それではどうぞ。
翌日。ご主人様は、天狗の話をすると同時に友人たちを紹介するとのことで、私と一緒に何軒か家を回ることになりました。事情が事情なので必要な事だとは思うのですが、助力を求めに行くのでしょうか……
「る〜こと、準備は出来た?」
「あ、はい!出来ました!」
ちゃんと準備は出来ました。ご主人様とお揃いの信玄袋にちゃんと全部入れています。昨日のモップに魔除の御札、塩、鏡、銀の十字架、あとは何の変哲もないただの御守り。効くのかよく分からないものもありますが、幻想郷の森は危ないので、実際に何度か助けられています。少し過保護に過ぎる気もしますし、袋が重たいのですけど……
でも、この重さも、ご主人様が私を想ってくれているからです。ご主人様に見捨てられることは無いと思えるので、この重さはとても、そう、ええと、なんでしたっけ?ああそう、安心できるんです。
「……うん、ちゃんと持ったみたいだね。よし、なら行こうか」
ちょっと早口でまくし立てるご主人様。なんだかよく分かりませんが、とにかく出発です!しっかり戸締りをしてから、まずは香霖堂というところに行くそうです。
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森へと進んで半刻ほど。思ったより近くにその家はありました。道中は時々妖怪が出てきたんですけど、ご主人様が軽くいなしてくれたので、やっぱり強いなあと思いました。私もいつかは役に立てるかなぁ……
……しかしこの家、かなりボロいですね。こんなところにあるので気にしていないのかもしれませんけど、中が埃まみれになっている気がすごくします。掃除しているのでしょうか……メイドロボだからか、かなり気になります。ご主人様の家はピカピカなので大丈夫なんですけどね。まあ、知らない人の家を掃除するのは良くないと教えてもらったので控えます。
考えているうちにいつの間にか呼び出して話し終えていたらしく、ご主人様が家に入っていきました。遅れてはいけないと、急いで追いかけていきました。
中は予想通り埃が多くて、家の隅々から暖炉の熱が漏れているようです……建付けが悪いんですかね?そして、席に着くと、お茶の入った湯呑みが2つ出てきました。当然ですけどご主人様と相手様の分です。私は飲めないので……
「今日は突然押しかけてごめん」
ご主人様はややぶっきらぼうというか、堅い感じで謝罪しています。あまり聞かない口調ですね。何故でしょう?
「いや、いいんだ。キミは別に押しかけてきたからって理不尽な要求はしないし。揚げ足取りみたいなことはあるけども」
「それは、そういう約束だから」
「はいはい。それはそうとして、今日は一体何の用だい?」
そうです。それです。相手様と同じく、私もよく聞かされていないので私も気になるのです。
「うん、えっと、最近家族が増えたからね。ようやく生活に慣れてきたみたいだし、一度は顔合わせをしておいた方がいいかなと」
「へえ……なるほど、そこのお嬢さんかい。……部屋のお掃除をしてくれる……で合ってるのかな?」
「大体は、そうかな」
どうして分かったんでしょうか……いや、服装とかはそうでしょうから、そこから推測したんですかね?
「ふむふむ……ああ、言っていなかったな、すまない。僕は森近霖之助だ。君の名前は、確か、る〜ことで良いのかな?よろしく頼む」
「あ、えと、よろしくお願いします……あれ、どうして私の名前を?あ、ご主人様が話をしておられたんですね?」
「ん、いや、私は言ってないよ。今日が初めて」
「え?でもそれでしたら、どうして分かるんですか……?」
「それはね、僕の能力みたいなものさ。見たものの名前と用途が分かるんだ。だから、キミのことも分かったというわけなんだ。他にも、一昨日無縁塚から拾ってきたこのコンピュータというものなんだけど、凄く沢山の計算を一瞬でしてくれるものらしいんだ。どうやって使ったら良いのかは分からないんだけど、これを動かせたらとても便利だとは思わないかい?僕の見立てでは、これは式神で…………」
突然の蘊蓄が始まりました……こういう人なんですかね……悪い人?ではないと思うのですが、話し始めると止まらない、旧世代のガイド用アンドロイドみたいな感じがしてよく分からない感情が出てきます。
話が、長いですね……
「…………だから、なんとか動かせないかなと思ってね」
「……うーん、確かにそうとも言えるけど、うーん。まあ取り敢えず、動かすのには電気がいるし、河童に頼むか自力で発電するか、かな。また動きたいようだし。あと、仮にも客が来ているのに店の入口で30分も話すのはどうかと思う」
「おっとそれは失礼した。ささ、どうぞ入った入った」
「いや、今日は顔合わせだったし、次もあるからそっちに行くかな。る〜こと、ここがこの人の家だからね。変人だけど悪くは無いし、妙なものを沢山持ってるから、散歩がてら寄ってもいいよ。ただ、蘊蓄は上手く止めないとこうなるからね」
「はい!分かりました!」
「言い方に悪意がないかい?」
「いえ、全く。それでは、失礼します」
「失礼します。また来た時はよろしくお願いします!」
「はいはい」
「ああ、そうそう。最近山の方が臭いので、用心してくださいね?森から出火していても野次馬しないように」
「僕がそんなことをするように見えるかい?まあいいや、分かった、そうするよ」
「それではまた」
…………
……
「しかし、山が臭いとは……って、ああ、そういうことか。いざと言う時にる〜ことくんの行き場を案じてのことでもあるのかな。あの二人、まあ主に、主の方にいなくなってもらうとこっちとしても困るし、とはいえ何かできる訳でもないしする気もないけれども。のんびり続報を待つしかないか。はあ……まあいいか」
いつも通り、巻き込まれたようだ。ただまあすぐには影響がないし、突然の訪問もちょっとの時間で終わったから迷惑にはなっていない。いやまあ少し退屈が紛れるというかそういうのはあるけれど、迷惑は御免被りたい。
……なにか、やり取りの中で引っかかることがあるんだが、なんだろうか。まあ、そのうち分かることのような気がする。酷くどうでもいい部分な気がするし。
そんな感じで奥の部屋にて思考していると、突如として表の方が騒がしくなってきた。またお客さんのようだ。お客様は神様だけど、ここに来る神様は横暴が過ぎると思うのだが。
近日香霖堂一巻を友人から借り受けたので、霖之助を勉強してきます。
彼は面白い人だけどまだ良く分からない……