宍道は、次の日も、そのまた次の日も、戒莉に着物を見立て続けた。
なんとかそれを回避しようとする戒莉だったが、なんだかんだで押し切られていた。
三日目ともなると、皆、今日はどんなものを着てくるかと楽しみにまでしている様子で、これがまた戒莉の心を逆撫でしていた。
特に一花は、上機嫌で宍道とともに、ああしろ、こうしろとまで言い出す始末だ。
中だるみしている旅の刺激にはなったが、呑気な空気が濃厚になっただけのようでもあった。
はしゃぐ一花の様子を見るにつけ、戒莉の脳裏には香々のことが浮かぶ。病は癒えたのだろうか。
『助けて』と、あの娘は言った。苦しい熱の下から、助け出して欲しいと言ったのだろうか。戒莉は何も出来ず、そのまま置いてきてしまった。
それにしても、一花は心配ではないのだろうか。ひとつの実から二人生まれというのは珍しいと聞く。そんな宿命的な二人でも、そんなに近しくはないのだろうか。
戒莉は愚かにも、そのことを口にしてしまった。
とたんに、それまで楽しそうだった一花の表情が、にわかに掻き曇り、やがて真っ赤に上気した。
「なによ。みんな、香々のことばっかり。あの子は、いつもそうなの。あんな風に熱を出して、みんなにかわいそうだって、言われるの。母さまも父さまも、香々のことばっかり心配してるの。あんな子、大嫌い」
一息でそう吐き出すと、一花の瞳からはどっと涙が零れた。
「大嫌い。大嫌い。せっかくあたしだけになったのに、今もみんな香々のことばっかり。あんな子、死んじゃえばいいのに!」
最後の言葉を、一花は繰り返す。
戒莉は、暫くそれを呆然と見ているだけだった。
何が起きたのか、戒莉は理解していなかった。
どれだけ一花は、泣いただろうか。どれだけ酷い言葉を吐き続けただろうか。
肩を上下させて、しゃくりをあげ、一花は香々を憎み続けた。
もし珊揮ならば、この場に相応しいことを言ってのけたかもしれない。漢将にしてもそうだ。宍道ですら、慰めることぐらいは出来ただろう。
戒莉は、ただそこに居続けるだけだった。
「……ちょっと」
小さく、しゃがれた声が戒莉を呼んだ。
目の前の一花は、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、戒莉を上目遣いで睨んでいた。
「ちょっと、何か言いなさいよ」
一花の怒りの矛先は、突然として戒莉に向けられた。
どこでその転換がなされたのか、戒莉はそれを見逃していた。
「大人なんだから、二十一なんだから、子供がこんなこと言ってたら、言うことがあるでしょう!」
怒っている。しかも、奇妙な怒り方だ。
戒莉は一息おいて、口を開いた。
「そんなこと、お前の方がよく分かってることだろう」
なんだか、偉そうな言い方になってしまった。
「分かってる? そうよ、あたしは分かってる! そんなこと分かってる」
一花の怒りは、さらに強く突き上げられていった。
「なら、それでいいだろ」
低い声だ。奇妙に落ち着いているように聞こえる。戒莉は、自分の声が外から聞こえたような気がした。
「お前は、分かっている。だったら、それでいいだろう」
一花の涙はいちど止まっていたが、戒莉の言葉が終わるか否かという時に、またあふれ出てきた。
戒莉は、またただそれを見ているだけだった。