騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
恐らく、原作のなでしこと接戦だった国々はどうなるのか。
①何とか接戦で勝ち切る
②競り負けてしまう
③フルボッコ。現実は非情である
アンケートではないですよ!
江ノ島高校が順調に大量得点による圧勝劇を作り上げながら勝ち進む中、小野寺と美島には再び代表召集がかかっていた。
「それにしても、いきなり7番を背負うなんてね。美島さん」
この前は22番。初戦での出来が良かったとはいえ、彼女に対する期待は高い。
「それを言うなら颯さんの8番も様になってるよ。デビュー戦、本当にすごかったわ」
「ふふ、ありがとう、美島さん。そっちのお披露目もすごかった思うけれどね」
軽口を言いながら、新たな気持で試合会場へと向かう二人。二人の間に壁は存在せず、今回も試合で活躍する自信と意欲に満ち溢れていた。
だが、今回の強化試合はいいニュースばかりではない。
今回の代表選考では日本の最前線を担っていたフォワードの井伊がけがで欠場。リーグ戦を戦っていた小野寺は、その試合にいたので気分はすぐれない。
「――――――井伊さんがケガで離脱だなんて。来年のワールドカップまでもう1年を切る段階なのに。」
得点能力こそ高いが、一色や美島、小野寺のような派手さはない。しかし、チャンスを高確率で決める決定機の場面で強い選手でもあった。
そう、いぶし銀のような重要戦力であった。
「―――――奈々ちゃん、颯ちゃん。こっちよ」
二人して会場の近くについたのだが、中々隙がない。二人がここにいるとバレた瞬間、騒ぎになるのは必至だ。
そこへ、エースの一色がサングラスをかけて変装し、二人に接触してきたのだ。
一色についていく二人だが、さらに表情の暗い颯。
「―――――五島監督のお体は―――――」
「―――――いいとは言えないわ。こんな時期に監督交代は、代表にとっても痛手よ。でも、だからこそ本選で無様な試合は出来ない」
決意を新たにする一色。不安そうな颯の言葉とは対照的に、彼女は代表を引っ張るのだという強い意志が感じられた。
――――五島監督がいたからこそ、私は―――――
そして美島も、代表に誘ってくれた監督が不本意な形でさることを悲しく思っていた。何より彼には多大な恩がある。
もし、他の監督なら無所属の選手など見向きもしなかっただろう。
――――みんなの為にも、監督の為にも、絶対に―――――
五島監督本人から病状を教えられ、残念に思う選手がいる中、
代役の竹田なる男は、どうにも頼ってはいけないような人に見えた。
出会うと同時に、女性選手に電話番号を手当たり次第に伝えるナンパ男に、チームをまとめられると思えない颯は、不審者を見るような眼で見るが、
「女の子は笑顔が一番だよ、颯ちゃん♪」
気持ちの悪い笑みに反応してしまう颯。
「余計なお世話です」
冷たい瞳で、竹田監督代行に返す颯。
「いいねぇ!! そういう強気なアタッカーが前線にいると、頼りがいがありそうだよぉ!!」
お茶らけた中に、サッカー観が散りばめられている。回りくどい癖に、とっさにそういうところを見せてしまう。この人は本当に食えない男だ。
今のこの様子も、本音ではあるのだろうが、わざと道化を演じているようにも見える。
颯は新監督に対して分析をしていた。
そこへ彼女がやってきた。
「――――――――!?」
その瞬間、颯の心臓が飛び上がるように跳ねたのだ。まさかこんな形で彼女と初めて出会うとは思わなかった。
「初めまして、群咲舞衣です。よろしくお願いしまぁす♪」
かつての世界で、颯の夢を背負うと決意してくれた、無鉄砲で、調子に乗りやすくて
それでも強い意志と、感受性の強い、誰よりも女の子らしい親友。
「―――――颯さん?」
美島は、何か血の気が引いているように見えた颯の顔色を見ていぶかしむ。
「うん♪ 久しぶりね、颯! 蹴球に入らなかったのは意外だったけど、元気そうで安心したよ~♪」
そして、驚いている颯に抱き着く舞衣。一瞬硬直していた颯だったが、彼女のことを重い柔らかい笑みを浮かべ、
「―――――うん、久しぶりね、舞衣。またこうしてプレーできる日が来て、本当に嬉しいわ」
二人の少し勘違いされそうな雰囲気に圧倒されている一同。ショートしていた颯からそっと離れた舞衣は美島の前に立つと、
「貴女、リトル・ウィッチィでしょ?」
「え? えっと、美島奈々です。よろしくお願いします」
イマイチ会話がかみ合っていないかもしれないが、無難な受け答えを選択した美島。
「だぁからぁ、リトル・ウィッチィでしょ?」
分かっていないなぁ、という様子の群咲。
そして勝手に彼女は奈々のトップ下をやりたいと強請りをし、竹田もそれを許してしまう始末。
―――――そう、だったわ。この子。出会った当初はこうだったなぁ
一人で突っ込んで人数を駆けられてボールロストする。周りを活かせばさらにうまくなると気づくのに、時間がかかったという実績がある。
周囲の選手が異論を唱えるが、彼は本気で聞いているのかわからない。
結局、ワントップに一色、右サイド美島、左サイド小野寺、トップ下群咲という前線の布陣となった戦術。
序盤落ち着いた試合模様かと思われていたが、群咲にボールが渡ると一気にスピードが上がる。
単独でボールを保持し、一気にドリブル突破。セオリーを無視する奇抜なプレーに、ワントップの一色にマークが集中していたなでしこリーグ選抜の守備に混乱が起きる。
さらには裏のスペースへと抜け出そうとスキを窺う両翼。マークが分散し、思うようなプレスが出来ない選抜チームは彼女の突破を許し、
前半開始早々になでしこが先制点を奪う展開に。
しかし、彼女の様子を見た選抜リーグのディフェンスを束ねる選手は――――
――――あの新入り。余程エゴが強いみたいだねぇ
いくら危険な動きをしていても、ボールが来なければ怖くない。
美島と一色、小野寺に分散していたマークを直し、守備の陣形を組み替えたのだ。
そしてそれに気づいたのは一色。
――――マークが弱まった? いいえ、違うわ
これは相手がサイドの守備よりも中央を固めたというより――――
「ダメよ! 舞衣ちゃん戻って!!」
一色の叫びに反応し、小野寺はすべてを理解した。
――――私たちへのマークが弱まった!? まさか相手は!
中央を固めたと思われていた。そしてそれ以上のことを選抜はしていない。
獲物が勝手に網にかかってきたのだ。これほど好都合なことはない。
「え?!」
同じように抜き去ろうとしていた群咲は、続く第二檄にプレスを躱したかに見えたが、バランスを崩し、ボールをロスト。
そのまま一気にロングパスが通り、最終ラインと中盤の間延びしたスペースを狙われたのだ。
――――このまま一気に!!
思わぬ奇襲を食らった選抜チームとしてはここで追いついておきたい場面。カウンターからのチャンスを決める。
「させないっ!!」
しかし、ここで左サイドの小野寺が戻ってきたのだ。それを見た左サイドバックの中江も枚数が揃ったことで最悪の状態が良くない状態になったと考えた。
――――この子、妙の声にいち早く反応したわね
一色の群咲への指示を聞いた瞬間によくない感覚を感じたのだろう。戻りが早かった。
サイド守備を小野寺に任せ、中央の空いたスペースを埋めにかかる中江。小野寺がフォアチェックで攻撃を遅らせ、下がりながらのリトリートに移行。
小野寺が戻ったことで、後ろから追いかけていた美島がボールを後ろから奪いにかかる。
「このっ!!」
小柄ながら左右からボールを奪おうとプレスを仕掛ける美島に対し、フィジカルの力でボールキープ。これでは美島はボールを奪えない。
――――っ。やっぱり私のフィジカルならきついかも……
ボールを奪う力、ディフェンスでは未熟さを思い知る。
しかし、中盤との連携で挟むようにボールを奪ったなでしこ。今度は左サイドバックの中江がオーバーラップ。
先ほどは小野寺とともに見事なポジションの受け渡しで、選抜チームのカウンターを阻止した。ここから攻撃で息の合ったプレーを見せる。
「美奈っ!」
攻撃参加を見せた中江の背後から追い越したのは、ワントップの一色。中盤にいたはずの群咲の戻りが遅く、一色がためを作る動き。
中江が一色にボールを預け、さらに敵陣へと切り込んでいく。しかし先ほどまでの加速力はなく、枚数を重ねることでの分厚い攻撃かと思われた。
「っ」
一色にはそのイメージが湧いていた。そしてアイコンタクトをした中江も同じだった。
縦へのパス。中江にわたるその鋭いバスを
「頼んだわよ、颯ちゃん」
背後からダイアゴナルに走りこんできた颯にダイレクトヒールパス。ワンタッチで大きくボールをトラップした颯はスピードに乗り、一気にバイタルエリアに襲い掛かる。
中江、一色という名だたる選手に注目が集まる中、勢いに乗った颯を捉えきれなかったのだ。当然彼女へのマークも予想され、外してはならない。
しかし、群咲へと網を張った選抜の穴は看過できるものではない。それは彼女に許してはならないミス。
両翼へのプレッシャーは緩くなっていた。
――――凄い。攻撃だけじゃない。守備からの攻め上がり。
右サイドから小野寺のプレーぶりを見ていた美島。自分に足りないのは守備力。しかしそれだけではなかった。
ボールを奪ってからのスイッチの切り替え。攻守が変わった時に対する速度。これが世界レベルに求められる課題なのだ。
ならば自分もその速度に乗り遅れないようにしよう。
「こっちっ!!」
中央では、群咲がボールを要求する。先ほどのキープ力とシュートセンスを考えれば彼女はねらい目ではあるが危険な存在でもある。意図せず彼女がディフェンスラインを下げることでさらにスペースが出来る。
しかし、相手の守備はカウンター失敗の余波でガタガタ。小野寺のドリブルを止められない。
「あっ!」
スピードに乗ったドラッグシザースからの簡単な足首の返しで相手選手を抜き去る小野寺。これで群咲をケアする一人と、パスとドリブルを警戒しながらリトリートせざるを得ない選手一人、そしてGKのみ。
――――奴はミドルレンジからも撃ってくる。くそっ、できることが少なすぎじゃないか!
当然ミドルを警戒する相手の動きを察知する小野寺。
――――警戒されているわね。真ん中に舞衣。右から絞ってきた奈々ちゃん。どうするか
ここからドリブルで進むこともできる。というより、ここからが自分の得点パターンだ。
――――私は私の思う最善のプレーをする。
小野寺はここで単独での突破を図った。
「!!!」
群咲は少し驚いたような顔をしてしまう。しかし、その後悔しそうな顔をする。
「―――――」
そして美島はここからのドリブルが彼女の魅力なのだと思うものの、しっかりと動き出しは怠らない。
――――思い通りに行くプレーのほうが少ない。なら予想するだけよ
美島がさらにゴール前に来たことでパスとドリブルを警戒する選手の動きが鈍り、あらゆるコースが広がり始めた。
――――もう近づく必要はないわ
グラウンダー性の速いシュートがゴール右隅を射抜き、ゴールネットを揺らす。
これでなでしこ追加点。決めたのは小野寺颯。しかし彼女にしてみればイージーな場面であった。
「ナイスシュート、颯!」
「奈々ちゃんのおかげ。おかげで楽に打てたわ」
そして彼女の動き出しに対しての言葉も忘れない小野寺。
しかしそこへ、群咲がやってくる。
「さっき私にパスを出せていたでしょ!」
小野寺に突っかかる彼女に対し、美島はまぁまぁ、といった言葉でその場を流そうとする。
「―――――不用意なゴール前のパスをカットされるより、シュートで終えたかっただけ。私もエゴを出したいのよ」
群咲の動きはボックスストライカーそのものだった。連携も不十分で、どう動くかつかみ切れていなかった相手に迂闊なパスは出せない。
「――ふん。けど颯がそう言うならそうなのかな? でも、もっと私にもパスを出してよね♪」
小野寺の言葉に、思うところがあったのだろう。周りの人間が言うよりも効果的な颯の言葉。
――――でも、こういうやり取りを舞衣と出来ることが
それが嬉しい。充実感がある。プレーヤーとして同じピッチにいて、同じチームにいて、意見を出し合える。
いつも自分は見守っている立場だった。
誰も覚えていない3年間で、彼女と自分は親友だった。自分は夢を託す側で、彼女は託される側。
だから、これは塩を送るような行為だ。しかし、彼女になら、いくらでも送ってもいい。
「―――――エゴイストは、誰よりも周りを見れる」
小野寺は、かつて彼女が至った答えをあえてこの場で出して見せる。
「え?」
エゴを突き詰めたプレーをし続ける彼女に対し、小野寺が出した答え。
周りを活かし、全てを出し抜きなさい。そうすればマークが剥がれ、思うようなプレーができる。
「もっと周りを見て。私も貴女にパスを出したいから」
そして、嘘偽りのない本音を彼女にぶつける。自分の知る彼女ではなくても、今抱えている問題は変わりない。
唯一プライベートで面白くない事柄はあったが、彼女の成功を祈らないわけがない。幸せを祈らないはずがないのだ。
「颯――――――」
「でも、間違ってもパスを出すのと周りを見ることはイコールではないからね」
変にこじんまりする必要は、一切ないと言い放つ颯。変に器用になられても困る。彼女は今のなでしこに、必要なものを備えている。
「初得点であんなシュートを打てる人はそういないわ。みんな口では言わないけど、期待しているから。私も、奈々ちゃんも。妙姉だって」
周りを見る=パスを出せ、というわけではない。もしそうだというなら、自分や青葉は爪弾き者だ。
「周りを見て、パスを出すかどうか。それともエゴを貫くのか。みんなを驚かせるプレーが見たいわ」
――――これでいいよね、舞衣
心の中でつぶやいた小野寺。厳しいことを言ったかもしれない。しかし、これでも悟らせないようにしたつもりだ。
悟られてはならない。もし感づかれても信じるはずがない。もし信じてしまえば重荷に感じてしまうかもしれない。
変に気づかいをさせたくなかった。もう何も覚えていない彼女には特に。
「―――――――」
一色は、笑顔の裏に見える小野寺の影を見抜いていた。彼女は群咲に対して何か特殊な感情を抱いている。同性愛というものではなく、何か別の、深刻なものに見える何か。
「こ、小難しい話~~~。でも、頭がすっきりしたかも♪」
唸っていた舞衣だったが、踏ん切りがついたのか。納得した表情をしている。
前半のカウンターのピンチからはロングボールのこぼれ球以外でピンチは発生せず、落ち着きを取り戻した群咲が2点目を決める。
さらに後半には一色の技ありのループシュートで追加点。デコイになった小野寺の走りこんだ後の空いたスペースを衝く一色の動き出し。
キーパーの飛び出しに冷静に対応し、鮮やかなシュート。
試合は後半に1失点するも、5対1と快勝。若い力が躍動し、群咲の初陣は危なげなく終わった。
「―――――颯、ちょっと、いい?」
「ええ。群咲さん」
いつもの舞衣らしくない物言い。しおらしさすら感じさせる彼女の様子に動揺する颯。
大きく息を吸い、自分を落ち着かせるようなしぐさを取る舞衣。そして、
「――――認める。エゴを出す上手さも、それをできる実力も。颯は私よりも上。だけど、絶対に追い越してやるもんね♪」
吠える群咲。負けん気の強さで出来ているような彼女は、小野寺をライバル認定したのだ。
「いっぱい颯の驚く顔を作って見せるから♪」
そして、しおらしさの後に続く、強烈なライバル宣言。
「―――――それなら日本は優勝できるわ。楽が出来るなら大歓迎ね」
「優勝するつもりよ! なんたって、私と颯。魔法のようなパスを出せるウィッチィがいるのだから!」
「群咲さん……」
「トップ下も認めてあげる。私よりもパスが上手いし、視野も広い。でも、日本のエースの座は私! チームにも、世間にも、世界にも!! 絶対に認めさせてやるんだからね!」
そうだ。凹んだままではいられないのが群咲舞衣なのだ。
なぜなら、颯が応援し続けた彼女が、そうだったのだから。
「まだまだヤング世代にはエースの座は与えられないわ。特に前半。我が強いのはいいけれど、相手を軽く見るのだけはやめなさい。」
一色の厳しい視線。エースを奪うと宣言した群咲への宣戦布告にも似た発言。
「また説教? もういいじゃない。あの後からはいろいろと考えたもん」
うんざりする群咲。一色の実績は認めるが、それでも言い過ぎだと思う彼女。しかし次の瞬間
「だから、やるからには格下だろうが何だろうが、徹底的にやりなさい。容赦する必要はないわ。貴女の考え得る全力で、相手を打ち負かしなさい。」
「え、えっと……その、はい……」
情け容赦のない檄に、思わずたじろぐ群咲。強烈なアドバイスに彼女はまだまだ存在感で自分は目の前のレジェンドに劣っていると自覚する。
―――――妙姉は試合になると闘将モードに入るから……
遠い目をする小野寺。以前負けている時も、闘志を見せず責任逃れのパスをする若手を叱責する姿も見受けられた。自分が日本代表である自覚が足りない、と。
華麗に見えるパスをしても、相手が振られなければ意味がない。
―――中盤はもっと前線に要求しなさい。動かない前線は、案山子よりも役立たずよ
意義のある動きをしなさい。ボールを持っていないときにいい動きをする選手が一流。
―――――45分間は短いわよ。
前線に意義のある動きを求める一色。それがチームのリズムを生み、相手のリズムを狂わせる。前線は後半で変えればいい。それなら勝負を切ることが出来る。
だが、最終ラインを含む後衛を疲労させては負けなのだ。それでは勝負に出られない。
そんな若手とレジェンドのコミュニケーションを外から見る美島は苦笑い。
「―――――本当に凄い人、ですね」
美島は、苦笑いこそ浮かべているが、こんな人が最前線にいるからこそ日本代表は強くなったんだと悟る。
常に言葉の力を使い、チームを進むべき方向へと向かわせている。自分のエゴではなく、チームのエゴを優先する。
それはすなわち、なでしこが勝つこと。
だからこそ、この試合でも黒子役を演じた。本来ならば、井伊が担っていたポストプレー。中盤でのタメも行い、サイドの美島と小野寺に自由を与えた。
動揺状態の群咲の穴をカバーし、苦しい時間帯で一番走っていたのは彼女だ。
――――みんな一色さんの言葉に納得している
だからこそ、
「だからこそ、私は妙姉と一緒に、このチームで頂点を取りたい。」
隣にいる彼女は、こんなにも魅力的に見えるのだろう。
江ノ島高校では、またしてもなでしこが快勝を演じたことで話題になっていた。
特に、小野寺と美島の活躍が報道されると、皆嬉しそうにしていた。
「―――――――」
しかし、ただ一人。
逢沢駆はその活躍に対して笑顔がなかった。
――――セブンは、僕を気にかけていたから――――
もし自分を放置していたら、もっと早く代表入りできたかもしれない。燻っている自分を早く見捨てていれば、もっと楽に代表にはいれたかもしれない。
—————小野寺さんみたいに、クラブで活躍できていたはずなのに。
今の自分が、どうしようもないほどに情けなく、同時に美島に対する嫉妬を隠せない。
————僕は、なんて情けないんだ……同時に、サムライブルーを着て活躍するセブンが、羨ましくて仕方ないことが、嫌だッ
そんな自分の弱さが許せなかった。情けない過去の自分が嫌いになってしまう。
彼女の活躍は嬉しい。しかし、今までの自分が枷になっていた気がしてならない。だからこそ、駆は彼女から距離を置いた。
高瀬と青葉とともに自分の実力を上げるために。
――――そういえば、セブンと練習していた技。
あれを最初に見せた時、青葉は驚いていた。フェイントに関していろいろ知っていた彼が知らなかった、幻のフェイント。
—————驚いた。まさか、そんなルートがあったとは……しかし、もっと改良の余地はあるな
通用したのは初見のみ。後は警戒されて技を出すことすらできなかった。
—————相手を自分と同じ土俵に立たせるな。ダブルタッチを習得したお前なら、そのフェイントはより活きてくる
扱いが難しい、廃れかけていた奥義。だが、決まった瞬間に勝利が確定するフェイントでもある。
そして、駆の衝動はどんどんと強くなっていく。溢れる感情は抑えきれない。
――――高校で圧倒的な存在になる。それぐらいでなきゃ
兄の背中が見えた。かつて、10番を背負った彼の姿が鮮明に見える。日本には未来があった。兄という未来があった。
自分なんかを庇って死んだ、自分に心臓を託してしまった彼の代わりにならなければならない。なぜ、自分がサッカーを出来ているのか、未だにサッカーを止めていないのか。
兄がいたはずの未来に、おいていかれてしまう。
—————そんなの嫌だ
だから、駆自身は止まれない。自分が兄と比較されることを忌避しながらも、自分が「逢沢傑」と同等の存在になる義務があると、考えてしまう。
しかし、それは逢沢駆の手で為さなければならない。それが出来ない自分に、フラストレーションをためているのだ。
だからこそ、騎士見習いが作り出した亡霊は、その存在を強くする。他ならぬ彼が、追い求めてしまっているのだから。
傑「—————————」
初代青葉「気づけよ!! 気づけよ、俺ッ!!! 馬鹿なの!? 馬鹿だよな!! 俺もバカだったよ!! こんちくしょう!!」
傑「駆、サッカーは・・・・サッカーは楽しいものなんだ・・・・ぐすっ」