『紅い河を下れ』 天涯Ⅳ   作:清夏

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『隠れ鬼』

 

 香々の話は、暫くの間は支離滅裂で理解できるものではなかった。

 だが、真佳は辛抱強くその言葉に耳を傾けつづけた。

 そうして徐々に、香々の話が見えてきた。

「あたし聞いたの、一花と隠れ鬼をしていて、あたし客間のものいれに隠れてた。それで、それでね、父さまと男の人が部屋に入って来て……」

 この少女が何を聞いたのか、今まで何を苦しんできたのか、真佳は先を話すように笑顔で促した。

「父さまが、もう止めたいって言ってたの、助けてくれって言ったの。それで、男の人が言ったの。父さまと母さまと、一花とあたしを助けるって、だから奏に来いって、そう言ってたの」

「何を?  お父さんは何をやめたいって言ってたの?」

 頷きながら、真佳は問いかけた。

 香々は一瞬口ごもった。

「……父さまは、誰かが盗んだものを、売ってたって、でも、もう止めたいって。その人達、盗むのに、たくさん、たくさん人を、殺してるって……でも、父さまは、殺してないの、父さまは、盗んだものを売ってただけなの。でも……止めたいって、父さまが言った。けど、止めたら、殺されるって、父さまも母さまも、一花もあたしも……だから、止められないんだって、そう言っ……」

 香々は、震える唇からゆっくりと、ひとことひとことを搾り出していった。

「ごめんなさい、ごめんなさい。あたし、ずっと、こわくて、こわくて、言えなかった……」

 

 章羊の商隊の護衛の仕事は、いつも楽だ。と、珊揮は言っていた。

 まるで何かに守られているように、賊に襲われないのだと。

 それは、そうだ。守っていたのが、賊だからだ。

 

 いつもは、連れて行かない家族を旅に同行させた章羊。体の弱い香々まで、こんな長旅に連れ出す、その目的は……?

 章羊は、逃げるつもりだったのだ。

 しかし、どこへ?

 どこか、その盗賊の情報と引き換えに、自分たちを保護してくれる者のいるところだ。

 

 真佳の中の過去の出来事、言葉の断片が集まり、ひとつの形を成していった。

 そうして辿りついたところは、戒莉が危険だという事実だった。

――― どうする?

 真佳は、惑った。

 戒莉を追いかけ、この事実を伝えるべきか、それとも。

 真佳の心は、扉の先へと飛んでいっていた。

 

 だが、香々が泣いていた。震えながら、泣いている。

 その姿を見たときに、真佳は気付いた。

 この子は、知っているのだ。

 

 自分が足手纏いと、父親に切り捨てたられたことを。

 それでも、この子は助けてと言った。自分ではなく、父や母や、一花を。

 

 真佳は、思わず香々を抱きしめていた。

「よく話してくれたね。もう、大丈夫だ。もう心配しなくても、いいから」

 そんな言葉が、嘘だということを真佳は知っていた。けれど、そう言わずにはおれなかった。

 

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