東方古物想   作:紲空現

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002アリスとティータイム

 自分のベッドの中で目が覚めた。どうやら過去を思い出している内に寝ていたらしい。ごくありきたりな話だろうけど、それでも私にとっては大事な記憶だ。失くしたくもあり、失くしたくもなし。だからなのか、うろおぼえになっている。いつか、思い出さねばならない時が来るだろうか。その時は、きっと思い出すに違いない。今は、記憶に蓋をしたままにしておこう。無理やり再生したいとは、思わない。

 

 寝ぼけた頭で、布団から這い出す。そのまま支度をして外へ出る。今日はのんびりと森でも歩こうか。誰か知り合いに会えれば良いし。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 昼間だというのに、相変わらず森の中は暗い。じめついた木々の間にキノコを見つけては、採っていく。お、また毒キノコ。凄く真っ赤で、まるで燃えているかのような形状。とりあえず義肢である、金属製の左手で採って厳重に封をしておく。たぶん、まともに触るだけでも不味そうな奴だ。一回、白黒の魔法使いが素手で触って手がただれたとも噂に聞くし。そのまま近くの水……は無かったので、河童謹製の冷蔵収納箱を私が改造して容量を増やしたものから水を右手で取り出し左手に掛けた。しかし、冷たいかどうかはあんまりよく分からない。触れてる感じはあるのだが。

 そうこうして、のんびりと歩いていると、偶然霖之助に遭遇した。どうやらあちらは無縁塚の方に向かっているところらしい。

 

「やあ、君か。一昨日はすまなかったね」

 

(一昨日?ん?まあ合わせようか。最近多いなあ……)

 

「いえいえ。貰うものは貰えたし、それでいいよ」

「そうかい。ああ、まだ例のものは見つかってないから、また今度見つかったら……多分取り返せないから、連絡だけいれるよ」

「分かった。そしたら、家の方に行ってちょっとオハナシしてくる」

「おう……お手柔らかにな?」

 

 何を言っているのだろうか。さして変なことはしてないはずだ。ちょっと笑顔で歩み寄って、部屋から出ようとしたら扉が開かない状態を再生して、箒に乗ったら墜落した時を再生して、真正面からニッコリと見つめるだけだ。勿論、逃がす予定は無い。まあ、本気で抵抗されたら逃げられてしまうのだけれど。

 

 

 

 

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 のんびりと数時間。森をさまよっていたら、上海人形を見つけた。

 

「シャンハ-イ」

 

 こっちに向かって手を振ってきたので、そちらに寄っていく。そのまま上海について行って、アリスの家まで辿り着いた。

 相変わらずこじんまりとした家だが、森の木々を抜けた光が差す場所に家を構えているために他の場所より明るく、暗い印象は無い。が、基本一人で暮らしているので、本人の印象は少し暗めかもしれない。まあ、私もあまり人のことは言えないが。基本無表情だし。

 そんなこんなで、アリスの家の中で紅茶を囲む。詳しくは分からないが、落ち着く香りが辺りに漂う。

 

「今日は、どんな用事で出歩いていたのかしら?」

「ただの散策かな。酒を飲みすぎて、かつ寝不足になった後だし、特に用事も無かったから」

「そうなの。まあ、ゆっくりとして行きなさい。私も暇だし」

「そう。それではお言葉に甘えまして」

 

 それから、ポツポツと、あまり高い頻度では無いものの会話が挟まり、ゆったりとした時間が流れる。窓からは光が差し込んで明るくなった森が見える。静かで、けれど暖かい時間が流れた。

 

「それで、最近はどうしているのかしら?」

 

 アリスが聞いてくる。あまり頻繁に会っているとは言えないこの親しい友人の質問に、近況の話をさらりとする。

 

「のんびりと機械修理とか散歩とかかな?無縁塚で落ち物拾いしたりとか」

「そうなの。あ、そうそう、無縁塚にいっても大丈夫なの?あの辺は、あまりいい噂を聞かないから」

「意外と大丈夫かな。別に取って食うような奴がいる訳でもないしね。幻想郷が隔離されてからすぐは居たけど、今となっては見かけないし。外部から来るのはたまに道具が漂着するぐらいで、誰かが来たりはしないかな」

「あら、そうなの?平和になってきたのね。また、人形さんが落ちてたら教えてね」

 

 意外と驚いたような表情でこちらを見てきた。確かに、変な輩は減ったように思う。時々迷い込んだ人間が襲われているのを見かけるけど。とりあえず、目の前に来た時は助けるようにしているが、後は放置だ。

 

「うん、いいよ。ところでそっちは?」

「こちらも似たようなものよ。ゆったりと過ごして、人形を作って操ったり、研究したりね。あとは、たまに人里で人形劇をしているわ」

「人形劇か。気になるね。しかし、人里に行っても大丈夫?」

「ええ、まあ。あそこの里の代表格というかなんと言うか、慧音という人にも許可を貰えたのよ。それで、それから定期的に行っているわ」

 

 そう言って微笑みながら話してくる。前よりも少し明るくなったように見受けられ、やはり人間は凄いと思った。とはいえ、私が人里に行くと、主に容姿で騒ぎにしかならない気がするので難しいが。

 

「それはいいね。で、ちょっとお願いしてもいいかな?」

「何かしら?都会派の私に言ってごらんなさい」

「それはね__」

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 窓の外を、金色と、最近少し銀色が混じってきている髪をした友人が歩いていく。別れは寂しいが、今はその寂しさよりも衝撃が強かった。

 

「まさかあんなお願いをしてくるとはね……私の夢にはいい影響があるかもしれないけど……流石に……ねえ。でも、友人の頼みで、しないと不味いから……するしかないのかしらね」

 

 はぁー、とため息をひとつつく。そして、今日の友人が見せた笑顔を思い出す。

 

「あんなふうに笑えるなんてね……いつみても、少し羨ましいかもしれないわね」

 

 姉たちの話をしてくれた時の友人の笑顔。その時は、明るい笑顔を浮かべていた。すぐに、寂しさと暗さの混じる笑顔になってしまったけれど……

 そういえば、詳しく過去の話を聞いたことは無かった。さっきも博麗大結界が出来た頃にはあそこに住んでいたような口振りだったし。まあ、こちらも出来る直前ごろに来たから、同じ時期かもしれないけれども。いつか、話を聞く機会は来るのかな。でも無理に聞くものでもないし。私が願えるのは、無事に再び姉たちと友人が会えることだけだろう。

 

 窓の外は明るいが、家の中は少し暗くなった気がしなくもない。そしてそれは、きっと友人が家を去ったからだろう。

 はぁ、ともう一度ため息をついた。


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