遊び心は大事   作:粗茶Returnees

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10話 エンジョイ勢だって勝ちたい

 

 目の前にいるのはたしかに若葉だ。初代勇者の一人。リーダーを務めてた。そして、間違いなくただの人間と変わらない。勇者であることしか違いはなかったはず。その若葉がなぜ、この時代に出てこられるのか。そもそも、どうやってそんな仕掛けを。

 

「記憶は消えてたはずだよね?」

「あぁ。私もひなたも記憶を消されたな。あらゆる資料からも勝希の記録は消えていた」

「ならなんで」

「勝希が想定しなかった箇所はそれを免れる。そうだろう?」

 

 ひなの日記──それが原因ということか。

 そもそも、ひなが日記をつけた経緯って、友奈から話を聞いたからとかそんなんじゃないの? それなら日記をつけたこと自体忘れてそうなんだけど。

 

「世の中優しくないね」

「当然だ」

「……若葉といえど、邪魔するなら排除するよ」

「私はお前を止める。そのためにここにいるのだならな」

 

 剣を出現させる。光り輝いててあまり好みじゃないけど、僕が使えるモノって大抵こうだから選びようがない。

 地面は蹴らない。推進力で飛び出して若葉に振りかかる。

 不意打ちもいいところだ。ほとんどの勇者相手なら、これで優位に立てる。現に園子や夏凜でも反応が遅れてる。

 でも、若葉はそうもいかない。

 

「はぁッ!」

「ッ!」

 

 太刀で居合斬りってなんだよ。

 しかも予想以上に力強かった。

 高低差もあって、僕は若葉に跳ね上げられる。体勢を立て直すために宙返りして上昇。一旦距離を取る。

 若葉が望み通りにさせてくれるわけもなく、漆黒の翼を一度羽ばたかせた。それだけで若葉は僕との距離を詰めた。

 武器を交わらせる。それ越しに睨みつける。

 

「その翼。見掛け倒しじゃないんだね」

「そのために必要な仕掛けを施してあるからな」

「ちなみに聞くけど、なんでその見た目? OL感満載なんだけど」

「この仕掛けを完成させた時の姿だ」

「なるほどね!」

 

 鍔迫り合いをやめ、3度剣を交差させる。今は地上じゃなくて空中にいるんだ。環境の違いを使わない手はない。少し上昇し、落下速度を加速させて若葉に斬りかかる。今度も防がれるけど、若葉を下方へと吹き飛ばせた。追撃のために追いかけると、若葉の姿が霞む。

 

「っと!」

 

 追撃を中止して右からの攻撃を防ぐ。少し体勢に無理があって、今度は僕が横に飛ぶ。すぐに立て直し、若葉の追撃に備える。

 若葉は追撃してこなくて、太刀を構えながら怪訝な表情を浮かべた。

 

「……下方からの攻撃は仕掛けないのだな。勝希ならやりかねないと思ったのだが」

「あーうん。だって、下から攻めようとしたら下着見えちゃうじゃん」

 

 若葉がものすっごい呆れた顔をする。まさか戦闘中にそこを気にするとは、思ってなかったんだろうね。これでも僕は紳士だというのに。

 

「そんな事は気にしなくていい。スパッツを履いている」

「え、スパッツも下着じゃなかったっけ?」

「むっ、そうなのか?」

「いや分かんない。僕の曖昧な知識が間違ってるだけかも」

「ふむ、もしそうだとするならば……。ショートパンツを用意するべきだったか」

 

 どこに配慮してるんだろうかこの勇者様は。

 浮かんだ言葉を心に仕舞う。馬鹿馬鹿しい話だと若葉も思ったのか、首を左右に振って太刀をこちらに向けてくる。

 

「なんにせよ気にするな。私は気にしていない」

「恥じらいって言葉知ってる?」

 

 意味は知ってても、恥じらう時とかないんだろうなぁ。若葉だし。戦闘中だからかもしれないけど。

 まぁ何にせよ、今の若葉は精神体だ。それを具現化させるとか、とんでもない技術を作ったものだね。他に運用されてないことを考えると、だいぶ極秘に開発したってとか。その見た目の年齢の時に完成させてるのは意味分かんないけど。早すぎでしょ。

 

「バーテックス相手に戦っていた時からだいぶ経った姿……なんて言って油断もできないか」

「当然だ。私がこの姿を残したのは、この姿の時が全盛期(・・・)だったからだ」

「前線から離れた後が全盛期とか、意味分かんないな!」

 

 若葉との距離を縮めて剣を振るう。まともに鍛錬していない僕の剣じゃ、若葉相手に優位に建てない。単純な能力なら僕のほうが上。それなのに、若葉相手に優位に立てる気がしない。

 僕の剣を最小限の動きで受け流し、的確な攻撃を素早く繰り出してくる。僕の動きに無駄が多いってことだけど、若葉も若葉で大概だよね。1回しか使ったことがないはずの大太刀を、あれだけ自在に振り回してくるんだから。

 

「勝希。全力で来い。今のお前が手を抜いていることは分かっている」

「……もちろんそうするよ。どうやら来た(・・)ようだしね」

「なに? っ! あれは……!」

 

 僕の遥か後方。神樹の結界をものともせずに、そいつ(・・・)はやってきた。侵食する火の海。真っ赤に染まる空。神樹の理に自分の理をぶつけてくる存在。すべての元凶にして最強の敵。

 

「天の神か……!」

「そう。空に浮かんでるあの円盤。あれが天の神だよ」

 

 あの円盤を破壊したところで、天の神を殺せるのかは話が別だろうけどね。そもそも、神に実体があると考えるほうが無理のある話だ。分身というか、仮の姿のようなもの。ダメージは入れられそうだけどね。

 地上にいる勇者たちが行動を開始する。風と東郷が神樹の下へと向かっている。神婚を止めるためだろうね。上手くいくのかはさておき。で、夏凜と樹と園子が天の神の迎撃か。他にも、離れた地で布陣が敷かれている。

 総力戦。

 役者は揃った。

 

「僕も、本気で挑まないとね。ここからはリアルタイムアタックだし」

「リアルタイ……なんだそれは?」

「時間との勝負、かな。勝たせてもらうよ、若葉」

「来るがいい。私も全力を持ってお前を止めよう。……いや、勝ちに行く!」

 

 荒御魂の出力を上げる。人間性と神性の割合が変化していく。やり過ぎると暴走状態に入るから。

 武器を構える。

 次の瞬間には若葉の後ろを取る。

 横に一閃する。

 防がれる。

 

「なんで今のを防げるかな……」

「見失いはしたが、勝希とは何度か手合わせをしている。その力を手に入れようと、行動パターンが劇的に変化するわけでもない。それに、私の方が実戦経験が多い」

「思考よりも先に体が動くのか〜。ほんと、底が知れない、ねっ!」

 

 いくら出力を上げようと、技術の差を埋められるわけじゃない。最小限の動きで最大の攻撃を繰り出す若葉に勝つには、下手な小細工をするほうが負ける。

 体を横に一回転させ、僕の方に向き直すと同時に太刀を突き出してくる。後ろに下がりながらそれを逸らし、飛び回りながら追いかけてくる若葉と刃を交えていく。

 目に映る景色が激しく変化していく。樹海の蔦が見えたと思えば、次の瞬間には赤い空が見える。高度も大きく変わるから、空に近づいたり地面に近づいたり。だけど、僕も若葉もそこを一切気にしない。僕らは常にお互いの姿を見失わないように動き回っているのだから。

 

「はぁッ!!」

「ぐっ……!」

 

 若葉を正確に捉え、低い高度だったのも相まって地面に叩きつけることができた。土煙でその姿が隠れるけど、僕は構わずに剣に力を収束させ、そこ目掛けて投げつける。刺さればそのまま爆破で終わり。避けても地に刺さって爆破。少しは巻き添えになる。

 

「でもま、それを超えてくるのが若葉だよね」

 

 たった今投げつけた剣が、何事も無かったように投げ返される。僕はそれを避け、剣の持ち手を掴んで回収する。収束させた力が消えてるあたり、若葉は僕と同じように、避けて掴んで投げ返したんだろう。精神体とはいえ、人の身で掴めばダメージが入る。

 瞬速で目の前に来た若葉の斬りあげ。体を前方向に縦回転させて、躱しながら斬りかかる。それを読まれていたようで、若葉は体を回転させながら上昇速度を上げた。すれ違いざまに腹を斬られる。

 

「がっ……っ……」

「はぁはぁ、これでおあいこだな」

「……いやこれ、僕のほうが傷深い気が……」

 

 わりと容赦なく斬られた。止血させて傷の治りを早くさせることもできるし、そうしてるけども、その分攻撃に回せる力も減る。反対に若葉は、たしかに傷を負ってるし、それが全体的に見て取れるんだけど、代わりに傷が浅い。掴んで投げ返すまでが早かったんだろうね。

 それに、今の若葉って、大天狗の反動がない(・・・・・・・・・)のが強みだ。精神体だから内蔵や筋肉へのダメージなんて入らないし、呪詛的な効果も薄い。……デメリットは、時間が短いことか。呪詛の効果はそこに出るはず。

 いやだな(・・・・)。勝ち逃げされるのは嫌だ。ラストチャンスなんだから。

 

「……ふぅー、次で決めるよ」

「では、私もそのつもりで戦おう」

 

 最後は堂々と正面から行こう。あのバトルロワイヤルの日だって、正面から戦ったんだ。

 剣を振るう。太刀とぶつかり合い、大きな金属音が響き渡る。若葉が素早く2連撃を放ち、僕はそれを防がずに思いっきり一刀を投じる。2連撃目に合わせたその攻撃は、若葉の想定からズレていたようで、攻撃をズラされるも左腿を斬りつけた。こっちは一撃目をもらってるけど。

 そこから斬り上げようと思ったけど、若葉の方が判断も早い。首を狙ってきたその一撃を躱すも、耳がかすった。飛べることを活かし、体を倒したまま若葉の胴を狙う。

 

「甘い!」

 

 太刀で防ぐのが間に合わないと分かった若葉は、肘と膝で僕の剣を挟んだ。人間離れした白刃取り。そんなものを見せつけられた僕は一瞬固まり、若葉がそれを見逃すはずもない。空いている手で太刀を逆手に持ち、僕の体を斬りつける。それを躱すために僕は剣から手を放した。

 指先に力を収束させ、透明な刃を形成する。それを若葉の喉目掛けて突き刺しに行く。

 

「……やっぱり若葉は強いね」

「そういう勝希もな」

 

 僕の指先は若葉の喉の届いていない。寸前で止まってる。代わりに、僕の喉にも刃先が寸前で止まっている。僕が手放した剣。つまり、若葉が白刃取りした剣だ。それをちゃんと持つ時間はなかったようで、また逆手に持ってる。

 

「勝希。その力で天の神に勝とうなど、無謀だと分かっているはずだ」

「分かってる。だから策は用意してるよ。若葉のおかげで、この力の試験運用もできたしね」

「なに?」

 

【死ぬのは……嫌だよ……。みんなと別れるなんて……嫌だよ!】

 

「これは……!」

「友奈……」

 

 神樹の中にいる友奈の声が脳に響く。近くにいる若葉にも、その声が聞こえてるみたいだね。

 

【ずっとずっと……みんなと一緒にいたいよ!!】

 

「友奈……やっと本音を伝えたんだね」

「……勝希。お前まさか……」

「さて何のことやら」

 

 突き出していた手を引っ込める。若葉も手を下げて、剣を僕に返してくれた。変なとこで鋭かったりする若葉だ。気づいたんだろうね。

 

「若葉にも行く場所があるでしょ?」

「……そうだな。先に行っているぞ(・・・・・・・・)

「行ってらっしゃ〜い」

 

 大天狗の力を解いた若葉は、あの青い鳥になって神樹の中へと入っていく。誘導しといた甲斐があったというものだ。あれなら間に合う。

 

「さて、僕も行こうかな」

 

 遠方に見える天の神。

 全ての元凶。

 僕の遥か遠い先祖。

 

「反抗期の子どもが厄介だってこと、教えてあげないとね!」

 

 

 

 

 

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