騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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懐かしの再登場メンバーが複数現れます。


第十四話 化学反応

湘南大付属との試合に勝利した江ノ島メンバー。

 

 

どうやら近場でお祭りがあるようだが、

 

「すみません。ちょっと家族の用事がありまして――――」

 

宮水青葉は家族の用事があると言い、お祭りへの参加を辞退する。

 

「―――――すみません。少し調べておきたいことがあって」

 

そして美島に誘われたにもかかわらず、それを断ってしまう逢沢。

 

 

「―――――青葉は仕方ないにしても、駆? どうしたんだよ?」

逢沢らしくない返答に戸惑う兵藤。

 

「ちょっと、この前のギリシャ戦を映像で見ておきたいんです。」

 

逢沢はトップチームでの現状と、自分ならばどうするのかを考える課題をもってその試合を見る。

 

そして、望みが薄い三戦目での勝率を考えるという、想像すれば鬱になる作業に勤しむのだ。

 

「――――熱心だなぁ、逢沢は」

荒木は、少しは休むことも必要なのでは、と考えたが最近の駆に頼もしさを覚えているので深くは追及しなかった。

 

 

 

その後、江ノ島FC恒例のビーチサッカー練習を行う一同。先発出場を果たし、青葉とともに予選大会得点王を争う間柄でもある駆は、彼とのマッチアップを繰り返していた。

 

「このっ!!」

 

「むっ」

 

なかなか抜けない。あの青葉が苦労していたのだ。その光景に一同は驚く。

 

――――駆がまともにやり合っているぞ

 

 

――――おいおい。チームのエースの座までいただいちまうのか!!

 

ざわざわとするメンバー。しかし――――

 

「―――――しかし甘い」

 

ここで青葉の新技、エラシコがさく裂。2つ目の切り返しまでは反応したが、

 

「っ!!」

 

3つ目の切り返しでついに体勢を崩してしまう駆。そのまま何とか前には進ませないよう追い縋るが――――

 

フッ、

 

青葉の姿勢が後ろに流れる。この局面でまたしても切り返し。今度はボディフェイント。

 

そしてその動きに反応したことで勝敗がついた。

 

「あっ!!」

 

それはただのフェイク。青葉のチェンジ・オブ・ペースに過ぎない。一瞬で間合いから抜け出され、突破されてしまった駆。

 

しかしここでは終われない。追い縋るが青葉は既にクロスボールを上げていた。

 

「工藤さん!」

 

曲がりながら弾道が工藤の頭部へと迫る。絶妙なコースにとんだクロスボールに合わせることは難しくなかった。

 

 

これで中々崩れなかった均衡がついに崩れた。駆も青葉を苦労させたが、まだまだその背中は遠いと彼は痛感した。

 

 

――――さすがは兄ちゃんが認めたサイドアタッカーだ!

 

しかし負けない。劣っているのなら、それを真似る。自分にないものを一杯吸収するのだと闘志をむき出しにする。

 

――――でも負けない。負けたままでは終われないっ!

 

 

そんな風に青葉に食らいつく姿は他の部員にも刺激を与える。

 

 

「ほんと、駆の奴、いつの間に熱血キャラになっちまったんだ?」

荒木は、青葉に果敢に勝負を挑む駆に苦笑い。

 

「向上心と意識の高さが其れを物語っている。お前はもう少し、不摂生をただすんだな」

織田は駆のことを気にする前に自分のことを何とかしろとジト目で見る。

 

「――――お、おう。」

 

 

その後、スポーツドリンクがなくなったので、青葉とともに駆は買い出しに向かうことになるのだが、

 

 

「けど、やっぱりすごいね。惜しいところまで行くのに、最後の最後までボールが取れないよ」

 

「まあ、俺も一応それなりのことをしてきたつもりだからさ。簡単に奪われるわけにはいかないって」

 

談笑しながら自販機の前にやってきた二人。そこには金髪の美少女がたっていた。

 

「ん?」

 

青葉は辺りをきょろきょろとする少女に気づく。そして、彼女は確か颯に出来た友人だったと記憶している。

 

――――あの子は確か、なでしこの

 

東京にいるはずの彼女がなぜここにいるのか。疑問がわいた。

 

 

――――どうしたんだろう。この辺りの人じゃなさそうだけど

 

駆は駆で、何かを探しているのだろうかと考えた。

 

 

「あのぉ、ここで江ノ島高校が練習しているって聞いたんですけど」

 

 

「?? あぁ、そうだが――――」

 

「へぇ、じゃあやっぱりサッカー部なんだね♪」

少女は目を輝かせながら辺りを見回す。

 

――――オーバーな子だな

 

いい意味で日本人らしくない。

 

「で、今も日本のフェノーメノって呼ばれているんでしょ? 相変わらず、半端ないね、アー君」

 

 

「――――自分から名乗った覚えはないけどね、それと、まあ親しみやすいあだ名ではあるけど――――」

その名を名乗れるレベルに、自分はまだ辿り着いていない。謙遜する青葉。

 

そして後半のアー君というのは、おそらく彼女が考えたニックネームなのだろう。少し気恥しい名前ではあるが、悪くはない。

 

「で、そっちは最近神奈川でスッゴイ逢沢駆君だよね?」

 

「――――えっと、僕も青葉ほど活躍できてないですし、まだまだ、です?」

 

最後は言葉がうつろになっていた駆。最近変わってきていると言われているが、美少女を前に語尾が乱れているのは、年相応のふるまいだ。

 

「ねぇ、リトル・ウィッチィは練習に参加しているの?」

 

 

リトル・ウィッチィという単語で、青葉と駆は察した。目の前の少女が誰のことを指しているのか、

 

「うん。美島さんは時々練習に参加しているよ。男子顔負けのプレーぶりだね」

 

 

どうやら美島が練習に参加しているかどうかを尋ねているらしい。なんでもこの前の親善試合で目を付けたらしく、色々とコミュニケーションを取りたがっているという。

 

 

以前は駆と個人練習をしていたが、最近はなでしこで忙しく、駆も青葉との練習を選んでいるので、よくわからないと口にした。

 

そのことで、試合勘をどうやって維持しているのかに驚きを隠せなかったようだ。

 

その後、彼女にも予定があるということなので別れるのだが、最後まで意味深な目をしていたので、二人は怪訝そうに顔を合わせる。

 

「おい。駆は群咲さんと面識は?」

 

「し、知らないよ。僕は初対面だし――――」

 

 

となると、美島と小野寺経由で駆のことを知ったのだろうか、と考えるのが妥当だ。

 

 

結局、深く考えても意味がなく、あまり興味もない内容だった。

 

 

そして近所のお祭り当日。

 

 

「――――長い間、帰っていなかったから、なぁ」

 

青葉が向かうのは岐阜県岐阜市内。糸守町が隕石落下で消滅したこともあり、現在彼の家は岐阜にあるのだ。

 

 

長らくサッカー漬けの毎日で帰ることが出来ていなかったのだ。

 

「――――ただいま、三姉。」

 

 

「おかえりんさい、青葉!」

玄関で出迎えてくれたのは、姉の三葉。現在は岐阜市内で暮らしており、東京の大学への合格を目指し、日々勉強の毎日である。これも、愛の為せるものと言えるだろう。

 

 

「おかえりなさい、お兄ちゃん」

そして遅れて四葉もやってきた。小学校高学年で転校という形になってしまったが、すぐに友人も出来たらしい。

 

「――――ただいま、四葉。みんなは元気にしていた? お婆ちゃんの調子はどう?」

 

 

「みんな元気だよ。お兄ちゃんも神奈川で凄いって友達が言っていたし」

どうやら、自分の活躍は岐阜でも聞き及んでいるらしい。四葉の友人はよほどサッカー好きなのだろう。

 

「サッカー少年にいろいろ教えてもらっているのかな? 高校サッカーはコアなファンじゃないと見向きもしないだろうし」

 

「ううん。なんと女の子なんだよ。学校でも運動神経抜群で、凄い。昔の颯姉みたいな」

 

まさかサッカー少年ならぬサッカー少女に名を知られていたとは思っていなかった青葉。少しうれしいと思ったので、思わずほおが緩む。

 

 

「へぇ。それは少しうれしいかな。それに、颯が好きそうな子だと思うなぁ」

 

颯のことをもしかすれば知っているかもしれない。いや、必ず知っているだろう。

 

「うん。未来のなでしこに入りたいって。でも、好きな選手は美島選手らしいよ」

 

なるほど。これは結構なサッカーおたくらしい。しかし、子供がこうやって選手に憧れ、サッカーを好きになることはよかったと思う青葉。

 

しかし残念ながら美島選手のことが好きなようだ。

 

「父さんはまだ仕事?」

 

「うん。最近は県内を飛び回って忙しいみたい。岐阜県を盛り上げるんだって息巻いていたよ」

 

岐阜県の副知事となった宮水俊樹は、その知名度と堅実な仕事ぶりから県内での人気を確保しているらしい。それに、息子たちに、政界への道を強要せず、あくまで自分の信じた道を往く姿勢が受けているそうだ。

 

 

となると、四葉は相当なお嬢様ということになるのだが、方言も相まってそんな雰囲気は感じない。

 

三葉も言い寄ってくる男がいるそうだが、年下の彼氏と上手くいっているらしい。

 

「そういえば。立花君は元気?」

 

「うん。瀧君は凄いよ。この前コンクール大賞に選ばれたんよ。本当に瀧君の絵は綺麗でね―――――」

 

その後30分間ぐらい彼氏の自慢をする三葉。よく目にする光景で慣れている四葉と、予想以上のべた惚れに驚いている青葉。

 

 

「そ、そっか。」

 

「青葉も男前なんやから、すぐに彼女が見つかりそうなのになぁ。」

 

うかうかしていると、婚期を逃すよ、と笑いながら脅す三葉。

 

「まあ、そのうちな。今はサッカーに集中したいんだ」

 

久しぶりに家族の顔を見ることが出来、いい気分転換になっていた青葉。しかし、恋愛について考えるつもりは特にないのが本音だ。

 

――――正直、三姉のような女性ならいいけど―――――

 

周りに女性は少ないのが実情だ。美島はどうやら逢沢にお熱であることがまるわかりで、他も逢沢の小動物で生真面目なところが好きな女性は多い。

 

荒木もモテそうだが、不摂生のせいで人気もイマイチ。織田に関しては固すぎるという評価だ。

 

「まあ、頑張りんさい。青葉の夢は、ロシアワールドカップなんやから」

 

「―――――うん。」

 

昔ブラジルワールドカップの次の大会がロシアと決まった時、青葉はその大会に出ると決意していた。自分を追い込むために、敢えてその目標を掲げた。

 

三姉と颯だけだった。自分の夢を笑わなかったのは。

 

――――口だけではないってことを、証明するために

 

 

誰よりもうまくなりたい。誰よりも速く、誰よりも力強く。

 

 

 

その時、青葉の脳裏にあの子が浮かんだ。

 

――――アー君ならできるよ!

 

見覚えのないはずの、あんな笑顔を見たことがない、彼女の姿。

 

――――私が、保証するもん。アー君は必ず代表入りできるって

 

彼女はその言葉を言った瞬間に、首を横に振りさらに強い言葉を選んでいた。

 

――――必ずなれるよ。エースに

 

だから信じて。貴方のこと。

 

 

「―――――――っ?」

 

一瞬白昼夢のような感覚に襲われた青葉。不思議そうな目で彼を見つめる三葉。

 

「どうしたん、青葉?」

 

「いや、なんでもない。ちょっと気疲れがしただけだよ」

 

 

そしてグループリーグ第三戦目、ブラジルとの試合を見届けた逢沢駆は、憂鬱な表情をしていた。

 

――――上手くなれば分かる、世界とのレベルの差

 

目標は、早い段階で分かっていたほうがいいと駆は考えた。そして、その高い目標を考えれば、動ける時間に動く必要があると決断した。

 

――――兄ちゃんでも、太刀打ちできない世界

 

自分の記憶に残っていた、兄の華麗なプレー。

 

しかしそのプレーが世界の標準クラス。トッププレーヤーならば確実にできなければならないもの。

 

日本では天才だった兄も、世界の頂には届かない。

 

 

――――イメージするんだ

 

 

目の前の虚空に、世界のトッププレーヤーがいる。一人ボールを持つ駆の前に、世界最高のディフェンダーがいる。

 

――――違う。一対一の局面なんか、強豪チームは余程の事がないと許してくれない

 

 

だから、さらに二人増やす。世界最高のSBと、最高のDMFの姿を。しかし、今の駆では一対一でも止められる。

 

 

――――浮足立っちゃだめだ。試合のように、ルックアップして――――

 

 

ボールに向いていた視線を前に。

 

 

――――イメージするのは、最強の自分。僕が勝つという未来

 

 

その中で、自分はどうするのか。

 

 

練習でここまで高揚するようなことがあっただろうか。ここまで自分の世界に入るようなことはあっただろうか。

 

 

全ての重圧から解放されて、純粋にサッカーをしている。そこには何もない。誰にも求められることもなく、誰に期待されるわけでもなく、

 

 

そこにはプレッシャーもない。

 

 

ただ純粋に、自分との闘い。自分の意識の高さだけが求められる。

 

 

――――ボールの位置が分かる。何倍も足が速く動く。

 

イメージする最強の相手が、詰めてきているのが分かる。

 

 

左か、右か

 

 

跨ぎフェイントからのヒールでのバック。当然相手は得意の距離感で仕掛けるために近づいてくる。

 

――――ルーレット。ここでヒールからのターンで――――

 

 

相手を見ろ。相手がルーレットにどこまで食いついてくるのか。

 

――――態勢を低く、どちらにも反応できる

 

 

 

簡単には抜けない。イメージしろ

 

 

――――イメージするんだっ! 

 

 

「あっ」

 

ルーレット。

 

右足のヒールトラップから左足のヒールが二つ目の動き。それを強引に途中でキャンセルした駆は、左足のヒールの後に膝を曲げ、左足の甲でプッシュしようとしたのだ。

 

 

しかし結果は散々。体がついていかず、バランスを崩してしまったのだ。

 

 

――――うーん、これは違う

 

仮にできたとしても、膝に負担がかかる。

 

 

――――違う、無理に動きを取り入れる必要は、ないかも

 

 

マルセイユ・ルーレットは、相手をいなしながら前に突破できるフェイント。当然相手は前にいかせないようにする。

 

 

――――マルセイユ・ルーレットで、縦に行かない選択

 

 

「――――これなら――――」

 

 

駆はイメージした動きを頭の中で固め、自主練習に励むのだった。

 

 

 

 

その姿を見ていたのは、浴衣姿の美島。女子マネージャーたちと一緒に近所のお祭りに参加していたが、駆と青葉、高瀬らが参加せず心配になっていたのだ。

 

 

先ほど高瀬は世界レベルのCFWの動きを見て興奮した面持ちでこんなことを言っていた。

 

 

「できるっ。俺ならできるっ! あの動きに近づいたら!!」

 

その後ボールをもってどこかに走り去っていった。

 

 

そして青葉は岐阜からの日帰り。恐らく今夜には帰ってくるだろう。

 

 

最後に駆は、いつもの公園で自主練習をしていた。

 

しかし、いつもとは雰囲気が違う。全ての枷から解放されたように、羽根がついているかのように軽やかに動く彼の姿は、まるで逢沢傑そのものだった。

 

それは、下手だった頃の彼の姿。たくさんボールをけり、色々なフェイントを会得していく彼の昔の姿。

 

自主練習では、ああいう風にイメトレの要領でよくボールをけっていた。

 

 

そうなのだ。あの逢沢傑も最初からすごかったわけではない。当然彼には素質があった。しかし、その素質を磨いたのは彼なのだ。

 

 

ボールに夢中で、虚空を見つめて悔しがる駆の姿。自分の世界に入っているために、中々声をかけづらかった。

 

 

――――動きが、何倍もいい。試合の時よりも、自主練習をする時よりも

 

 

どんどん動きの切れが良くなっている。目に見えて、彼の動きの質が変わっているのが分かる。

 

 

全ては、彼に出会って始まった。

 

 

――――違う。選手はここまで急には変われない

 

ブレイクをする選手と、しない選手。未完の大器と言われる選手と、一流の選手。

 

なぜ活躍しなかった選手に、未完の大器という異名がつけられるのか。それは言うまでもなくその選手に目に見える武器があるからだ。

 

どの選手にも良さがある。それに気づき、それを磨くことが出来るか。

 

そして、自分の良さに気づき、実践することが出来るか否か。その要因とは、よく環境を変えることだと言われている。

 

 

逢沢駆には、ここまでの下地があった。元々彼には技術があり、何らかの問題があったからこそ伸び悩んでいた。

 

 

――――私が今、口を出すべきじゃない――――

 

彼の成長を妨げることは、してはならない。

 

 

 

自分の世界に入り込んだ彼の領域に足を踏み入れることも出来ず、美島はそっとその場を後にするのだった。

 

 

お祭りに参加している面々は不在の高瀬、駆について最近変わったと口々に言う。

 

 

「昔から駆とはつるんでいたけどよ、あんなにサッカーに夢中になっているっつうか、鬼気迫る感じなのは初めてだぜ」

 

中塚は、あそこまで貪欲な選手ではなかったと白状した。

 

「なるほど。だが、奴の意識が変わった要因は青葉だな。」

 

「――――正直足だけは負けねぇとは思っていたけど。あそこまで何でも凄かったら、まあ、なぁ」

中塚の足すら上回る脚力。スタミナ面でも全く引けを取らないどころか、彼よりも修羅場を潜り抜けている。

 

江ノ島の誇るサイドアタッカーは、伊達ではない。

 

織田は、チームメートに刺激を与える存在こそ、江ノ島に足りなかったピースだと感じていた。

 

――――周りから浮いた存在。それが今までの江ノ島SCにはなかった

 

それは奇抜なプレーをしたり、予測不能な選択をする選手の存在。単純にあの選手はうまいと思える選手がいなかった。

 

それがエース不在の、脳筋縦サッカーになる原因だった。

 

「けど、あいつとサイドでコンビ組ませてもらっている俺も、サッカー観が変わったなぁ」

八雲も、青葉と左サイドでコンビをしていくうちに、プレーの幅が広がったという。

 

 

「あいつ。妙にバランスを取ってくれるんだよ。俺が上がったスペースをカバーしたり、スイーパー役に徹したり、攻撃を遅らせたり。」

 

 

サイドバックの空いたスペースをカバーする。カウンター時には必ず相手の攻撃を遅らせてくれる安心感。

 

だからこそ、八雲は安心してオーバーラップをすることが出来る。

 

「うむ。湘南大付属戦の前の辻堂との試合でも危うくカウンターになりかけたところを遅らせて攻撃を遅滞させていた。個人でボールを取りにいかず、常に周りを見れる安定感。あれは俺たちも見習うべき点だ」

 

沢村も、彼のプレーぶり、特に献身ぶりには世話になっているとつぶやいた。

 

 

「おいおい。祭りなのにサッカーの話ばかりじゃねぇかよ。祭りの中で探せば別嬪さんだっているのによぉ」

紅林は、辺りにレベルの高い女子はいないものかと探すがなかなか見つけられないようだ。

 

「そういえば、奈々ちゃんも途中で駆を探しに帰っちまうし―――――ああもう、なんで駆ばっかりなんだよぉぉ!!!」

 

 

「ん? 駆っち、お祭り来ていないんだ………」

 

そこへ、黒を基調とした浴衣に身を包む群咲舞衣が現れる。江ノ島のサッカー部員がここにいると聞いて二人もいると思ったのだが、なかなか見つけることが出来なかった。

 

「ウィッチィも帰っちゃったんだ。アー君も今日は岐阜だし。」

 

「うん。今日はちょっとね。青葉も最近家族の顔を見ていないから」

一緒に回っていた颯も、彼が来ていないことに驚いていた。

 

 

来た損になってしまった舞衣は、そのまま颯とともに江ノ島のマネージャーたちと合流し、親睦を深めるのだった。

 

 

 

 

時間帯も頃合いとなり、大多数の人間が帰路に就く中、グラウンドに姿を見せる人影があった。翌日に試合があるわけではないが、危機感を誰よりも感じる男が、黙々と一つの練習を行っていたのだ。

 

 

 

「————————何をしているんだろうな、俺は」

 

一人黙々と練習用の壁を設置し、ゴール前でのフリーキックの練習を行う織田。しかし、自分には足りないものが多いと自覚しているからこその行動だった。

 

この練習は、公式戦初戦の直前ごろから行っている。そこで織田は、彼らの実力を目の当たりにし、自らの武器を確立させたいと考えていた。

 

 

青葉のようなドリブルを持っているわけではない。

 

駆のような嗅覚や攻撃センスもない。

 

荒木ほどのパスセンスもない。

 

フィジカルも、まだ平均を超えたほどだろう。が、上のカテゴリーではまだまだ足りない。

 

 

だから練習した。彼らに近づけるように。もっと言えば、テレビの向こう側にいる選手に近づきたかった。

 

 

あんな華麗な動きを出来れば、どんなに楽しいのだろうかと。

 

 

「だが、俺には届かなかった。それでも————」

 

 

あの舞台に立ちたい。自分もピッチで、度肝を抜くようなプレーを具現したい。

 

動いているボールでは厳しかったが——————

 

 

「これでなら、せめてこのワンプレーだけなら—————」

 

 

見据えるのは数多の強敵。今まで勝てなかったチームの姿を想像する織田。それを見据え、彼はボールを蹴り続ける。

 

何度弾かれようと、何度枠外にボールが飛ぼうと。

 

 

そのワンプレーで状況を変えられる魔法の——————努力の結晶を作るのだと。

 

「—————俺は荒木から、奪いたいんだ。その座を」

 

名手といわれるポジションに至る為、織田は今日もフリーキックを磨き続ける。努力の末に生まれる技術を作り上げるために。

 

それがいつか自分の道を切り開き、江ノ島の未来も同様だと信じて。

 




傑「そうだ、駆。もっとお前は成長できるんだ」


初代青葉「あっ、やべ。うっかり記憶が流入しちまった」

傑「彼女とはどういう関係だったんだ?」

初代青葉「ドリブル教えてくださいって言われた。しかし、そんなことは些末事」


初代青葉「やっぱり三姉ぇは美人だなぁ」

傑「—————実の姉だぞ?」
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