それではどうぞ。
ご主人様に連れられていろんな家を回ってから、およそ一週間がたった。立ち寄ったのは蘊蓄屋さんから始まり、人形屋さん、キノコ屋さん、神社、里の寺子屋さんなどを巡りました。みんな良いヒト……といいますか、面白いヒトだったので、ご主人様は色んな知り合いがいるんだなあとびっくりしました。
そんな風に日を過ごしながら戦闘訓練もしていたのですが、今日はちょっと違うみたいです。朝起きたご主人様は私の所に来て、おつかいをお願いしてきました。
「おはよう、る~こと。今日はちょっと、アリス……ああ、人形屋さんの所へ行ってきて欲しいんだ」
「人形屋さんの所ですか。何か用事でもあるんですか?」
「うん。ちょっとね。このかごを人形屋さんに持って行って欲しいんだ」
「はい、分かりました! ご主人様はどうされるんですか?」
「ああ、私は……そう、壊れてる物の修理をしないといけないから、手が離せなくて」
「分かりました。それでは行ってきますね♪」
「うん。行ってらっしゃい」
そういうと、ご主人様は私を送り出してくれました。いつものように家の外まで出てきて、私の姿が消えるまでじっと心配そうに見てきます。ちょっとほわほわっとした感じがするんですけど、嬉しい感じです。そして今日も、森を抜けて先へと進みます。目的地は里ではなく人形屋さんなのでルートが違いますけど、迷いません!
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森を進んでしばらく経ちました。そんなに急がなくてもいいようだったのでのんびりと確実に進んでいますけど、この辺りは特に森が深いですね……辺りを舞う胞子と魔力も濃くなっていて、ちょっと視界が悪いので危ないです。
確か、人形屋さんの家はちょっと開けた場所にあったはず……といったところで、野良の妖怪が飛び出してきました。
「グルルルル……」
どうやら犬か何かの妖怪のようで、言葉を解さないということは下級妖怪ですかね。この程度ならなんとかなるのでいいんですけど……そう考えつつも、マルチタスクでかごを下ろしモップを準備します。そうしたところで、獣のようなうめき声を上げる妖怪さんが飛び掛かってきました。
「グルゥアゥ!」
「ええと、どいてください!」
モップで横殴りに一発お見舞いして、そのまま頭を滅多打ちにしました。こうしないと、意外にもしぶといんですよね……トドメに一応お塩を頭からまいたら、綺麗さっぱり消滅しました。何故か大体の弱い相手に効くんですよね。どうしてなんでしょう? まあ、倒せるので助かるんですけれど。ああ、ご主人様にお塩をかけても特にどうともならなかったです。まあ私がかけたわけではなくて、ご主人様がお塩を頭の上からこぼしていたんですよね……
まあそんなことを考えながら歩いていると、人形屋さんのお家に辿り着きました。差し込む陽光で白い壁面が照らされていて、とはいえけして明るくはないお家は人形屋さんみたいな感じがします。
家の玄関に近づいて扉を叩くと、かちゃかちゃパタパタという音がした後に人形屋さんが出てきました。
「……あら、珍しいわね。いらっしゃい、る~こと」
「ありがとうございます♪ ところで、ご主人様から預かっていた物なのですが……」
「ええ? わたしは頼んだ覚えがないのだけれど……」
「はい?」
どうやら行き違いがあったらしいです。しかし、どうしてご主人様はこんな間違いを?
「まあとりあえず、上がっていくかしら?」
「あ、はい! お邪魔します~」
中へ案内され、近くにあったテーブルに座らされる。人形たちがテキパキと動いていろんな準備をしていくのは見とれてしまうほどゆうが?で、けれどもこれを全て人形屋さんが動かしているといるのは信じがたいことです。
最終的に向き合って座り、人形屋さんの前には紅茶が。私の前にも、形だけとはいえ紅茶が振る舞われました。
「さて、る~こと。今日は何を持ってきてくれたのかしら?」
「ああ、そうでした! ええと、このかごの中ですね」
かごの中には何が入っているのでしょう。少しワクワクしながら開けてみると、そこには陶器のティーカップと、古びたお人形さんが入っていました。
「これは……ティーカップと人形ね……なにか詳しいことって知ってたりする?」
「そうですね、カップはご主人様が一生懸命に成形して、金を溶かして装飾を付けていたのを見た気がします。お人形さんは……わからないですけど、たぶん拾ってきたのだと思います」
「なるほど……それなら、このティーカップは大切に使わせて頂くわね。あとでご主人様にありがとうを伝えておいて貰えるかしら?」
「は~い、分かりました♪」
「その辺は感情豊かね……ところで、この人形はもしかして、上海の姉妹なのかしら? 色合いは赤っぽいからちょっと違うけれど……」
どうやら姉妹なのですかね? こちらの方にふよふよと寄ってきた上海さんを見てみると、確かに似ているようです。かなり服がほつれてはいますけれど、そんな感じがします。
「あら、人形の下に書き置きがあるわね……ふむふむ……なるほど。この子は上海の妹で、蓬莱と言うらしいわ。名付け親も、この上海と同じ子らしいわね。今までも上海は本当に特別な人形で、真似して人形を作っていたのだけれど……まさか妹がいたなんてね」
「何の縁かはわからないですけど、無事に一緒になれたのなら、それはとても幸せなことだと思います」
「貴方が言うと説得力があるわね……よかったら、この子を直しているところを見ていくかしら?」
「いいんですか!? 治しているときは邪魔になりませんか?」
「いいのよ。もともと色んな人形を操作しながら裁縫をしているし、どうということはないわ」
「そうなんですか! それでは、お言葉に甘えます」
ありがたいことに、見せて頂けることになりました。どうやって治しているのか、気になりますね……
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チクチクという針の音を聞きながら、人形屋さんが丁寧に作業していくのをじっと見つめていました。ぼろぼろになった服はもはや糸が限界になっていたので、いっそのこと上海を治したときと同じ素材で作ってしまうことにしたそうです。迷いのないその手先をじっと見つめて、学び、見とれ、静かな時間が過ぎていきました。
ふいに、人形屋さんが手を止めました。
「さて、今日はここまでにしようかしら」
「どうしてですか?」
「気づいていないのね。もう夕方だから、そろそろ帰る時間よ」
「あっ、本当です! 全く気づいてなかったです」
「まあ、無理もないわね。私の衣装作りを凄い集中力で見ていたから」
「凄い手の動きだなあと思って見ていたんです。私も出来るようになりたいですね……」
「あら、それだったら、今度来たときは教えてあげようかしら?」
「いいんですか? ありがとうございます!」
なんと、教えてもらえる約束をして貰えました! 少しでも、自分にできることを増やしていきたいですし、なんというか、憧れるというか、そんな感じがありますし。
「とりあえず、そろそろ出た方がいいのではないかしら?」
「あっ、は~い。人形屋さん、今日はありがとうございました」
「人形屋さん?……ええ、またよろしくね」
そう、今はまずお家に帰らないとです。空っぽになったかごを持って、人形屋さんをあとにします。そして、帰り道を急ぎました。空が赤くなって、時間は妖怪のものへと移ろうらしい頃合いです。なので私は、お家へ急ぎました。
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今日はやけに妖怪が多いです。森を進むたびに、奥の方から沢山の妖怪達がやってきます。最初のうちは倒していたのですが、どうやら私を無視して走って行くようなので、途中からは警戒しつつも戦わないことにしました。
代わりに、なんだか嫌な予感、胸騒ぎがする、と言う感情なのでしょうか、そういうものが止めようもなく押し寄せてきて、私は走り出しました。
走って
走って走って
深い森の中を疾走して
もう少しでつくか
すぐそこか
そして
眼前では、燃えさかるお家が、赤々と周囲を照らしていた。