希央と英俊が、この一月調べつづけて分かったことは、実は何もないに等しかった。
まず、英俊たちが注目したのは、漣浄の動きだった。
数ヶ月前、漣浄は柳を出ていた。国内に目を光らせるために存在する『王の目』が外に出ることは、珍しいことのように思えた。だが、危険の芽というのは国外からやってくることもある。現に今回の賊は、柳国内のみならず、各国をまたにかけているという輩であった。そう考えれば、そう不審な行動でもなかったかもしれない。
希央は、漣杖の柳国外での立ち回り先を調べたいと言い出した。
英俊も、ひとまずの方向はそれでよいと判断した。
「それで、行き当たったのが章光堂でした」
一気にそれまでのいきさつをざっと説明し、いきなり店名を言ったところで、英俊は一呼吸おいた。
その店に、漣浄は何度か出入りしていたふしがあるのだと。
「章光堂だって?」
珊揮はそれまでの、どこか楽しげでふざけた雰囲気を脱ぎ捨て、やや険しい表情になった。
それもそのはずだ。
「章羊の店か」
珊揮は唸るように、短くこぼした。
章光堂というのは、範にある大店で、主に着物や装飾品、女性が喜びそうな小物を手広く商う店だ。その店の名は、主人の字の一文字を使っているのだ。
「はい。それで、範の店を探ったのですが、特にこれといった不審な点はありませんでした。主一家は、ご存知のとおり長期不在ですが、留守を任された番頭がしっかりしていて、店は繁盛そのものという状態でした」
そこで探索は行き詰った。
章光堂で漣浄が何をしていたかが全く分からない。
「それで、希央はどうしたんだい?」
それで調査が終わりならば、希央も報告に来ていいはずだ。
「章羊を追ってます」
「あきれた健脚だな」
柳から範、そしてそこから奏を目指して旅たった章羊に追いつこうというのだ。無謀というか、冗談だとしか思えない。
もっとも、特別に強い脚を持っている騎獣を使えば、話は別だ。
「何か関わりがあるとも思えますが、ないとも言えるところですね」
つまり何も確かなことは、分からないということだ。
英俊は、溜息をついた。
「さて、ではどうしようかな」
珊揮は考え込んだ。
そして、直ぐにそれを英俊に投げた。
「どうするべきだと思うかい?」
青く、澄んだ目が英俊に語りかけた。
英俊は、ふっと笑って、それに応えた。
「したいようになさったら、宜しいでしょう」
「さて、どうしたものかな?」
珊揮は考え込む様子をしてみせたが、英俊には分かっている。
珊揮がどうしたいのかを。