【完結】Transformers the Gate~機械仕掛けのオプティマス~   作:詠符音黎

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第7話

「ふん! せい!」

「ふっ! はあっ!」

 

 秋葉原。

 その中央通りで、オプティマスとメガトロンは、熾烈な争いを繰り広げていた。

 両者はそれぞれ手元を斧と鉄球の武器に変え、それを突き合わせている。

 その激しさは、今までのどのトランスフォーマーの戦いよりも苛烈だった。

 そんな光景を、倫太郎は物陰に隠れながら見ていた。手には、本物のオールスパークが持たれている。

 

「なぜ弱き人間などを守るオプティマス! あんな下等な種族、守る価値などないだろう!」

「それは違うぞメガトロン! 人間は我々と同じ、いや我々以上に自由の大切さを知っている、幼き種族だ。そんな種族を守り、自由と平和を尊ぶことこそが、我々のような成熟した種族の役目ではないのか!」

「ふん! 愚かな! それだからお前は弱いのだ、オプティマス!」

「ぬぅ!?」

 

 その一言と共に、オプティマスがメガトロンに蹴り飛ばされる。

 

「ほあああああああっ!」

 

 オプティマスは大きく吹き飛び、中央通りを転がって秋葉原にかかる高架にぶつかる。

 

「ふん! 弱いものに正義などない! 強きものが宇宙を収めてこそ、真の秩序が訪れるのだ!」

 

 そう言うとメガトロンは、振り返り物陰から見ていた倫太郎を見つけた。

 

「さて人間、そのキューブを渡せ。それは貴様の身には余るものだ」

「だ……誰が渡すものか! この大いなる力は、このマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真にこそふさわしいのだっ!」

 

 虚勢を張る倫太郎。そんな倫太郎を、メガトロンは笑う。

 

「ふん、面白いことを言うな人間、ならばその力、俺に見せてみるといい!」

 

 そう言って、メガトロンは倫太郎に襲いかかる。

 

「うわっ!?」

 

 メガトロンが振り下ろした拳を間一髪で避ける倫太郎。

 倫太郎はそのまま、メガトロンに背を向け走り出す。

 

「追いかけっこか人間? 俺から逃げられると思うなよ?」

 

 追いかけるメガトロン。

 逃げる倫太郎。

 だが、倫太郎とメガトロンでは歩幅からして大きな違いがありすぎた。

 

「くっ、くそおおおおおっ!」

 

 倫太郎は狭い道を曲がり、なんとかメガトロンから逃げようとする。

 そんな倫太郎を、メガトロンは建物を破壊しながら追いかけてくる。

 どんどんと追い詰められていく倫太郎。その果てに、倫太郎は建物の中へと逃げ込んだ。

 ラジオ会館だ。

 

「ふはははは、どこへ逃げても無駄だぞ、人間」

 

 建物の中を逃げ回る倫太郎だったが、そんなのお構いなしとメガトロンはラジオ会館を破壊し、手探りのような形で倫太郎に襲いかかる。

 

「うわああああああああああああっ!」

 

 倫太郎はとにかく上へ上へと逃げた。

 そして、屋上へと出たのであった。

 

「ふん、追い詰めたぞ人間。さあ、オールスパークを渡すのだ。今渡せば、命だけは助けてやろう」

 

 屋上の、壊れたフェンスの近くに追い詰められる倫太郎。

 手が震える。

 足が震える。

 顎がカタカタとなる。

 倫太郎は今、かつてないほどの恐怖を感じていた。

 倫太郎は思う。ここで渡せば、すべてが楽になると。自分の命は助かるのではないかと。

 そんな甘い誘いが倫太郎を誘惑する。しかし――

 

「……ふ、ふーっはははははは! 我は狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真なるぞ! き、貴様のような機械人形の軍門になど、決して下りはしない!」

 

 倫太郎は勝った。己に勝った。

 それは、倫太郎の心に、仲間達の姿が浮かんだからであった。

 今も自分を信じて戦ってくれているはずの、そんな仲間達の姿が。

 

「ふん、愚か者めが! ならばここで死ぬがいい!」

 

 メガトロンが鉄球を振り下ろす。

 その衝撃で、倫太郎は屋上から落ちる。

 

「うわあああああああああああああああっ!?」

「倫太郎おおおおおおおおおおっっ!」

 

 だが、それを受け止めるものがいた。オプティマスだ。

 オプティマスは落ちてくる倫太郎の元に駆け寄り、滑るように倫太郎をキャッチした。

 

「お、オプティマス……!」

「よく言った倫太郎! それでこそ、リーダーだ!」

「まだ行きていたか死にぞこないが! 今度こそ死ね!」

 

 そんなオプティマス目掛けて、メガトロンが屋上から飛び降りてくる。オプティマスは倫太郎をすばやく逃がすと、再びメガトロンとの戦いに入る。

 

「ふぅん!」

「ぬあっ!」

 

 再び戦いに入るオプティマスとメガトロン。

 その勢いは先程にも増して苛烈であった。

 そんなときだった。

 

「オカリンー!」

「岡部ー!」

「っ!? まゆり!? 紅莉栖!? どうして!?」

 

 そこに、トランスフォームしたバンブルビーとジャズに乗ったまゆりと紅莉栖がやって来た。

 二人は降りると倫太郎の元に駆け寄る。

 

「大丈夫!? オカリン!?」

「岡部あんた、ボロボロじゃない!」

「お前達こそ、どうして逃げなかった!?」

『そんなの、心配だからに決まってるじゃない!』

 

 まゆりと紅莉栖の声が重なる。その二人の言葉に、あっけに取られる倫太郎。

 一方で、バンブルビーとジャズはトランスフォームし、オプティマスの加勢に行っていた。

 

「待て二人共、ここは私とメガトロンの一対一で決着をつける!」

「ふん! そんなことを言っている場合かオプティマス? それに、オートボットがいくら束になったところで、俺様には勝てん! オールスパークの力を俺に直接ぶつけでもしない限り、俺は死ぬことはない!」

 

 そう言って、鉄球を薙ぎ払うメガトロン。

 

「ぬうっ!?」

「!?」

「ぐっ!?」

 

 それで吹き飛ばされるオプティマス、バンブルビー、そしてジャズ。

 そしてメガトロンは吹き飛んだジャズのほうへ向かうと、ジャズを持ち上げた。

 

「ジャズ!」

 

 紅莉栖が叫ぶ。

 

「くっ、このメガトロンが! やるならやってみろ!」

「ああ、望み通りにしてやる」

 

 ジャズの体を掴み、引きちぎるメガトロン。

 そして、ジャズはメガトロンの手によって真っ二つにされてしまった。

 

「ジャズーーーー!」

 

 悲鳴を上げる紅莉栖。それを、ただ見ていることしかできない倫太郎とまゆり。

 

「くそっ、俺達は……俺達は、無力だ……!」

 

 倫太郎はうなだれ、静かにオールスパークと地面に落とす。

 

「オカリン! しっかりして、オカリン!」

「駄目だ……もう終わりだ……」

「……あっ!」

 

 倫太郎を元気づけようとするまゆりだったが、彼女の目にとあるものが映る。それは、今度はバンブルビーの元へと歩み寄るメガトロンの姿だった。

 

「さあ、次は貴様だ」

「……駄目っ!」

 

 その瞬間、まゆりは駆け出していた。オールスパークを持って。

 

「まてまゆり!? どこへ行く!?」

 

 倫太郎が気づいたときには、遅かった。

 まゆりはオールスパークを持って、バンブルビーを拾い上げようとしていたメガトロンの眼の前に立つ。そして。

 

「うわあああああああああああっ!」

 

 まゆりは、メガトロンの胸にオールスパークを押し付けた。

 

「ぬっ、ぐあああああああああああああああああああああああっ!?」

 

 メガトロンが大きな声で悲鳴を上げる。

 オールスパークの力がメガトロンのコアに流れ込み、メガトロンの命を削っていく。

 

「こ……この……弱々しい人間があっ!」

 

 だが、メガトロンは最後に必死の力でまゆりに拳を振り下ろした。

 

「きゃあっーーーーーーーー!」

「まゆりーーーーーー!」

 

 まゆりの体は宙に舞い、どさりと落ちる。オールスパークはボロボロに砕け散り、メガトロンはよろよろと片膝をつく。

 そこに、ゆっくりとオプティマスが近寄ってくる。

 

「オ……オプティマス……友よ……」

「……地獄に落ちろ、かつての友よ!」

 

 オプティマスはそう叫び、メガトロンの首をはねた。

 こうして、何千万年にもわたった、オートボットとディセプティコンの戦いに今、決着がついたのであった。

 オートボットの、勝利として。

 

 

「……まゆり! まゆり!」

 

 倫太郎は、まゆりを抱え何度も名を呼ぶ。

 しかし、まゆりは一行に言葉を返さない。まゆりは冷たくなり、頭から血を流してぐったりとしている。

 まゆりの側には、壊れて動かなくなった彼女の懐中時計が落ちていた。

 

「うあああああああああああ……まゆりぃ……うああああああああああああああっ……!」

「岡部……」

 

 倫太郎は泣く。轟くような声を上げながら泣く。

 そんな倫太郎に、紅莉栖は声もかけることができなかった。

 

「……すまなかった倫太郎、我々の力が至らないばかりに」

 

 そこに、オプティマスが静かによってきて、倫太郎に声をかける。

 

「……オプティマス……」

「…………」

 

 さらに、バンブルビーもまた倫太郎の側にやってきて、まゆりの遺体の頭を撫でる。

 心なしか、倫太郎にはバンブルビーが泣いているように思えた。

 

「戦いには勝った。しかし、そのために我々は大きな犠牲を払いすぎてしまった」

「……ああ……こんなことなら、テレトラン1なんて、作らなければよかった。できるなら、昔の俺に言ってやりたいよ……! はっ、そうだ、Dメール! Dメールで過去の俺にそう言えば!」

 

 倫太郎が閃いたように言う。だが、そんな倫太郎の肩を紅莉栖が叩いた。

 

「……無理よ、岡部。だって、時間移動はこのオールスパークの力だったのよ。でも、オールスパークはもうバラバラになってしまった……」

「……そうか……結局、さんざん遊びのような実験に使っておいて、俺達は大事なところで時間を巻き戻すことはできないのか……!」

 

 無力さに打ちひしがれる倫太郎と紅莉栖。

 だが、そこでオプティマスが言った。

 

「……いいや、まだ手はある」

「え?」

 

 そう言ったオプティマスに、顔を上げる倫太郎。

 そこには、自分の胸を開き、輝く球体を取り出すオプティマスの姿があった。

 

「これはマトリクス。オートボットのリーダーに受け継がれているものだ。このマトリクスならば、オールスパークと同じ力を発揮することもできるだろう」

「ほっ、本当か!? なら、これの力で過去にDメールを!?」

「ああ、きっと送れるだろう」

「そっ、そうか!」

 

 顔に生気が戻る倫太郎。驚きの色を隠せない紅莉栖。

 倫太郎は、さっそく携帯電話を取り出し、マトリクスにかざす。そして、テレトラン1を作ることを打ち消すDメールの文章を打ち込む。

 

「よし、これで送信すれば……!」

 

 そして、あとは送信するだけになる倫太郎。だが、その瞬間、指が止まる。

 

「? どうしたの? 岡部」

「……なあ、オプティマス。本当にお前はそれでいいのか? 俺達のために、過去何千万年も続いてきた戦いにようやく訪れた終わりを、なかったことにしてもいいのか……?」

「……岡部……」

「……倫太郎、君は本当に優しいな。君の大切な人を失ったというのに、君は我々の心配をしてくれている。だが、いいのだ。これは本来我々トランスフォーマーの問題。君達地球人を巻き込む問題ではないのだ。だから、安心してそのDメールを送るといい。すべてがなかったことになり、また永遠に続く戦いの道が待っていようと、我々は、戦い続ける。そして、きっと勝利を収めてみせる。だから倫太郎、君も戦え。君の道の先にどんな苦難が待っていようと、戦い続けるのだ」

「……オプティマス……ありがとう……!」

 

 そうして倫太郎は、Dメールの送信ボタンを、押した。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 ――一年後。

 倫太郎は一人、夜空を眺めていた。

 未来ガジェット研究所の屋上で、寝転ぶように。

 

「何やってるのよ、岡部」

「とぅっとぅるー、一人でこんなところにいるなんて珍しいね、オカリン」

「……なんだ助手にまゆりか」

 

 そこに現れたのは、紅莉栖とまゆりだ。

 

「……何、少し思いをはせていただけだ」

「思いをはせる? 一体何によ」

「……もう二度と会えない、友人に対してだ」

「お友達? 誰かなー、まゆしぃ達の知ってる人?」

「……知ってるとも言えるし、知らないとも言えるだろう」

「ふーん……それって、もしかして過去改変と何か関係が?」

「……まあ、そんなところだ」

 

 倫太郎はあれからたくさん辛い目にあってきた。

 ディセプティコンの襲来に関係なく、まゆりの命が世界を裏で操ろうとする秘密結社CERNに狙われたり、それを救うためには紅莉栖の命を天秤にかけなければいけなかったりと、とにかく多くの世界線を越えてきた。

 そして、その結果倫太郎はシュタインズゲート世界線という、平和な世界にたどり着いた。

 だが、その倫太郎が今でも心に残っていることがあった。

 それこそが、オプティマス達、トランスフォーマーの事であった。

 

「……オプティマス、お前は、今でも戦っているのか?」

「えっ、今なんて言ったの? 岡部?」

「何でもない、忘れてくれ」

 

 倫太郎は立ち上がる。立ち上がって、未来ガジェット研究所へと戻っていく。

 その際、もう一度空を見上げる。その先にいる、鋼鉄の友のことを思って。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 ――宇宙の銀河彼方、サイバトロン星。

 そこで、オプティマスは、空を見上げていた。満天の星空が輝く、その空を。

 

「……友よ。私はマトリクスを通じて、過去の世界線の記憶を持っている。だからこそ、君が何度もくじけず戦っていることを知っている。きっと辛かっただろう。苦しかっただろう。だが、君はその果てに勝利を手に入れた。諦めない絶対の意思によって、勝利を手にしたのだ」

 

 オプティマスの背後に広がるのは、戦火のサイバトロン星。

 傷つき、疲れ果てた星。

 そんな星を背後にオプティマスは、空を見上げる。

 空を見上げ、その先にいる、小さき友のことを思う。

 

「友よ。我々も戦う。諦めず戦い続けて、きっと勝利を勝ち取る。もしそのときお互い生きていれば、再び巡り会おう。きっと訪れる、自由と平和を信じて。地球の友よ、私はオプティマスプライム。誇り高き君のことを、永遠に忘れない」

 

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