今後も低速になるかと思いますがよろしくお願いします。
明日は短めですが投稿出来そうです。
部屋の中にある、黒い円盤が置かれた台に繋がった真空管アンプから音楽が流れてくる。『CHINA BOY』という曲だ。ベニーグッドマンという人がメインの、カーネギーホールという所で行われたジャズコンサートで演奏されたものらしい。そして店で流した時は皆揃って耳を傾け、終わるとどこからともなく拍手が起こったそうな。ドラムとピアノの中、合いの手の声と共に素晴らしい技量で演奏を披露するメインメロディー__これはクラリネットだろうか__が流れてくる。
「んー、やっぱりいいね、音楽は」
どんどんヒートアップする音楽を聴いて、ふと、いつかはれこーどだけでなく、この音楽も幻想になってしまうのかと考えたが、そんなことは無いと自分に言い聞かせる。
……一曲が終わる。さて、作業の時間だ。止めるのも面倒なので、掛けたまま昨日連れて帰ってきた少女がいる工房に向かう。
「これは酷いなあ」
全身ボロボロ、埃まみれで風化した服の生地。そして、荷物が落ちてきたからか右腕の肘が壊れて動かなくなっている。うーん、確か、近くに大型陰陽玉(石製)が転がっていたからなあ……
大体の検分が終了したので、肘の修理を試みてみる。
「再生。……うーん?動かないなあ。完全に把握してやった筈なのに。とりあえず見た目は直ったから、分解してみるかな。流石にあの状態だと先に分解するのは無理だったし」
首をひねってから分解を始める。構造は本人がしっかり知っていたので、滞りなく進む……はずだった。
色々オーパーツじみた構造をしていて分かりにくいのだが、身体のうち腕と関節を繋ぐパーツが無くなっている。これではものが無ければ動けないだろう。
「困ったな……やっぱり河童案件だったかな。この辺が足りないから、発注する為に図面でも引くか……服は、まずは中身が出来ないことにはどうにも出来ないし、下手に触ると崩れそうだからこのままかな……ごめんね」
そう声を掛けて、寝かせておく。そして部屋の隅にある製図机に向かう。
まずは荷物の点検だ。紙に、硬い鉛筆と消しゴム。長い直定規に三角定規のセット、T定規、字消し板、テンプレート、三角スケールにスプリングコンパス、20cm以上の円が描けるコンパス、紙上の鉛筆粉や消しカスを掃くブラシなどなど、大量に確認していく。
よし、あった。いける。紙と製図板をセットして、カリカリガリガリと必要な部品を書き込んでいき、全てにmm単位の詳細をつけ、必要な精度や質量、摩擦係数、硬さなども書き込んでいく。多分普通はこんなに要らないと思うものの、この人が覚えていて、かつこの精度が必要そうなので書き込んでいく。
時間が過ぎていき、紙にはどんどんと精緻な図面が書き込まれていく。
……面倒だなぁ。全ての道具をどけて、紙だけ固定する。そのままフリーハンドで、さっきまでの動きを組み合わせて再生して書き込んでいく。鉛筆も崩れては元に戻り、欲しい形に変わる。判を押したように均一な字で書き込みをする。とんでもない速度で図面は描き上がっていく。さあ、仕上げかな。
数時間後、描き終わった。目の前には大量のパーツの図。止まったれこーどに真っ暗な外。完全にひと仕事を終えて、一息つく。
「やっと終わった……」
そして荷物をまとめて外に出る準備をする。表立って河童の元に行くのは厳しいので、天狗の警戒の目も緩む深夜に向かう。唯一仲の良いにとりの家へ、プレゼントしてくれた光学迷彩を起動して向かった。
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闇を駆け抜けて、家の前に着いた。ポケットから、振ると相方に振動が伝わる双子ベルを取り出して、一振りする。こちらの音はそのまま向こうに向かうので、一切音はしない。
しばらくして、そっとドアが開いた。ただし、こちらも向こうも姿は見えない。中に入ってから、光学迷彩を解除して合図を出す。扉がひとりでに閉まって、にとりが姿を現した。
「久しぶりだねえ。今日はどうしたんだい?」
「ちょっと修理の為に必要なものがあって」
「なるほど、珍しいねえ。普段は自力でなんとかするじゃないか」
「まあね。今回は元がボロボロ過ぎてパーツが残ってなかったのと、それが結構面倒なパーツだったから」
「そうかい。普通のものなら妖力で再生したり、このベルみたいに能力を付けたり出来るもんなあ」
そう言って笑いながらさっきのベルを指してくる。
「まあそれは、双子のベルを見つけて、そう在れるように再生したから」
「まあね。でも凄いと思うよ?……うーん、そうすると、やっぱり再生の使い勝手はいいんじゃないのかい?」
「いやいや。私かモノ位しか使えないし、モノの意志に反することは基本しないから」
「そういやそうだったねぇ……まあ、私は嫌いじゃないよ、それ」
「どうも。ありがとう」
「まあそれじゃ、今日の依頼はなんだい?あ、防音はこの前より強化したから叫んでも大丈夫だよ」
どんどんとにとりの家が要塞化している気がする……どうなんだろうか。まあ、悪いことでは無いと言える。前回は、中で大型機械を倒したせいで大音量が響き渡り、心配した他の河童が何人も入ってきて見つかるかと思った。光学迷彩に感謝だ。
さっき描き終わった図面を丁寧に広げて渡す。
「お!どれどれ……」
「……」
「…………うーーーん、エグいね、これ」
「……まあ」
「どんなレベルで作られたんだい?これ。そもそも何のパーツだい?」
「ああ、ええと」
説明をする。蔵で見つけた少女の修理だと。肘関節のパーツが減って困っているのだと。そして、見て分かる通りオーバーテクノロジーっぽいことを。
「なるほどねえ……5日。5日欲しい」
「ありがとう」
「いいってことさ。あ、そうそう、左腕の調子はどうだい?」
そう、この左腕の義肢を作ったのはにとりだ。これには感謝してもしきれない。恩人である。
「問題ないよ。あの時治して以来、自己修復で特に問題は感じていないかな。でもまあ、今度精密検査をお願いしたいけど」
「りょーかい。まあ、前やった時も全然問題無かったけど」
不思議な話ではあると思う。だけど、これが実際問題が無かった。一度外して数日間預けてみたものの、それでも問題は一切発見されなかった。むしろ外したこちらが謎の倦怠感に襲われたぐらいである。
「それじゃあ、また後日。何とかやってみるよ」
そう言って、にとりの姿が見えなくなった。私も迷彩を使って姿を消す。帰りは勝手口からこっそりと外に出て、家へと走った。
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数日後。再びにとりの家へと走る。ベルを鳴らして来客を伝えると、ひとりでにドアが開いた。室内に入って、にとりが口を開いた。
「やあ。頼んだものは出来たよ。いや〜、実に大変だったねぇ。あんな超精密なものとか作ったこと無かったから、偶然出来るまで何十回もやったよ。でもまあ、楽しかったし。構わないよ」
「ありがとう。本当にいつも、感謝かな」
「いいのいいの。楽しんでやってるわけだし」
「どうも。じゃあ、持って帰ってやってみるよ」
「おう!ああ、また今度どうなったか教えて欲しいなぁ。間が空いた方が疑われないし、また後で、だねぇ」
「分かった。ではまた後で」
そしてコソコソと窓から出ていく。家に戻ると、即座に少女の元へ向かう。足りなかったパーツを全て正しい場所に収め、再生する。よし、これで動けるだろう。起動してみよう。
……
………
…………
……動かない。どうしてだろう?彼女の声も聞いてみるが、しかし分からない。どうしても動けないようだ。
一体何が足りないのだろうか。悩みは深まり、そして夜は明けて行った。