さんに叩き込まれたからね〜。
「そうだったのか。……待て、護身術としてだと? いったいなぜ佐天が護身術を
「うん。まぁそれは内緒。話したくないことって誰にでもあるからね。それより若。僕はフルボッコにされた代わりに要求があります」
「変なことでなければ」
「……みんな僕に対しての認識が酷いよね。口にしても行動には移さないチキンなのにさー。ま、いいや。僕の要求は、体の痛みが引くまでの膝枕!」
笑顔で言い放つ僕に対して、若の顔はすんごい引きずってた。それは膝枕が若にとってグレーゾーンだから。僕は知ってる。ひなから聞いているから知ってるよ。若はひなに耳掃除をしてもらっているって。そしてその時にひなに必ず膝枕されるってことを。
そう! 自分がやってもらっていることを、他人にはさせないなんてことは若はできないのだ! 律儀な性格をしているから尚の事!
それでも渋られるのは僕の評価が低いせいだね。いったいなんでそんなに評価が低いんだろうか。部屋に忍び込んだり、お風呂を覗いたりなんてことは一切していないというのに。せいぜい制服から透けて見える下着を見てるくらいなのに。
「わりと寝転びたい気分なんだよね。で、若がいることだし、せっかくなら膝枕してもらいたいなぁって」
「……はぁ。少しだけだ……ぞ……」
「ん? 若どうしたの?」
「い、いや〜。佐天は先に後ろを振り返るべきだと思うな……」
「後ろ? 後ろになにかあ……るね。うん」
若に言われた通り後ろを振り返ると、すぐさま肩を掴まれた。しかも力強くて痛いぐらいだ。その犯人は誰かと言うと、僕の大親友こと高嶋友奈ちゃんでした。いやー素晴らしいねー。これは僕大変なことになる気がしてならないよ。鍛えられた直感が
すっごいニコニコしてるのに半端なく怖いという器用なことを友奈はしてる。僕もそれに合わせて笑顔を返すんだけど、笑顔が引きずっちゃってるね。冷や汗も止まらないんだ。夏だからかな。
「若葉ちゃんに何させようとしてたのかな?」
「い、いやー、やましいことじゃないよ?」
「それならなんで目を合わせてくれないのかなー。やましいことじゃないならそんな挙動不審にならないよね?」
「あ、あはは、なんでだろうね〜。若に木刀で勝負挑んでボッコボコにされたからかなー」
「ふーん? で? 言い訳はそれくらい?」
怖い怖い怖い怖い!
両肩を掴まれてたけど、今は友奈の右手がそっと僕の頬に添えられてる。しかもグーで! これってもう逃げられないんじゃないかなー! いや、そもそも本当にやましいことを若に頼んでいたわけじゃないから、逃げる必要はないわけなんだけどね!
「え、えとー。ひ、膝枕を頼みました! やましいことではありません!」
「若葉ちゃんがそうしないといけない理由ないよね?」
「ひっ! ご、ごめんなさい!」
「とりあえず私の部屋まで行こっか? お話はまだあるわけだしね」
「処刑宣告!? わ、若助けてー!」
「若葉ちゃん?」
「どうぞごゆっくり! 私は今日の分の鍛錬が残っているからな!」
「頑張ってね!」
「この薄情者ー!!」
とりあえずグーパンはされずに済んだけど、それ以上の悪夢がこの後待っていることが確定してしまった。友奈に引きずられる僕は、僕の潔白さを知っている若に助けを求めたけど、呆気なく若に見捨てられた。この恨みはいつか晴らすからな! 具体的にはひなに協力して『若葉ちゃんコレクション』を増やすという形で!
あ、若に話あったんだった。ま、急ぎじゃないけどね。
引きずられてる途中でタマとヨッシーにも会って助けを求めたけど、二人は何も見なかったということにして過ぎ去っていったよ。ひなは話しかけてくれたけど、若の居場所を聞くだけ聞いて見捨てていった。みんな薄情だよ!
「膝枕ぐらい言ってくれたら私がするもん」
「え、なに。友奈って天使?」
「そんなに煽てても何も出ませんよー」
友奈の部屋に連行されて待ち受けていたのは、
──ドォン!!
「マーくんどうかした?」
「い、いえ何も」
やめておこう。実行したら部屋の壁みたいに体に穴を空けられる。体があっての人生なんだから。
今日初めてマーくんに膝枕した。若葉ちゃんにやらせようとしてるのを見たらムッてなっちゃって、本当は部屋でお説教するつもりだったのに。でも、マーくんの様子を見てたらそうする気にならなかった。みんなは気づいてなかったし、私もちょっと違和感があるってぐらいだったけど、マーくんはどこか暗くなってた。私が思い当たるのは一つだけ。きっとあの事だ。マーくんは■■■■■で、■■■■。それをふと思い出しちゃったんだろうね。
勇者御記 二〇一八年七月
高嶋友奈 大赦史書部・巫女様検閲済み