東方古物想   作:紲空現

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2019/1/2
段落処理を失敗していたのを修正しました。


第一章 僻地から見る幻想郷
001今日も日課の無縁塚


「何か落ちてないかな……ときどき霖之助は見かけるけど、今日はいないか。後で久しぶりに店に寄ろうかな。何か面白いものがあるといいし」

 

 そう呟きながら、少女が無縁塚を歩いている。背はそんなに高くなく、体に対して少し大き過ぎる、手元に黄色のフリルがついた濃い青色の服に、同じく黄色のスカートを着用していて、無縁塚の光景とは少しズレた感じを受ける。そして、右手とカチューシャ、さらに右足から伸びた管の先には半目になった黄色い第三の目が付いていた。加えてその中の瞳は動く度にピントを合わせる為なのかキュイキュイと音をたてている。髪の毛は腰までストレートに伸ばして金色に輝いていたが、所々銀色が混ざって不思議な色合いになっている。

 そしてどうやら、何か気になるものが見つかったらしいこの少女、サトリ妖怪の古明地こがねは呟く。

 

「おお?今日はなんだろう」

 

 目の前には黒い円盤が落ちていた。真ん中には小さな穴が空いており、同心円状に幾筋もの溝がはしっている。

 

「うーん、よく分からないな……取り敢えず見て(・・)みよう」

 

 少女はその金の双眸で見極めるのを早々に諦め、第三の目でソレを見つめた。

 

「…………ふむふむ。長い間愛されてきたんだね。今度は私が、大事にしてあげる。確か家にぷれーやー?だっけかがあるからね」

 

 少女は目に涙を浮かべながら、大事そうに円盤を両手で抱える。そのまま再思の道から魔法の森へと入り、無縁塚からほど近いところにある自宅へと戻っていった。

 ただいま〜と一人で声を出し、中へと入っていく。そのまま倉庫部屋へと進み、テーブルの上に拾ったナニカを安置する。そのまま倉庫の別の場所からレコードプレーヤーを取り出し、工房へと向かった。

 

「さてと、名前がしっかりとは思い出せないけど、確認していこうか」

 

 そのままサードアイでぷれーやーを見つめる。

 

 暖かい雰囲気のなか、多くの人の明るい笑い声が聞こえてくる。自分からも音がでて、平和な時間が流れていた。しかし、いつ頃からか音を奏でることは少なくなり、自分も隅の方へと移動していく。埃を被って、錆びた身体はやがて動かなくなった。冷たい、冷たい空気の中、自分の存在は忘れ去られて…………

 

 

「……ぷはっ!危ない、持って行かれかけた。彼岸花とか鈴蘭はいつも見るけど、流石に川は超えたくないからなあ。ものの記憶は今に至るまでずっと続くから、上手く止めないと精神的に立ち直れなくなったりするからなあ。勿論、身体の方も。毎度毎度やってはいるけど、調節を誤れば一巻の終わりだしなあ」

 

 だから気をつけないといけない。でも、ものの記憶を読んで、心を読んで共感するのはやめない。ものの一生を知って、その上で出会ったものは大切にしてあげたい。役目を半ばで終えて捨てられたモノたち、彼らのことを忘れずに私が拾い上げるのだ。

 

 右手に道具を持って、義肢となっている左手で抑える。そのまま丁寧に解体をして、動かない原因を探る。全てのパーツの関係を覚えつつ、バラバラにしていく。最初の頃は戻すのに手間取っていたが、今なら失敗することはほとんどない。それも、やらかすのは複雑なものに限られる。今回は一度直したものの修理だからさして難しい訳でもない。

 ……ああ、このネジが錆びている。『再生する程度の能力』を使って錆を戻す。完全に理解している場合は別だが、最初から全体に掛けるのは、何処が悪いか分からないので非常に疲れてしまうから、このように一度バラしていく。

 

『再生する程度の能力』というのは、文字通り再生することが出来る。『再生』は、まずは壊れたりしたモノを元の状態に戻すことが出来る。私の場合はものの過去の記憶を、サードアイを介して『再生』して元の状態を理解し、その状態に近づくように『再生』している。だから、時間を巻き戻しているのに近い効果が得られていると思う。そちらのほうも出来るけど、こっちの方が楽だ。まあとはいえ、無機物か自分の身体位しか利用出来ないのだが。

 もう一つとしては、さっきもしたようにものの記憶を『再生』することだ。深さは変えられるが、任意で始めたり切ったりするのは少し難しい。よく後の方まで読み過ぎて精神的にダメージを受けることがある。寂しさとかは最もである。姉二人に会いたいなぁ……

 残りは細々とした感じで、何もなしに音楽を『再生』したりとか、自分のでも相手のでも動作を『再生』する位である。

 

 数時間後。修理がやっと終わった。動かないことを確認して、何回かサードアイで見ながら分解を進め、不可逆的にダメになっている所は代用したり再生したりして、作業は進んだ。

 

「今回はまあまあの早さかな。後は上手く行けばいいんだけど……」

 

 そうして倉庫へ円盤を取りに行った。さっきと変わらない様子でテーブルに乗っているのを見て、安心する。そのまま、落とさないよう両手で大事に持って工房へと戻る。

 ぷれーやーに円盤を乗せてみる。そのまま円盤を回そうとした所で、来客を告げるベルが鳴った。

 少しムスッとしながら来客を出迎える。

 

「何でしょう」

「どうしても使い方が分からないものがあってね。見て欲しいんだ」

 

 来客は、森の中でも人里近いところで道具店を営む霖之助だ。わざわざこんな所までやって来るとは、余程気になるものがあるらしい。

 

「分かった、すぐ行く。対価は?」

「変わらないな。表にある商品(・・)を一つ無料でどうだ」

「商品じゃなくて、表にあるもの(・・・・)を一つで」

「はいはい……上手くいかんな」

「空飛ぶ巫女さんよりはきっちりしてるつもり」

「まあ、あっちはあっちで中々だがな」

 

 残念だが、円盤はお預けである。中身が気になるけど、後で落ち着いて使った方が雰囲気があって良い。名前を聞くのはタイミングが無かったから、また今度。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 香霖堂に着いた。相変わらずの古びた外観である。中からは音がしないので、本日は泥棒が入らなかったか、もう入った後かのどちらかか。その辺は大事なものが無くなっていなければどうでも良いので、そのままついて行く。

 ギイッと扉が開く音が埃っぽい店内に響く。

 ……足元には足の形に埃が消えている場所が点在していた。

 

「やられたか……間違いなくあいつだな」

「だね。何が消えた?」

 

 霖之助は周りを一周見渡して、頭を抱えた。

 

「見て欲しかったものが消えてる……」

「じゃあ、対価を」

「お前も大概だな……良いよ、見てくれ」

 

 ものが消えているなら仕方ない。貰うものは貰っておこう。後で本人の自宅に行って問いただしておこうか。ものを見たらそれだと分かるし。

 

ものを貰って帰路につく。両手の中には先程と似たような円盤。店の片隅にあったのを見かけて、貰ってしまった。縁があったのだと思うことにする。

 魔法の森をゆっくりと歩いていく。夕暮れ時の空はほとんど見えず、まるで夜の如き暗さになっている。背の高い木々、沢山生えているキノコと苔、落ち葉の間から生える雑草。キノコの胞子が視界を遮り、森の瘴気は迷い込んだ人間を閉じ込めるかのように立ち込めている。空を飛ばないのは、こんな所では飛ぶのが危ないというのもあるが、単に歩きたいだけだったりする。時間はあるのだし、夜になっても基本は恐れるコトなど無いのだから、それならば周りの風景を少しでも楽しんだ方がいい。空から眺めるのも良いものだが、歩くと速度が遅い分風景だけでなく音や匂い、風も楽しむことが出来る。

 

 再び自宅に戻る。倉庫のテーブルの上にある円盤、その隣に取り敢えず置いた。今日はもう遅い。明日の夕方にでも使ってみると丁度良い気がする。

 

 屋根へと登る。手には古い酒。年季の入ったお猪口と徳利、それらと共に木々の隙間から覗くすっかり暗くなった空を眺める。

 

「今日は上弦の月か。そういえば、あの時も同じだったか。この酒もその頃に造られたものらしいな。ああ、懐かしいな……」

 

 ぽつり、ぽつりと呟きつつ、無音の闇の中であの日のことを思い出す。あの楽しかった日々のことを、そしてあの日の出来事を。

 

 今宵の月見酒は、長くなりそうだ。


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