東方古物想   作:紲空現

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ちょっと短めになってしまいました。


005目覚めの朝

 パーツを組み込んだのに動かない。どうしてだろうかと悩むうちに、深夜の凍ったような時間は溶け始め、来るべき朝に向けて無音のうちに動き始めた。

 もともと妖怪のこの身は、例え全く寝なくても問題は存在しない。人間とは構造が全く違うから寝なくて発狂するというようなことも起こらないし、動きが鈍ったりすることも無い。無視できる程度の軽い眠気は覚えつつ、未だ目を覚まさない彼女の記憶を読み続けて原因を探る。

 

 

……

…………

………………

 

 

「……ふむ。……ふむ。そこは合ってる。ここも治ってる。動力源の核の炉は治した。うーん、どうしてだろう……」

 

 やはり、足りていない。空は白んできて、時間の流れを無常にも伝えてくる。自分はどうして時間を気にしているのだろうか。焦ることは無いはず。時間はいくらだってあるのだし、朝までにしなければならないことも無いのに。

 

「どうして……どうして……上手くいかない。何故……何故……なんで……」

 

 どんどんと急いていく気持ち。焦って焦って、そして気づく。自分は誰かを永久に失うのが怖いのだと。自分の力が及ばないことを恐れているのだと。今までに拾ったものもそう。目の前の少女もそう。誰かに忘れ去られてしまった物たちへの共感。もう二度と会えないかもしれない私の姉たち。自分のエゴがぐるぐる回って、だったら成してやると心に決める。もう無くさない。失わない。全部全部、自分が見つけたものは拾い上げてやる。

 

 一つ息を深く吸って、全て吐ききる。落ち着いた。憑きものが落ちたように、心は凪いで安定する。原因を捉えてしまえば、あとは対処するだけだ。

 そしてゆっくりと考える。自分の能力について、そして自分にできることを。ふいと、誰かが言っていたことを思い出す。あれは確かフラリと現れた小柄な鬼だったか。

 

「能力はねえ〜、捉えようなのさ。その人の個性だから、使いようによっちゃあ~色んなことができる。私だって、初めは上手くいかなかったさ。霧になれるかと思って試してみたらバラバラに吹き飛びかけたりねえ。まあ、大丈夫だったんだけどさ。あはは」

 

 そう言っていたっけか。うーん。自分の能力について考えを深める。再生、再生……再生って何だ?私は何を望んでいた?

 あの時、私は生き延びたいと思っていた。死の淵に瀕して、姉二人ともう会えないのかと思ったその時、私は生き汚くも続きの生を求めた。再び姉二人と会うために……いやいや、それは目的だ。私がその時、その目的のために望んでいたのは何だったか?

 

 そんなふうに思考を巡らせて、あることに気づく。そうか。そういうことなのか。そうすれば、良かったのか。

 

 

『再生』

 

 

 そう、私の能力は『再生する程度の能力』。再生とは、時間的な再生/逆再生もあるけど、本質は違う所にある。それは、再び生まれさせる力。もう一度、生きることを許す力。一度私に力を与えてくれたこの力で、この機械の少女に再び生を与えた。

 

 少女に力が吸い込まれていく。かつてないほどの能力の行使で、身体が、精神が、悲鳴をあげていく。能力行使の代償として吸い取られる妖力。軋む身体を無視し、歪んだ視界の端で少女が目を開けたのを確認して、そのまま意識を手放した。

 窓からは、まるで少女の再誕を祝うかのように、一日の循環を告げる朝日が差し込み少女の周りを照らしていた。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 私は、る〜こと。もう、記憶は曖昧だけど長い間眠っていたような気がします。そんな曖昧な時間のなか、どこからともなく見られているような気がしてきたんです。感覚的なものだったのですがなんとなく意志を伝えられそうだったので、混濁とした意識の中聞かれたことを思い浮かべて、微かに会話のような感じのことをしたような気がします。そこで分かったのが、どうやら私の身体を直そうとしてくれていることですね。正直なところ、もう必要としてくれる人がいなかったので、凄く嬉しいです!でも、なんだか上手くいっていないようですね……

 あれ、なんだか不思議な力が入り込んできました……これは一体…………ん?願い?……それは……

 

 そこで、私は目が覚めました。ちょうど朝だったのでしょうか、ちょっとまぶしいです。うっとうしく感じつつも採光量を加減して見えるようにしつつ、ゆっくりと身体を起こしました。部屋のほこりが舞って、差し込む朝日に映ります。

 

「わあ……久しぶりの目覚めですね。……うん、身体の動きも炉の動きも良好です。ところで、誰が直してくれたんでしょうか」

 

 そう思いつつ辺りを見回すと、不思議な人?いや、妖怪?が倒れていました。長い金髪に微かに銀が混じった奇妙な髪に、義肢と思われる、つや消しの金色をした左腕と左脚、妙なコードとその先にある大きな球体。およそ人とは思えない異質な格好をしたヒトが倒れていました。もしかして、私を直してくれたのはこの人なんですかね?

 そこまで考えた時、頭がやっと回ってきました。

 

「そうです!倒れてるなら介抱しないとです!目覚めてすぐですが、メイドとしての仕事をしましょうか」

 

 そう自分で声を出してやることを確認して、それから彼女を丁寧に持ち上げてさっきまで私が寝ていた場所に寝かせました。普通に気を失っているだけのようですが、少し熱があるようなので適当な厚手の布を湿らせ、畳んで頭に乗せまして。それから適当に貴重なお米を拝借して洗って処理をしたあと、釜に入れて多めに水を張りました。古びた新聞と種火、薪を入れ、火吹き竹でゆっくりと火を(おこ)して、管理を続けていきます。沸騰したら、甘みが増すように塩と酒を少量入れて、弱火でゆるく煮込んで……

 

 陽が徐々に昇り部屋に差す光も強くなってきたころ、やっとお粥が炊けました。ご主人様は見た限りかなり弱っていたので、まずは重湯を持って行きました。ご主人様、早く元気になって、元気になった私を見て欲しいです。今は呆然と上半身を起こして、焦点の合わない瞳のまま重湯を召し上がっているだけですから……


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