遊び心は大事   作:粗茶Returnees

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 お待たせしました! 他のやつのモチベが上がってたせいでこっちが遅れました!


6話 料理の腕を上げなくちゃ!

 

 諏訪が落ちた。つまり僕の大切な友達が死んでしまった。遠く離れた地にいて、顔も知らないけれど、それでも大切な友達だった。ううん。今も大切な友達だ。生きているかじゃないよね。友達は友達だ。ズッ友なんだよ。二人とも話してて楽しかったし、向こうも楽しんでくれてたはず。二人とも明るい子だと思う。みとりんは引っ込み思案ってだけで、明るいのが好きだった。

 

 だから、泣いちゃいけないんだ。

 

 二人とも精一杯生きた。泣いてほしくて頑張ってたわけじゃない。諏訪が落ちたら次は四国。それは分かってた。だからうたのんも自分の役目を「時間稼ぎ」と言ったことがある。理想はずっと生きること。バーテックスがいなくなって、うたのんが農業王になって、みとりんが運搬することだった。そんな"夢"を語った。でも現実は時間稼ぎで、そしてそれももう終わってしまった。

 

「ありがとう、うたのん、みとりん。直接ではなくても、二人に出会えたことが嬉しかったよ」

「マーくんやっぱりここにいた」

「友奈」

「危ないからやめてって何回も言ってるのに……」

「僕のお気に入りの場所だからね」

 

 僕がいるのは丸亀城の天守閣の上。僕らは基本的に丸亀城内での生活になるから、一番空に近いところだと自然とここになる。人は海の、特に波の音を聞くと落ち着く。遺伝子レベルでの太古の記憶だそうな。人によっては緑に囲まれるのも落ち着くよね。僕はそれが空ってわけ。

 ところで、僕は城の外に出ることが一番許されていない。みんなと一緒ならいいんだけど、一人では絶対に出ちゃいけない。なんでだろうね。ハーレム状態に放り込まれてるからかな。

 僕がまだ下りる気がないって分かった友奈は、僕の隣に座ってそっと手を重ねてくる。友奈の手は女の子特有の柔らさもあるけど、武術を鍛えてることもあって他の子より少し固い。僕は何も言わずにそれに気づいていないようなふりをして空を見続ける。方向は東。少し北でもあるから、東北東かな。そっちに諏訪があるからね。友奈も一緒に同じ方角を見る。目線はそのままにして口を開いた。

 

「ねぇ。歌野ちゃんたちはどんな人だったの?」

「うたのんはみんなの食料確保のために農業を率先してやって、それを見た人達も感化して農業したんだよ。だから諏訪の大黒柱だね。名実ともに勇者だよ。あ、あと蕎麦が大好き。若とよくうどん蕎麦論争してた」

「あはは、すごい人だけどそんな所もあるんだ? 明るくて親しみやすそうだね」

「まぁね。すぐに友達になったよ」

 

 覚えてる。よく覚えてるよ。僕が若とうたのんが通信してる時に勝手に混ざったんだ。どんな人と話してるのか気になったからね。若には怒られたけど、うたのんは笑って許可してくれた。それもあって僕とうたのんはすぐに仲良くなれたんだ。うどんが一番じゃないって共通点もあったからね。僕はラーメン派だけど。

 

「じゃあ水都ちゃんは?」

「みとりんはうたのんと違って引っ込み思案だったかな。初めはオドオドしてて、中々会話が続かなかったんだけど、何回か話してたらそういうのもなくなったよ。みとりんはうたのんみたいに農業してたわけじゃないらしくて、いつかうたのんが作った作物を全国に届けるんだって言ってた。最初は僕のとこに送ってくれるって言ってたんだよ?」

 

 そういえばみとりんは、自分で運転するつもりだったんだろうか。そうなるとトラックの免許取らなきゃだよね。今となっちゃあ教習所はどっこもやってない気がするんだけどな。もしかしたら諏訪の人でトラックを運転する人がいるかもしれない。その人と一緒に来るつもりだったのかも。たぶんその時はうたのんも一緒だよね。蕎麦を食べさせてくれるって話だったから。

 

 そうだよ。そんな話をしてたんだよ。懐かしく感じちゃうね。なんでだろう。分からないよ。なんで懐かしく感じるんだろ。なんで僕の唇は震えてるんだろ。なんで僕の目頭が熱くなってるんだろ。なんで、なんで。

 

「マーくん。我慢しなくていいんだよ?」

「我慢……なんて……」

「いいんだよ。今ぐらい頑張らなくても」

 

 友奈に腕を回されて、僕の頭を引き寄せられる。僕はそれに逆らうこともできなくて、友奈に抱きしめられる。ゆっくりと頭も撫でられちゃって、僕は情けないね。

 

「僕は……みんなに笑っていて、ほしくて。だから、僕が笑ってないと……いけなくて」

「うん。分かってるよ? でもね、今は誰もいないから。私だけだから。だから今ぐらい弱音を吐いて? 溜め込まないで」

「ゆう、な……ぼく……は……っ!」

 

 友奈のそんな優しさに心が絆される。必死に堰き止めていたものがあふれ出し始める。友奈の声もこの温かさも、何もかも心地よくて、積み上げた壁も壊されて。友奈にしがみついて声を上げて泣く──

 

 ──ことができたらよかったのにね。

 

 涙が溢れそうになった瞬間。僕の前にいたはずの友奈がいなくなってた。突然のことでバランスが崩れた僕は、転げ落ちそうになるのを死ぬ気で堪える。なんとかバランスを取り戻して、辺りを見渡しても友奈の姿がどこにもない。屋根の上から探しても見当たらない。

 

「あー、バーテックスが攻めてきてたってことか。樹海化したら四国の時が止まって、その間に勇者たちが撃退するんだったね。酷いタイミングだけど、おかけでさっきまでの気持ちもなんだかリセットされたよ」

 

 僕がこうして動けてるってことは、もう樹海化も終わったということ。つまり友奈たちの初陣が終わったんだ。ここから下りて合流するとしよう。もしかしたら怪我をしてるかもしれない。応急手当は勉強したからできる。役に立つことがあるかもしれない。

 早く合流したい。焦る気持ちを抑えて慎重に屋根から下りて本丸の中に戻る。ここの階段も坂みたいに急だから、走って下りようとしたら転げ落ちることになる。急ぎたい時に急げないのは辛いね。でも、僕が怪我してたら友奈が心配するから。転げ落ちたって言えばみんな笑うかもしれないけどね。初陣疲れのみんなを和ませるのにいいかもしれないけど、痛いのはゴメンだよ。

 

「あら? 佐天さん」

「ひな。今からみんなと合流するんだよね? 場所分かる?」

「はい。佐天さんも行きますよね? ついてきてください」

 

 坂を転げ落ちない程度に早く下りたら、ちょうどひなに合流できた。なんでひなは場所が分かるんだろうね。巫女だからかな。巫女様々だね。

 

「あ、いましたよ。皆さんご無事です!」

「よかったー。怪我してないかも確認しないとね」

「そうですね。遠目で見た感じは重症とかはなさそうですが、擦り傷などは確認しないとわかりませんし」

「だよねー。近くで見ないとだよねー」

「もしもし? 警察ですか? 今男性が──」

「通報しないで! 僕は無実だ!」

 

 ひなに弄られるなんて思わなかったよ。そういえば、みとりんにもやられたことがあったよね。ということはあれかな。巫女は実は腹黒いのかな。って冗談です冗談! だからそんな怖い顔しないで! 雛人形持ってる意味がわからないなぁ! しかも僕の写真貼っ付けてるのもどういうこと!?

 

「お前たちは何を騒いでいるんだ……」

「タマの戦いっぷりを讃えタマえ」

「ふっ!」

「鼻で笑いやがった! あんず放せー! タマはあの馬鹿面をなぐるんだー!」

「駄目だよたまっち先輩! それは友奈さんの役目だもん!」

 

 みんなと合流したら、ひなはさっそく若と話してるし、タマはヨッシーに捕縛されてる。この三人は特に問題なさそうだね。

 

「ちーちゃんは大丈夫? 怪我とかしてない?」

「ええ。高嶋さんのおかげで」

「そっかー。じゃあこの救急セットの出番はないかー」

「ちょっと待って……。なんでそのポケットから救急箱が出てくるの。質量無視してるじゃない」

「イッツマジック!」

 

 僕の全力爽やか笑顔を向けてピースしたのに、ちーちゃんにため息つかれた。どういうことなんだろうね。僕はおかしなことなんてしてないのに。バーテックスの侵攻があっても、僕やひなを始めとした勇者じゃない人たちは何も知ることができない。知らぬ間に戦いが終わってるんだ。だからそんな時に備えて僕は常に救急セットを持ち歩いてる。みんなを信じてるけど心配だからね。

 

「友奈は……ちょっと手を怪我してるね。救急セットの出番ができたよ。嬉しくないけど」

「進化体バーテックスを高嶋さんが倒したのよ。精霊の力を借りてひたすら殴るって戦法だったけど」

「脳筋!? ……でも、うん。そっか。お疲れ様友奈」

「うん……」

 

 友奈の手を消毒する。消毒の時ってビクッてなるよね。ちょっと可愛いなって思ったのは内緒。それよりも手当の方が大切。消毒が終わったらガーゼで傷口を庇って、包帯を巻く。

 

「マーくん大げさ」

「大げさで結構。友奈のことが大切だから」

「っ! ……ありがとう」

 

 照れくさそうに微笑むけど、全然隠せてないね。いや、みんなには分からないだろうけども。でも友奈のこの笑みが無理してるってことが僕には分かる。友奈に見破られるように、僕も友奈のことなら見破れるから。その原因は僕なんだということもわかってる。

 

「マーくん……大丈夫(・・・)?」

「もちろん。みんなの笑顔見たら全回復だよ」

「そっか」

 

 僕と友奈にしか分からない会話。側にいるちーちゃんはついてこられてない。そもそもなんの話か分かってないからね。でも、ちーちゃんはこういう時踏み込まないでいてくれる。ちーちゃんだって自分のことにも踏み込まれるのを嫌うから、だから相手にもしない。優しいよね。

 

「ところでなんで若は正座してひなに説教されてるの?」

「うーん……なんでだろうね?」

「たぶんアレじゃないかしら? 戦闘の最後の」

「あー! たしかにそうかも!」

 

 アレって何? いったい何の話を二人はしているの? タマとヨッシーの様子を見る限り、二人も知ってることだよね。そしてひなも知っている。ということは僕だけ仲間はずれ。えー、仲間外れは僕嫌だなー。そんなわけでひなに聞こーっと。

 

「ひーなちゃん!」

「ひゃあっ!? な、何するんですか佐天さん!」

「首くすぐっただけだけど?」

「なんでそんなことするんですか! 今若葉ちゃんに説教中なんですよ!」

「その理由が知りたくてさー。若は何したの?」

「若葉ちゃんったらバーテックスを食べたんですよ」

「食べたの!?」

 

 え、バーテックスって食べれるんだ。戦闘中に食べたってことはもちろんのこと生だよね。生で食べて若の調子が悪くなってないなら、人に害はないってことだよね。勇者だけかもしれないけど。なんにせよこれは大発見だ!

 

「まったく。バーテックスを食べるなんてこの子は……。お前がちゃんと教育しないからだぞ」

「まぁ! 若葉ちゃんに教育しないあなたにとやかく言われたくないですよ!」

「教育は任せてくださいって言ったのはひなだろ!」

「それでも少しは手伝ってくださってもいいじゃないですか!」

「いや、私はひなたと佐天の子じゃないからな?」

「マーくんはなんでひなちゃんと夫婦関係になってるのかな?」

 

 待って友奈違うんだよ。ぜひとも弁明させてほしい。僕はひなと夫婦関係になったわけじゃないと弁明させてほしい。遊びかって? そんな最低な男に成り下がった覚えはないよ。夫婦ごっこだよ。……遊びか。

 

「マーくんは将来浮気グセで苦労するね」

「そんなことないと思うよ? 僕って一筋だから」

「説得力ないよ?」

「……はい」

 

 おかしいな。僕は一筋なはずだ。真っ直ぐに生きるのが僕の信条だからね。だから浮気とかしないはずなんだよ。今は彼女がいるわけでもないから、こうやってちょっとしたお巫山戯ができるってだけ。それにひなも乗ってきたからね。それよりもだ。

 

「バーテックスってどんな味だったの?」

「不味かったぞ? 食えたものではない」

「生は駄目っと」

「おい。そのメモはなんだ」

 

 なんだって言われてもメモはメモだよ。バーテックスを食べる人間なんて若以外ないからね。貴重な情報だよ。生で食べて味は駄目だったと。次に聞くのは食感かな。匂いがあったのかも利かないと。

 

「いまいち食い切りにくいハムみたいなものだな。匂いは特になかったと思うが」

「若葉ちゃんはなんで答えてるのですか?」

「え、聞かれたら答えないといけないだろ?」

「はぁ。困った若葉ちゃんです」

 

 食い切りにくいハムみたいな食感かー。弾力があるってことなのかな。もしかしたらホルモンに近いのかもしれない。うーん。これだけの情報だとまだ絞りにくいなぁ。

 

「マーくんはさっきから何考えてるの?」

「バーテックスの調理方法」

「あー、それは難しいね…………え?」

「え?」

 

 僕今何かおかしなこと言ったのかな。みんな鳩が豆鉄砲を撃たれたような顔してるけど。あー、やっぱみんな可愛い顔してるよね。ってそうじゃないか。今それは関係ないね。

 

「な、なぜ佐天先輩はそんなのを考えてるのですか?」

「だってバーテックスって食べられるんでしょ? どうせなら美味しくいただきたいじゃん?」

「食べなくていいです」

「ええー。バーテックスを食べることができるって分かったら、天空恐怖症の人も症状改善すると思うのになー。おのれバーテックス! って」

「そんなの地獄絵図です!」

「とりあえず鍋か焼くかで検討中!」

「いりません!」

 

 成功したら人気出ると思うのになー。なんでだろうなー。僕のこのメモは友奈に没収されました。諦めきれなかったから部屋に戻ってバックアップを3個用意しといたよ。いつか庶民でもバーテックスを食べられるようにしてみせる! 




  今日は四国に移動してから初めての戦闘だった。不安だったけど、みんなで力を合わせればしっかり倒せた。若葉ちゃんがバーテックスを■■■のはびっくり。それを聞いたマーくんがバーテックスを■■■■って言うからメモを没収した。変なことはしてほしくないからね。

勇者御記 二〇一八年九月
  高嶋 友奈 
 大赦史書部・巫女様検閲済み
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