Ideal・Struggle~可能性を信じて~   作:アルバハソロ出来ないマン

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誤字脱字多いね......


第21話

「じゃあ、同室としてよろしくな」

 

「うん、こちらこそ」

 

「そっちの窓際のベッドが空いてるから使ってくれ」

 

「分かったよ」

 

実習を終えたその日の夜。夕食を摂り終えた俺とシャルルは女子の質問攻めを適度に流しながら寮に戻るタイミングで山田先生からシャルルと俺が同室になった旨を告げられ、こうして二人で同じ部屋に帰ってきた次第だ。俺は夕食後の休憩をしつつ、何か飲み物でもと思ってシャルルに何が飲みたいか訊ねることにした。

 

「なぁ、シャルル。飲み物でも淹れようと思うんだが、何かリクエストはあるか?」

 

「あ、じゃあ紅茶をお願い出来るかな」

 

「あいよ」

 

それとなしに声を掛けると、紅茶を所望したシャルルの為に目下練習中である紅茶をセシリア直伝のティーレシピを活用し丁寧に茶を入れていく。暫く蒸らし、その間に甘さを控えたバタークッキーを3枚ずつ2枚の器に乗せてトレーに置く。蒸らしも終わった所で紅茶を皿に乗せて同じようにトレーに。そしてシャルルの下へ運んでいく。

 

「出来たぞ」

 

「ありがとう。わぁ、良い香りだね。じゃあ、さっそく――――おいしい!これ、バンショーが淹れたの?」

 

「イギリスの友人が茶葉とレシピをくれたんでな」

 

「あ、それってセシリアさん?」

 

「分かるか?」

 

「今朝、バンショーが織斑先生に連れていかれたあとにクラスの人達がバンショーのことをフォローしてたから。セシリアさんも、自分の友人が~って言ってたしね。バンショーって友達多いんだね」

 

「――ああ。話が通じるなら、まずは会話をしたいからな。それで、仲良くなれるなら、仲良くしたい。クラスメイトの皆とはだいたい馬が合ったよ。無理な時もあるけどさ」

 

「じゃあ、僕とバンショーはもう友達?」

 

「当たり前だろ」

 

「やった!」

 

朗らかに笑うシャルルの顔は中性的な事もあってか、男のはずのその顔が天真爛漫な女性が屈託のない笑顔を浮かべた時と同じだと感じ受け止めてしまう。悪い癖なのだろう、つい興味本位でなんとなく手が伸びてシャルルの頭を撫でてしまった。

 

「え、えっと。バンショー?何してるのかな?」

 

「金髪って撫でたことなくてさ。髪質とかどうなのかなって」

 

「えぇ......僕の髪なんて触ってて楽しい?」

 

「滅茶苦茶触り心地いいな。やっぱり生活圏とか遺伝とか関係してるのか?」

 

「うーん......僕もそういう知識はさっぱりだよ。で、いつまで撫でてるのかな?」

 

「もうちょっと......もうちょっとだけ......」

 

「それ終わらないやつだよね!?」

 

全く引っかからないシャルルの艶のある金髪を手櫛で流しつつ適度に撫でていると髪の毛を触っていて楽しいかと訊かれたので触り心地は最高だと答えた。シャルルは上目遣い気味に頬を膨らませていつまで撫でるのかと聞いてきたので、もうちょっとだけ、と返すと終わりが中々来ない返答だと悟ったのか声を大きくしてツッコミを入れてきた。が、無理矢理退こうとするわけでも無く、ずっとその場に座ったまま撫でられ続けているシャルルだったので嫌ではないんだろうと思いながら頭を撫で続けた。

 

「はー本当に触り心地良いなぁ......男の髪とは思えない」

 

「え、えぇ?そ、そうかなっ!?」

 

「ああ......なんていうか、綺麗な髪ってやつだ」

 

「~~~ッ!も、もう終わり!はいおしまーい!」

 

「流石に嫌になったか?悪いな」

 

「嫌じゃないけどさぁ......バンショーって女の子とかにもそうやって、気の利いた言葉とか言ってるの?」

 

男の髪とは思えない、綺麗だ。そう言った時にシャルルは流石に怒った、というか照れ臭くなったのか撫でられ終了宣言をしてきたので流石にこれ以上撫でるのも悪いと思い、撫でている手を止めて紅茶を飲み直す。するとシャルルが急に変な質問を投げかけてきた。気の利いた言葉...ではないな。思った通りの事を言うから、それで抉ることもあるし。

 

「だいたい思った通りの事は言ってるかな。悪口はよほど機嫌が悪くないと言ったりしないけど」

 

「まぁ悪口の話は置いておいて。うーん......ねぇバンショー。バンショーって女の子を誑し込みたいの?」

 

「おっ口喧嘩か?」

 

「わー!そ、そうじゃなくて!そうやって何でもかんでも褒めちゃうのもどうかと思うよっていう話!バンショーって絶対、人誑しの気があるよ」

 

「ん、そうか......?いや、どうだろうな」

 

「クラスの子がほとんど全員フォロー入れてきた辺り確実に人誑しの気があるよ!男女間の友情ってやつだよ、アレ」

 

シャルルから女子を誑し込みたいのかと言われ、口喧嘩開始かな、と舌のアップを始めるがそうでは無かったようで、俺がすぐに何でもかんでもを褒めることを咎めてきた。人誑し、女誑し。どちらも一夏に言われた事のある言葉だけに唸ってしまう。が、クラスメイトたちとは普通に適度な立ち位置を維持したまま話が出来ていることからそうでもないんじゃないかとも思ってしまう。

 

「話のソリが合わない時はとことん合わないが、それでも共通の話題っていうのは幾らでもあるからな」

 

「分け隔てない態度が気に入るんだろうね。それにバンショーはすごく、人の心の変化に敏感なんだと思うよ」

 

「俺が?」

 

「うん。自分の行動で、他の人がどうなるか。その言葉でどういう感情を持つか。それをなんとなくでも考えて発言してるから、すごく相手の心に嵌る言葉になるんだと思う。僕が怯えてるのを理解して、自嘲から入ったバンショーみたいにね。バンショーなら稀代の詐欺師になれるよ」

 

「おっ、やっぱり口喧嘩か?」

 

「冗談だって」

 

「分かってるよ」

 

馬の合わない話は避けて、盛り上がれる話題に切り替えていく。多分、相手の表情を何となく理解して一番良い選択を勝手にしてしまうんだろう。人の心の浮き沈みが分かってしまうというのは、ギャルゲーなどで言ってしまえば『好感度獲得値が最大になる選択肢を自動で選択し続ける』ような物だろうから、仲良くなれると言えば当然か。シャルルがその俺を人の心に付けこむ大物詐欺師になれるとご丁寧にサムズアップまで添えて言ってきた。それにやはり舌戦か、と軽く意気込むとシャルルがすぐに言葉を訂正するが、冗談だと分かっていたので俺もすぐに鳴りを潜めた。

 

「ふふふ、バンショーと話してると楽しいね。やっぱりバンショーって人誑しだよ。この人誑し......♪」

 

「出会って1日でそこまで言われたのは初めてだ」

 

「本当に?僕たちの相性って意外に良いのかもね」

 

「ああ。お前と話してると気負わなくていいから本当に楽だよ」

 

「気を遣い続けるって楽じゃないからね、その気持ちは分かるかなぁ」

 

シャルルは俺のことを人誑し認定したらしく、楽しそうに人誑しと囁く。1日でそこまで言い合える仲になれた事に嬉しさを抱きながら肩を竦めてみせると、俺の嬉しさを読み取ったのかシャルルは相性が良いのかもと言う。確かに、男同士だからという括り以外にも、シャルルは人として良い人物だった。それだからだろう、俺も余り飾らない言葉を投げることが出来た。シャルルもそれに相槌を打ち、理解を示してくれる。なんとも居心地の良い空間に、ついつい笑ってしまう。それはシャルルも同じだったようで、紅茶が冷めないうちに会話を一度中断し、俺たちは静かなティータイムを過ごした。

 

「ところでさ」

 

「ん?」

 

「放課後、皆とISの訓練してるって聞いたけど本当なの?」

 

「ああ。模擬戦やら回避軌道の読みあいやらをしてる。理屈より、やって覚える事の方が多いからな」

 

「それ僕も混ざっていい?専用機もあるし、色々役に立てると思うんだけど」

 

「専用機の有る無しとか、役に立つとか立たないとかじゃないだろ。友達なら一緒に行きたい、それだけでいいんだよ。明日からはシャルルも一緒だ」

 

「――うん!」

 

「じゃあ、シャワーどっちが先に浴びるか決めるか」

 

「僕は後でいいよ。バンショーが先に使って」

 

「あ、そうか?じゃあ、お言葉に甘えて」

 

シャルルを放課後の訓練に加える約束をしてから、シャワーの順番を取り決めるがシャルルが後でいいと言い出した事ですぐに問題は解決し、俺は早速シャワーを浴びに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土曜日午後。

 

「ええとね、織斑さんは射撃武器の特性を把握していないから勝ちが難しいんだと思うよ。バンショーは逆に、射撃武器を信用し過ぎてるから当たれば勝てるって考えちゃうんだろうね。ビーム・マグナムは脅威だけど、射線が読みやすいから一度でも見せちゃうと難しいかなぁ......爆発系武器が多いんだし、それも組み合わせてみたり、あえて最後まで残してるビーム・サーベルも使った方が良いと思うよ」

 

「そうなんだよ、当たれば勝てるって思って足を止めて撃つからなぁ。そもそも移動しながらじゃ撃てないし」

 

「うーん、私はまだよくわからないかなぁ」

 

「知識として理解はしてるんだろうけど、織斑さんが僕と闘った時に距離をほとんど詰められなかったよね?織斑さんは格闘武器一本のISだから、射撃武器の特性を他の人より深く理解する必要があるんだ。瞬時加速だって直線的な機動だから、反応出来なくても軌道を予測して弾丸を置いておくように撃つだけで潰せちゃうんだ」

 

「うぅ......耳が痛い......」

 

「でも瞬時加速中に軌道を変えるのは止めようね。ISの操縦者保護機能とか生体補助システムがあっても、最悪の場合骨折しちゃうから」

 

「はい......」

 

シャルルと模擬戦を交えた俺と一夏はそれぞれ指摘を受け、俺はビーム・マグナムを決定打にしすぎている節があると言われ、俺が意図的に避けている接近戦も混ぜた方が戦術に厚みが生まれると教えられた。確かにその通りだった。接近戦、敢えて避けていたそれを自分から挑みに行くにはあまりに経験が薄く、正直俺の近接戦闘方法なんてユニコーンの出力に任せて突っ込んでいくだけで、深い読み合いは一切していなかった。これからは、そこも経験を重ねていく必要があるだろう。一夏は逆に瞬時加速に頼りすぎていると言われ、それを修正するところから始める様だった。

 

「万掌さんは私の回避軌道理論を把握していますが、一夏さんはまだ甘い節がありますわね」

 

「俺は一回見せてもらえれば、後はそれをなぞる様に動かすだけでいいからな。ユニコーンに感謝だよ」

 

「一夏はもっとこう、直感で行かなきゃダメよ」

 

「分かんないよ鈴......なに、直感って......」

 

「ずばーんといって、がきん!どごーんという感じだ。なぁ、万掌?」

 

「すまない箒......俺にはよく分からない」

 

「むぅ......」

 

土曜日の午後は授業のない時間で、アリーナが完全開放されていることもあり多くの生徒がアリーナでISを装着してそれぞれの活動をしている。もっとも、6月は学年別個人トーナメントの影響もあるのだろう、4月や5月の頃よりも多くの生徒が足を運んでいた。

 

「織斑さんの白式って、後付武装(イコライザ)がないんだよね?」

 

「うん。何度も調べてもらったんだけど、この雪片弐型っていうブレード一本で全部潰れちゃってるみたいで」

 

「多分だけど、それは単一仕様の方に容量を使っているからだよ」

 

「零落白夜......当たれば強いんだけど......」

 

単一仕様。本来、ISが第二形態へ移行した際に発現するもの。操縦者の特性をISが理解し、ISがそれに見合った特性を発現させるそれだが、第二形態まで移行させることが出来ない人たちがほとんどで、それを回避する目的で特殊兵装を装備した第3世代ISが開発された。セシリアのブルー・ティアーズや鈴音の衝撃砲、これら特殊兵装はISに乗れれば誰でも扱えることから第二形態へ移行させる必要性が薄くなり、国防に採用できるIS操縦者の数を増やす目的もあった。

 

「でも第一形態で単一仕様持ちなんてすごい異常事態だよ。前例がまったくないからね。それに、その能力って織斑先生――初代ブリュンヒルデが使っていたものと一緒なんでしょ?」

 

「うーん、姉妹だからじゃないかな」

 

「ううん。姉妹だからってだけじゃ理由にならないと思う。ISは操縦者との相性が重要だから、いくら再現しようと思っても出来るものじゃないんだよ」

 

「そっかぁ......でも、今はそれを考えても仕方ないよね。仕様は仕様なんだし」

 

一夏の白式は本当に不思議なISだ。第一形態でありながら単一仕様を持っていて、それのせいでISの容量の全てが埋められている欠陥機。しかし、それらすべてを差し置いても当たってしまえば勝てるだけの博打機体である。操縦者の熟練度次第では恐ろしく強い機体になるだろう。かつての千冬さんの様に。一夏はなぜ千冬さんと同じ単一仕様を使えるか悩んでいたが、考える事を放棄したようだった。

 

「そうだね。じゃあ、習うより慣れろってことで。織斑さんも射撃武器を使ってみようか」

 

「貸してくれるの?」

 

「うん。使用許諾を出したから、織斑さんでも使えると思うよ。じゃあ、試しに撃ってみて」

 

「わ、分かった......きゃっ!」

 

「おっと、ほら」

 

「ありがと!......思ったよりも速いんだね」

 

シャルルは一夏に射撃武器を扱わせることにしたようで、一夏と白式に自身が持つライフルの使用許諾を発行し一夏に手渡した。一夏は初めて握る銃の感覚に戸惑いながら、トリガーを引いた。その瞬間に空気が弾ける炸裂音が響き、凄まじい速度で発射された弾丸に一夏は小さく悲鳴を上げてライフルを落とし掛けたので慌ててそれをキャッチし、一夏の手に握り直させる。一夏はシャルルにライフルを返そうとするがシャルルは怪訝な顔をしている。

 

「ねぇ織斑さん。センサーリンクってしてる?」

 

「銃器を使う時にハイパーセンサーに照準を同調させるやつでしょ?バンショーは自分で切ってるみたいだけど、私のはそもそも無いんだよね」

 

「え、バンショー切ってるの!?」

 

「あんなちんたら照準動かれても当たらないからな。自分で視て撃った方が早い」

 

「もしかしてマニュアル照準をモニターに出力してたり......しないよね?」

 

「してる、けど今は一夏の方だな。センサーリンクがないってどういうことだ」

 

「してるんだ......ドン引きだよ......んん、100%格闘オンリーなんだね、じゃあ目測でやるしかないね。さっき織斑さんが言ってた通り、射撃武器は速いんだよ。弾丸はその面積の小ささから瞬時加速より速いのは分かるよね?だから、見えてなくても軌道を予測して置くように撃つだけで当たるんだ。それにバンショーのビーム・マグナムを見てれば分かるけど、当たったらヤバいって分かるし、外れても暫くその回避ルートは塞がれちゃうからね。牽制にもなるんだ」

 

シャルルがまさかマニュアル照準でやってたりしないよね、と訊いてくるので、してる、と答えたところシャルルが心の底から引いたような目で俺を見てくる。頭部マシンガンとビーム・キャノンとビーム・マグナムは全部マニュアル射撃だと理解したシャルルは引き笑いをしつつ一夏に射撃武器の特性をレクチャーしていく。

 

「たしかに、バンショーのアレって正面で受けると一瞬フラッシュ焚かれたみたいになるよね。それに掠っただけでも凄いダメージ入ったし」

 

「まぁ、そういうこと。織斑さんが突っ込んでいこうと意気込んでも、心のどこかでブレーキが掛かっちゃうんだ。そのせいで距離は開けられるし、足も止めてしまうんだね。まぁとりあえず、ワンマガジン全部撃ち切っちゃいなよ」

 

「ありがとう、やってみる!」

 

一夏はそう言ってアリーナの射撃武器調整用の点数板をオンラインにし、セシリアから射撃の構えの補佐などを受けつつシャルルと俺が適時注意を飛ばしていく。

 

「そういや、シャルルのラファールってそれ、武装と色違いなだけか?」

 

「ううん、専用機としてがらっと変わってるよ。この子の名前は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』っていって、基本装備の4枚のマルチスラスターを1対のスラスターにしてそこから更に2枚に分けることで加速性と機動性を確保してるし、胸部アーマーも銃器を取り回し易くするためにシェイプアップして、リアスカートにはマルチウェポンラックとしての機能を持たせてあるんだ。で、ここにも姿勢制御用の小型スラスターを仕込んであるよ。で、一番の特徴は肩かな!4枚の物理シールドを全部外して、代わりに左腕に装甲と物理シールドを装備したんだ。で、右手はスキンアーマーだけ!外見だけじゃなくて中身も違っていてね、これだけ基本装備をいじった上で容量を追加確保してるから、量産型のラファール・リヴァイヴの倍くらいはあるんじゃないかな」

 

「てことは、その拡張領域の中には大量の火器で埋まってる訳か。相性悪そうだな」

 

「そうでもないよ。バンショーのユニコーンが速すぎる上にあんな滅茶苦茶な回避されたら当たらないって」

 

「まぁ、最初はかなり無茶したけどな」

 

「アレは無茶じゃないんだね......」

 

シャルルのラファール・リヴァイヴはオレンジ色に染まっており、武装だけが違うのかと訊いてみたが予想以上の魔改造を施していたようでその武装と容量の多さに驚き、ユニコーンとの相性も悪そうだな、と考える。シャルルはユニコーンが速すぎる上に俺がユニコーンにひたすら回避を覚えさせていることから、ユニコーンは避ける事に特化しつつあった。シャルルがいうアレとは恐らく、多角形直線機動に一零停止(瞬間的に機体を強制停止させ即座に別方向に切り替える方向転換技術)、それに流線機動を混ぜた複合回避の事だろう。

 

「ほとんどが出力に任せた無理矢理なやり方だからな。参考にしない方が良いぞ」

 

「そもそもあんなことしてたら体力持たないよ......」

 

シャルルが訓練をしてから引いてばかりなんだが、おかしいことでもしただろうか。セシリアや鈴音はもう見慣れたという顔をしており、箒は一夏のサポートに励んでいるせいでこっちの話は聞いていない様だった。

 

「ねぇ、ちょっと。アレ......」

 

「ウソっ、ドイツの第3世代!?」

 

「まだ本国でトライアル段階だって聞いたんだけど......」

 

急に一つの話題で騒がしくなるアリーナで、その話し声が聞こえた俺は反射的に振り返る。

 

「............」

 

その視線の先に居たのは、あのラウラ・ボーデヴィッヒだった。ドイツの代表候補生にして、一夏の心を傷つけたその人である。互いに会話無く、睨むばかりだったが俺はユニコーンを僅かに浮かせて一夏を庇う為に機体を滑らせて一夏の正面に立つ。

 

「おい」

 

「何か、用か?今忙しいから後にしてくれ」

 

「断る。専用機持ちだそうだな。ならば話は速い、私と戦え」

 

「それを断る。お前のしたことはあれで手打ちだ。これ以上は怨念返しになるぞ」

 

「私はそれを望んでいる。なんなら、そこの織斑一夏も付けてやる。いや、違うな。織斑一夏と戦うから、お前もオマケで付けてやる」

 

「――――私は戦わないよ。理由がないから」

 

「私には、それが有る」

 

ボーデヴィッヒの、鋭い眼光は俺たちを捉えて離さない。ボーデヴィッヒは怨念返しを望んでいた。だが、それに付き合ってやる筋合いは無かった。俺も、ボーデヴィッヒも。互いを許さないだろうがそれで終わりなのだ。これ以上は、私怨をぶつけ合うだけになる。俺も一夏の為ではなく、自分の為にこの拳を振るうことになる。千冬さんとの約束もあったので、それだけは避けたかった。ボーデヴィッヒが一夏を狙う理由は――おそらく、一夏が女になってしまったあの日の話だろう。聞いただけで詳しい話は分からないが......一夏が語るには『謎の組織』が織斑千冬の弟である織斑一夏を拉致し、監禁。そこで組織の科学者のような人物から「遺伝子上優れているのは女性であるが、織斑千冬の遺伝子を奪うのは難しいことから織斑一夏を女体化させ、その上で遺伝子を採取し続ける道具とする」と言われたらしい。女体化が進み、完全に女性となってしまった一夏の遺伝子を採取しようとしたタイミングで千冬さんがやってきて、織斑の血を悪用されることも無く一夏は救出され、千冬さんは決勝戦を放棄してしまった、ということに繋がる。色々と突っ込み所が目立つが、それでも実際にこうして結果が出てしまっているのだから本当に当時は怒りと困惑でどうにかなってしまいそうだった。今思い出しても、怒りが心の奥底から湧き上がるような感覚に苛まれる。

 

「貴様が居なければ――――」

 

「その無力感は、私が一番よく分かってる。私は戦わない。また、今度にして」

 

「......――そうか」

 

そう。一夏が最も自分の無力を嘆いていた。俺が、俺だけが知っている一夏の弱さだった。だからその無力を理由に煽ろうとしても、一夏が一番よく理解しているものだったので一夏は戦わないと宣言した。それにボーデヴィッヒは目を伏せ――――眉間に電撃が走った錯覚を覚えた。

 

「―――ッ!」

 

「ならば戦わざるを得ない状況にしてやる!」

 

ボーデヴィッヒの駆る黒いISの左肩に装備された大型の実弾砲が発砲体勢に移行、右手に装備していたビーム・マグナムを片手(・・)で撃つ。砲口に集約する光が輝きを増していき、紫電が駆け抜ける。実弾砲が放たれたと同時にシャルルが左腕のシールドを構えながら俺の前に出るが、それよりも先に赤と青の拡散ビームを撒き散らしながら白光球が砲弾に直撃し、完全に融解させ消滅させる。それでもまだ残った破壊力の塊の残滓がボーデヴィッヒのISを掠め、追従する拡散ビームがボーデヴィッヒのISを揺らした。

 

「馬鹿な――ぐぅッ!」

 

ボーデヴィッヒは砲弾が消し飛ばされるほどのエネルギーに驚愕し、残りカス程度の認識だった拡散ビームが内包する熱量に焼かれダメージを僅かながらに受け、俺を睨みつけた。

 

「――退けよ」

 

「貴様――」

 

「こんな密集地域でいきなり戦闘をしようだなんて。ドイツ人は随分と気が早いんだね。ビールだけじゃなくて頭もホットなのかな?バンショーが砲弾を消し飛ばしてくれなかったらどうなってたか、分からないワケじゃなかったでしょ?」

 

「ふん、何かと思えばフランスのアンティークか」

 

「未だに量産化の目処すら立たないルーキーよりはよく動くと思うよ」

 

「......我が祖国を侮辱するか」

 

「シャルル、止めろ。あんな奴と同じ気位に身を落とす必要はない。俺は今、この場で他の生徒を守れた。それだけで十分だ」

 

「――......分かった。織斑さんも、行こう」

 

「......そうしよっか」

 

シャルルが僅かに遅れて俺の前にシールドとライフルを構え、ボーデヴィッヒに突きつけたまま煽る。ボーデヴィッヒとシャルルが互いに煽り合うが、そんな事に付き合う必要は無かった。ユニコーンを解除し、振り返りながらシャルルに声を掛けてアリーナを後にしようと歩き出すとシャルルはボーデヴィッヒを警戒したまま同じ様にISを解除し、一夏もそれに続いた。

 

「――――侮辱が過ぎるぞッ!堺――」

 

『そこの生徒!何をやっている!学年とクラス、出席番号を言え!』

 

「......ふん、今日は退こう」

 

ボーデヴィッヒが怒りに呑まれ、2発目を撃とうとした時にアリーナのスピーカーからアリーナ管理当番の教師から叱責の声が響く。その声に舌打ちをしながらボーデヴィッヒはISを解除し、最後まで俺を睨みつけていたのだろう、突き刺さる視線を受け流しながら、俺たちとボーデヴィッヒは互いにアリーナを後にした。

 

 

 

 

 

 

 




今更ながらオリ主がやっているマニュアル射撃を簡単に説明すると、本当にそのままなんですが無誘導兵器を共感覚と超直感で相手がこの辺に移動する事がだいたい分かるからそこに置いておくって感じの射撃になります。

セシリアや鈴音は一切警告が出ないので最初こそ被弾しましたが目線で読めることを把握してからは普通に対処できるようになりました。あとビーム・マグナム自体にトリガーを押してから発射までに0.3秒のラグがあるのでそれで普通に分かります。視界の一部から凄い光量持った白色が突然見えたら誰だって意識しますよね。真夜中の照明一つない暗闇で突然3000ルーメンくらいの光を視界の端に映されるような感じです。


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