香々の話は、暫くの間は支離滅裂で理解できるものではなかった。
だが、真佳は辛抱強くその言葉に耳を傾けつづけた。
そうして徐々に、香々の話が見えてきた。
「あたし聞いたの、一花と隠れ鬼をしていて、あたし客間のものいれに隠れてた。それで、それでね、父さまと男の人が部屋に入って来て……」
この少女が何を聞いたのか、今まで何を苦しんできたのか、真佳は先を話すように笑顔で促した。
「父さまが、もう止めたいって言ってたの、助けてくれって言ったの。それで、男の人が言ったの。父さまと母さまと、一花とあたしを助けるって、だから奏に来いって、そう言ってたの」
「何を? お父さんは何をやめたいって言ってたの?」
頷きながら、真佳は問いかけた。
香々は一瞬口ごもった。
「……父さまは、誰かが盗んだものを、売ってたって、でも、もう止めたいって。その人達、盗むのに、たくさん、たくさん人を、殺してるって……でも、父さまは、殺してないの、父さまは、盗んだものを売ってただけなの。でも……止めたいって、父さまが言った。けど、止めたら、殺されるって、父さまも母さまも、一花もあたしも……だから、止められないんだって、そう言っ……」
香々は、震える唇からゆっくりと、ひとことひとことを搾り出していった。
「ごめんなさい、ごめんなさい。あたし、ずっと、こわくて、こわくて、言えなかった……」
章羊の商隊の護衛の仕事は、いつも楽だ。と、珊揮は言っていた。
まるで何かに守られているように、賊に襲われないのだと。
それは、そうだ。守っていたのが、賊だからだ。
いつもは、連れて行かない家族を旅に同行させた章羊。体の弱い香々まで、こんな長旅に連れ出す、その目的は……?
章羊は、逃げるつもりだったのだ。
しかし、どこへ?
どこか、その盗賊の情報と引き換えに、自分たちを保護してくれる者のいるところだ。
真佳の中の過去の出来事、言葉の断片が集まり、ひとつの形を成していった。
そうして辿りついたところは、戒莉が危険だという事実だった。
――― どうする?
真佳は、惑った。
戒莉を追いかけ、この事実を伝えるべきか、それとも。
真佳の心は、扉の先へと飛んでいっていた。
だが、香々が泣いていた。震えながら、泣いている。
その姿を見たときに、真佳は気付いた。
この子は、知っているのだ。
自分が足手纏いと、父親に切り捨てたられたことを。
それでも、この子は助けてと言った。自分ではなく、父や母や、一花を。
真佳は、思わず香々を抱きしめていた。
「よく話してくれたね。もう、大丈夫だ。もう心配しなくても、いいから」
そんな言葉が、嘘だということを真佳は知っていた。けれど、そう言わずにはおれなかった。