遊び心は大事   作:粗茶Returnees

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 最終話です。


11話 遊び心こそ大事

 

 天の神の戦闘方法は、どうやらバーテックスたちの攻撃を繰り出すものが多いらしい。その制限はなく、同時攻撃も複数攻撃も何でもできると来た。それに、祟りのことを考えたら、天の神本人だけの攻撃もあるわけで。

 

「それがこの広範囲レーザーか〜」

 

 天から降り注ぐ光の柱たち。夏凜たちが躱してるのを見てると、狙いを定めて放つわけじゃないってことが分かる。わりと無差別。樹海にダメージを入れることを優先してるんだろうか。

 

「何にせよ。利用させてもらおうか」

 

 認知できるだけの光の柱に合わせ、その数だけの円盤を生成する。それらを柱一本につき一枚ぶつけさせる。

 

「勝希!」

「やっほ〜夏凜。満開も解けてるようだし、そのまま下がってるほうがいいよ」

「……なんなのよ。あんた何考えてるのよ! 敵かと思ったらそうでもなくて、でも味方でもないって振る舞って……! 何がしたいのよ!」

「言ったでしょ? 僕は復讐がしたいだけ。天の神が出てきてくれたんだ。動けない神樹なんて後回しだよ」

 

【これは何の真似だ】

 

「「「!?」」」

「人間にも声を聞かせるんだ?」

 

 天から轟く声。そもそもそれが声と言っていいのかすら怪しいけど、生憎とそれ以外の表現方法を僕は知らない。脳に響いてるわけでもないからね。

 どこからか、なんて考えるのも馬鹿馬鹿しい。天に浮かぶあの円盤。あそこから轟いてるのなんて誰もが分かる。まさかこういう形で話をするとは思ってなかったけど。

 

【何の真似かと聞いている】

「分からない? 案外馬鹿なんだねお祖母様。見ての通りの反逆だよ。下克上。僕はあなたを殺す」

【力量差を弁えていないようだな】

「だから今埋めてるでしょ?(・・・・・・・・・)

【!! 貴様……!】

 

 気づくのが遅いな。いや、気づけないのも無理はないか。僕はたしかに佐天勝希ではあるけど、天の神の一部でもある。その僕が、今降り注ぎまくってるレーザーを介して、天の神の力を吸収していたって、天の神からすれば体の端へと力を集めていってるようなもの。天の神全体からはマイナスになっていないんだから。

 広範囲レーザーが止まったけど、今さら遅い。降り注いでいる部分から吸収するのとは別に、新たな経路を用意して吸収してたんだから。

 

「おかげ様で勝率が上がったよ。いや〜子孫思いだね!」

【理解しているのか? 私を殺すということがどういうことかを】

「当たり前じゃん。それに、そんなのどうでもよくない? 人は人で生きていける。神が出しゃばる時代はとっくに終わってたっていうのにさ。舞台から退場しなよ」

 

 放っていた円盤を全て回収する。体の内側から力が湧き出してくる。人の体という小さな器にはとても収まりきらない。それが溢れださないように、荒御魂で強引に押さえ込む。

 剣を構える。ぶっちゃけ天の神側の武器なわけだけど、別にいいよね。僕に渡したのが運のつきってことで。

 天皇家が代々受け継ぎ、伊勢神宮に奉納された三種の神器。レプリカとかあったりするけど、源平合戦でオリジナルが欠けたりしたけど、世界の理を書き換えた時に回収した。どさくさに紛れて、ね。何も言われなかったから僕の物ってわけ。

 

「サクッと終わらせたいね」

 

 剣改め天叢雲剣を構える。吸収した力をそこに集め、剣の強度を増幅させる。蠍座の尾が時間差で5本飛び出してくる。それを躱しながら、直撃しそうになる尾を針ごと両断。進路を作ってそこを直進。

 次に射手座の矢が雨のように降り注いでくるけど、それは八咫鏡で吸収。遠距離は意味ないって理解してるのかな。そこまで馬鹿じゃないと思うんだけど。

 

【貴様の限界は近いだろう?】

「! 意外とやり方が陰湿だね」

 

 煩い鐘がなればすぐさま八尺瓊勾玉に力を注いで投げつける。爆弾マジ便利。

 雷撃を吸収しつつ、降り注いでくる爆弾たちに勾玉をぶつけて爆破させる。爆風の中からドリル。剣で両断しようとして、起動を逸らすことに変更。横から迫っていた別のドリルにぶつけさせる。

 どうやら他の箇所への攻撃はやめて、僕一人に集中してるらしい。反逆する自分なんて気持ち悪いもんね。ドッペルゲンガーじみてるし。それはそれで好都合だ。思いっきり破壊してやりたいんだから。全力の天の神を潰してやりたい。

 

「思考が荒々しくなってきたな〜」

 

 吸収すればするほど、戦闘が続けば続くほど、荒御魂がその存在を主張してくる。どれだけ戦闘意欲があるのやらって感じ。

 煙幕が張られる。黒い煙に包まれ、上から別の攻撃が飛んでくるのを感じた。これは不味い。

 

【身の程を知れ】

 

 大規模な粉塵爆発。その範囲から抜け出そうにも、背後から飛んできた水球に捕まってた僕は逃げられなかった。反射板って水球も反射できたとはね。

 

「服がボロボロなんですけど!」

 

 体もボロくなったんだけどね。服が焼け落ちた箇所から、火傷してる肌が見えるし、場所によっては血がこびりついてる。流れず、肌に張り付いていて、大変グロテスク。

 上空に熱源が発生する。獅子座お得意の炎の玉。だけど、そのサイズは獅子座のものを大幅に上回っている。スタークラスターのやつよりも大きい。理を書き換えた時の大きさより、一回り小さいくらいか。

 

「デカくしようと、僕には関係ないよ?」

【受けきるであろうな。だが、その後はせいぜい5分も保つまい】

 

 あらやだこのお祖母さん。勝った気でいらっしゃる。たしかに、僕はさほど天に近づけてないけど、まだ一撃も与えられてないけど。だからこそ天の神に勝てる。

 放たれた巨大な炎の玉を受け止め、少々時間がかかったけど、それをしっかり吸収することができた。体が内側から砕けそうだ。でも、どうにかなる。

 

「あはははは! 天にいながら視野狭いね」

 

 神樹から膨大なエネルギーが発生しているのが分かる。それが一つへと収束していく。小さな器に。

 

【……まさか……貴様の狙いは!】

「いやいや。僕の目的は天の神を殺すことだよ。撤退させるのではなく、ね」

 

 神樹の力が友奈に集まった。満開……いや大満開ってところか。たしかにあれなら天の神に一発かませられそうだ。

 

「生きたいんだ!!」

 

 ロケットのように友奈が天の神目掛けて飛び立つ。天の神がその迎撃のために光線を放つ。そのチャンスを見逃す理由なんてない。僕も天の神へと切迫する。飽和する力でブーストかけ放題。天叢雲剣にもブーストかけまくり。

 天の神が僕のことで見誤ってることがあるとしたら、僕が武器にかけられるブーストに上限があると思っていたことかな。もちろんそんなものはない。ただ単に、力を武器に奔流させ過ぎると、刀身が長くなって振り回しにくいから抑えていただけ。そして今はそんなことを気にしなくていい。

 切っ先を天の神へと向け、飛んでいきながら剣に力を注ぎ続ける。一撃で殺すためには、それだけ威力を増幅させないといけないから。僕の方にも光線が放たれる。むしろ、僕の方が威力でかいね。その分、友奈の方の威力が減ったらしい。

 

「勇者は……根性ぉぉぉ!!」

 

 勇者たちの力も集まり、友奈は光線を跳ね除けて先に天の神へと到達する。

 

「勇者ぁぁパァァァァンチ!!」

 

 友奈の右ストレートが天の円盤に放たれた。人類側が持つ全ての力を収束させたその一撃は、天に浮かんでいた円盤を破壊するには十分だった。

 

「ナイス友奈!」

 

 光線が消え、遅れて僕は友奈の横を通り過ぎる。円盤が完全に姿を消す前に、それを介して天の神本体がいる座標に飛ぶ。狙いは狂わずそこへと至り、天の神へと一直線に突っ込む。

 

「遅い!」

 

 攻撃が放たれる前に天叢雲剣を射出。剣が刺さり、一瞬の硬直のうちに再度掴んで残っている力全てを流し込む。天叢雲剣の刀身から全方位に光が放たれ、視界は瞬く間に白く覆われる。その直後に鼓膜を突き破るほどの轟音が響いた。

 天の神の居場所は、友奈や東郷が来たことのある灰色の空間。正式名称は高天原。今まさにそこで渾身の一撃を放ったわけで、視界が回復した時には高天原が消えていた。

 僕は今そもそも空に浮かんですらいない。地に足をつけている。

 

「──!」

 

 何かが聞こえたような。あぁそうだ。耳がイカれてるんだった。治さなきゃ。

 

「まーくん!」

「友奈。お疲れ様」

「まーくんこそ。……ありがとう」

「何が?」

 

 まだ大満開の姿の友奈と向き合い、お礼を言われたことに首を傾げる。僕は友奈に感謝されるようなことをしていない。むしろ謝らないといけない。神婚という選択肢を突きつけられることは予想できてたし、それを言わずに利用したのだから。

 天の神にとって高天原はホームグラウンド。そこで戦ったらどういう策を講じても勝てない。出てきてもらわないといけない。そのために、友奈を利用しただけなんだ。

 

「ずっと守っててくれたから。祟りも抑えてくれて、みんなも守ってくれた」

「友奈って偶に都合のいい解釈するような……。祟りはたしかに抑えてたけど、あれは僕が天の神の力を吸収できるかの確認も兼ねてた。それと、別に誰も守ってないよ」

「ふふっ、まーくんって嘘下手だね。私知ってるよ? まーくんはみんなが好きで、そのためなら頑張れちゃう人だって」

「いや、だから……なんか面倒だからいいや」

「めんどくさがられた!?」

 

 むず痒い。どういうふうに見たらそんな評価になるんだ。いや別にみんなのことが嫌いなわけじゃないけどさ。

 

「それに、やっぱりみんなには謝らないといけないし、友奈には特にね」

「? みんなには記憶のことだとして、私には何? まーくん、私には(・・・)何もしてないでしょ?」

「まぁね」

 

 友奈の記憶は一切操作してない。高天原で出会い、友奈を外に帰すついでに僕もこっちに戻ってきた。それに伴い、家がない僕は友奈と話をし、居候させてもらうことになった。都合が悪いから、他の人の記憶は弄った。友奈には合わせてもらってただけ。

 

「だから、これから(・・・・)のことで謝らないといけないんだよね。賭けは終わってないから」

「これから? えーっと……っ!! なんで……樹海化が解けてないの……?」

「そりゃあ敵がここにいるからね。確実に倒さないと解くわけにもいかないじゃん? あぁ大丈夫。壁の外は先に元の世界に戻ってるから。友奈の祟りも消したし」

「嫌……だよ……。なんで……、なんでまーくんと戦わないといけないの!?」

 

 友奈は優しすぎるなぁ。夏凜とか園子あたりなら、割り切って武器を構えてくれるんだろうけど、天ノ逆手を今装着している友奈にやってもらうのが最適だし。

 

「天の神の大部分は既に消滅した。あとは僕の体に残ってる部分を壊すだけでいいんだよ。人間の体だし、比較的簡単に破壊できる。天の神が残ってしまえば、また未来で人類が滅亡しかねない事態になるかもしれない。その可能性を今ここで完全に消滅させるんだよ」

「いや……だってそれって……! まーくんが死んじゃうってことなんでしょ!? そんなのやりたくないよ!」

「僕は300年以上前の人間だし、一回死んでるんだよ? 成仏させるって思えばいいんだよ」

「違う、それは違うよ!」

 

 瞳を揺らがせながら、それでいてしっかりとこっちを捉える友奈。その声は震えてなかった。

 

「まーくんは生きてる。手をぎゅってしてくれた時も、今朝抱きしめてくれた時も、まーくんは温かくて、私の心もぽかぽかした。それはまーくんが生きてるからだよ! 他に道があるはずだから、違う方法を探そうよ!」

「残念ながら時間がなくてね。天の神の本体は消せたけども、意識は今弱ってる状態で僕の中にいる。僕の意識が天の神を抑えられている間に、終わらせないといけないんだよ」

 

 首をブンブン横に振って拒否する友奈。説得はできなさそうだし、たとえ戦闘に入ろうとしても、友奈は防ぐだけで攻撃してこないだろうな。そうなってくると……うーむ……。

 

「──まーくんは大切なところで詰めが甘いよね」

「ぇ……」

「……友奈(・・)

 

 横から歩いてくるのは、300年前の初代勇者の一人である高嶋友奈。僕が死なせたくなくて、神樹の中で眠ってもらっていた彼女。放課後に準備はしていたけど、間に合ったようだ。

 自分にそっくりな人が出てきて、結城の方の友奈が目を丸くしてる。口をパクパクさせて、何も言葉が出ないって感じ。それを見た友奈が、クスッと笑いながら結城の方に近づく。

 

「結城友奈ちゃんだよね?」

「あ……はい。あなたは……」

「高嶋友奈です。西暦の時に勇者してて、まーくんの彼女だよ」

「へっ!?」

 

 今日一番の驚き顔。そんなに驚くことなのかな。ちょっとショックなんだけど、……ってあれ? なんで僕睨まれてるんだろ。結城さんのことは分からないなぁ。

 

「ごめんね、結城ちゃん。まーくんの我儘に付き合わせちゃって。あとは私に任せて」

「あとはって……」

「私もまーくんも、本来ならこの時代にいない人間。違う時代の人のことは、同じ時代の人で対応しないとね。若葉ちゃんもそのつもりだったわけだし」

 

 友奈が結城の両手を握る。話についていけず混乱していた結城も、友奈が何をしようとしてるかすぐに理解して静止の声をかける。だけど友奈が止まるわけない。決断したらブレない。それが臆病な友奈の特徴なんだから。

 

「篭手も返してもらうね」

「待って!」

「ごめんね。急がないといけないから。よろしく牛鬼」

「っ!? 駄目だよ牛鬼! 何もしないで!」

 

 結城の精霊であるはずの牛鬼が、そちらの声を聞かずに友奈に従う。二人が桃色の光に包まれ、それが収まった時には姿が変わっていた。結城は神婚の儀のための正装に戻り、友奈は酒呑童子を憑依させた時の姿に。牛鬼がいなくなってるし、反動をカバーするのだろうか。何にせよ、大満開の力を変換させたんだ。そのパワーは同等と考えていい。

 

「……っ! 友奈、ごめん……ちょっと急がないと」

「うん。分かった。すぐに終わらせるから、まーくんも負けないで」

「やめて、二人ともやめて!」

「今までありがとう友奈。みんなに謝っといて。それと、みんなのために頑張れる友奈。結構好きだったよ」

「まーくん……、浮気?」

「違う!」

 

 結城を巻き込むわけにもいかず、僕は他の勇者たちとは反対方向に跳ぶ。友奈も当然追いかけてきて、十分距離を取ったところで本気の右ストレートを叩き込んでくる。地面に叩きつけられ、20メートルは沈んだ気がする。クレーターもできてるし。

 

「ガハッ!」

 

 天の神の力を持っているとはいえ、体は普通の人間と変わらない。骨は確実に砕けるし、衝撃で内蔵もやられる。口やら目やら鼻やら、いたる所からドバドバ出血する。それに、友奈の武器は天ノ逆手だ。神への怒りが呪いという形で現れる。それで殴られたから、天の神の力を内包する体の内側にもダイレクトにダメージが入り込む。

 笑えるぐらい相性が悪い(良い)ね。これなら、目論見通り天の神を完全に消せる。

 顔に雫が落ちてきた。雨が降ってきたのか。いや違う。樹海化している状態で雨なんて降らない。

 重たい瞼を押し上げると、倒れてる僕に馬乗りになっている友奈が涙を流してた。

 

「やっぱり……無理だよ……。私、まーくんを……殺したくないよ……!」

「友奈……」

 

 一撃で終われば良かったのか。……そうじゃないね。友奈に罪を背負わせるのがいけないんだ。

 内側にいる天の神は、僕に死なれたら困るから早急に勝手に体を治してくる。今はそれがありがたくて、動くようになった右手を友奈の頬に伸ばす。涙を止めてあげることはできない。僕は代案を示せなくて、どうすれば丸く収められるのか分からない。

 

『馬鹿たれ勝希! 女の子を泣かせるなと言うたじゃろがい!』

「「!?」」

 

 突然聞こえてきた爺ちゃんの声に、僕らは体をビクッとさせた。辺りに目を向けてもその姿ない。というかクレーターができてるから土しか見えない。いったいどこから声が聞こえるのか。友奈の左手に着けられている篭手が激しく明滅した。やたらと存在をアピールしてくる。

 この自己主張の激しさ、間違いなく爺ちゃんだ。

 

「なんでそんなとこいんの!?」

『念の為の保険じゃわい。生きてはおらんぞ。幽霊じゃ幽霊。アイムゴーストライター』 

「ライターはいらない。じゃなくて!」

『代案を示してやるわい』

「ふぁっ!?」

 

 なんでそんなの用意できるのさ。だって、天の神は僕の中にいて、僕が死なないと天の神を完全には消せなくて。

 

『何度も教えたじゃろ。いついかなる時も遊び心を持てと』

「いやこれシリアス場面なんですけど!」

『馬鹿め! シリアスだからこそ遊び心じゃ! 真面目な時であろうと、心に余裕を持て。その手段として、遊び心を持てと教えたんじゃい!』

 

 いやその説明は聞いたことないんですけど……。あれか、その辺は自分で考えて理解しろってことだったのか。何でもかんでも与えられてちゃいけない、とかそんな考えのやつ。

 僕もまだまだ視野の狭い子どもというわけか。

 

『トラップに嵌めた時は楽しい。それが神ならなおさら。その仕掛けは既に済ませておった。友奈ちゃん、左手で勝希を思いっきり殴ってやれ』

「左手で? ……あっ!」

「え、僕だけ分からないんですけど」

「まーくんは分からなくてもいいの。ありがとうお祖父ちゃん。思いっきりやるね!」

「また痛い思いするやつ」

 

 明滅が止まり、淡く光る左手を友奈が振りかざす。理屈とかの説明なしに、とりあえず僕は殴られるらしい。それがもう一つの解決策のようだから。

 

「友奈。きっと大丈夫だから」

「うん……!」

 

 僅かに震えていたことに気づき、声をかけた。手の震えは止まったけど、瞳は潤んだまま。これも一種の賭け。それが失敗したらしい僕が死ぬだけだから。でも、それしか道がないから、友奈は意を決して拳を振り下ろした。

 

 

 

 


 

 

 

 

 頬を誰かに突かれる。それで目を覚した僕は、目を開けると同時に体を起こす。ことはできなくて、起き上がろうとした瞬間抑え込まれた。

 

「なぜに!?」

「おはよう、まーくん」

 

 僕の両肩に手を置いている友奈が、上から声をかけてくる。僕は友奈を見上げる形になっていて、現状を思い出すのに苦労する。なかなか思い出せそうにないから、友奈に聞くとしよう。

 

「おはよう友奈。それでこれはどういう状況?」

「まーくんが眠そうにしてたから、膝枕してあげてたんだよ。頬をついてみたら起きちゃったけど」

「なるほど。どうりで寝心地がよかったわけだ。ありがとう友奈」

「どういたしまして」

 

 今度こそ起き上がり、友奈にお礼を言う。

 風が吹いて、ピンクの花びらがいくつも飛んでくる。桜の花びら。そういえば今はお花見中だっけな。

 

「起きたか勝希! タマが釣ってきた魚を食べるぞ!」

「私が捌いてみたので、よかったら一口どうぞ」

「よかったらじゃなくて絶対食えよー! あんずが捌いたんだから美味いぞ!」

 

 どういう方程式なんだか。アウトドアが得意なタマなら、魚ぐらい捌けただろうに。共同作業ってことかな。

 

「他にもたくさん用意しておりますので、みなさんで食べましょう」

「ひなた、重箱が多くないか?」

「みなさんよく食べますから、これくらいは必要かと」

「一人一箱はいくらなんでもおかしいだろ!?」

「乃木さんなら……二箱いくんじゃないかしら」

「そんなに食べないぞ!?」

 

 いやー、若葉ならあるかもしれない。食事も鍛錬の一つだ、とか言ったら二箱食べるかもしれない。僕は絶対ごめんだね。

 レジャーシートに座ってるみんなのところに行こうとしたら、友奈に手を引かれた。後ろを振り向くと、ちょっと不満気味な顔。何かやらかしたっけな。何もないはずなんだけど。

 

「ぐんちゃんとキスしたんだって?」

「ん"っ!」

 

 やらかしてましたね。はい、これは言い逃れできませんよ。友奈が知ってるってことは、ちーちゃんが白状したってわけだし。裏付けは完璧です。アリバイなんてありません!

 焦りまくって目を泳がせる僕の頬を、友奈が両手で挟む。次の瞬間唇に柔らかいものが押し当てられた。数秒間当てられ、離れた友奈は頬をほんのりと赤く染めている。

 

「もう他の人にはしちゃ駄目だからね?」

「はい……」

 

 ニコリとはにかんだ友奈が、僕の横を通り過ぎてみんなの場所に行く。なんとも形容し難い胸の高鳴りを感じ、「これが幸せなのかな」とか、「恋愛ってこれか」とか無難な言葉を当てはめてみる。

 友奈の笑顔が脳裏に焼き付き、少しでも気を抜いたら顔が熱くなる。少ししたら落ち着くかと思ったものの、それが訪れそうにない。熱を冷ますのを諦めた僕は、舞い落ちる桜に包まれるみんなの下へと歩んだ。

 

 

 




 
 最後まで読んでいただいてありがとうございました。
 園子が上里家と繋がりを持った経緯を書いている作品もゆっくり投稿中です。(宣伝)
 のわゆパートのあとがきで伏せ字にしてたやつを載せます。一切伏せてない回もありましたし、そこの分は飛ばします。

【2話】 今日初めてマーくんに膝枕した。若葉ちゃんにやらせようとしてるのを見たらムッてなっちゃって、本当は部屋でお説教するつもりだったのに。でも、マーくんの様子を見てたらそうする気にならなかった。みんなは気づいてなかったし、私もちょっと違和感があるってぐらいだったけど、マーくんはどこか暗くなってた。私が思い当たるのは一つだけ。きっとあの事だ。マーくんは特別な存在で、嫌われ者。それをふと思い出しちゃったんだろうね。
 勇者御記 二〇一八年七月
  高嶋友奈

【3話】 佐天勝希くん。高嶋さんと同じでよく話しかけてくれる人。それにいろいろな遊びに私達を誘ってくれる。子供っぽいかもしれないけど、新鮮だし彼の笑顔は純粋でこっちも笑顔になる。彼といると嫌な事も辛い現実も忘れられる。
 勇者御記 二〇一八年七月
  郡 千景

【4話】 佐天はふざけてるように見える。実際にふざけて行動することもしばしばあるが、彼の行動理念は常に「笑顔」だ。みんなが笑っていられる状態を彼は心から望んでいる。そしてそれに助けられている。世界は滅亡寸前で、敵は強大。そんな時こそ悲観的になってはいけない。希望は必ずある。
 勇者御記 二〇一八年八月
  乃木若葉

【6話】 今日は四国に移動してから初めての戦闘だった。不安だったけど、みんなで力を合わせればしっかり倒せた。若葉ちゃんがバーテックスを食べたのはびっくり。それを聞いたマーくんがバーテックスを料理するって言うからメモを没収した。変なことはしてほしくないからね。

 勇者御記 二〇一八年九月
  高嶋 友奈

【7話】 マーくんが隣りで笑ってくれてる。それだけでどれだけ助けられてることか。あの日のことはマーくんも覚えてた。でも、マーくんがいたから敵は一度も私達を襲撃してない。そのことにマーくんは気づいてないし、その原因だと思われることだけは忘れてる。どうかそのままでいてほしい。あの時のマーくんは人とは思えない気配があったから。
 勇者御記 二〇一八年 九月
  高嶋友奈

【8話】 佐天先輩はムードメーカーというか、話題とかイベント事を用意してくれる。おっちょこちょいな所もあるけど。そんな佐天先輩と友奈さんは仲が良い、というか睦まじい。あれで付き合ってないのが不思議。

 勇者御記 二〇一八年十月
  伊予島杏

【9話】 佐天には驚かされてばかりだ。それにバーテックスも。あいつはどう見ても人に近かったのにうどんに興味を示さなかった。それを知った佐天がなんか気にしてたな。たしか、植物とか人以外の動物をバーテックスが食べたかどうかを。言われてみるとたしかにどうなんだろうなってなった。

 勇者御記 二〇一八年十一月
 土居球子

【11話】 佐天くんとの関係はある意味歪なものね。だけど、私達はそれが心地よいと思ってしまう。溜め込むことは良くないなんてザラな話。聞き流していたけど、実際助けられるものね。でも、佐天くんの秘密が分かるわけでもない。肝心なことは高嶋さんしか知らない。  

 勇者御記 二〇一九年一月
  郡千景
 
【12話】 今日は驚きだったな〜。まさかムードメーカーの勝希が、落ち込んでる人を励ますのが苦手だなんて。たいていそういう人って励ますのも上手いと思うんだが……。でもあんずがやってくれたからな! さすがあんずだ!
 それにしても、なんで勝希は嫌われてるんだ。

 勇者御記 二〇一九年一月
 土居球子 

【15話】 まさか大社の人が、まーくんの外出許可を出すなんて思ってなかった。勇者も巫女もいなくなるから、仕方ないことだとは思うんだけど、それでも不安。四国の外は神樹様の結界もなくて余計に危ない。基本的に私が側にいないとだね。

 勇者御記 二〇一九年二月
 高嶋友奈

【20話】 ちょっと強引だったけど、あの二人はこういう場を設けないといけないと思った。それはそれとして、勝希先輩の謎は深まるばかりだ。丸亀城にいること。それも含めて考えると、少しずつ点と点が繋がりつつある。答え合わせはやっぱり友奈さんが相手だよね。

 勇者御記 二〇一九年 三月
 伊予島杏

【22話】 今日になってまたあの声が聞こえるようになった。聞こえないでよかったのに。脳内に響かせてくる。それをどうすることもできなくて、ただ無視するしかない。
 それはそれとして、杏の考察を元に考えたら、どうやら僕は何かを忘れているようだ。
 勇者御記 二〇一九年 四月 
 佐天勝希

【24話】 なぜ守るべき人々に非難されないといけないのか。
 天の神が人類を粛清するためにバーテックスを生み出したのなら、今は少しだけ分かる気がする。
 だけど、私を繋ぎ止めようとしてくれる人もいる。それなのに……ごめんなさい、高嶋さん。

 勇者御記 二〇一九年五月
 郡千景

【25話】 友奈から勝希のことを託された時、限られた情報だったとはいえ、耳を疑ってしまった。まさか友奈の口からあんな言葉が出るとは。そして、後に知ったことだが、まさか勝希が天の神の子孫だったとは……。

 勇者御記 二〇一九年 五月
 乃木若葉

【26話】 私は勇者、郡千景
 群ではなく郡
 よく間違えられる
 血液型はA
 好きな食べ物はうどん。鰹もわりと好き。
 ゲームは得意、ガンシューティングとか。
 誰でもいいから覚えていて欲しい。
 私は勇者、郡千景

 勇者御記 二〇一九年五月
 郡千景

【28話】 まーくんは私にとって唯一無二の存在で、彼がいない日常なんて味わいたくない。早く帰ってきてほしいし、せめて連絡ぐらいほしい。
 神樹様は神々の集合体で、その中には天の神側にいた神様もいるんだとか。それなら、まーくんはいったいどうなってしまうのだろう。

勇者御記 二〇一九年 七月
 高嶋友奈

【29話】 若葉ちゃんたちと話していて、見落としていた謎があることに気づいた。それは、まーくんがなぜ天の神に赦されるのかということ。血筋であるなら、天皇家も赦されるはず。でも現実には違うくて、神に近づいてるならなおさら赦されないはずで。
 私の知らないまーくんの秘密が、まだあるみたい。

勇者御記 二〇一九年 八月
 高嶋友奈
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