東方古物想   作:紲空現

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お久しぶりです……書き方、これで大丈夫か心配です。
それではいつも通り短めですが、お楽しみ頂けたら幸いです。


007おつかいおかいもの

 今日は一人でお買い物の日です。ご主人様は工房で拾い物の治療をするのだとか。物の修理の腕前は一流で、特に小物に関しては河童の技術力をも上回るという噂を耳にしているので、本当に凄い方なんだなあと思っています。

 さて、今日のおつかいはなんでしたっけ。手元のメモを見返します。

 

「……ええと、適当な野菜と、あればぶつ切り肉を少々。砂糖があれば優先的に購入して、塩が不足してきたからそれも……ですか」

 

 今回は食料の購入ですね。妖怪にしては珍しく人間と変わらないものを食べているので、里での買い物が必要になります。場所が場所なのでまともな作物が育たたず、結果ある程度を里に頼る形になっています。特に、調味料系は作るのが難しいですし。

 

 人間の里は、今日も人々が活気を持って動いている。織り上げた反物や鋳物の鍋、食事処に新鮮な野菜まで雑多な店が立ち並んでおり、何人もの人が店を出入りしている。そして、そんな中を通り抜ける緑髪のメイド服の少女はそれなりに目立っていたが、特に気にする様子もなく店主に話しかけていた。

 

「すみませーん。今日はどんな野菜がありますか?」

「……おお!いつもの妙な格好をした嬢ちゃんかい。いやー、今日は繁盛しとるでい。今の時期だから秋の恵みを存分に受けて、ようさん実っとるからの。好きに見てってくれや」

「はーい!」

「して、今日は一人なんけ?」

「あ、はい!今日はご主人様は忙しいので」

「おお、そうかいそうかい。んじゃあ、みてっとくれや」

「はい!」

 

 そうして何軒もまわって、食べる用と漬物用の野菜と、あと備蓄のために大量の塩を購入しました。砂糖系が見当たらなかったのは残念ですが、まあ、貴重ですし……

 そうやって町の中を歩いていると、いつもの貸本屋さんに会いました。何故かぎょっとしてこちらを見ているのですが、何かありましたでしょうか……

 

「あ、あの〜荷物、大丈夫ですか?」

「?大丈夫ですよ」

「ええ……重くないんですか?」

 

 うーん、どうなんでしょう?左手には野菜が3kgと塩5kgほど、右の方には塩10kg、左脇に野菜とお肉が計2kgと、頭の上に塩10kgの合計30kgぐらいです……

 

「そこまで重くないですよ?」

 

 と言いながら、その場で軽く跳ねるる〜こと。ずしんずしんと言いながら地面が凹んでいき、貸本屋を営む小鈴の目は死んでいった。

 

「ええ……うーん……量、合ってるのかな……ま、まあ、本でも見ていきますか?」

「いえ、今日は流石に荷物が多いので、またの機会に……」

「それは残念です……そういえば、結局、何処から来ているんですか?」

 

 そう、いつもの二人組の片割れなのだけれど、何処から来ているのかがさっぱり分からない。町の人でもなさそうだし、さて……いや、行ける範囲なら本の配送とかも出来るし、これも商売の為。徐々に販路を拡大しないと。

 

「ええと、何処でしょう?森の奥の方からですね……」

「ええっ!?森なんですか!?……それだと流石に無理だなあ」

「ん、どうしたんです?」

「(あれ、小声だったのに聞こえてる……)ああ、気になる本があったら配達するサービスをしているんです。なので、家の場所を聞けたらなあと」

「うーん、今度、ご主人様に話をしておきますね。もし良ければ来てください」

「ありがとうございます!でも、普通の人は森に入ると瘴気に耐えられないんですよね。あそこは空気が澱んでいますし、妖怪も出るんです」

 

 そう、魔法の森は近づけない場所筆頭の一つで、山と同じく危険地帯。曰く、とって食われる妖怪がごろごろ居るとか、曰く、入ると数時間で肺を患うとか、怖い噂の耐えない場所で。でも偶に、人形のように美しい女性が居たとか、倉庫のような店があるとか、銀髪の女の童が居たとか、泥棒が住んでいるとかの面白い噂もあるので、一定数好んでいる人もいるみたいなのがなんとも……

 

「そうですか……まあ、私は大丈夫なので。では、また来ますので、その時は本をお願いします」

「あ、はーい!その時はよろしくお願いします!」

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 そうして、重荷を持ったまま森を抜けて、なんとか家に辿り着きました。道中で妖怪に襲われることもなく平和だったので良かったです。まあ、襲われても撃退するんですけどね。

 

「ただいまです」

「おかえり。どうだっ……ありゃ」

 

 何故か頭に手をやるご主人様。何かやらかしたのでしょうか……

 

「どうされました?」

「いや……その塩の量は……」

「?大体、20kgとちょっとあります」

「うーん、使いきれるかな。湿りそう」

「まあ、盛り塩すればいいと思いますよ」

 

 そう言うと、また頭が痛そうな顔をしました。風邪でも引いているのでしょうか?

 

「いや、ここ、妖怪の家だから。いっぱい置いたら伝承次第で動けなくなるよ」

「あっ、それは失礼しました。とりあえず、地下倉庫に置いておきますね」

 

 それは忘れていました。噂は変形するので、気をつけないとですね……また一つ、勉強できました。

 

「うん、お願い」

「はい!」

 

 食糧庫にどかどかと塩が運び込まれていく。地下は毎日拡張が進められているため、限界にはまだまだ遠い。木張りの冷えた部屋には、沢山の野菜や肉が保存されていた。なお、じゃがいもなどは別の場所に保管してあるようである。

 拡張に拡張を重ね、まるで迷路のように発展した地下倉庫群。その何処かから、槌を振るう音が響き続けていた。




小鈴ちゃん、口調はこれで良かったのか……?
鈴奈庵、買わないとな……

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