遊び心は大事   作:粗茶Returnees

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エピローグ 結城友奈

 

 私たちの戦いは終わった。天の神の祟りもなくなって、私はみんなと春を迎えられてる。風先輩が高校に進学して、勇者部の部長は樹ちゃんに。新入生の中から勇者部に入部してくれた子が一人いて、私たちもそれにはすっごく安心した。樹は同学年で同じ部の人がいなかったから、私たちが卒業したら一人になっちゃう。その心配が解決したのは嬉しい。

 

 バーテックスの脅威はなくなったんだけど、神樹様もいなくなって結構大変みたい。難しい話はよく分からないんだけど、今までの生活を支えてた神樹様のエネルギーがなくなったっていう話は、大変なことだって分かる。

 

 神樹様がいた場所から石油がいっぱい出るようになったみたいだけど、これから何年か厳しい生活になるって大赦は予想してるみたい。それも打開策を見つけられるかにかかってるんだとか。大赦の上の人たちがいなくなって、園ちゃんの家とか上里家の人とかが頑張って纏めてるんだとか。

 

「友奈さんに依頼が来てますよ」

 

「私に?」

 

「ソフトボール部の助っ人の依頼ですね。日程は今週末だそうです」

 

「今週末か~。今週末は予定なかったような」

 

「友奈ちゃんの今週末の予定は特にないよ。何もなかったら押し花に使う花を探しに行くって予定だけだね」

 

「じゃあ大丈夫だね!」

 

「なんで東郷が詳しいのよ……」

 

「これが愛だよ。にぼっしー」

 

 たしか来週が保育園に行く日だったよね。久しぶりのソフトボールだし、夏凜ちゃんにちょっと練習に付き合ってもらうのもいいよね。

 

「樹ちゃん。たしか新聞部と打ち合わせがあるんじゃなかったかしら」

 

「あ、そうでした! 時間は……急げば間に合うー!」

 

「新聞部! いっつん部長私も行くー!」

 

「部長対談でしょうに。園子は留守番よ」

 

「夏凜さん。園子さんもう行っちゃいましたよ」

 

「なっ! なんちゅう俊敏さなのよ! 私としたことが!」

 

「あはは……、まぁ園子さんも迷惑なことはしませんから、私も行ってきます」

 

「行ってらっしゃ~い!」

 

 みんなと手を振って樹ちゃんを送り出す。新聞部って聞いたら園ちゃんが走っていくのも仕方ないよね。上里くんに会いに行く口実にできるから。……ちょっと羨ましいかな。

 

「友奈? 何か悩み事でもあるの?」

 

「友奈ちゃんに悩み事!? そんな……いつも見ているのに気づけないだなんて!!」

 

「あんたは落ち着け」

 

「ありがとう夏凜ちゃん、東郷さん。でも大丈夫だよ。悩み事とかじゃないから」

 

「そう?」

 

「うん」

 

 みんな私の小さな仕草にすぐ気づくようになった。あの事があってからの変化の一つ。それは嬉しい事なんだけど、みんなちょっと心配性になったかな。

 幸せなこと。こんなに見てくれてて、こんなに心配してくれる友達がいるのは、すっごい幸せなことなんだ。

 でも、その『幸せ』って言葉には少し胸を刺される。それを考えるといつも頭がチリチリして、胸がちょっぴり苦しくなる。

 

「まーくん……」

 

 家に帰って、自分の部屋でぽつりと愛称を呟く。家にある空き部屋は空き部屋のまま。そこは荷物とかが置かれてるだけ。でも、私の記憶は違う。ここにはたしかにまーくんの部屋があった。数カ月だけだったけど、一緒に生活した彼の部屋があった。

 

 もう誰も覚えていない。私しか覚えてない。佐天勝希という少年が、私たち勇者部と一緒に活動していたことを。あの戦いの場にいたこと。私のために奔走してくれてたことを。

 誰も覚えてない。覚えてるのは──私だけだ。

 

「何が正しかったんだろうね」

 

 園ちゃんから貰ったクッションを抱きしめてベッドに腰掛ける。私は知らないことが多い。分からないことだらけだ。

 人類が滅びる寸前まで追い詰めた天の神は悪いのか。……原因は人にあったんじゃないかって話もある。それに、あれがなかったら私はまーくんと会えてない。300年の時を超えた彼と会うことはなかった。この気持ちを抱くこともなかった。この気持ちを知れたことは嬉しいし、なかったことにしたくない。

 

「でもね、置いていかれるのは寂しいよ」

 

 消え入りそうな声だった。言葉にすると胸がぎゅって苦しくなる。

 この事を相談できる相手なんていない。私の好きな人を覚えてる人がいないから。

 これを解消してくれる人もいない。彼はこの時代の人じゃないから。

 

 元々みんな記憶を操作されて、彼がこの時代の人だと認識してた。でも私はあの世界で出会った。だから操作されてない。操作されてないからこそ、彼がいなくなっても彼のことを忘れていない。

 自分のことの優先度を下げた(・・・・・・・)賭けをしてくれたことも覚えてる。

 

 

 

 

 

「ねぇ友奈。賭けをしてみない?」

 

 あの日まーくんに持ちかけられた賭け。体を重く感じてた私を支えてくれながら、祟りを抑えてくれてた彼との賭け。

 

「人が自分たちで生きていく世界にしてみない?」

 

「……どういうこと?」

 

 机に向かっていた私は、まーくんと並んでベッドに座った。いつもと違う雰囲気がして、だけど怖い感じはなかった。

 

「天の神を恐れなくていい。代わりに神樹の加護もない。自然の資源を使って生活していく。そういう世界に戻すんだよ。大赦が目標にしてることと少しだけ似てるね。あそこは奪われた世界を戻すってのが目標だから」

 

「それと私はどう関係してるの?」

 

「天の神を退場させるから、友奈のその祟りも治せる。単純に話しちゃうと、神じゃなくて僕を信じてほしいって話かな」

 

 そう言うまーくんは少しだけ寂しそうだった。今にして思えば、まーくんはずっと独りだったんだよね。時代が違うってことが私たちの間に壁を作った。楽しんでる反面、元の時代の友達とそうしたかったって思いがあったんだと思う。だから、私にこの話を持ちかけた時もそんな表情だった。

 

 

 

 

 まーくんは予定を変えてたんだと思う。全部を教えてもらったわけじゃない。彼の目的のすべてを知ったわけじゃない。だけど、まーくんは自分のことより私を優先してくれた。そう分かるのは、まーくんのことを知れたからだと思う。普通の生活が大好きな彼が、時代を無視して普通の生活を送れてた一時期。たぶん、高嶋ちゃんとこの時代を生きたかったんだ。

 神樹様の力を取り込んで、天の神を倒す。そんな感じのことを考えてたと思うんだけど、まーくんは結局それをしなかった。本当はできたはずのことなのに。

 

「まーくんのおかげで天の神が来る前に結界が張られた。神婚は保険感覚だったのかな。神樹様を取り込まなかったのは、私たちを信じてくれてたからかな」

 

 独り言に反応する人はいない。牛鬼もいなくなった。やっぱりちょっと寂しいね。もし牛鬼たちが残ってたら、牛鬼たちは彼のことを覚えていたのかな。

 

「いや~、覚えてないと思うよ」

 

「え? …………まーくん……?」

 

「やっほ~友奈。久しぶり」

 

 目の前にまーくんがいる。いなくなったはずなのに。私は何が起きてるのかわからなくて、頬を引っ張ってみる。痛みがない。

 

「……夢なんだ」

 

「似た感じかな。挨拶をまともにできてないねって言われてさ、こうして会いに来たわけ。後処理もしようかと」

 

「後処理……っ! 嫌だよ! 何もしなくていいよ!」

 

 まーくんに駆け寄ってすがりつく。そんな悲しいことを言わないでほしい。

 

「だけど友奈が辛いでしょ? 元から存在しなかったはずの人間との記憶だよ?」

 

「辛くないよ! 寂しいけど……だけどこれは本当の事だもん! 私にとって本当の事で、私のこの気持ちも本物で! だから、お願い……消さないで……!」

 

「……友奈」

 

 ぽんと頭に手を置かれる。記憶を消されるのかと身構えたけど、彼はゆっくりと頭を撫でただけだった。

 

「ごめんね。利用してて。みんなを騙して」

 

「それでも……まーくんは私を護ってくれてた」

 

「それは友奈に死なれたら困るというか……。寝覚めが悪いというか」

 

「まーくんは嘘が下手だよね。高嶋ちゃんと重ねてたんじゃないの?」

 

 まーくんの手がピタッて止まる。私の予想が当たってたのかな。意地悪なこと言っちゃってるかな。

 

「正直に言うと、重ねてた時もあったよ。違うって分かってたけど、容姿はそっくりだから」

 

「容姿はってことは、性格は違うんだね」

 

「波長は同じだけど、性格の違いは出てたよ。だから、ちゃんと友奈は友奈として見てた」

 

「うん」

 

 その言葉に嘘はない。なんとなくそう信じられた。

 それが嬉しかった。私を私として見てくれてたこと。その上で私のことを優先してくれてたこと。傍にいてくれたこと。

 

「ありがとう」

 

 自然と言葉にできた。あの日言えなかったことを。

 見上げると驚いたように目を丸くしてて、私はくすりと笑った。何もおかしなことはないのに、そんな反応されるなんてね。

 

「私も言えてなかったから。会いに来てくれてありがとう。助けてくれてありがとう」

 

「僕が何もしなくても、友奈はきっと助かってた。場を引っ掻き回しただけだよ」

 

「……もしそうだとしても、まーくんがいないともっと祟りに苦しめられてた。痛みを和らげてくれてたのは、まーくんなんだもん」

 

「友奈には敵わないというか、ペースを崩されるよ」

 

 全然嫌そうじゃない。穏やかに笑ってくれて、私もつられて笑顔になる。

 この時間はそう長く続かないもので、周りに温かい光が生まれだした。

 

「ありがとうまーくん」

 

 背を伸ばして唇に触れる。

 何も感じないのに、たしかに触れたんだとわかる。

 何も感じないのに、心がぽかぽかしてくる。

 

 私は気づくのが遅かったんだね。

 

「──大好きだよ」

 

 何かを言ってるようだけど、それを聞き取ることはできなかった。

 それでも伝わってるんだよ。

 

 さようなら、佐天勝希くん(私の初恋)

 

 

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