「戒莉は、いくつなの?」
大人びた口調で、幼い声が問いかけてくる。
「多分、21」
「多分ってなによ?」
少女は、戒莉を睨む。
戒莉としては、簡潔に、できるだけ正確に応えたつもりだったのだが、少女はその応え方が気に入らなかったらしい。
「よく分からないから、『多分』」
「自分の年が分からないなんて、ばかみたい」
少女の口は、容赦がない。
さすがに子供相手に、本気で腹をたてたりなどしないが、戒莉は少し面倒になっていた。
少女は、一花という。十歳くらいだと思われる。それくらいの年頃の子への口のきき様があるのだろうが、生憎と戒莉にはそれが分からなかった。子供は苦手だ。
戒莉は、だいたい21歳になるはずだ。立派に成人していると言える。
多分、とか。だいたい、とか言うのは、この世界に来てはじめの数年間の記憶が、あいまいだからだ。珊揮に拾われて以降は年月の流れが明確になったのだが、それ以前はどれくらいの時が流れていたのかがよく分からない。だから感覚と実際では、一歳くらいの誤差があるかもしれない。
それを説明するのは、面倒だ。
戒莉は、これからははっきりと年齢を言い切ろうと、心に決めた。
今回、戒莉は珊揮とは分かれて、仕事をしていた。
仕事の内容は、範から奏への荷を運ぶ商隊の警護だ。剣客としては、一般的な仕事と言えた。
範で仕入れた工芸品を奏に運び、真珠を求めて帰るという割と長旅なのだが、雇い主の章羊の妻子も同行していた。
章羊に言わせると、章羊の妻は真珠の目利きで、よい品を求めるには、妻の力が不可欠なのだという。
まあ、それは良い。
問題は、章羊の子供だ。
ひとりが一花、もうひとりが香々。この二人は、双子なのだという。ひとつの実から生まれた二人は、全く似てはいなかった。容姿も、性格も真逆と言って良い。
大きな目をした、よく喋る、活発な一花。糸のように細い目をした無口で、おとなしい香々。
同じ実から生まれて、同じ環境で育った二人なのに、何もかもが違う。
なぜなのだろうか。
環境が人を作るのではなく、人には持って生まれた性質というものがあるのだろうか。そしてそれからは、どうにも逃れられないのだろうか。
「……」
ふと、視線に気付いて戒莉は、そちらを見た。
香々が細い目の向こう側から、戒莉を覗き見ていた。
「……」
無言。ただ、じっと、目を外さない。
その眼はモノ言いたげだ。だが、目は何も語らない。ただ、何か言いたいと訴えかけてくる。
「なんだ?」
戒莉は自分の口から飛び足した声が、思ったよりも冷たく響いたのに驚いた。
香々は、少しびくりと跳ねる。
「なんだ?」
同じ言葉を戒莉は重ねた。今度は、努めてやわらかく。
だが、一度閉じた少女の心は頑なだ。香々は、くるりときびすを返し、遠ざかっていった。一目散に。
「なんだ?」
独り。戒莉は、呟いた。
ふたりの少女は、戒莉に不用意に近づいてきては、ふいに離れていく。
要するに、戒莉は一花と香々に振り回されていた。