【完結】Transformers the Gate~機械仕掛けのオプティマス~ 作:詠符音黎
秋葉原地下数十メートル。
その暗く深い下り坂を、倫太郎達は歩いていた。
先導は鈴羽だ。そして、最後尾を、バンブルビーがその巨体をなんとか下り坂に収めながら歩いている。
「秋葉原の地下にこんな空間があったなんて、フェイリスですら知らなかったにゃ」
「そうだろうね留未穂姉さん。この地下が発見されたのは、未来でもつい最近のことだったんだ。トランスフォーマー達の戦争で疲弊した世界において、やっと見つけられたのが、この秋葉原の地下空洞だった。どうも、時の将軍が地下を掘り進めていたときに見つけたらしい。でも、本能的に危険を感じて、それを地下深く封印したんだ。それ以来、この地下は国によってずっと隠され続けてきて、いつしか忘れ去られていった、というわけさ」
「なるほど……」
鈴羽に説明を受けながら、倫太郎達は下へ下へと下っていく。
そして、ついには大きな空洞の空間に出た。
そこにあったものに、倫太郎達は息を呑む。
「こ、これが……オールスパーク……!」
そこにあったのは、全長数十メーターはあろうかという巨大なキューブだった。
表面には複雑な模様が刻まれており、それは空洞の中心に鎮座するかのように存在していた。
その圧倒的迫力は、見るものから言葉を奪う。
倫太郎達はそのオールスパークへと無言で近寄り、まじまじと眺めた。
「凄い……」
紅莉栖が唖然としながら言う。
キューブの元に立って、更にその大きさを実感する。紅莉栖は、一種なにかに取り憑かれたかのようにキューブを見上げていた。
「あんまり近寄っちゃ駄目だよ。下手にキューブを作動させると、手に持っている機械や、この上の街にある機械がディセプティコンに変わっちゃうかもしれないから」
「わ、分かってるわよそれくらい……!」
鈴羽に注意され、紅莉栖が顔を赤らめながら言う。
そのとき、紅莉栖のカバンからこっそりと、何かが這い出てきた。
それは、倫太郎の実家で紅莉栖のパソコンにトランスフォームしていた、ディセプティコンの戦士、フレンジーだった。
フレンジーは誰にも悟られないように倫太郎達の元から離れると、キューブを見ながら、こっそりとトランスフォーマーの言語で、通信を始めた。
『オールスパーク発見』
その通信は、すでに地球へと潜伏していたディセプティコン達へと伝わっていく。
『スタースクリーム了解』
あるものは基地を飛び立つ戦闘機として答え、
『ブロウル了解』
あるものは地をかける戦車として答え、
『バリケード了解』
あるものは疾走するパトカーとして答え、
『サウンドウェーブ了解』
そしてあるものは、人工衛星として答え、小さなディセプティコンを地球に吐き出しながら地表へ向かっていった。
そして――
『ショックウェーブ了解』
『メガトロン、通信を受け取った。ディセプティコン、結集せよ!』
その人工衛星と同じく、宇宙から飛来する宇宙船が二台、地球の秋葉原へ向かって降りていった。
そして、それを感づく者達も。
「ディセプティコン達の気配を感じる」
そう言ったのは、ラチェットだ。
「ああ、私も感じる。どうやらオールスパークの在り処がバレたらしい。バンブルビー!」
オプティマスがそう言いながら、バンブルビーに連絡をする。
すると、バンブルビーはすぐにその内容を受信し、頷いた。
「どうしたの? ビーちゃん?」
『宇宙艦隊よりメッセージ』『悪の軍団』『襲来』
バンブルビーはラジオの音声を繋ぎ合わせラボメン達に現状を伝える。
「悪の軍団って……ディセプティコンが来てるってことかお!?」
「くっ、どうしてバレたんだ! ……ん? あっ!?」
そこで鈴羽が気づいた。地下から這い出ようとしている、フレンジーの姿に。
「みんな伏せて!」
ラボメン達は鈴羽の言葉通り伏せる。鈴羽は懐から拳銃を取り出し、フレンジーを撃つ。
『!? wttnz!? pkjy!』
しかしフレンジーは意味不明な言語を発しながらその銃弾を避け、逆に鈴羽に向けて手裏剣状のカッターを飛ばしてくる。
「くっ!」
鈴羽はそのカッターをなんとか避ける。そして、銃を構え直したときには、すでにフレンジーは手の届かない位置にまで逃げていた。
「くそっ、あいつが誰かの持ち物にまぎれて情報を流していたんだ! 私としたことが!」
「悔やんでいる場合ではないぞ! それよりも、このデカブツをどうやって守るかを考えねば……!」
そのとき、バンブルビーがオールスパークに近づく。そして、オールスパークへと触れた瞬間、信じられないことが起きた。
なんと、オールスパークがどんどんと小さくトランスフォームしていき、小さなキューブへと姿を変えたのだ。
その光景には、鈴羽ですら言葉を失った。
「こ、こんなことがありえるだなんて……」
「あ、ああ……と、とりあえずこれを運び出す手筈は整った。あとは、これをどうするかだが……」
「……ディセプティコンを倒さないと、持ち運べない……」
萌郁が小さな声で言う。
「そうだな。つまり、オートボットに頼るしかない。だが、キューブを守りながらだと彼らも部が悪いだろう。できれば、なんとかして奴らを分散して各個撃破できればいいんだが……」
「でも、そんなうまくは……」
「いや……待て……ダルよ!」
倫太郎は何かを思いついたように、至を呼ぶ。
「な、なんだおオカリン!?」
「確か、テレトラン1は予備を作ってあったはずだよな!?」
「ん!? ん、うん……一応七個は作ってあってラボに置いてあるけど……あっ、オ、オカリン! もしかして!?」
「ああ! ダル! テレトラン1に、このキューブの発する電波を覚えさせて、発信させることはできるか!?」
「や、やってみるお! いや、やってみせるお!」
至はすぐさま自分のカバンからパソコンとテレトラン1を取り出し、何やら入力を始める。
「ちょ、オカリンおじさん!? 一体何をしようと……」
「いいかバイト戦士! いや、ラボメン諸君! ……俺はこれから、とある作戦を実行する。みんなはできれば逃げて欲しい。例え、俺一人でやってみせる」
「ちょ、岡部、あんたまさか……!?」
「ああ……テレトラン1をデコイにする。それぞれにこのキューブの電波を発信させ、奴らを惑わす。それをそれぞれのオートボットと共にバラけさせ、東京の方方に逃げるんだ」
「そ、そんな無茶な……」
るかが言う。それに、倫太郎は頷いた。
「ああ、とても無茶な作戦だ。だから、みんなは逃げてくれて構わない。俺と、オートボットだけでもやって見せる」
『…………』
倫太郎の痛ましいとも言えるほどの面持ちに、言葉を一瞬失うラボメン達。
だが――
「そんなの……手伝うに決まってるじゃない!」
「紅莉栖!?」
「あ、今ちゃんと紅莉栖って言ったわね。これからもそうちゃんと呼びなさないよ。それで話を戻すけど、やるに決まってるでしょ。地球がどうこうなっちゃう瀬戸際なのよ? それに、岡部だけにいい格好はさせられないわ」
「もちろん、僕もやるお。というか、僕抜きがその作戦成立しないと思われ」
「ダル……!」
「ぼ、僕もやります……岡部さんに日頃鍛えて貰った鍛錬の結果、ここに……!」
「フェイリスもやるにゃ! アキバを守るのは、フェイリスの役目にゃ!」
「本当にいいのか、るか子、フェイリス……!」
「はい、もちろん!」
「当然だにゃ!」
「……私も……やる……運転なら、任せて……」
「萌郁……! ありがとう……!」
「私がやらないわけないでしょ。私は、そのために未来から来たんだから」
「ああ、さすがだ、バイト戦士よ……!」
そして、倫太郎がなんとしても外そうと思っていた彼女もまた、名乗りを上げた。
「オカリン、まゆしぃにも手伝わせて?」
「ま、まゆり!? しかし、お前はこんなこと全然向いては……」
「みんながやるって言ってるのに、まゆしぃだけ逃げるなんてできないよ。それに、まゆしぃだって地球のため頑張っちゃうんだからね!」
「……まゆり……すまない……!」
こうして、ラボメン達はそれぞれ決意を決めた。
そして、それぞれの思いを胸に、倫太郎達はひとまず地上へと上がった。
「……なるほど。作戦は理解した」
地上で待っていたオプティマスは、倫太郎の作戦を片膝をついて聞いた。
「見事な作戦だ。だが君達にも危険が及ぶ。そこは、理解しているんだな?」
「ああ、もちろんだ。俺達は、その覚悟をして来た」
「へっ、ナヨナヨしてると思ってたら、なかなかに覚悟決まってるあんちゃんじゃねーか、気に入ったぜ」
そう言ったのはアイアンハイドだ。アイアンハイドはキャノン砲を出しながら、いつ戦闘が起こっても大丈夫だと言わんがばかりのポーズを取っている。
「みんなー! あまってたテレトラン1、持ってきたお! データもインプット済!」
そこに、テレトラン1の予備を至とまゆり、紅莉栖が手に持って運んできた。
「よくやった三人共!」
「よし、では作戦を開始しよう。倫太郎、君は私と共に来たまえ。バンブルビー、君はまゆりを守ってやれ」
『オーケー!』
「うわぁ! 一緒だねビーちゃん!」
ラジオで答えたバンブルビーに、まゆりは笑顔になる。
「至、君は私が守ろう」
「よ、よろしくお願いします!」
ラチェットが至に言い、至はビシっと敬礼する。
「俺がお前を守ってやるぜ、紅莉栖」
「ええ、任せたわよジャズ」
紅莉栖とジャズが拳を突き合わせる。
「へいへい、嬢ちゃん達は俺達が守るぜ、なあマッドフラップ」
「おうよスキッズ。俺達の力、見せてやろうぜ!」
「あ、ありがとうございます……!」
「にゃ! 任せたのにゃ!」
スキッズとマッドフラップのツインズが、るかとフェイリスに言う。
「兵士の姉ちゃん、お前はこのアイアンハイド様に任せておきな」
「ああ、最高に信頼できるね、君なら!」
アイアンハイドと鈴羽がお互いに銃を構えて言う。
「……とすると、俺があんたを守るのか?」
「……よろしく」
ウィーリーと萌郁が、どこか抜けたような会話を続ける。
「よし、だいたい決まったな」
「ああ。ディセプティコン達も迫ってきている。すぐに作戦を始めよう」
「ああ……んん!」
そこで倫太郎は、一旦咳払いをする。そして、高らかに声を張り上げ、叫ぶ。
「フゥーハハハハハハハハハハ! これより、この鳳凰院凶真の偉大なる作戦、『オペレーション・デウスエクスマキナ』を発令する!」
それは、倫太郎が自らを鼓舞するための叫びだった。
これから自らの命と仲間を危険に晒す。その恐れを吹き飛ばすための、叫び。
「おいおいどうしたんだ兄ちゃん、頭おかしくなったのか?」
だがあまりに突然過ぎたために、その場にいたオートボット達は面食らう。
「気にしなくていいよアイアンハイド、これでこそオカリンおじさんだから」
「そうね。これでこそ岡部だわ」
「うんうん」
「だねぇー」
それに対し鈴羽と至とまゆりが笑いながら、紅莉栖が少しだけ呆れながら答える。
そんなラボメン達を見て、オプティマスは言った。
「いい仲間を持ったな、倫太郎よ」
「……ああ」
倫太郎はオプティマスのその言葉に、静かに頷いた。
そんなときである。
遠くで、爆音がし、暗い宇が朱色に染まる。
「……来たか!」
それこそ、開戦の狼煙であった。
こうして、オートボット&未来ガジェット研究所対ディセプティコンの戦いが、今火蓋を切って落とされた。