騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
静岡合宿が…
その頃、静岡の強豪との試合で炭鉱スコアを積み上げる等、静岡で騒ぎを起こしていた江ノ島高校。
GK 1番 紅林
LSB 2番 沢村
CB 4番 海王寺
CB 5番 三上
RSB 3番 八雲
CMF 6番 織田
CMF10番 荒木
LMF 7番 兵藤
RMF 8番 宮水
FW 11番 工藤
FW 9番 火野
ベンチ入り (GK)16番藤堂、19番李、(SB)17番中村、12番桜井、(CB)14番錦織、15番不動、(MF)18番的場、(FW)13番高瀬、20番逢沢
スターティングメンバーに宮水青葉という名前が判明した瞬間、近くで試合をしていたはずの静岡の強豪校が集まりだしたのだ。
まるで、エサに導かれてやってきた亡者のごとく、スタンドに結構な人数が集まりだしてしまった。
「―――――参ったな、これは」
自分の知名度を甘く見ていた青葉は、もはや隠すつもりもない偵察の多さに苦笑する。
「――――県外というのが不幸中の幸い、いえ。いずれ戦うということになると不利なのかもしれませんね」
試合は開始からサイド攻撃が主流となった江ノ島ペースだった。
「奴にスピードを出させるな!!」
「乗られたら終わりだ!!」
相手の陣形は4-4-2のフラット型。高校サッカーでは珍しくないフォーメーションであり、CMFとLMFがRMFの宮水を徹底マークしていた。
「――――いきなりダブルチーム、ね」
ドリブルを仕掛けず、突破を図らない青葉は、ロングボールを上げたのだ。
無造作に前にけりだしたボールは空中で弧を描き、アーリー気味のクロスであることを示した。
「なっ!」
―――――この距離でっ!?
ダブルチームでドリブルを防ぎに来た相手選手はその意表を突いた早すぎる判断に驚愕する。
その中央に待つのは、大型ストライカーの工藤。
滞空時間の長い、高いクロスボールに合わせるのは容易だった。
キーパーの手も届かない打点の高いシュートがゴールに吸い込まれていく。
「ちょっと芸がなかったかな」
涼しい顔でアシストを決めた青葉は自陣へと戻っていく。その姿に呆然とする相手選手。
前線のフィジカル自慢を二人相手にしながら、アーリークロスも警戒しなければならない状況。
さらには真ん中にキラーパスの名手、荒木、そして優れたロングフィードを備える織田。
この試合青葉はドリブル突破を一度もせず、フェイントで距離を取る程度でとどまった。その代わりに精度の高いクロスボールで得点を演出し、
江ノ島イレブンはセカンドボールを拾い波状攻撃を仕掛ける。
相手は青葉のドリブルを警戒して前に行くことが出来ず、一方的に押し込まれて沈黙。
静岡でも強豪と言われた富士宮南を相手に9得点を奪い完封勝利。アオバへのマークが集中する中、荒木、織田がやりたい放題にパスを通し、FWにボールを供給。
工藤と火野が仲良く2得点を上げ、二人に代わって途中出場の高瀬と逢沢もしっかりと得点を奪うなど攻撃陣は順調。
サイドアタッカーの兵藤もこぼれ球を押し込み、青葉は課題のミドルシュートを叩き込み、1ゴール4アシストの活躍。
ドリブル突破が武器と言われた青葉がドリブルをせずにゴールに関与する。半ば手枷をはめられたような状態でも止めることが出来ない。
否、止めても無駄ということを外部に見せつけた。
「あ、あれが……宮水青葉」
「出鱈目だ。何だ、あの精度のクロスボールは」
「ドリブル以外もできるなんて、どう止めればいいんだ」
「だが、静岡の県内のレベルで奴のドリブルは前に動かない。奴のドリブルも早熟だったということか?」
「なるほど。ドリブルのレベルがダメだからこそ、クロスボールに力を入れたんだな。」
「しかし、そう簡単にその憶測を信じていいのか」
青葉の消極的なプレーに困惑する偵察班。あの宮水青葉のドリブルが衰えたとは思えない。
不信な目で見ながら、一同は青葉の姿を見つめることしかできなかった。
「―――――――かなりストレスが溜まる展開でしたが――――」
珍しく不機嫌な青葉。ドリブルを縛っていた彼は、クロスボールとミドルレンジでの攻撃しか参加できなかった。
「――――青葉君の突破力を封じられた際の、オプションでどう動くか。ドリブルだけを縛ってもこれではね」
君のクロスボールを考慮していませんでした、と岩城は朗らかに笑う。
しかし、チームにとっては新しいパターンが出来た。青葉の突破力が封じられた際のオプション。
だが岩城はあえて尋ねる。もしドリブルを解禁したのなら、彼はどこまで前に進めたかを。
「―――――で、静岡のレベルで君のドリブルはどこまで食い破れますか?」
「少なくとも、ボールはゴールを脅かせるほどの距離まで動きます」
冷静に、青葉は単独での自分の突破だけではなく、チームとしてボールをゴール前まで運べると断言して見せた。
「―――――ここで単純にエゴすら出さないとはね。末恐ろしいよ」
何処までも勝利を目指す彼のプレースタイルに、獰猛な笑みを見せる岩城。
静岡の強豪校を相手に大勝を喜ぶイレブンとは違い、リアクションを出さない青葉。
大差がつき始めてから青葉は感情の起伏がなくなり、淡々とプレーをしていたように見える。
――――高校サッカーでは、君は―――――
スポーツでは、その強すぎる才能がルールすら捻じ曲げてしまうことがある。サッカーでそこまでのことは万が一起こり得ないし、まだアマチュアでの試合。
しかし―――――
強すぎる力が、江ノ島高校を捻じ曲げてしまうのではないかという不安。
かつて、背番号7にチームの命運を託したクラブチームがいた。
その背番号7の消失とともに、チームは低迷。一部リーグから二部リーグにまで落ちた。
立て直しを図ったそのチームは、一部にこそ上がったが、かつての輝きを取り戻すことはできないでいる。
―――このまま彼がいつまでもいるわけではないのです。
岩城は、だからあえて青葉に得意のドリブルをさせなかった。縛りというものを嫌っていた彼が、そうせざるを得ないほど、宮水青葉の存在は劇薬なのだ。
――――遠くない将来。彼は日の丸を必ず背負う。
早ければ年内にでも中心選手になるだろう。スターダムを駆け上がり、一気に名乗りを上げるだろう。
世界の頂点を掴む逸材が、この島国にいるのだと。
その夜、
「まさか、自主練習に付き合ってくれ、とはね。毎週の秘密特訓では飽きたのか、高瀬」
「今日の試合。すべてお前のクロスボールが俺の頭にやってきた。俺は高さだけの選手で終わりたくないんだ」
闘志を燃やす高瀬。この試合でも活躍を見せたが、まだまだ自分に満足していない。むしろ自分に対する不満が膨れ上がったかのような様子だ。
「僕も、しっかりとデュエルの力を伸ばしたい。手伝ってくれるよね、青葉!」
ドリブル突破という技術を得るために、なりふり構わない逢沢。美島がいないこの状況、駆は青葉というドリブルの名手に教えを乞うていた。
「―――――練習だから失敗してもいい。まずは反復だ。実戦さながらの意識でやれば、今のままではどんなに練習しても意味はない。」
目の前の選手を抜こうとしている。自分の癖、自分の足元の技術を不安に思う時点で、彼は癖を直すことはできない。
その根本の原因。足元の技術に対する不安を払拭しなければ、どうにもならないことを知らない。
「でも――――僕には」
その眩しさにあこがれる駆は、焦る気持ちを抑えきれない。
「焦るな。それが一番の王道にして近道。地味な練習をして、勝敗抜きでボールを追いかけるのが上手くなる一番の方法なんだ」
その説明に納得したのか。高瀬とともにドリブルの練習に取り組んでいく。そしてすぐに知ることになる青葉。
――――足元の技術はある。なるほどメンタルか
自分の技術を信用していない。そのメンタルがボールを見る癖の原因。
彼に駆け寄り、青葉は彼とのマッチアップのトレーニングに誘う。
「イメージしろ。相手は半身の自分に横からやってきている。相手は右の跨ぎに反応しなかった」
「!!」
「その先はどうする? 俺がその動きを再現しよう」
逢沢の横についた青葉。
「ドリブルは組み合わせと相性がある。ドリブルは万能ではない。ピーキーなものなんだ。」
ドリブルフェイントはそれぞれがピーキーな代物だ。そのフェイントがあれば抜けるというものではない。相手の裏をかくことで、初めて真価を発揮する。
――――選択肢を増やせ、駆。そして使いこなせ
一歩ずつ、一つずつ。フェイントを知り、己を知り、その先の未来を読み取れ。
「どのようなルートで相手を抜く? ディフェンスの穴を見つけるのと同じだ。相手の重心という穴を見ろ。絶対に目を逸らすな。ボールではなく、戦っている相手を見ろ!」
駆の右の跨ぎを見せて強引に左からの右への方向転換にしっかりと着いた青葉。そこから青葉はあえて一つだけの穴を見せた。
試合でなら彼が絶対にしないであろう穴を意図的に作った彼に対し、逢沢は気づいた。
トンっ
青葉の股をくぐっていくボールと、そこへ向かう駆。しかし――――
「惜しかったな」
「あっ!」
青葉に前に体を入れられ、惜しくもドリブル突破ならず。しかし駆は止められたにもかかわらず、今までとは違う感覚を覚えていた。
心臓が高鳴る。今までにない手ごたえに彼は歓喜する。
「――――このように、相手もバカではない。ディフェンスはドリブルコースを誘導し、敢えて穴を見せる時もある。お前にはもう、十分な足元の技術がある」
青葉は駆に向き直る。
「今、お前はボールを見ていなかったぞ」
興奮していたのか。駆もボールを見ていた感覚ではなかった。止められはしたが、癖が治った。
「ああ。確かに今は全くボールを見ていなかった。一瞬ぬいたと思ったぞ」
高瀬も今までのドリブルとは違うと断言する。
―――彼にどういった過去があったにせよ。彼に足りないのは自信だ。
努力もしている。決定力もある。足元の技術も平均以上。欠けていたのは自分への信頼。
―――成功体験が、人を変えていく。
「まだまだ甘い。今回はターン系のフェイントを見ずに出来ただけだ。次はダブルタッチだ」
青葉のレッスンは続く。
「はいっ!!」
「俺も忘れるなよ!」
特訓に精を出す三人。それを陰から見守る存在がいた。
――――そう、だったんだ。
その弱点を何度直そうとしても、なかなか治らなかった癖。一部とはいえ、彼はドリブルを克服しつつある。
彼は駆を短い期間で見抜いていた。それこそ、サッカーに関して言えば自分よりも深く。
ドリブルを最初からできる自分には、わからなかった。
ターン系のドリブルと、ダブルタッチをものにした駆。次はシザースをする勢いだったが、時間が来たので終了となった。
「―――――なんだか今まで見えてこなかったものが見えてきたような気がする。ありがとう、青葉」
自分以外に向ける満面の笑み。あの笑顔は今まで自分にしか見せていなかった。なのに、
「気にするな。俺は努力し、闘志を隠さない選手は好きなんだ」
まるであの人のような笑みを浮かべる彼に、嫉妬を覚えてしまった自分が情けない。
――――私が変に指導しないほうが、いいのかな
駆と高瀬が意気揚々と帰った後、自動販売機で水を買う青葉。そのまま宿舎へと戻るかに見えたが、突然止まった。
「―――――出てきてもよかったんだけどな。」
「!?」
青葉は既に何もかもお見通しだった。観念したとは違うが、物陰から出てきた美島。
「――――悪かった。」
頭を下げる青葉。突然のことに戸惑う美島。
「――――えっ?」
「――――駆から聞いている。いつもは美島さんと練習をしているのだと。だから、その時間を奪ってしまったことを申し訳なく思った」
駆から美島と特訓をしているという話を聞いている青葉。彼女がなぜ彼と特訓をしているのか、付き合っているのか。
想像するまでもない。自分の隣にもそんな顔をする人がいるのだから。
自分ではない誰かに恋をする表情をする幼馴染。二度と会えないと言い、話しても意味がないと何度も話す、彼女の想い人。
彼女には、その想い人がいる。今そこにいるのだ。
「で、でも駆はドリブルの癖を少しずつ克服していっています。宮水さんとの練習で、確実に駆は――――」
「――――律儀だな。美島さんは」
柔らかい笑みを浮かべる青葉。嫉妬や寂しさを覚えても仕方ない。なのに、それをぶつけてこない。
優しく、彼を想う気持ちの強い少女の綺麗な心を想う青葉。
「そんなに逢沢駆は気にかかるのか?」
「え、えぇぇ!? そ、それはぁ………」
言葉に詰まる美島。淡淡としている彼女の様子は貴重だが、見世物ではない。
――――自覚しているのか、そうではないのか
案外、どちらも苦労するのだろうと思った青葉。
「確かに、彼は弟のような奴だからな。そして美島さんは彼にとって世話焼きの姉のような」
一応助け舟は出そうと思った彼は、恋愛方面ではない方面の言葉で表現する。
「な、なななっ!!! そ、そう!! そうなんです!! 昔から駆はちょっと気になって――――!」
クラスのアイドルも、気になる男子の前では形無しだな、と青葉は思う。
「もう夜は遅い。今日は一日が長かっただろうから早く寝たほうがいい。」
その後、逃げるように顔を赤くしながら立ち去っていく美島。
「―――――あぁ、もったいないことをしたな」
きっと中塚などは、颯という少女がいながら何を考えているのだろうと憤るだろう。
「違う。俺と彼女はそういう関係ではないんだよ……」
小野寺颯は、自分ではない誰かを強く想っている。きっともう振り返ってもらえない。そんな彼女を知ったのは去年。
あの彗星が落ちた日。彼女は誰かを想うようになっていた。ゆえに、自分の初恋は破れたのだと悟った。
だからこそ、なぜ彼女は江ノ島高校に来たのかがわからない。なぜ自分の将来を気に掛ける。
なぜ彼女は空を見上げるばかりなのだろうかと。
どうして自分を見て、寂しそうな顔をするのだろう。
「なるほど。見え過ぎるというのも考え物だな」
いつからか、自分の眼は見えなくていいものまで見えてしまう。
そのきっかけは言うまでもない。彗星が落ちた夜からずっと変なのだ。
自分の眼はこんなに良かったのだろうかと。以前よりも動いているものがよく見える。とても鮮明に、デジタルカメラできれいに映る写真のように、動画のように。
そして一番の異変は自分の夢の中で現れる、自分の未来ではないかと思われる存在。
朧げな記憶の中で、それが自分の未来の姿だというのが分かった。何となく、そうだと思ったのだ。
彼とできるのはサッカーのみ。彼との一対一の真剣勝負。それは悔しさと痛快さを感じさせる時間なのだ。
――――未来の俺が伝えたいこと、とか
あまりにもオカルトチックな話だ。まるで姉とその彼氏の入れ替わりの様ではないかと。
「カタワレ時。入れ替わり。そう言えばそんなこともあったな」
見ず知らずの男が姉と入れ替わりを起こして、姉曰く糸守町を救ったという滑稽な事実。
空想であるならば、あの日彗星が落ちることをどうして予期できたのか。その説明がつかない。
だが、何かを忘れているような気がする。
―――――何かが抜け落ちている。そうだ、颯の顔だ。
誰もが生存を喜んだあの夜。彼女だけは喪失感を隠そうとしていた。喜びの影で何かを失った、等価交換の現実を思い知らせる光景。
颯は何も言わない。意地でも教えてくれない。
「貴方は―――――俺に何を伝えたいんだ?」
夢の中で出会う、自分にとって生きた教材。なぜ自分に自らの技術を見せてくれるのだろうか。
――――もっと彼の技術を会得すれば、わかるかもしれない。
もっと彼の動きを真似れば、
もっと彼のようなプレーが出来れば、
――――もしかすれば、貴方を理解できるかもしれない。
今夜もまた、彼に出会う。深夜を過ぎた青葉だけのレッスン。
————ああ。俺は楽しみなんだ。この瞬間に貴方とサッカーができるのが
誰にも悟られることのない、秘密の特訓だ。
———————————翌朝
「くそっ、また一本取れなかった………」
何かに悔しがる青葉の姿がそこにあった。しかし、また新しい発想を思いついた彼は、試合で試そうとうずうずしているのだった。
第七話からお願いします
初代青葉「まだまだ、勝ちは与えられないね」
傑「スパルタだな、お前も」