「戒莉」
宍道の顔で、宍道の声が、語りかけてくる。
しかも、こんな状況とは思えぬ程の落ち着いた声音で。
混乱を引きずったままの戒莉は、はっと宍道と距離をとったが、目は逸らさなかった。
宍道も視点を戒莉に絞っている。
どれ程の時をそれに費やしたのか、実際のところそれは戒莉が感じているよりも、ずっと短いものであっただろう。
「戒莉も、仲間になったらいいよ」
場違いな輝く笑顔で、宍道が誘う。
一点の曇りもない。
「お前は、何なんだ?」
戒莉は目前の男の落ち着きと、自分の中の狼狽に苛立った。
宍道は戒莉の剣がいつでも自分に斬りかかる勢いを持っているのを眺めながら、自らは警戒を解いた。
戒莉は、その様にまた混乱する。
「僕? 僕はね、戒莉を一番分かってる男だよ」
その口が、また戒莉を陥れようと開く。
綺羅綺羅しい微笑み。優しい口調、そして強い言葉。
「お前は、俺のことを何も知らない」
こんな会話は無意味で、この場にあってはならないものだと戒莉は感じながら、それに応じてしまっている。また、苛立ちがつのる。
「戒莉は、人を殺すことが特別なことだと思ってる。そうだろう」
決め付けて、視線を投げる。
確かに、戒莉はそれを否定できはしなかった。
「でもね。僕と一緒に来れば、それは自然なことだって分かるよ」
宍道は、話を続ける。
「何を……言ってる?」
思わず、心の中がそのまま言葉になって戒莉から零れた。
全く理解ができないことを、この男は言おうとしている。
「僕らにとっては、人を殺すことは生きること。息をするに等しい行為なんだよ。とても自然で当たり前のことなんだ。そりゃあ、一般的とは言えない感覚で、直ぐには分からないと思うけど、戒莉ならきっと分かるようになるよ」
どんな根拠でそんなことを言えるのか。戒莉は、ぞくりとする。
『人殺し』と、『当たり前』という、繋がってはならない言葉が、この男の口で結ばれた。
そしてそれらは、戒莉に紡がれるはずだと、男は言う。
「価値観や自然という感覚は、人それぞれでいいんだ。人と違うからと言って、それで苦しむなんて必要はないんだよね」
清清しいまでの禍々しさで、男は輝いていた。
「戒莉は、きっと血を好むようなになる。血を浴びながら、微笑むことができるようになる。そういう風に僕がしてあげる」
宍道は、無防備な手を戒莉へと差し伸べた。
きれいな手だ。何も、この男を汚してなどいない。それは、この男に穢れということを知らないからだ。
戒莉の体は、無意識のうちに後ろへ下がった。
「今の戒莉はとても綺麗だよ」
今の戒莉は、宍道の仲間であった方義の血に染まっているはずだ。
その生臭さと目の前の男に、戒莉は今更ながら眩暈を感じた。
「僕が見立てたどんな着物よりも、戒莉には血の色が似合うね。僕と一緒にいれば、もっと似合うようになる。僕は、そんな戒莉を見たいんだよ」
戒莉がとった間を、宍道は一歩一歩、無かったことにしようとする。
優しく、爽やかな微笑とともに。