遊び心は大事   作:粗茶Returnees

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4話 水遊びは何がいいかな

 

 たしか今日も定期連絡があるはずだ。この前はシャボン液精製の研究に没頭していたせいで忘れてしまっていた。せっかくみとりんが参加してくれたというのに。悪いことをしてしまった。若が代わりに謝罪して、今回の通信で僕とみとりんも参加するという話で落ち着いたらしい。若にはもう謝ったし、みとりんには通信が始まったらすぐに謝ろう。そう決めて先に若と合流して一緒に本丸へと歩いてる。

 

「そんなわけで僕にお小遣いちょうだい」

「いきなり何の話をしてる? お小遣いなんて渡したことないし渡さないぞ」

「若のケチ」

「なぜだ!?」

 

 流れでいけるかと思ったけど、全然駄目だった。シャボン液研究で予算オーバーしてしまったからお小遣いが欲しいのに。まぁでもいっかー。今はもう8月末で、今月の主たる出費はもう済んでるんだから。……やっぱりお金は欲しいや。

 これくらいの軽口を言いながらじゃないと、僕は本丸までの坂を登れないよ。一人だけの時はそうでもないんだけど、誰かといるならやっぱり会話したい。ワイワイするほうが好きだからね。若からは用件がある時しか話してくれないけど、こっちから話を振ると乗ってくれる。不器用なリーダーながらに仲間を大切にしてるらしい。刺々しさがまだまだ残ってるけどね。

 

「やっぱここからの眺めはいいよね〜」

「眺めを堪能するのは構わないが、すぐに通信を始めるから戻ってこい」

「はいは〜い」 

 

 てっきりもう少し時間があると思ったんだけど、僕との会話のために歩くペースを遅くした分時間がギリギリなんだとか。言葉を返してもらってるから何も言えないけど、時間のことは言ってほしかったね。時間ピッタリ皆勤賞の若が時間通りに始められなかったら向こうは心配するだろうから。

 通信機の目の前に座る若の隣にお邪魔して開始を待つ。姿勢を正して時間になるのを待つ若の隣は落ち着かない。僕は若のように毅然とできないからね。ジッとしていられないのさ。体を動かしたい。そう思ってソワソワしてると通信が始まった。時間ピッタリ。うたのんも皆勤賞だね。

 

「うたのんもキッチリするよねー。結構フリーダムな印象あるのに」

『佐天くんほどじゃないですよ。ね? みーちゃん』

『私はどっちもどっちだと思うよ。佐天くんに会ったことはないけど、話してる印象だとうたのんと気が合いそう』

『ショッキング! みーちゃんにそう思われてるなんて……』

「さりげなく僕を最下層に押し込めたうたのんに僕はショッキングだよ」

「……せめて定時連絡を終わらせてからそういう話をしてくれ」

 

 出だしを僕が取ったらものの見事に話が脱線して始まったね。最初から脱線ってことは、初めからレールに乗ってなかったってわけなんだけど。暴走列車もいいところだよ。なんて会社と運転手なんだ。実際にあったら即刻逮捕で会社は潰れてるよ。僕には関係ない話だけど。

 

「佐天のせいで話がそれたが、こちらは特に変化はない。有事に備えて訓練をする日々だな」

「僕のせいなの?」

『そうですか。こちらも今のところ目立った変化はないですね。変わらず襲撃はありますが、私一人で迎撃できる程度ですし』

「スルーですか。天さん寂しいめう」

 

 構ってもらえないとか寂しすぎるよ。何のために僕は初めから通信に参加してると言うのさ。あ、みとりんに謝るためか。でも結局定時連絡を始められちゃってるから謝るタイミングなくなったんだよね。

 

「バーテックスに何か変化があったら教えてほしい。私たちは結界の外に出ることが許されていないから情報収集の手段がないんだ」

『わかりました。何か気づいたことがあったら報告します』

「いじけていい?」

『佐天くん。うたのんたちの話が終わるまで我慢して。終わったらいっぱい話そ』

「味方はみとりんだけだよ! ありがとうみとりん! 大好き!」

『えぇ!?』

 

 みとりんは本当に優しい子だよね。みとりんがいなかったら本当に二人にずっと放置されるだけだからね。通信機がもう一個ずつあればみとりんと二人で話せるというのに、世知辛い世の中だよ。こんな世界になっても通信できているだけありがたいことなんだけどね。ゴッドパワー様々だね。そもそもこうなってるのは神様のせいなんだけど。あ、でもその原因が何か分かってないや。僕らに何か原因があったのかも。

 僕が勢いでみとりんに大好きって言ったからってうたのん騒ぎ過ぎじゃないかな。『私のみーちゃんは渡さないわ!』じゃないよ。そういう意味で言ってるわけじゃないからね。だから若もスマホを操作して友奈と連絡取ろうとするんじゃないよ。僕が友奈にギルティパンチされるじゃないか。訓練の成果も出てきてて復帰に時間がかかるほど重たいパンチなんだから。

 

「冗談なノリは置いといて」

『ひどい……私とは遊びだったんだね!』

「みとりんそういうキャラだっけ!?」

『ふふっ、ちょっと揶揄ってみたくて』

「心臓に悪いよ……。こら若! 友奈に電話するんじゃない!」

「なっ! 私のスマホを返せ!」

『あっちは盛り上がってるわね〜』

『佐天くんといたらみんな明るくなるだろうからね〜』

 

 やったよ! 会ったことはないけど二人に褒められたよ! 僕が目指してる人物像に近づいているってことだよね。いやー嬉しいな〜。この調子で初対面の人でも笑顔にできるぐらいの人を目指そう。お笑い芸人になりたいわけじゃないけど、みんなを笑顔にできる人にはなりたい。ありゃ、スマホ奪い返された。

 

「そうそう若。みんなでできる遊びを考えたから後でやろうよ。今月はずっと暑さに負けてたけど、せめて月一で何かしたいし」

「暑さに負けてたのは主に佐天なんだけどな。食堂までの道すら諦めてたせいで高嶋に引きずられてたじゃないか」

「最初のうちはね。途中からは引きずられてるほうが余計に時間かかって暑いってわかったから自分で歩いてたでしょ」

「初めから歩け」

 

 若は正論しか言ってこないね。もう少しユーモアに溢れてくれてもいいのに。というかそうしてくれないと僕もネタが尽きて話が終わってしまうよ。僕が話をしなくなるなんてバーテックスがマシュマロになるぐらい異常なことだからね。ところでバーテックスって味あるのかな。ブヨブヨしてそうだし見た目通りマシュマロみたいな感じかもしれない。これはうたのんに検証を頼むわけにもいかないけど。

 

『あら暑さに負けてたんですか? 農作業をしておけば慣れますよ?』

「僕はうたのんみたいに農業王になりたいわけじゃないからパス。うたのんみたいにみんなを笑顔にできる人にはなりたいけどね」

『あはは、私はそんなに大した人間じゃないですよ』

『そんなことないよ。うたのんのおかげで諏訪の人たちは前を向けるんだから。私もうたのんは凄いなって思ってるよ』

「みとりんも僕と同意見だねー。そんなみとりんはうたのんが育てた野菜とかを全国に運搬するんだよね。最初は僕のとこがいいなー」

『もちろんそうするよ。いつか届けるね』

「うん。楽しみにしてるね」

 

 うたのんと諏訪の人たちが育てた作物。きっと美味しいんだろうね。いや、美味しいに違いない。だって丹精込めて育てられたんだから。そういうやつは総じて美味しいと相場で決まってる。先にメニューを決めて欲しい食材をみとりんに送ってもらうのもいいし、みとりんが送ってきた食材から料理を考えるのもいい。どっちにしても楽しみなことだよね。それがいつになるか分からないけど。

 うたのんが今何を畑で育てているのか。諏訪の人たちと協力してどれだけの数を育てているのか。今日の雑談はそんな話がメインだった。どんな人なのか分からない。話してるだけだから。でも、不思議とイメージは湧いてくる。きっとパワフルで破天荒だけど、実はちゃんと考えてる。そんな人な気がする。

 うたのんたちとの通信を終えて、諏訪の方角の空を眺めてから僕は若と一緒に本丸から出た。この後遊ぶのもいいし、明日に回してもいい。とりあえずおやつ食べたい。そうそう、ちゃんとみとりんに謝ったよ。罰はみとりんと一緒に配送だってさ。きっと楽しいね。

 

「それでいったいどういう遊びを考えたんだ?」

「おー? 若の方から聞いてくれるなんて珍しいね。そんなに遊びたい?」

「先に内容を知りたいだけだ」

「あはは、それって遊びたいって言ってるのと変わらないよ」

「むっ」

「考えたやつはもちろんみんなで遊んだ方が楽しいやつだよ。それに、訓練の一環とも言えるようなやつにしたんだ〜」

「そうなのか。それはありがたい」

「名付けて『水鉄砲大会』!!」

「は?」

 

 なんでこんな不評なんだろうね。遊びだけにならないようにちゃんとルールも決めているというのに。ルール説明は何回もするの面倒だからみんなを呼んでからにするけど。若の存在でひなを釣れるし、遊びの名称で友奈とタマも釣れる。そこからは芋づる方式でちーちゃんとヨッシーも釣れる。完璧な作戦だよ。

 さっそく友奈に連絡入れると即答で参加表明をしてくれた。ちーちゃんも連れてきてくれるんだとか。言わなくても通じたのかもしれないけど、友奈の性格からしてちーちゃんも誘いたいってことだろうね。次にタマに連絡したらタマも参加してくれるって言ってくれた。ちゃんとヨッシーも呼んでもらうよ。ひなは若が連絡したから参加するだろうね。

 

「若は先に集合場所行っといて。僕は用意を取ってくるから」

「私も手伝うぞ」

「何言ってんの。呼び出した側が誰もいないなんて状態にするわけにはいかないでしょ。僕一人で運べるように箱にまとめてるし、台車も用意したから大丈夫だよ」

「わかった。そういうことなら私は先に行っておく」

 

 若と一旦別れて宿舎に戻る。勇者のために急造されたわりに設備も整っている宿舎で、8部屋ある。一人一部屋だから一つだけ余るわけで、余ってるなら活用するのも当然のこと。僕の遊び道具の物置としてここの部屋は活用させてもらってる。すぐに取り出せるように今から使う道具は先に台車に乗せてスタンバイしてある。それを押して集合場所に向かうと、ちゃんと全員来てくれてた。

 

「マーくんその箱大きすぎない?」

「ちゃんと訳もあるんだよ〜。説明するからちょっと待ってね」

「うん」

「具体的な話は誰にもしてないし、改めて一から話すね。今からやるのは『水鉄砲大会』。言葉の通り水鉄砲で撃ち合うんだけど、ただそれだけじゃ面白くないだろうから本格的にします」

「本格的に?」

「水鉄砲だけど、みんな水を銃弾だと考えてね。

・水をかけられた箇所は撃ち抜かれた箇所とする。右足をやられたら右足は動かせないから引きずって歩く、みたいにね。

・致死量は仮定しない。心臓部か頭をやられたら死んだことにして戦いから外れる

・バトルロワイヤルでもいいけど、そうしたら運動が得意かで差ができるからチーム戦にする。

・くじ引きにするわけにもいかないし、一番動ける若と友奈がジャンケンしてメンバーを取り合う。

・人数が奇数だから、少ない方は一人だけ一回じゃ死なないようにする。その時には違うやつに着替えてくれるとありがたいかな。一応フリーサイズのジャージは用意してるけど、嫌なら自分で用意して。

・フィールドは丸亀場内とする。フィールド内にあるものは活用していいけど、石とか危ないものは投げないように。それで相手を怪我させたら怪我させた方は即死ね。

・制限時間は夕食まで。全滅したら負け。どちらも全滅しなかったら引き分け。

 ──とまぁ、ルールはこんな感じ。質問は?」

 

 僕なりに公平性にも考慮して考えた水鉄砲大会。チーム戦だから連携を鍛えることもできるだろうし、敵チームであってもその人がどう動くかを把握することができる。得物は違うけどそこは目を瞑ってもらうしかないね。作戦立案とか助け合いとか、バーテックス戦に応用できることを取り込んだルールにできているはず。怖いのは普段から仲が良いペアだけで動くことだけど、それはそれで狙い撃ちして後で説教させてもらう。

 

「水の補給はどうするんだ? 場内で給水できる所は限られてるぞ?」

「一応それぞれの水鉄砲に合わせたスペアタンクを用意してるよ。少し総量が減るけどね」

「それでも足りなければ敵襲を覚悟しろってことか。タマげたなぁ。佐天なのに考えてる」

「それは挑発かな? チームだったらフレンドリーファイアするぞ?」

「ぐんちゃん。フレンドリーファイアって?」

「味方を攻撃することよ、高嶋さん。この遊びでもそれは取り入れてるのかしら?」

「んー。考えてなかったけど、そうしよっか! だって濡れてるだけじゃ見分けつかないもんね!」

 

 いやー危ない危ない。水鉄砲の欠点のことを忘れてたよ。ちーちゃんには後でお礼しとかないとね。他に質問もなかったところで、若と友奈がジャンケンしてメンバーを選出していく。仲の良さのせいかな。どっちも戦略的なこと考えずに最初の一人を選んでるよ。そこも見越してこの二人にさせてるんだけどね。若が一人目に選んだのがひな。友奈が選んだのはちーちゃん。……ショックじゃないよ。別に友奈に最初に選ばれなかったことなんて全然これっぽっちも傷ついてないんだから!

 

「やった! 勝った! 次は誰に仲間になってもらおっかなー」

「高嶋さん。伊予島さんがいいと思うわ」

「アンちゃん? うん! ぐんちゃんがそう言うならそうするね!」

「……ちーちゃん」

「選ぶ時に助言はナシなんてルールはなかったわよ。それに、伊予島さんの武器を考えたら当然でしょ」

「あ、はい」

 

 ヨッシーの武器は弩だからね。射撃に一番慣れてるのはたしかにヨッシーだよね。これで運動神経が良ければチートだったね。ヨッシーが選ばれたことで残ったのがタマと僕。今気づいたけどこの方式って残ってる側が悲しくなるね。人望がないみたいで。

 

「では若葉ちゃん。私たちは球子さんを指名しましょう」

「そうだな」

「えぇ……」

「ハハハハハ! 残念だったなサテーン! これが日頃の行いの差ってやつよ!」

「おのれタマ! 覚えてろよ!」

「いえ、球子さんの方が利用しや……連携が取れるかと思ったので」

「なぁひなた。利用しやすいって言いかけてなかったか? タマのこと利用しやすいって言いかけてなかったか?」

 

 これぞ大逆転! タマの行いは評価されていないということだ! 戦略的視点での評価ということなのだー! ざまぁないね。僕のことを馬鹿にするからそういうことになるのさ。

 

「では始めようか」

「10分で場所を移動してそれから開始でいいわね?」

「ああ。勝つのは私達だがな」

「私達も負けないよー! ね、ぐんちゃん!」

「もちろんよ」

「僕がどっち入るか決めてくれない?」

「佐天くんはチームにいると混乱しか生まなさそうよね。ゲームでもそうだし」

「私達のチームにもいりませんね」

「酷いね!! いいからジャンケンして決めて! 勝ったほうが僕をチームに入れるか敵チームに入れるか決めて!」

 

 絶対に敵チームをボッコボコにして見返してやる! 僕の名誉のためにもこの戦いは負けられない!

 あ、友奈がジャンケンに勝って僕をチームに入れてくれました。さすが友奈。

 

 




  佐天はふざけてるように見える。実際にふざけて行動することもしばしばあるが、彼の行動理念は常に「笑顔」だ。みんなが笑っていられる状態を彼は心から望んでいる。そしてそれに助けられているのも事実だ。■■■■■■■で、敵は強大。そんな時こそ悲観的になってはいけない。希望は必ずあるはずだ。
勇者御記 二〇一八年八月
  乃木若葉 
 大赦史書部・巫女様検閲済み
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