真佳は、目の前の男の目つきに、やや圧されていた。
だが、当の男には真佳を睨んでいるつもりはない。
もとより、そういう顔つきなのだ。損もするし、たまには得をすることもある。
男は脚に刀傷を負っていた。相当に酷いものであったらしいが、切断は免れ、もうひと月もすれば杖なしで歩けるようになるだろうとのことだ。
「見舞いに来たんじゃねえんだろ。何んか聞いたらどうだ?」
男は、たぶん笑ったのかもしれない。だだし、残念ながらその笑顔を向けられた者は、彼に好感を抱くことはないだろう。
「漢将は、宍道の手下だったのか?」
真佳の口から出たのは、意外なことだったと見えて、男はこめかみをぴくりとさせた。
「さあ、知らねえな」
男は、嘘はついていない。
「なにしろあの騒ぎだ。珊揮から、戒莉を頼まれてもいたが、恥ずかしながら、自分のことで精一杯でそれどころじゃねえよ」
この男は、珊揮から密かに戒莉が血に倒れたときには、介抱するように頼まれていたらしい。
真佳はそれを知った時に、珊揮に怒りを覚えたものだった。珊揮は、真佳では頼りにならないと、踏んでいたのだ。
もっとも、事実はそうであったし、挙句自ら戒莉の元を離れてしまっているので、そう正々堂々と怒れる立場でないことも、直ぐに承知した。
この目つきの悪い、女子供受けの悪い博信という男が、珊揮と通じていることを、真佳は知らなかった。何年も一緒に仕事をしてきた真佳も知らない人脈が、珊揮にはあるのだということにも、苛立ちを感じながら、それを噛み殺すしかなかった。
「だが、俺がみたところ、漢将は宍道とは通じていねえよ」
「なぜそう思える?」
「勘だ。根拠はねえな」
しれっと言ってのけるところが、珊揮の知り合いということだろうか。
真佳は、溜息をついた。
「それはそうと、あの娘っ子たちはどうした?」
博信は、話の矛先を勝手に変えた。
「一花と香々は範に戻されて、里家に引き取られた」
章羊も範に戻されたらしいが、こちらは役人に引き渡されたということだ。ひととおりの調べが終われば、おそらく極刑に処せられるのであろう。
一花と香々の二人は罪人の娘ではあるが、罪人ではない。当然、罰せられることはないが、親を失うという立場に置かれる。
真佳は、彼女ら、特に香々には同情を寄せたが、だからと言って、彼女らには何もしてやれないことを知っていた。
「かわいそうなもんだな。何不自由ない暮らしから、一転して親なしの、貧乏暮らしだ」
博信がこんなことを言うとは、真佳は意外だった。
博信は、旅の中では一花や香々からは、嫌われていた。それに対して、博信が彼女らには無関心だったように、真佳には見えた。
「そんなにひどい暮らしでもない」
真佳もかつて里家で育ったが、確かに貧しい暮らしではあったが、不幸ではなかったと思う。
「そうだな。親に煩わされることもない方が、幸せってこともあるわな」
博信は、奇妙な言い方をした。
この男にも、過去があるということだ。