バーテックスとの戦いを乗り越えてはい終わりってわけにはいかない。負傷者はいなかったんだけどね。友奈が精霊の力を使ったから。精霊の力は不明な事のほうが多い。精霊の力を使うことで、一時的に戦闘力が上がる。今回友奈が使ったのは《一目連》。速度が飛躍的に上昇するんだとか。それで『千回勇者パンチ』したらしいよ。わりと脳筋な考え方だ。諦めないのはいいけど、無理なことはしないでいただきたい。言っても聞かないって分かってるけど。
それで、精霊の力を使った影響がないかの検査をするためにも友奈は入院。大社は、勇者たちがバーテックスを打ち倒したことを公表した。これで少しでもみんなの元気を出すんだって。パレードなんかもしてるんだっけな。僕は相変わらず外に出られないから見にいけないけど。あと順番に休暇をもらってるんだってさ。今日はちーちゃんが休みの日。実家に戻るらしい。
「暇だよ」
「それで私のところに来たのか。だが私は私でやることがあるんだぞ?」
「鍛錬以外で何かあるの?」
「……瞑想とか」
「鍛錬だね」
これが年頃の若者がすることなのかー。世界が世界だし、若は数少ない勇者の一人だから仕方ないけども。それに、きっと若の行動の方が正しい。その行動に呆れる僕のほうがおかしい。『バーテックスを倒す』それを念頭に置いてる若は、時代と世界にあってる。でも、僕はそれだけなのが気にくわない。若のことは嫌いじゃない。むしろ好きだ。苦手ではあるけどね。
「まぁでも若も頑固だもんね。仕方ない。鍛錬は程々にしなよ?」
「やけにあっさりと引き下がるんだな。むしろその方が怖いんだが」
「若がもっとフレンドリーになってくれないとこっちもやりにくいんだよね〜。ちーちゃんと友奈もいないし。他の二人は町に出てるんでしょ?」
「はっきり言うんだな……。そういえばなぜ佐天は外に出ることを許可されないんだ?」
若は小首を傾げて聞いてきた。凛々しい顔立ちなのにそういう仕草がちょっと可愛らしい。これがギャップというものか。それでも凛々しさが勝ってるんだけどね。それはそうと、当然と言えば当然の疑問だよね。そもそもなんで勇者じゃない僕がここにいるのかもみんな知らないわけだし。一番大社と直接的な繋がりがある巫女のひなが知ってるかも怪しい。クイズ形式でもいいんだけど、ささっと答えたほうがよさそうだね。
「僕も知らないよ!」
「は?」
「だから知らないんだってばー。友奈と一緒にここに放り込まれたけど」
「高嶋は何か知ってるのか?」
「どうだろうね。友奈ってわりと暗い話は避けたがるから、知らないようにしてる可能性の方が高いよ」
「そうなのか。……私から聞くわけにもいかないし、佐天にその気があれば高嶋に聞いてみてくれ」
「うん。じゃあ聞かないね。僕自身大して気にしてないことだから」
即答で若の話を否定。この速さは若もびっくりだね。落胆しちゃってるけど、仕方ないじゃないか。僕が気にしてないことなんて知らないでいいんだから。それに若にはぼかして言ったけど、友奈は知ってる。断言していいし、なんなら僕の全てを賭けてもいい。友奈は僕の情報を一番持ってる。ひながおそらく知らされてないようなことも。
「なんか友奈の話ししてたら会いたくなってきた」
「安直過ぎないか?」
「酷いなー。若もどうせひなと離れ離れになったら同じこと言うよ?」
「それはさすがにない……と、思いたい……」
「これは僕と同じ匂いがするぞ!」
「なんてことだ……! そんな、まさか……これでは乃木家の恥晒しだ……!」
そこまで言うかな普通。それ言われた僕はショックを隠しきれないよ。どれぐらいショックかと言うと土の味を確かめるぐらい。要はショックの余り倒れ伏しております。そしてこの体勢のまま向きだけ180度変えるとそこには若の張りのある脚線美が……広がってるわけでもなく足の裏が見えました。僕の行動を読んで、仰向けになった瞬間踏みに来るとはなかなかなことをするじゃないか。ちゃんと靴を脱いでるところがポイント高いね。
片足じゃ視界を覆いきれないからって鼻を踏んでくるあたりガチだよね。痛みで両目を瞑るからね。けども、やられっぱなしで終わる僕じゃない。
「ひゃっ!?」
「え、なにその悲鳴。ギャップ萌えするんだけど。可愛すぎない?」
「う、うるさい! お前が私の足に変なことするからだろ!」
「変なこと? どかしただけじゃん。どの辺が変なの? 教えて?」
「このっ……! お、お前が……私の足を舐めた」
うわー。若がめっちゃ恥ずかしそうに言ってる。顔真っ赤にして言うなんて珍しい。もちろんこれは速攻で写真を取っておいたよ。ひなとの交渉道具として使わせてもらうからね。これは間違いなくレア若葉ちゃんだから。もちろん僕のイジりがこの程度で終わるわけでもないけどね。
「え、なんて? 聞こえなかったんだけど」
「貴様! 絶対聞こえていただろ! 顔がにやけているぞ!」
「聞こえなかったなー。若の声が余りにも小さかったからさ〜」
「ぐっ。……佐天が私の足を舐めた! これで満足か!」
「え、何その変態。頭おかしいでしょ」
「それは佐天だ!」
「ところで僕は結局靴下を舐めたことになったわけで、靴下の味しかしなかったよ。あとちゃんと若の生足見えてたから」
そりゃあ靴を脱いだところで靴下は履いてるからね。靴下の味だよ。大変美味しくなかったよ。構想中のバーテックス料理のほうがまだ美味しそう。これは諦めてないからね。そして僕の眼力をなめないでほしい。一瞬の動きもを見逃さないように鍛えられた僕の眼ならあの瞬間でもバッチリ見えるのだ。しかも片目はほぼ視界が覆われてなかったし。
これだけイジられておいて結局足も見られていた。それが分かった瞬間若の顔はこれでもかというぐらい真っ赤になった。トマトみたいだね。しかも肩を震わせてもいる。顔が赤くなったのは羞恥から。そして肩を震わせてるのは怒りからかな。そんなわけで僕は逃げるとしよう。捕まったらボコボコにされる。いや、それで済んだら御の字だね。
「逃げれると思うなよ佐天!!」
「今回は逃げきってみせるよ!」
「絶対に捕まえてこの
「それ僕死んでるよね!?」
生死をかけたデッドヒートここに開幕! なんてノリで叫んでる余裕もないね!
「──なんてことがあったんだ〜」
「へー。それで若葉ちゃんから逃げ切れたんだ? 凄いね」
「塀の上を走ったりとか木から飛び移ったりを繰り返してなんとかね。最後はヨッシーに匿ってもらったけど」
「あんちゃんまで巻き込んだの? それはメッ! だよ?」
「お詫びに図書カード5000円分渡しといた。小説を買えるって喜んでくれたし、セーフだよ」
「もぅ。またそんなこと言って」
悪ふざけが過ぎた僕を諌めるのは、僕の大親友の友奈。友奈は入院しているし、僕は城から出ちゃいけないんだけど、友奈に会いたかったからこうして病院に来たよ。バレたら大社が騒ぐだろうね。それに、
「マーくんはどうやってここに来たの?」
「愛の力で!」
「あはは、嬉しいけど方法は言ってね?」
「軽く流された……。ぶっちゃけ簡単だったよ? この忍者セットも使えば成功率も上がったし、無くてもこれたかなってレベル」
「わ、それ懐かしいー! 今でも使えるんだね!」
「今でも使えるように改良したんだよ」
僕が取り出した忍者セットに友奈は目を輝かせる。これは僕らがまだ低学年の時に使ってたやつだもんね。身体が大きくなって道具が役に立たなくなったのと、他の遊びに関心を持ち始めたのとで使われなくなった。でもこれって結構凄いアイテムで、改良してみたら今回みたいに役立ってくれるんだよ。爺ちゃんの知り合いからプレゼントされたものなんだけどね。あの人忍者の末裔か何かかな。もう聞けないけど。
二人で忍者セットを見つめて思い出に浸っていたんだけど、友奈が「ところで」と話を切り替えた。若ほどじゃないけど凛々しさがあって、可愛らしさもあって整っていて、笑うとたまらない程愛おしい顔。けど今はその笑顔がちょっと怖い。これは怒られるパターンだ。
「若葉ちゃんの足を見るなんてエッチなことしたんだよね?」
「……ど、どうだったかなー」
「さっき自分で言ったもんね?」
「……はい」
「そんなに若葉ちゃんの足が好きなんだ? 前は膝枕してもらおうとしてたもんね? マーくんは若葉ちゃんの苦手って言ってたけど、本当は好きなんだね」
「友奈。それは違うよ」
「違わないでしょ。私が今言ったの全部事実だよ」
ちょっとの哀しさとちょっとの怒りが混ざった目で僕のことを睨んでくる。でも友奈はこういう言合いが嫌いな子だから、その睨む目も力強いわけじゃない。これには僕も怒りたいところだね。友奈が怒ったことじゃない。そのことに僕が怒るなんて筋違いだから。僕が怒りたいのはそこじゃないんだ。
「本当は私より──」
「僕は友奈のことが誰よりも好きだよ」
その先を言わせない。言わせるなんて僕は許容できない。僕が友奈以外の子を好きになるなんてないし、それを友奈に言われたくない。不安にさせたのなら僕が悪い。僕が友奈にそう思わせてしまったのだから。だから僕が怒る相手は友奈でもない。僕自身だ。
友奈がこう言ったのは、からかいの意味もあるんだろうね。友奈が本気で言ってるわけじゃないのも分かるよ。でも、ちょっぴりそのことに不安になってることもわかる。だから僕は友奈を抱きしめた。言葉より確実なことはないけども、言葉では伝えきれないこともある。こうしたら伝わるかもしれない。
「マーくん……」
「誰かを好きになることならある。でもそれはlikeだよ。絶対にloveじゃない。友奈の事がずっと好き。僕は一途だから……ってまーたタイミング悪いんだから。僕今結構恥ずかしいこと耐えて言ったのに。神樹様は空気読まないね。……いや、バーテックスの方か。バーテックスの動きが指示されてるものだとすれば天の神がムードブレイカーなのかな」
友奈にどこまで言葉が届いてたんだろうか。僕からすれば一瞬の間に友奈がいなくなってるから、僕の言葉がどこまで出てる時に友奈が戦いに行ったのかわからない。恥ずかしいのを我慢してたから、友奈を抱きしめてる間僕も目を瞑ってたしね。もしかしたら最初も聞かれてなかったかも。あー恥ずかしい。
『高嶋さーん。体温と血圧を測りますよー』
「やばっ!」
僕は忍者セットを活用してすぐに窓から飛び出た。3mほど先に木があるからそれを活用してとりあえず身を隠そう。太い枝に鉤爪付きロープを引っ掛けたら安全に素早く隠れられるから。
「ぬおっ! 空から少年が降ってきおったわ!」
「ダメダコリャ」
散歩してたお爺さんに見られたから作戦変更。闇夜に紛れる忍者の如く颯爽と身を眩ませよう。
まだ夕方でもないけど。
❀ ❀ ❀
戦いは絶好調だった。病院を抜け出してきたことはみんなに注意されたけど、でも元気だからって押し切れた。マーくんが私のこと『言っても聞かない子』ってみんなに言っちゃってるから、簡単に引き下がってくれた。それに戦いは人数が多いほうがいい。ぐんちゃんは精霊の力で七人になってたけど。でも凄かった。どんどんズバズバーってバーテックスを倒していってた。
「ぐーんちゃん!」
「高嶋さん……。病院に戻らなくていいの? 佐天くんはまだ病院にいるんじゃ」
「マーくんならすぐに帰ってくるんじゃないかな。マーくんってそもそも城の外に出ちゃいけないから、誰にもバレないようにしないといけないし。それに私が戻る気ないのも分かってると思うよ」
「……そう。高嶋さんはなんで佐天くんが城の外に出ちゃいけないのか知ってるの?」
「へ? ……
まさかぐんちゃんがマーくんのこと気にしてるなんて思ってなかった。ぐんちゃんはあまり自分から話題を振らないから。しかも人の事を、それも踏み込んだ内容を聞いてくるなんて。これはマーくんとぐんちゃんの仲がいいって事だよね。嬉しいな〜。マーくんは勇者のみんなと友達になりたいって言ってたから。タマちゃんとあんちゃんはもう友達だって言ってくれてるけどね。ひなちゃんはよくわかんない。
それに、みんながマーくんと仲良くなっても嫉妬しないでいい。
──友奈のことがずっと好き
マーくんがそう言ってくれたから。そう言われる資格なんて私にはないはずなのに。マーくんはそう言ってくれた。
「ぐんちゃん。私は今日ぐんちゃんが一番活躍したと思うよ」
「え?」
「若葉ちゃんも凄かったけど、私はぐんちゃんが凄かったなって思う」
「高嶋さん……ありがとう。向こうが賑やかってことは佐天くんが帰ってきたのね。高嶋さん行ってきたら? 私はもう少し鍛錬するから」
「ごめんねぐんちゃん。ありがとう! 今度一緒にやろうね!」
ぐんちゃんに手を振ってマーくんがいる所に走る。タマちゃんとあんちゃんと三人で話してるマーくんの所に。合流してみたら、マーくんは病院にいたお爺さんに見られたんだとか。でも忍者セット使ってたからたぶんマーくんとは気づかれてないよね。目以外ほとんど隠れてるし。あ、私と病室にいたときはちゃんと顔を出してくれてたよ。
タマちゃんとあんちゃんは先に食堂に行くらしくて、マーくんは忍者セットを片付けに行くんだとか。私はもちろんマーくんについていった。いつ入ってもここが人が住む用だった部屋とは思えない。倉庫というか部室みたいなことになってるもん。
「……ねぇ、マーくん」
「どったの? 何か見つけた?」
「ううん。そうじゃなくて、マーくんはあの日のこと覚えてる? バーテックスが襲撃してきた日のこと」
「覚えてるよ。友奈が勇者の力に目覚めて、バーテックスを倒してくれたんだよね。それで他にも生存者がいて、僕たちは友奈のおかげで四国に来れた。……改めてお礼言わなきゃね。友奈。みんなを助けてくれてありがとう」
いつもの無邪気な笑顔とは少し違う。でも穏やかな笑顔。「ありがとう」って言われたら、照れくさくても「どういたしまして」って言わなきゃね。お互いに顔を見合わせて微笑み合う。みんなと笑ってる時間も好きだけど、こうして二人だけで笑ってる時間も好き。でも、
「マーくんのおかげでもあるんだよ? マーくんがいてくれたから」
「あはは、僕は何もできてなかったけどね」
「ううん、そんなことないよ。いてくれた。それだけで助かったんだよ」
「うーん。僕としてはイマイチだけど、でも友奈がそう言うなら助けになってたんだね」
「だから私こそありがとうマーくん」
「どういたしまして友奈」
手を繋いで一緒に食堂に向かう。途中でぐんちゃんとも合流して、ぐんちゃんとも手を繋ごうとしたけど、それは恥ずかしいからって断られちゃった。それに邪魔しちゃいけないからって言われたんだけど、なんでそう思ったんだろうね。
マーくんが隣りで笑ってくれてる。それだけでどれだけ助けられてることか。あの日のことはマーくんも覚えてた。でも、マーくんがいたから■は■■■■■を■■■■■■。そのことにマーくんは気づいてないし、その原因だと思われること■■■■■■■。どうかそのままでいてほしい。あの時は■■■■■■■■■があったから。
勇者御記 二〇一八年 十月
高嶋友奈 大赦史書部・巫女様検閲済み