「戒莉は、どうです?」
真佳は、何故か遠慮がちにそう訊ねた。
それを問われたのは、何度目だろうか。
珊揮は記憶を探って数えてはみたが、分かるはずもなかった。
「まあまあだよ」
そう、珊揮が生ぬるい笑顔で答えるのも何度目なのだろうか。
これでだいたい戒莉の話題は終了となってしまうはずだ。
真佳が戒莉と話をしたがっていることは、珊揮にも分かっていた。たとえその望みを、真佳が一言も発していなかったとしても。
それが分かっていながらも、珊揮はその願いを叶えてはやっていない。
それなりに、理由はある。いや、結構な理由だ。
「よくはなっているんですよね」
今日の真佳は、少し食い下がる。
おや、と珊揮はわずかに眉をあげた。
「まあまあだね」
先の返事と全く変らぬ言葉に、真佳が落胆するのを珊揮は確認した。
さすがにこれでお仕舞だろうと思った珊揮が甘かった。
真佳は、これまで決して口にしなかったその望みを遂に言葉にした。
「あの、戒莉と会えませんか?」
珊揮は、そう言う若者の顔をしばらく黙って見ていた。
これにどう答えるべきだろうか。
今、真佳を戒莉に会わせることはできなかった。
ただし、いつまでもそうしている訳にはいかないことを、珊揮は分かっていた。
その時期を、ただ先延ばしにするしかできない今の自分に、少々嫌気がさした。が、珊揮はそれを表情には出さなかった。
「戒莉に会うのは、もう少し待ってもらえないかな。戒莉がもう少し、回復してから。あの子のことだから、弱っている状態で人には会いたくないようでね」
嘘を、ついた。
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「いつまで、こんなことをしているつもりですか?」
英俊は、溜息とともにそう吐き出した。
珊揮は英俊の抗議に、溜息でこう返した。
「ああ、いつまでこうしていられるものかねえ」
その言葉は、珊揮の心の内を表していた。
「このまま、閉じ込めてしまいますか?」
英俊の声が、異様に冷たく響く。
「誰にも会わせず、誰とも話をさせない。そんなことがいつまでも続けられるはずがないですよ」
分かりきったことを、英俊はあえて言う。 こういうところが、憎らしくも頼もしい。
「弱ったね。どうすればいいだろうか」
弱い微笑みを、英俊に向けた。
ふだん、あまり表情を変えない英俊の目に、少しばかりの苛立ちが灯る。
「どうにかしてください。そうでなければ、あなたも戒莉も、そして私たちも、前には進めません」
強い言葉、強い意志。
珊揮は、この男の強さがとても眩しく感じられた。