騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
けど、名古屋と横浜が強すぎる・・・・
ブラジルワールドカップが盛り上がる中、神奈川ではついにベスト4をかけた熾烈なラストスパートが始まる。
4強に残るのはどの高校なのか。
今大会ベスト4を争う試合では屈指の好カードと目されている江ノ島高校対葉陰学院。
今大会最多得点を誇る攻撃の江ノ島高校が、攻守のバランスに定評のある強豪葉陰学院の牙城を崩せるか否か。
マッチアップにも、五輪代表候補と噂されている宮水とU-16日本代表の鬼丸のマッチアップ。
さらには中盤で司令塔として君臨する荒木と、葉陰の皇帝こと飛鳥の対決。
そして、江ノ島の両翼を担う新進気鋭のストライカー、逢沢駆と、CFWとして進化し続ける江ノ島タワーこと高瀬。
準々決勝から舞台は等々力に移り、中継も開始される。
『さぁ、神奈川総体予選準々決勝。神奈川の強豪葉陰学院と、ダークホース江ノ島高校の試合が間もなく始まります。解説は柳沢彰士さん、実況は山形健治がお送りします。このカード、柳沢さんにはどう映りますか?』
『ええ。今大会最強の攻撃力を誇る江ノ島と、バランスを誇る葉陰学院の試合は多大な興味を抱いています。特に、同じサイドにいる鬼丸君と宮水君の対決は見ものですね。』
『特に宮水選手は攻守においてバランスを取るのが上手いですからね。鬼丸選手の得意とするカウンター攻撃の時に、必ずぶつかると思いますよ』
『なるほどぉ。攻守のバランスを気にする辺り、皇帝飛鳥に似通った部分が見受けられますね。』
『リベロとして飛鳥君は人の数倍の仕事をこなします。対して青葉君は攻撃の比重のほうが大きいですし、やはりサイドの選手なのでそこまでの影響はなさそうです。攻守のレベルにおいて、それだけ飛鳥選手の影響力が葉陰学院の中で大きいということですね』
『それに、層の厚さは葉陰が上。飛鳥選手をサポートできる体制は出来ていますから。対する江ノ島ですが、やはりタレントはいても、層の厚さにおいては薄さを感じますね。しかし、宮水選手と荒木選手の代わりを見つけるのは難しいですし、二人は江ノ島の看板ですからね』
GK 1番 紅林
LSB 2番 沢村
CB 4番 海王寺
CB 15番 不動
RSB 3番 八雲
DMF 6番 織田
DMF 7番 兵藤
LMF20番 逢沢
RMF 8番 宮水
OMF10番 荒木
FW 13番 高瀬
ベンチ入り (GK)16番藤堂、19番李、(SB)12番 桜井17番中村(CB)14番錦織、5番 三上(MF)、18番 的場、(FW)9番 火野、11番 工藤
スタメンは細かな変更があり。ワントップ高瀬がこの大一番で大抜擢。3戦連続スタメンの逢沢。司令塔荒木、右サイドには注目の宮水。DMFには兵藤と織田。SB左サイドバックに沢村が入り、ほぼベストメンバーで挑むことになる。
今大会得点ランキング1位の宮水、2位の逢沢の両翼の攻撃力が注目されているが、中盤の3人もいい選手である。
対する葉陰学院は3-5-2のスリーバック。守備陣形は見事に統率されており、攻守にレベルの高い選手が中盤に存在する伝統校。3-5-2。そのスリーバックの最後尾に位置するリベロは、特定の相手をマークするわけではない。
守備時には致命的なスペースを消し、攻撃時には積極的に攻撃参加を行う。それがリベロと言われる役割。
しかし、現代サッカーではリベロという言葉を聞かなくなっている。理由は明白で、ディフェンダーも攻撃参加する、押し上げに参加する時代だからである。
その最たる例がサイドバックの攻撃参加。システム的にリベロというポジションが必要ではなくなりつつあるというだけ。
そして、江ノ島高校ではサイドバックの攻撃参加も活発で、現代サッカーを取り入れた戦術を取り入れている。
いわば、これは新旧サッカー戦術の対決ということでもあるのだ。
前半は江ノ島ボールから開始される。葉陰が中盤での数的有利を活かし、ハイプレスを仕掛けてくるが荒木、織田、兵藤の息の合ったトライアングルパスでそのプレスをいなす。
「っ」
プレスに来た相手選手をいなしながら右サイドの八雲にボールを送る兵藤と、軽くかわされたことに渋い顔をする葉陰の選手。
ピッチを広く使うことで、パスコースを広げる江ノ島高校。ゆっくり、落ち着いてボールを回していく。
――――右サイドに渡った。つまり、あの人の攻撃が――――っ!?
鬼丸が八雲に対し、ハイプレスを仕掛ける。が、ここで八雲は浮き球のパス。
「!!」
しかし、詰められた時の苦し紛れのハイボールと考えた鬼丸は、何気なく背後を見た。
――――なんで、そんなに引き離されているんだ、及川ッ!?
マークしていた中盤の12番の及川、7番の白鳥が青葉に引き離されていた。
――――当然準備していたんだろ、青葉!!
八雲はスペースにボールを飛ばせば青葉は確実に拾うと考えていた。常に体の正面を相手ゴールに向け、こちらのパスを窺っていた。
つまり、奴の攻撃のレンジはハーフコートからすでに始まっているということだ。
スピードに乗った青葉を止めるのは至難の業だ。それは葉陰学院も当然分かっていたことだ。
「―――――っ」
当然、リベロの飛鳥も出張ってくる。いきなりのマッチアップ。跨ぎのフェイントを入れながら突破を図る青葉だが、簡単には抜かせない。リトリートしながらコースを消している飛鳥。
当然、ここで青葉のスピードが殺されていく。それを見ていた鬼丸は――――
―――流石飛鳥さん。宮水の開幕速攻も止めている。
しかし飛鳥は、別の意味で困惑していた。
――――やはり前半早々は積極的に動いてこないか
ドリブルのキレも試合中盤に比べれば雲泥の差。それでも迂闊に飛び込めば致命傷になる予感が彼の脳裏にはあった。
まるで隙が無い。
トンっ、
不意にドリブルを止めた青葉。前に進むという動きを止めたために、下がりながらのディフェンスだった飛鳥との距離がずれた。
――――ッ!!
このサイドアタッカーはスピードだけの選手ではない。万能型であり、スピードという圧倒的な武器を誇る規格外の選手。
中を見た青葉を確認した飛鳥は、彼がアーリークロスをこのマッチアップ中に選択できるレベルの高さを見せる。つまり、この距離では飛鳥は青葉の脅威になり得ないということを意味する。
————迂闊に近づけない。が、それをしなければこの余裕か、君は…ッ
中央では、高瀬がニアサイドに、荒木が二列目から飛び出し、高瀬の空いたスペースへと侵入していた。
トンっ!!
一瞬の油断だったのだろう。一瞬だけ青葉ではなく、後ろに気が散ってしまった。彼のクロスボールのモーションが、信憑性を高めていた。
小刻みなフェイントから繰り出される青葉のフェイント。まるでピンボールのようにボールの置き所を変えながら、だんだんと飛鳥から感覚的に遠ざかる青葉。
————まずいっ!
間合いから外れてしまった。スピードのある選手相手にずらされたと感じた飛鳥。ダブルタッチで縦への一閃を止めるべく再び距離を詰めるが—————
「—————っ」
詰めてきた飛鳥をあざ笑う切り返し。これは彼の十八番であるルーレット系のフェイント。飛鳥の詰める速度を利用した最善手。
しかし、これを予測しない飛鳥ではない。これは過去に彼にしてやられた場面でもあるからだ。
—————あの時とは違うぞ、青葉君!
ダブルタッチでずらされて、そのまま距離を詰められないまま縦を突破される愚行は繰り返さない。
「——————」
そんな飛鳥の動きを青葉はその両目でしっかりと確認していた。
「—————なっ!?」
滑らかな動きで縦に突破するのではなく、ごく自然体な動きでカットインを決めて見せたのだ。いつのタイミングでカットインをしたのだと衝撃を受ける飛鳥。
さらに言えば、縦を警戒していた飛鳥のバランスは崩れ、膝から崩れ落ちてしまう。反応した瞬間の逆を突かれる動きに、飛鳥の体は青葉の世界で立つことすら許されない。
最初のマッチアップで格の違いを見せつけた世代ナンバーワンのアタッカー。上の世代でナンバーワンのディフェンダーを振り切って見せる。
「そんなっ!?」
鬼丸は、飛鳥が崩れ落ちる姿に驚愕し、他の葉陰のイレブンも動揺を隠せない。
あの飛鳥が遊ばれているという事実が、彼らに少なくないショックを与えたのだ。
阻むものがいなくなった青葉は尚も加速し、一気にスピードアップ。カットインから中へ切り込む彼がよく見せる姿。それはまさに、葉陰の致命傷ともいえるプレーだった。
そこからのプレーは圧巻だった。
「なっ!?」
左足インへのロールからのアウト。インアウトのスキルで飛鳥のカバーをしようとしたボランチを振り切る。
「あっ!」
WBが尚も詰め寄るも、左足の空踏みからの右足のプッシュで縦への突破を許してしまう。
————おい、今さっきまで左の間合いだったろ!? なんで間合いが————っ!!
スピードに乗った青葉は相手の逆を突くボールタッチで簡単に振り切ってしまう。どちらが利き足なのか分からなくなるほどのボールタッチを見せる彼は、右の間合い、左の間合いを瞬時に切り替えることが出来る。
それが、利き足を使って間合いを崩す従来のドリブラーに慣れ切っていた彼らを翻弄する。
ゴール前を固めることでしか致命傷を避けられない葉陰の選手。そんな彼らを見た青葉は、モーションを小さくさせつつも、素早くシュートモーションへとはいる。が、それは大地をしっかりと踏みしめ、体全体に勢いを乗せた強烈な威力を予感させるものだった。
葉陰のゴールキーパーは、これまでの青葉のシュートの威力を映像で嫌というほど見ている。枠に入れられたら危険すぎるのだ。
―――――くっ
弾丸のようなシュートが、葉陰のゴールを襲う。必死に手を伸ばすが反応よりも先にボールが迫ってくる。もはやこれまでかと思われた刹那——————
ガンッ!!
キーパーがかろうじて触ったボールがバーに当たりピッチの外へ。強烈なミドルシュートは枠を捉えるも、ゴールネットを突き刺すまでは至らなかった。
何しろ今のは触れていなければ、確実に枠を捉えていた。
「―――――ッ」
顔をしかめるまではいかなくても、心中では穏やかではない飛鳥。
間合いが今までの日本人選手とは違う。シュートコースを塞いだと思ったにもかかわらず、ブレ玉で強引にゴールに襲い掛かってきた。
これまでの経験だけでは、対応できない相手。
コーナーキックのピンチとなり、葉陰学院の選手がゴール前に集まる。
「飛鳥さんを簡単に振り切る選手なんて、俺初めて見ましたよ――――」
鬼丸は信じられない目で、青葉を見ていた。
「――――個人技ばかりが注目されるが、狡猾に回りも活かしてくる。一つの一つのモーションすらカードになり得る。厄介な存在だ。だがこの状況で一番厄介なのは―――」
ゴール前で一際存在感を放つ、高瀬と海王寺の二人。ともに高さとフィジカルを備える屈強な選手がゴール前に。
そして、コーナーを蹴るキッカーは荒木ではなく、宮水。
『序盤から江ノ島高校が攻勢を強めていますね』
『宮水君の強烈なシュートは、葉陰の脳裏に突き刺さるでしょう。やはり、キック力に強みを持つ彼が蹴るのでしょうか』
そして―――――
「!?」
ここで江ノ島はショートコーナーを選択。青葉は迷うことなく近くにいた荒木にパスを選択。そのまま一気に加速。
――――カットインか!!
このゴール前の密集エリアで決定力のある選手にボールを託す。そして、この密集エリアの中でも、ミドルレンジからのミドルを狙える青葉。
ワンツーパスで抜け出されたら対応は困難。
「っ!!」
そこへ、ファーへと流れかけていた高瀬が、ニア寄りに動き出したのだ。屈強な選手をフリーにさせるわけにはいかない。葉陰の選手はチェックに入る。
そして予想通り荒木からのワンツーを受け取る青葉。ここでドリブル突破を仕掛けてくるのか。
だが、飛鳥は青葉のプレースピードの速さまで計算に入れていなかった。
ドリブルの上手い彼ならばキープして狙ってくる。そのイメージが
最初の致命傷となり得ることを。
トンっ
ダイレクトにそのパスをPA内に蹴りこんだ青葉。当然シュートコースはなく、これはクロスボール。
「なっ!!!」
思わず声をあげてしまった飛鳥。守備の穴を見つけるのが上手い。そして、この密集エリアで綻びを見つけるのが上手い選手。
江ノ島の左サイドの存在が薄れていたのだ。
『押し込んだぁァァァ!!! ダイレクトクロスに合わせたのは、20番の逢沢!! ディフェンダー間の間に曲がりながら落ちるクロスボールをダイレクトで押し込みました!!』
守備の穴を見つけることに特化した、逢沢の飛び出し。一瞬の隙を逃さない決定力が、葉陰学院の壁を打ち破ったのだ。
「いい飛び出しだった。次も頼むぞ」
織田が駆のもとへ行き、ゴールを祝福する。
「はいっ! でも、まだ1点。とにかくもっと点を取らないと。」
ちらりと逢沢は飛鳥と鬼丸を見た。これで折れるようなチームではない。自分たちの時間帯で取れるだけ点を取る。
ダイアゴナルに走りこむ逢沢と、正確なクロスボールを供給する青葉。
まずは江ノ島の武器を見せつけた形となった。
「これはもう、うちの得点パターンになってきますね。逢沢君の動き出し、ステップワークのレベルの高さを象徴するシーンです」
これこそ、逢沢が最初に持っていた才能の一つ。ゴール前での嗅覚。
葉陰ボールで試合が再開される。
そして、中盤の白鳥からオーバーラップしてきた飛鳥にボールが渡り、
「鬼丸っ!」
左サイドの鬼丸にボールが渡る。そしていよいよこの試合の分水嶺ともいえる局面。
――――来たかッ!
真っ直ぐ鬼丸のドリブルを止めるために迫ってくる青葉。背後には八雲がゾーンディフェンスで道を塞いでいる。
シザースからのマシューズフェイント。距離感を崩すようなやり方で、青葉を抜かしにいくが、
「っ!!」
振り切れない。むしろスピードを緩めた分、距離を詰められている。
左右へは行かせず、自慢の快足を封じられた鬼丸の足が止まる。青葉の足も止まる。
「鬼丸のスピードを止めただと!?」
驚愕する飛鳥。世代代表でもいい動きをしていた彼をこんなに簡単に止めてくるのかと。
「まあ、あいつはドリブルの探究者でもあるからよ。だからその逆も然りよ」
飛鳥のチェックに入った荒木が不敵な笑みで微笑む。
大きく空いた青葉の足元。左右への警戒からそこに隙が生まれていた。
――――間抜け、そこががら空きだ!!
鬼丸がまた抜きドリブルを仕掛けた。左右への揺さぶりからのまた抜き。相手の意表を突くフェイントが青葉のまた下を通り過ぎる。
「――――――」
その瞬間、青葉の口元が嗤った様に見えたのは、飛鳥だけだった。
――――なっ!? 誘い込まれ―――――っ
「!?」
飛鳥が次の言葉を思い浮かぶよりも早く、鬼丸は強烈な衝撃とともにボールを見失う。
「なっ!? なんでっ!!」
まるでまた抜きを誘発していたかのように、反応が速かった青葉。先にボールに触って彼は、背中で鬼丸の寄せを寄せ付けず、そのまま強引にターンで振り切ってしまう。
ダンっ!!
そしてそこからの加速力は日本人離れしていた。一歩目の加速力がどう見ても海外選手のそれと遜色ない。
鬼丸からの攻撃チャンスをつぶされた葉陰学院。飛鳥も急いで戻ろうとするが、
――――なんて足だ、俺が戻るよりも早くバイタルエリアを突破するほどの――――
攻守で存在感を見せていた飛鳥の動きをもってしても、俊足の青葉に詰め寄るにはわずかに時間が足りない。
今は少しでも彼の攻撃を遅らせることが先決だ。
「潰せっ!! 時間を遅らせろ!!」
葉陰の監督田岡が急いで指示を飛ばすが、個の力で他を圧倒する青葉の足は簡単ではない。
簡単なラン・ウィズ・ザ・ボールでどんどん相手を躱していく。そしてどんどんスピードに乗っていく青葉。
「!!」
ここまでスピードに乗れば、マシューズフェイントのような小細工すら必要ない。簡単な切り返しと、体を先に前に出すことで、青葉は弾丸のように葉陰のディフェンスを貫いていく。
そして残すは、ディフェンダー2人と、キーパーのみ。そして後ろからは何とか追いつきそうな飛鳥。
ミドルレンジからなら打てる青葉。しかし並走しながら高瀬がファーサイドに流れていく。そして、やはりフィジカルに強みを持つ彼をフリーにさせるわけにはいかないとディフェンスの一人が高瀬に近づく。
そしてもう一人はその穴を埋めるべくファーサイドへ。コースの受け渡し。キーパーとディフェンダーのそれを予測していた青葉。
高瀬の開いた穴が塞ぐ瞬間と、新たに空いたスペースにキーパーが埋めに行くまでのタイムラグ。
――――シュートコースを広げてくれてありがとう、高瀬
球足の速い低いグランダー性のシュートが、ニアサイドへと突き刺さる。
キーパーとディフェンダーのコースを消す作業にずれが生じたのだ。そのわずかなタイミングを見逃さなかった青葉は、速いモーションでファーサイドへのシュートモーションを見せた。だからこそ、キーパーはニアへの反応が遅れ、ゴールを許す形となった。
ゴール前での憎いほどの冷静さ。
「我ながらいいカウンターだった」
こぶしを軽く突き上げ、自陣へと戻る青葉。
「―――――」
先制点を取られたことにはまだ心の余裕があった葉陰。しかし、個の力で中央突破を許し、さらには鬼丸がドリブル勝負を仕掛けてボールロストしたという事実が、彼らの体を重くする。
動揺が広がる葉陰学院。まるで外国人選手を相手に戦っているような感覚。特に飛鳥と鬼丸は、日本が今まで国外でやられてきたことを思い出してしまう。
――――俺のミスだ、俺が誘い込まれたから――――ッ
ワンツーを選択してもよかった。それで抜け出せば、初動で分のあるこちらが勝てる。そのはずだったのだ。
「―――――あ、飛鳥さん……すいません! 俺の、俺のミスで――――ッ」
狼狽えた様に、謝罪する鬼丸。ボールロストからのカウンター。これは言い訳が出来ない。
「いや。鬼丸のロストは確かに痛いが、中盤で加速させてしまったうちのディフェンスにも課題があった。」
鬼丸が仮にロスとしても、青葉のスピードを弱めることは出来たはずだ。攻撃の時間を遅らせることも出来たかもしれない。
しかしそれをするどころか、青葉をさらに加速させてしまった。
「だから、お前のせいだけではない。切り替えていくぞッ!」
「は、はい!!」
―――そうだ。まだ試合は前半。あんなに飛ばしていれば、体力だって持つはずがない
尋常ではないスプリント。前半ではあまり見られない青葉のスプリント。これを何度も続ければミスは起きる。
江ノ島ベンチでは、両翼が仕事をしていることに満足げに頷く岩城監督の姿が。
「まさかあの状態で中央突破してしまうとは。快足ドリブラーという存在が、いかにチームを勇気づけるかを気づかせてくれますね」
青葉はこれで1ゴール1アシスト。逢沢は1ゴール。強豪と言われた葉陰を圧倒するような時間帯だ。
「―――――奴が入学当初に言っていた言葉は、嘘ではなかったようだな」
近藤顧問は織田から、「江ノ島サッカー部が出来れば、葉陰ぐらい圧倒できる」といっていたことを思い出す。
「近藤先生?」
「いや。強豪すら目ではないと。奴はもう神奈川を見ていなかったからな」
飛鳥すら簡単に振り切り、サイド対決では鬼丸を封殺するどころか、一人カウンターで風穴を開けた。
レベルが違い過ぎる。
「――――ですが、監督である私はそんな姿勢は見せませんよ。彼にとっては慢心ではないのかもしれませんが、私の眼には慢心に見えます。」
「腑抜けたプレーをすれば叱責しますし、ダメなら代えるだけですよ」
「ふっ」
いい緊張感。いいムードが漂う江ノ島ベンチ。
「―――――凄い。これが青葉さんのドリブル。」
いつも驚かされてばかりだ、と美島は思う。あれだけスピードに乗れば、フェイントはもはや意味がない。
そしてそれを許されるだけの速度を青葉は持っている。
――――でも、そんな青葉の速度についていった駆もすごい
あのプレースピードに反応できたのは駆一人だけだった。そう――――
あの皇帝飛鳥も、逢沢の飛び出しには反応できなかったのだ。ステップワークからの一瞬の加速。
それが葉陰のディフェンスを狂わせた。
先制できる試合が多いということは、攻撃パターンが複数確立されているということ。複数確立されているからこそ、相手はどれに的を絞ればいいかがわからない。
中盤の荒木を中心としたパスワークなのか、それともサイド突破なのか。はたまた高瀬を中心とした縦ポンなのか。
江ノ島サッカーの攻撃力は、県内で随一だと自信を持って言える。
―――私が傍にいるよりも、青葉がいたほうが、駆は成長できる
青葉は、2018年のワールドカップ代表入りを目指しているという。なら、感化された駆が其れを聞いて何も感じないはずがない。
――――もし、私がなでしこでは無かったら―――――
あのピッチでプレーできていただろうか。遠いものを見るかのように、美島は優勢に進めている江ノ島イレブンを見てそう思うのだった。
傑「—————ルーレットをキャンセルし、カットイン、か。ルーレットでやられた経験がある選手にとっては、脅威だな」
初代青葉「あんなん普通だろ。背後から相手を見ていれば誰でもできるぞ」
傑「——————使い分けは、誰にでもできる芸当ではないんだがなぁ」
初代青葉「目で全部追えるわけではないぞ。後は殺気を感じることだな」
傑「———————殺気って・・・・」