私の目の前には、赤く、どす黒い川がゴウゴウと流れている。
私は岸辺から、ただその流れていく様を眺めている。
流れは、止まらない。
流れは、戻らない。
私は知っている。
私が、ただそれを眺めているだけしかできないということを。
時折、その水をこの手にすくってはみるけれど、すぐに零れ落ちていく。
決して、私の手の中に留まり続けることはない。
私はある日、考える。
この川は、どこへ流れて着くものなのかを。
私は、それを知らない。
皆、どこへ行ってしまうのだろうか。
ある日、私は気付く。
私の中に紅い河が流れていることに。
この河がどこへ続いているのか、私は確かめたことはない。
だが、私には分かるような気がした。
この河を下った先にあるものが、なんなのかを。
それが正しいか否かを知るには、方法はひとつしかない。
私の中には、紅い河が流れている。
その匂いに、私は危うさと安らぎをおぼえる。
それは、人の匂いだ。
私の中には、紅い河が流れている。
私は、流れのままにその川を下る。
私には分かる。
その河の、行き着く先が。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
真夜中に理由もなく目が覚める。嫌な夢を見たわけでも、現実世界に危険が迫る予兆のせいでもない。
この頃、徐々に涼しくなり、夜鳴き虫が夜を徹して歌う季節になりつつあるが、その音のせいで起きた訳でもない。
珊揮の眠りは、どこか浅いところにあった。
珊揮はつねに熟睡することはなかった。
この500年以上、よく眠っていない。そう考えると呆れるやら、ぞっとするやらだが、事実はそんなものだろう。
隣で平和そうに寝息たてている人間を、羨んでみたくもなる。
戒莉は仕事をしている時はひどく物音に敏感で、寝ているようですぐに起きる。そのくせ仕事を離れると、枕元で楽団が演奏していても眠り続けるような勢いがある。
「戒莉」
試みに、名を呼んで肩を揺すってみるが、戒莉の眠りはびくともしなかった。
ここで誰かに襲われたら、ひとたまりもないぞと、珊揮は苦笑する。
まあ、珊揮がこんなに近くに居るので、その心配はない。
同じ寝台で寝るのはやりすぎだとは思うが、戒莉の容態がいつ悪くなっても対応できる。それに宍道たちの残党が襲ってくる可能性も棄て切れなかった。
それから、夜中に目覚めて、戒莉が生きていることを直ぐに確認するのにも絶好の方法だ。
頬に触れて、その暖かさを確かめ、唇に耳を当てて、息を確認する。胸の鼓動するのに息をつき、珊揮は己れが弱くなっていることに、溜息を落とした。
「そんなにべたべた触るな。俺は生きてる」
小さく、珊揮に抗議の声があがった。
珍しく、戒莉が目を覚ましたらしい。
「まだ夜だよ。寝ておいで」
珊揮は、やわらくそう言うと、戒莉を眠りへと押し戻そうとした。
「だったら、あんたも寝ろ」
戒莉の声は、苛立つように響いた。
「ああ、私も寝るよ」
朝は、珍しくふいにやってきた。