騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
駆君は、二世選手であることに悩んでいた某投手(筆者が前に書いた作品の主人公)に似ている気がする。
違うのは与えられた環境ぐらいでしょうね・・・
公式戦を戦う江ノ島高校にとっては、ある意味驚いたというか、「ああ、そんな気はしていた」というような出来事だった。
彼女が再び表舞台に立ったという記事は、特に逢沢駆の闘志を燃え上がらせていた。
「セブン……」
その記事を見て駆は悔しそうにしていた。
「でも、まさかだよね。まさかアメリカで逸話を残した小さな魔女が、美島さんだったなんて」
的場はそんな彼を慰めるように、この事実に驚いていた。しかし、彼女の技術を見ていた彼には、そこまでの驚きがなく、不思議な感覚だった。
――――ようやくあるべきところに戻った、そんな気がする。
記事の内容はこうだ。
――――また新星現る! なでしこの躍進止まらず!
――――片羽根の妖精に続く、次世代ヒロインの素顔は高校のアイドル?
「なんだよ、片羽根の妖精って。誰のことだ?」
中塚は、難しい言葉を使う記事に頭を悩ませていた。誰を指しているのかがわからない。
「その異名は小野寺さんのモノだよ。なでしこの若きサイドアタッカーに名付けられた二つ名」
そして、名付けられたのはこのフランクフルト戦終了後のある選手の言葉からである。
「な、なんだか凄いね。無茶苦茶かっこいいかも……」
少しだけワクワクしている駆。サイドアタッカーである彼女を片羽根で表現し、妖精の如く敵陣で華麗なプレーを見せる姿を妖精と訳したのだろう。
試合内容もなでしこのレベルの高さを物語っている。
「おっ、動画サイトに試合内容あるぞ!」
FC出身だった三上が動画サイトからなでしこの試合を見つけたので、肩を寄せ合って狭い画面を見ることにした一同。
前半開始早々にドイツ代表ミーナ・マイヤーをドリブルで置き去りにし、カットインからの強烈な先制ミドルシュートをお見舞いした小野寺。これが記念すべき代表初得点。
「―――――中塚どころか、男子顔負けだよ、これ……」
的場が小野寺の強烈なミドルシュートを見て顔が引きつっていた。
「俺のことは余計だっつうの! けど、これ男だったらもっとやばいんだろ? 今のままでも止められる気がしねぇぞ」
その中塚も変にふざけることも出来ずに動画の彼女に目を奪われていた。
「まるで、女版の青葉みたいだね……」
駆も、非常にプレースタイルが似通っている彼の名前を挙げていた。
サイドからのカットイン。強烈なミドルシュート。精度の高いクロスボールに、敵陣を切り裂くドリブル。
サイドアタッカーに求められているもの全てを兼ね備えた存在。
勢いは止まらず、中盤からのロングボールに抜け出した小野寺が敵陣に切り込めば、たまらず相手がファウルで止める。
しかし、このフリーキックでなでしこに追加点。小野寺のクロスに合わせたのは、日本代表のエース一色。トレインのフォーメーションから一斉に散らばり、ニアサイドに突っ込んだ一色が逸らすようなヘディングでサイドネットを揺らしたのだ。
ドイツ強豪のフランクフルトSCを相手に圧倒して前半終了。さらに、後半から中盤に注目の美島がピッチに現れると、日本代表の衝撃的な崩しが待っていた。
カウンターから美島のロングボールを貰った小野寺がためを作りながらサイドに展開。中央にFWの井伊が待ち構えていた中、小野寺のクロスボールがゴール前に襲い掛かる。
その背後からダイアゴナルに走りこんでいたのは、ロングパスの出し手であった美島。
彼女の右足は寸分も違うことなく、ゴールネットを射抜いていた。
「後半途中とはいえ、何というパス精度と、その後のシュートだ……」
サッカー部の面々が小さい動画に群がっているのを見つけた織田が、横から顔を出してきた。ロングフィードに自信のあった彼だが、そこからさらに動き出しまで狙い、ゴールを奪う彼女と、それを信じた小野寺のプレーに震えていた。
「織田先輩!?」
彼の出現に驚く駆だが、彼はそれを咎める気がないようだ。
「いつもなら怒るところだが、ここまでのプレーを見ることになると、逆に勉強になる。なるほど、ロングフィードから動いてゴールを脅かす。きっとそれは俺にもできるはずだ」
良い参考になったと言い、織田はこの場を去ろうとするのだが、
「中々盛り上がっているところだし、最後まで見ておけよ、織田。」
そこへ現れたのは、同じく小さい画面を見ていた兵藤と沢村、そして八雲であった。
「沢村先輩!? まさか貴方まで――――」
狼狽える織田だが、それを手で制する沢村。
「この試合。お前には勉強になるはずだ。それに、同校の生徒が活躍している動画だ。俺もそこまで堅いことは言わん」
後半終了間際に迂闊な横パスをカットされ、ボールを奪った選手であるミーナに得点を許したものの、
「こ、こいつは―――――」
八雲の眼が大きく見開いた。SB中江美奈のオーバーラップを利用した小野寺の巧妙なフェイントがさく裂する。
「クライフターン!? パスはフェイク!?」
駆が驚いて声を出す。ボランチを抜き去り、そのまま小野寺がカットインするかに見えたが、まだ彼女の眼前には中を絞ったSBがいる。
そしてプレーが僅かに止まった彼女に対し、抜かれたボランチが追いすがってきた。せっかくの優位を手放したかに見えた小野寺のプレー。
そう見えた。
「なっ!?」
織田が今度は驚いた。オーバーラップした中江へのノールックパス。しかも苦し紛れのクロスボールに見せかけたキックフェイントを使用したラボーナフェイント。
不意を衝かれたSBとボランチを無力化した小野寺のアシストに背中を押され、ゴール前のスペースを埋めにかかるフランクフルトの選手たち。
そしてそれを埋めさせないとばかりにパスと同時に動き出す小野寺と、マークにつくボランチとSB
中央からニアサイドに走りこむのは一色。先ほど中央の背後から得点を奪った美島がファーサイドへ。
誰に合わせるのか。キーパーがクロスボールを警戒する。その警戒心を利用したなでしこの戦略的な勝利だった。
『クロスボール!? ああっとこれはシュートだァァァ!! なでしこ4点めぇぇぇ!! 決めたのはSBの中江!! 日本の多彩な攻めが、ドイツの強豪を圧倒しています!』
『いいですねぇ。攻撃の判断が実にいいですよ! 先制ミドルシュートでディフェンスラインが下がり、中央で崩しを見せ、最後はロングレンジからの意表を突いたシュート。キーパー前に出ていましたからねぇ!』
『はいっ! 背の高さを誇るフランクフルトの正ゴールキーパーのアミティエも、このボールには触れませんでした!』
『このゴールは大きいですよ。個人技で得点したのではなく、チームで得点したシーンですからね。チームの戦術理解度が上がっている証拠です』
これを見ていた八雲は、SBも攻撃参加する時代であるということを改めて思い知ることになる。
前線の動きと小野寺のフェイント、そして中江の瞬時の判断とキック力。その全てが合致した完璧なゴール。
「同じポジションとして、こんなのテンションが上がらないわけがねぇ。」
結局試合は、4対1でなでしこが快勝。強豪チームを相手に2連勝。そしてその前から続く14連勝を含め、16連勝。
新戦力を取り込み、進化を続ける彼女らの歩みは今後も止まる気配がなさそうだ。
ドイツ代表のエースも、日本の超新星である二人についてのコメントもあった。
ハヤテ・オノデラは、サイドに舞うピクシーのようだ、と。
そして、同じくドイツ代表のクラリッサ・デュルフは彼女について、
空から降ってくる片羽根の如く、捉えることが難しいと彼女を評した。
その二人の選手の言葉を組み合わせて出来たのが、片羽根の妖精という異名。今後のなでしこを引っ張る存在に劣らぬネーミング。生み出したのは駆け出しのスポーツ記者だそうだ。
片羽根の妖精こと小野寺颯は、今後ピクシーの名で暴れまわることになる。
そして、彗星のごとく現れた美島奈々の衝撃的な活躍は、リトル・ウィッチィという二つ名をかき消す新たな異名を生み出すことになる。
「――――――っ」
その見事なプレーに興奮していた駆だが、次第に感じていったのは焦燥だった。
――――僕は、まだまだ弱い。
ようやく個人技を一部出来るようになった程度。シザースとダブルタッチだけでは、いずれ対策をされてしまう。ワンタッチトラップとターン系フェイント。
自分には課題しかない。だからこそ、まだまだ成長できると熱く燃え滾っている。
――――セブンは、あの夢に一歩ずつ近づいている!
自分は少しだけ寄り道をしてしまった。あのころの経験が今の自分を変えたいという力になっているのは理解している。
しかし―――――思わずにはいられない。
もっと早く、自分は目を覚ますことはできなかったのかと。
その夜――――――
「――――今日は一段と、闘争心を感じられるプレーだな、駆」
もはや日課となった青葉、高瀬との合同自主練習。高瀬はそのフィジカルを武器に、落ち着いたプレーにも手を伸ばし始めている。ディフェンス能力も、対人能力限定だと早くもその影響が出始めており、成長著しい。
対して、駆はボールを見る癖がほぼなくなりつつあった。目の前の相手に勝つ。先を見る焦りも感じられる。
「足元を見ていない。ボールもほとんど見なくなった。だが――――」
見よう見まねでやろうとした青葉のターンを失敗してしまう駆。
「しかし、頭は冷静にだ。惜しかったな、決まればスーパーゴールだったぞ」
意表を突かれた青葉だったが、しっかりと体を寄せていた。焦りからボールタッチを誤りバランスを崩した駆に手を差し出す。
「―――――ごめん。」
「いいさ。ガツガツした奴は嫌いじゃない。それに、彼女の決意はお前をさらなる高みに誘うきっかけにもなったようだし」
差し出した手を握り、立ち上がる駆にそんな言葉を投げかける青葉。
「―――――正直悔しい。なんで伝えてくれなかったのかという寂しさもあるけど、選手として、代表に先に呼ばれた事実が悔しいんだ……」
肩を少しだけ震わせた駆。その表情は険しく、悔しそうだった。
「――――男女の違いもあるだろうに。あまり意識するものじゃない。」
青葉はそんなに気にするなと何度も駆に言うが、これ以上言っても意味がないことを悟る。
――――悔しくないわけ、ないよなぁ
お互い、そんなスーパーガールが隣にいると苦労する。彼の苦悩を理解している青葉。
「でも―――――うん、そうだね。今僕がやるべきことが変わるわけじゃない、よね?」
自分も代表に選ばれるような選手になりたい。強くなりたいという決意が、彼を熱くさせている。
しかし、色々な情報に惑わされてしまうのが思春期の少年だ。駆の語尾がぶれた。
「――――先を見据えることは良いことだ。だが、その一歩を疎かにする選手に、先は長くない。一流の選手は、目の前のボールへの執着も相当なものだからな」
立ち上がった駆に、ボールを渡す青葉。高瀬はそれを見守っている。
「――――――来い。その激情の全てをぶつけろ。その闘志をぶつけろ。目の前の相手を打ち負かすのだと心の中で叫べ。」
「高瀬君が相手になってくれるぞ、はっはっはっ!」
「え! そこで俺かよ!? 今の流れ、明らかに青葉ではないのか!?」
驚く高瀬を尻目に、駆と彼の勝負を見守ることにする青葉。
まだ公式戦2試合。そして練習試合でも彼のプレーの幅が広がりつつあることを感じている。
目の前の大柄な選手も臆さず仕掛けられるようになったのは、彼の精神的な成長だ。
油断なく相手をどう出し抜くのか、それを考えるようになれば足元を見る暇などなくなる。
「このっ!!」
「っ!!」
跨ぎフェイントを入れて、ボディフェイクの左右の動き。また抜きを狙っているように見える彼の動きに高瀬はまた下へのボールを警戒する。
そして駆の足からボールが蹴りだされる瞬間が来た。
――――読んでいたぞ、逢沢!!
また抜きを狙う。そう思ってどっしり構えていた。
しかし、
「っ!!」
駆は寸前で足首の角度を変え、右へと加速。中央を警戒していた高瀬の横を抜き去ったのだ。
「っ!? やられたっ」
悔しそうにする高瀬だったが、もう追いつくことはできない。駆に一対一で敗れたものの、今のプレーをどん欲に観察することで、闘争心をたぎらせていた。
「なるほど、先日の俺を警戒して裏の裏を読んだか」
先日、また抜きを狙ったドリブルを止められた駆が自分で考え、編み出したテクニック。
「うん。かなり有効なフェイントだと思うんだ。簡単なフェイントだけど、また抜きと合わせてみればいいかなって……」
組み合わせ、選択肢。簡単なフェイントからでいい。頭を使い、出し抜くことが出来れば儲けもの。
続く三回戦。相手は初戦のベスト16に比べれば格が落ちるが、それなりの中堅高校クラスと思われる。
その名は辻堂学園。4-5-1の布陣を基本とするフィジカルとガッツに強みを持つチームだ。
神奈川県下の古豪に金星を挙げた段階で予選の中でもダークホース的な扱いを受けていたチームの一つであり、予選会最大の台風の目である江ノ島高校と同じく注目されていた。
ついに目を覚ました超攻撃チームか、それとも奇策とフィジカルで突破口を見出せるか。
その為のミーティングでは―――――――
「―――――――――――」
目を細めて、自然体のままの青葉。しかし、辺りはざわざわとしていた。
「う、うわぁぁぁ!? 何これぇ!? どうなってんの!?」
ビデオを流すはずが、過去の自分の姿が映った映像がプロジェクターに大画面で映し出され、狼狽する美島。
「だ、だめですって!! みんな見ちゃダメなんですって!!」
駆が盾になろうとしているが、まったく意味がない。気持ちだけで実利が伴っていない。
駆は何とか彼女の柔肌を隠そうとするが、黄色い歓声に存在感をかき消されていく。
中塚が美島からマウスを狩り、野郎ばかりの場所へとセンタリング。運悪く織田の額にぶつかり混乱は一応の収拾がついたが、未だに美島は動揺したままだった。
なお、中塚は織田にこっぴどく怒られた。
そして問題の辻堂戦の映像はロングスローで得点を誘発する奇策に一同が絶句。
「――――――こんな方法で点を取ってくるのかよ」
「いやいや、あのスローイングおかしいだろ。なんつう飛距離」
兵藤と紅林が驚きつつその感想を述べるが、それは全員の意見を集約したようなものだった。
「とにかくバイタル付近ではケアが必要になるな。」
あの荒木でさえ、警戒を強めていた。
全員が相手チームを脅威と考えている中、
「―――――ロングスローが、そんなにも危険でしょうか?」
冷たく、無表情のまま青葉が私見を述べる。朗らかで江ノ島サッカー部創設に尽力した求心力のある彼と同じ人物なのかと疑いたくなるような声色。
「―――――確かにあのスローイングは脅威ですが、うちのディフェンスが意識するようなレベルではありません。何度でも跳ね返してやりましょう」
そして、その唯一の武器を力でねじ伏せようと獰猛な笑みを浮かべる青葉。
「だ、だが。あのスローイングは―――――」
織田は、青葉の物言いに異論を唱える。あのスローイングが実際数多の高校を沈めているのだ。それを意識するなというのが無理だ。
「確かにすごい。しかし、それだけです。決定力のある選手も、中盤でパスセンスのある存在もいない。フィジカルと守備の統率はなかなかのものですけど」
青葉は美島に近づく。
「え? え!? ちょっ、青葉君?!」
無表情で近づく青葉に対し、狼狽する美島。
「何を意識しているんだい? ちょっと映像を巻き戻したいだけなんだ」
なんで顔を赤くしているのかわからないといった表情で、パソコンの前に入る青葉。
「何かロングスロー以外に見つけたのですか? 青葉君」
岩城も、青葉の眼から何かが見つかったのだと確信していた。ここまで彼が行動するときこそ、何かに確信したとき。
「相手チームは序盤からサイド攻撃を仕掛けており、辻堂の守備はフォアチェックとリトリートを使い分けてはいますが、中央を固めるシーンが多いです。」
映像でも相手チームが何度もサイド突破を図ろうとボールをサイドに集めていた。
「ここでボールをロスト。このチームには中盤に粒が揃っているにもかかわらず、です。ほとんどのボールロストのシーンで、彼らの足は止まり、挟まれてボールをカットされています。」
「――――つまり、辻堂の真の持ち味はロングスローではない?」
「木を隠すなら森の中。あれほどの奇策で、本質を悟らせないようにしている。そして、辻堂の守備は基本、相手をスピードに乗せない守備を第一に考えています。こうなると、ドリブラーには辛いでしょう」
ドリブラーにとっては有効なリトリート戦術で速攻を封じ、中央を固める。さらに、サイドに追い込むことでパス、ドリブルコースを消し、囲んでボールを奪う。
「―――――サイドでの縦へのドリブルではなく、速攻。アーリークロスを多用した手数の少ない攻めこそ、彼らの守備には有効です」
「――――なるほど、アーリークロスの成功率を上げるためには、ターゲットマンが分散するのが望ましい。」
岩城はすべてを理解した。辻堂はあえてサイドに相手を誘導し、ボールを刈り取ることでカウンター攻撃を仕掛けている。
「しかし、その戦術にはサイドの交代枠を考えなければなりませんね。フルタイムでサイドアタッカーにはスイーパーとして走り続ける必要があります。当日のハードワークはよろしく頼みますよ、青葉君」
サイド。それはつまり的場、青葉らスターティングメンバーにも言える事。
岩城はその運動量をまず発案者の青葉に求めた。
「当然です。最善を尽くすことがフィールドプレーヤーの義務ですから。」
不敵な笑みを浮かべる青葉は、江ノ島の精神的支柱だった。
その夜、駆は湘南大付属にいる日比野という選手がいる事を高瀬と青葉に教えた。
「―――――なるほど。蹴るときに違和感を覚えたけど――――そうか、彼は靱帯を」
靱帯が切れた過去があるとは思えない威力のフリーキックだ、と青葉は思った。
「うん。僕のせいで日比野の足は――――でも―――――」
「お前は―――まさか逢沢か?」
そこへ現れたのは、湘南大付属の日比野。逢沢が話した当人である。
どうやらサッカーを通じて知り合った馴染みの友人らしい。中学生まで田舎暮らしで、交友関係がイマイチ狭い青葉は羨ましかった。
終始和やかなムードとかと思ったが、
「治ってなんざいねぇよ!!」
逢沢の何気ない一言。あれほどのフリーキックをけれて復活したと思われていた足が、どうやら完治していないという残酷な事実。
「俺の靭帯は今でも切れたままだ!」
「待ってくれ。靱帯が切れた状態であれほどのシュート力を、ということなのか?」
興味本位で聞いてしまった青葉。部外者ではあるが、信じられないことだとつい尋ねてしまう。
「部外者は引っ込んでろ!!」
「す、すまない――――」
あまりの怒気に、青葉も反省する。しかし、彼が怒っている理由は明確だ。しかしここで青葉が言っても状況が悪化するだけだ。
―――――血の滲むような努力がそこにはあった。
「―――――ん? よく見ればお前は江ノ島の宮水―――――どうしてこんなところに」
しかし、青葉の姿をよく確認した日比野から怒気が抜かれる。青葉は思いがけない鎮火に戸惑う。
「特にやることがなくてな。逢沢らとともに自主練習をしている………先ほどは俺と逢沢が失言を重ねてしまい、申し訳ない。」
頭を下げる
「いや。俺も熱くなり過ぎた。しかし、もし当たることになればお前にも見せてやるよ。俺のキャノン・フリーキックを」
言い忘れていた、と日比野は逢沢に最後に声をかける。
「そして、お前にゴールは奪わせない。神奈川を制して全国に行くのは俺たち湘南大付属だ」
「日比野――――」
それに対し、何も言えなかった逢沢。罪悪感で頭がいっぱいになっているのか、闘争心を感じさせる物言いは出なかった。
日比野が去った後、
「―――――入る隙間すらなかったんだが――――」
置いてけぼりの高瀬が苦笑する。
「なに。それが今回は正解みたいだ。気にすることはないぞ、高瀬」
肩をすくめ、おどけたようにしゃべる青葉。
「――――――」
しかし、江ノ島の悩めるストライカーは、日比野の靱帯について悩むようになってしまう。
傑「——————————」
初代青葉「——————立場が変わってしまった」