戯れに、珊揮は戒莉に稽古をつけてやろうなどと言った。
戒莉は以前に駆け寄ってきた時のような顔で、その誘いに乗ってきた。だからつい、珊揮も調子にのってしまった。
戒莉と少し打ち合って、珊揮は後悔した。
戒莉は剣をとってまだ日が浅い。基本のまだまだで、太刀筋はふらふらとしていて、頼りないぐらいだ。とても珊揮に太刀打ち出来るようなものではない。
しかし、何か手ごたえがあった。
自分の戒莉を見る目が変わってしまったことを、珊揮は自覚した。
嫌な感じがした。
「いいことじゃないのか。けっこうスジが良いと思うが」
堺仁は言う。
「ああ、だろうねえ」
珊揮は納得いかぬという風だ。
「なんだい、不満そうな口ぶりだね」
おやと、堺仁は珊揮の表情を伺った。
「スジがいいから、ものになりそうだから、いけないってこともあるってことだよ」
「禅問答みたいなことを」
そのゼンモンドウが、どういうものなのか、堺仁は説明はしなかった。
「戒莉は、きっと良い剣士になるよ。私が言うからには間違いないさ。つまり、私はあの子をそういう風に見るようになってしまったってことだよ」
「それほどのものか?」
堺仁は首を傾げた。
「きっとね」
軽い口調で、しかし断定する。
「だとしたら、やはり私にはいいことのように思えるね。あの子は、それを望んでいるだろうから」
堺仁の言うことも、もっともらしく響く。
だがね……と、珊揮は反論する。
「私はね、あの子に人を斬ったり、人に斬られたりとか、そういうところには居て欲しくないんだよ」
「ずいぶん勝手なことをいうものだな」
「そうだろうか」
戒莉が清く正しく生きることに、何の問題があるというのだろうか。珊揮は、そんな顔をした。
「戒莉は、ここで生きようとしている。そういうことだろう」
「生きる術が、人殺しでいいのかね」
そう言いながら、やはり珊揮は自分が勝手なのかもしれないことを、密かに笑った。
「お前さんは、どうなんだい?」
「私には分かっている」
「戒莉だって分かっているだろう」
「あの子には、白いままでいて欲しいんだけどね。これも勝手な言い分なのかねえ」
珊揮は、笑いながら溜息を落とした。
堺仁もつられたように溜息をつき、首を振った。
「お前さんは、何が不満なんだい?」
「不満というより、つまらんのだろうね」
ついに、珊揮の口から本音が落ちる。
「つまらない?」
「もっと、甘やかしてみたかったんだよ。私はね」
「私に言わせれば、今でもずいぶん甘やかしてるがね」
珊揮の顔をよくよく眺めて、堺仁はからかうように言った。
「いつまでも子供だと思っていると、いつか戒莉に愛想をつかされるぞ」
「そうかねえ」
「子供はいつか、親元を去るものだから」
「それは……寂しいなあ」