夜、考えごとをするのはよくない。
珊揮は、よくそう言っていた。
それでも、ふいに目覚めて、再び眠りに入れないでぐずぐずしていると、次から次へと、考えてしまう。
寝返りをうつのも、戒莉にはひと仕事だったが、そうすることで胸のむかつきから逃れることが出来ればと、淡い期待をこめる。
ようやく身を転じると、隣に居る珊揮の寝息が近くなる。
これも、戒莉には憂鬱なことだった。
珊揮は、戒莉の面倒を看るのに都合が良いと、同じ寝台で寝ている。
以前から、珊揮には夜中に戒莉の生死を確かめる癖がある。これは、それの延長のようなものだとは、思う。
戒莉がこんな大怪我を負ったのだから、尚更なのかもしれないが、これはちょっと過剰ではないかと、戒莉は抵抗を試みたが、珊揮が珊揮はその言い分をさらりと退けた。
確かに、少し前までは夜中になにかと具合が悪くなっては、珊揮の看護を受けてきている。故に、あまり大きなことは言えない。
そして、この別荘に寝室は、使用人部屋のもの以外には、ひとつしかない。珊揮を追い出して床に眠らせる訳にもいかなかったし、戒莉がそうすることもできなかった。
仕方がないのだろうか。
戒莉は、珊揮が起きない程度の小さな溜息をついた。
昼も夜も、珊揮の監視下にある。そんな息苦しさに、戒莉は不満を感じている。
こんなに親身になって自分の面倒をみてくれる相手に、そんなことを考えることはよくない。
これも甘えなのだと、戒莉は自覚する。
戒莉の思考は、薄暗い方へと転がり落ちていく。
本当に、夜は考え事をするのにはよくない。
珊揮はどうして自分にこれ程のことを、してくれるのだろうか。
親でも兄弟でも、親類でもない。
ただ、たまたま出会っただけの関係。
この男のことだ。同情や、気まぐれが長続きするはずがない。
下心でもある方がいっそ清清しいくらいだが、それがあるとも思えない。
この男は、何を考えて生きているのだろうか。
戒莉は考える。
珊揮という男は仙だ。
この男の生きている時間は、戒莉の想像を超えて長い。
そんな気の遠くなる時を、珊揮はどうして生きてきたのだろうか。
出逢っては、去っていく無数の人々。
変化して止まない、街並み、国のかたち。
そんな中で、自分だけがここに留まり続ける。
どこにも行かない。どこにも行けない。
閉塞した永遠。
そこで戒莉は生きていけるのだろうか。
何のために、そんなに生きなければならないのだろうか。
そこまで生きる意味が、どこかにあるのだろうか。
仙になるのは、仙であり続けるのは、どう考えても楽じゃない。
戒莉は、そう決め付けながら、引きずられるように眠りに落ちていった。