『紅い河を下れ』 天涯Ⅳ   作:清夏

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『閉じ込めて しまおうか』

 

「戒莉は、どうです?」

 真佳は、何故か遠慮がちにそう訊ねた。

 

 それを問われたのは、何度目だろうか。

 珊揮は記憶を探って数えてはみたが、分かるはずもなかった。

「まあまあだよ」

 そう、珊揮が生ぬるい笑顔で答えるのも何度目なのだろうか。

 これでだいたい戒莉の話題は終了となってしまうはずだ。

 

 真佳が戒莉と話をしたがっていることは、珊揮にも分かっていた。たとえその望みを、真佳が一言も発していなかったとしても。

 それが分かっていながらも、珊揮はその願いを叶えてはやっていない。

 それなりに、理由はある。いや、結構な理由だ。

「よくはなっているんですよね」

 今日の真佳は、少し食い下がる。

 おや、と珊揮はわずかに眉をあげた。

「まあまあだね」

 先の返事と全く変らぬ言葉に、真佳が落胆するのを珊揮は確認した。

 さすがにこれでお仕舞だろうと思った珊揮が甘かった。

 真佳は、これまで決して口にしなかったその望みを遂に言葉にした。

「あの、戒莉と会えませんか?」

 

 珊揮は、そう言う若者の顔をしばらく黙って見ていた。

 これにどう答えるべきだろうか。

 今、真佳を戒莉に会わせることはできなかった。

 ただし、いつまでもそうしている訳にはいかないことを、珊揮は分かっていた。

 その時期を、ただ先延ばしにするしかできない今の自分に、少々嫌気がさした。が、珊揮はそれを表情には出さなかった。

「戒莉に会うのは、もう少し待ってもらえないかな。戒莉がもう少し、回復してから。あの子のことだから、弱っている状態で人には会いたくないようでね」

 嘘を、ついた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「いつまで、こんなことをしているつもりですか?」

 英俊は、溜息とともにそう吐き出した。

 珊揮は英俊の抗議に、溜息でこう返した。

「ああ、いつまでこうしていられるものかねえ」

 その言葉は、珊揮の心の内を表していた。

「このまま、閉じ込めてしまいますか?」

 英俊の声が、異様に冷たく響く。

「誰にも会わせず、誰とも話をさせない。そんなことがいつまでも続けられるはずがないですよ」

 分かりきったことを、英俊はあえて言う。 こういうところが、憎らしくも頼もしい。

「弱ったね。どうすればいいだろうか」

 弱い微笑みを、英俊に向けた。

 ふだん、あまり表情を変えない英俊の目に、少しばかりの苛立ちが灯る。

「どうにかしてください。そうでなければ、あなたも戒莉も、そして私たちも、前には進めません」

 

 強い言葉、強い意志。

 珊揮は、この男の強さがとても眩しく感じられた。

 

 

 

 

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