『紅い河を下れ』 天涯Ⅳ   作:清夏

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『この夜に考える』

 

 夜、考えごとをするのはよくない。

 珊揮は、よくそう言っていた。

 それでも、ふいに目覚めて、再び眠りに入れないでぐずぐずしていると、次から次へと、考えてしまう。

 

 

 寝返りをうつのも、戒莉にはひと仕事だったが、そうすることで胸のむかつきから逃れることが出来ればと、淡い期待をこめる。

 ようやく身を転じると、隣に居る珊揮の寝息が近くなる。

 これも、戒莉には憂鬱なことだった。

 

 珊揮は、戒莉の面倒を看るのに都合が良いと、同じ寝台で寝ている。

 以前から、珊揮には夜中に戒莉の生死を確かめる癖がある。これは、それの延長のようなものだとは、思う。

 戒莉がこんな大怪我を負ったのだから、尚更なのかもしれないが、これはちょっと過剰ではないかと、戒莉は抵抗を試みたが、珊揮が珊揮はその言い分をさらりと退けた。

 

 確かに、少し前までは夜中になにかと具合が悪くなっては、珊揮の看護を受けてきている。故に、あまり大きなことは言えない。

 そして、この別荘に寝室は、使用人部屋のもの以外には、ひとつしかない。珊揮を追い出して床に眠らせる訳にもいかなかったし、戒莉がそうすることもできなかった。

 仕方がないのだろうか。

 戒莉は、珊揮が起きない程度の小さな溜息をついた。

 

 

 昼も夜も、珊揮の監視下にある。そんな息苦しさに、戒莉は不満を感じている。

 こんなに親身になって自分の面倒をみてくれる相手に、そんなことを考えることはよくない。

 これも甘えなのだと、戒莉は自覚する。

 戒莉の思考は、薄暗い方へと転がり落ちていく。

 本当に、夜は考え事をするのにはよくない。

 

 珊揮はどうして自分にこれ程のことを、してくれるのだろうか。

 親でも兄弟でも、親類でもない。

 ただ、たまたま出会っただけの関係。

 この男のことだ。同情や、気まぐれが長続きするはずがない。

 下心でもある方がいっそ清清しいくらいだが、それがあるとも思えない。

 この男は、何を考えて生きているのだろうか。

 戒莉は考える。

 

 珊揮という男は仙だ。

 この男の生きている時間は、戒莉の想像を超えて長い。

 そんな気の遠くなる時を、珊揮はどうして生きてきたのだろうか。

 出逢っては、去っていく無数の人々。

 変化して止まない、街並み、国のかたち。

 そんな中で、自分だけがここに留まり続ける。

 どこにも行かない。どこにも行けない。

 閉塞した永遠。

 そこで戒莉は生きていけるのだろうか。

 何のために、そんなに生きなければならないのだろうか。

 そこまで生きる意味が、どこかにあるのだろうか。

 

 仙になるのは、仙であり続けるのは、どう考えても楽じゃない。

 

 戒莉は、そう決め付けながら、引きずられるように眠りに落ちていった。

 

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