東方古物想   作:紲空現

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更新が遅くなってすみません。
次回も遅れるかもです。申し訳ありません。


006ゆるやかな魔の森の瘴気

006ゆるやかな魔の森の風

 

 

 私が目覚めて、ご主人様が倒れてから一週間。ご主人様は徐々に元気を取り戻してきました。それまで、お粥を作ったり部屋の掃除を埃が立たないようにしたりと忙しい毎日でしたが、人のために仕事が出来るというのは私にとって望外の願いだったので、非常に嬉しかったです。

 

「る~こと、ありがとう」

「いえ。ご主人様の為ですから♪」

「そう。でもまあ、君が元気になって良かった。正直に言うと、治せないかもしれないと思っていたんだ」

「えっ?そうなんですか?」

 

 話を聞いたところ、どうやらこの幻想郷、と言いますか外の世界でもかなりのオーバーテクノロジーな私を直すのには部品の精度が足りなくて、河童という幻想郷の技術者集団に無理を言って作ってもらったらしいです。そこまでしてどうして助けたかったのか聞いてみましたが、はぐらかされてしまいました。なんでも、ただのエゴだかららしいのですが、それ以上は教えてもらえませんでした。でも、それでも良いと思っています。自分を直してくれたのはこの人で、私が仕えるご主人様もこの方です。感謝しかありません。

 

「まあ、そんなところかな。そろそろ、元気に動けるようになると良いんだけど。やっぱり無理しすぎて、力の根源である妖力不足で存在自体があやふやになってたみたいだし。幻想郷じゃなかったら消滅していたと思う」

「そうなんですか……でも、無事だったから良かったじゃないですか」

 

 ご主人様、やっぱり危険な状態だったんですね……でも今生きていられるなら良かったのではないかと、にっこり笑いかけます。それを見たご主人様も、ほんのり笑って下さいました。

 

「そうだね。やっぱり、感謝かな。巡り巡ってこんな所まで来てくれてね」

「いえいえ。こちらも仕事を得られましたし、なにより良いご主人様に出会えましたから」

「それなら良かった。ああそう、数日後には完全に元気になると思うから、散歩に出かけようと思う」

「そうなんですか!お供しても宜しいでしょうか」

「いいよ。こんな所まで賊は来ないと思うし、下級妖怪は家に入ることすら出来ないと思うから。まあ、入った所で地下倉庫や工房には行けないけど」

 

 そういってご主人様は許可してくれました。でも、どうして入れないんでしょう?私はすんなり通ることが出来たのですが……

 

「ああ、それは、この家自体が特殊なんだ。もともと私が建材として使うことを認めてくれた素材達だったから、『再生』の能力を使って侵入者防止が出来るように生まれ変わらせたんだ」

「そうなんですね!ですが、ご主人様の能力、そういう使い方が出来るんですね」

 

 不思議に思ったことを聞いてみます。元々ものを直したりとか音楽を再生したりとか、そういうことには使っているのを昨日とかに見かけたのですが、そういうことも出来るとは驚きです。

 

「まあね。これは君を治した時に理解したんだけど、私の能力は再び生を与える力。そのときに、その対象が望んでいる姿へと生まれ変わらせることが出来るみたい。もしかすると、何か出来るようになってるかも」

「そうなんですね……何が出来るんでしょうかね?」

「それは分からないけど、多分時が来たら分かるんじゃないかな」

 

 確かに、そういうものなんでしょう。でも、私の願いは良いご主人様の下でメイドとしての仕事を頂く事なので、どうなっているんでしょう?そんなことを思いながら、その日もゆっくりと過ぎて行きました。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 数日後。やっと完全回復したので、のんびり散歩に行こうと思う。いつもと違うのはる~ことがいること。今までは基本一人で散歩していたけど、今日はヒトがいる。昔はあって、最近は無かったこと。少し姉たちを思い出して寂しくなるけど、楽しみだなあ。

 

「さてる~こと、行こうか」

「はい!」

 

 短くやりとりをして森へと適当に歩く。話すのはかなり苦手で短く切っちゃうけど、る~こと相手には少しでも親しみやすさのある発言がしたい。だって、今の唯一の身内だから。自分が大切にしたいと思っているものにはその気持ちを伝えないと、いつか後悔するときがくる。そのときがもし来たときに、気持ちが全く伝えられなかったとはならないようにしたい。

 そんなことを思っていたら、瘴気渦巻く森の中の方まで歩いてきていた。光のあまり差さないこの森は、逆にその鬱蒼とした中に各種キノコの胞子がまき散らされ、一部差し込む白色の筋に照らされて不思議な色合いを呈していた。

 

「ああ……今日も不思議な森だなあ」

「そうですね。と、いつもこれなんですか!?なんだか身体に悪そうですね」

「実際、人間がここまで入ってくるのは無理だと思う。妖怪でも体調や精神に悪影響を及ぼしかねないほど、ここの空気自体は悪いみたい」

 

 そう。ここの空気は、成分だけ見ると酷いことになっている。魔法薬品の材料となるキノコの胞子は猛毒から幻覚作用まで様々あって、実際昔には空気に酔って酷い目にあったことがある危険な森っぽいなあ。

 

「大丈夫なんですか?」

「まあね。そもそも妖怪な上に半分機械化してるせいでそういうのには耐性がついているみたいだから」

 

 そう言って、自分の身体を見る。つや消しの金色をした左腕と左脚は、あのとき(・・・・)切り落とされてから義肢となっているし、この第三の目も突き刺されて義眼になっている。それでも、能力は発動するのだからこの身体は不思議だ。義肢も肉体部分と同じように妖怪としての自動治癒が働くのか、ゆっくり直っているみたいだし。

 まあそのことは置いておいて、さくさくと森を抜けていく。時折聞こえる水の音。一体どこから流れてきているのか不思議だけど、特に気にしないことにする。他にも、見るからに毒々しい色をした毛虫や立ち並ぶ人面樹、おかしな植物を基底とする混沌とした生態系を眺めて、楽しむ。

 

「やっぱりいつ見ても面白い。外に出歩けなかったからずっと家に居たけど、こういう光景が広がっているから幻想郷散策は止められない」

「景色を見るのが好きなんですね。私は幻想郷について詳しくないですけど、世界のいろんな姿が見られるのは楽しいです♪」

「それは良かった。でもまあ、今日はこの辺かな。また一緒に散歩しない?まあ、人間の里への買い出しもお願いするかもしれないからその予行演習みたいなものになるかな」

「良いですよ!あ、でも、私が人里に行っても大丈夫なんですか?」

「うん。大丈夫だよ。私も偶に忍んで行くけど、見られても大丈夫だったかな。流石に義肢は差し出さないように気をつけたけど」

 

 意外な話、人間の里ではバレにくい。しっかりと偽装すれば見破れそうになられる機会は少ないし、露見したとしても妖怪全体としての畏れが増えるだけだから黙認されているんだよね。中にはそのまま堂々と買い物に行くヒトも居るらしいけど……

 

「そうなんですね!では、私も問題無くいけそうですね。見た目は普通の人ですし、特に能力を持っている訳では無いんです。唯一怪しいのは背中の放射性標識ですね」

「まあそれなら、描いていない服にすれば解決しそう。まあ、そもそもそこまでしなくても何のマークか分からないだろうから、多分大丈夫」

 

 そういう見方では、る~ことはかなり適任だと思う。私の家族の中では、今まででヒトに一番近い姿をしているからきっと里になじみやすいと思う。声も明るいし。

 不思議な森を抜けながら、ぽつぽつとそんな会話をしたり休憩中にキノコをちょっと採ったりして、今日の散歩は終了。一日のんびり散歩で潰すのはやっぱり楽しい。今日は同行者も居るし。再び自宅の前へと行き着いたとき、ふとそんな事を思った。ずっと、こういう緩慢とした空気が続けば良いなあと思う。


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