『紅い河を下れ』 天涯Ⅳ   作:清夏

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「御伽噺」

 商隊や旅人がこつぜんと姿を消す。昔から一部で語り継がれている残酷な御伽噺だ。

 皆殺しにされたとかそういった痕跡もなく、とにかく商隊まるごとがはじめから無かったかのように消えてしまうのだ。

 その話を聞いた堺仁は、倭では神隠しと言うのかもしれないと言った。その場にいた戒莉は、自分もその類なのかもしれない、と笑った。

 

 

 

 

 何百年もの間、密かに殺戮を繰り返してきた集団がある。

 それがただの御伽噺ではないことを、珊揮は知っていた。彼らは確かに居る。けれど、珊揮は彼らに遭ったことはない。その名を聞いたこともない。

 それほどにひっそりと、しかし確実に彼らは存在した。

 文字に落とされることのない彼らの歴史は、何百年と生きてきた珊揮にも正体のつかめぬものだった。

 その手際はあざやかで、殺戮の痕跡をほとんど残さない。けれど、何十年に一度くらいの間隔で、獲物を殺戮の網から逃すことがある。そうして生き残りの口で、自らの恐ろしさと素晴らしさを語らせるのだ。

 奴らは極めて友好的な面の皮を被って現れる。時に正義、時に慈愛をまとい、獲物の懐深く入り込み、信頼を勝ち得るのだ。けれど、幸せの時は長くは続かない、彼らは手塩にかけた企みの実りを一気に刈り取る。金品も衣服も、命も、魂も、人としての尊厳も、ひとつ残らず奪い取るのだ。彼らが通り過ぎたところには、何も残らないそうだ。

 

 

 

 漣淨から持ち込まれたのは、そんな時代の埃に覆われた話だった。はじめ、珊揮は何を今更と、思った。

「何百年も前から続く、この謎に終止符を打てるかもしれない」

 壮大なことのように、漣淨は言う。

 漣淨いわく、

「最近になって、奴らの手際が雑になってきた」

 

 生き残りがいても、遺体が見つかることはあまりない。

 それが最近、頻繁に見つかるのだと、漣淨はいかにもおかしそうに笑った。

 珊揮は、あまり面白いとは思わなかったが、漣淨の話に乗った。

 戒莉は、この件からは遠ざけることにした。幸い、章羊の仕事が入ったので、そちらへ行かせることができた。

 少しは文句をつけてくるかと思ったが、存外戒莉が素直だったので、珊揮は少しつまらないと感じていた。

 

 

 見つかった遺体の山を前に、珊揮はさすがに胸が悪くなった。

 子供も女も切り刻まれ、身包みはがされて、ただの棒切れのように道端に棄てられていた。惨い殺しだ。殺しに酷いも、酷くないもない。しかし、これは酷すぎた。

 こんなやり方を、彼らがするのだろうか 

 珊揮は、首を傾げざるを得なかった。

 珊揮たちが追っているのは、血も涙もない人殺し集団だ。だが、彼らは慎重な上にも慎重を重ねるようなやりくちで、遺体の痕跡を消してきていた。それが尊敬に値する訳ではないが、こんな開けっ広げなやり方をするというのは奇妙なことだった。これの意味することは、何だろうか。

 その答えは、ひとつのように思えた。

 それら気付かぬ漣淨ではあるまいと、珊揮は警戒の固めた。

 

 

 奴らの尻尾は、なかなか摑めなかった。あまりにも適当で行き当たりばったりすぎて、その行動が読めなかったからだ。だが、それで諦めるような漣淨ではなかった。

 珊揮の手を借りて、緻密な調査、聞き込みを繰り返し、遂に彼らの痕跡をたどり、ようやくもう一歩というところまでこぎつけることができた。

 

 

 しかし、その矢先、奴らの痕跡がぷつりと途絶えた。

 それこそ、奴らなどまるで最初から居なかったかのように、消えうせてしまったのだ。

 

 

 

 

 

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